試練28人目
試練はあと二人、今の彩菜の身体の状態じゃあとても達成は不可能である。
「くぁっ……!」
血の巡りが悪い身体に容赦なく蹴りを放たれた。
「無様だな、クラスの前で見せたあのサマーソルトのような身軽さはどうした?。今の君は油が足りない機械だ。さっさと壊れてしまえよ」
防御は……ギリギリ使えるか……。
必死に自分の死なない方法を考えていく。
ラ・ロのオーラの守り、今はこれが彩菜に唯一出きる精一杯の裕也への対抗策。
この防御が無ければ自分なんて、スイカ割りのように叩き割られる。
「オーラの防御か……最初に見たのは真央達に藍を投げられた時だっけな。小賢しい能力だ」
憎悪を孕んだ台詞を放つ裕也は彩菜が知る学級委員長の時の裕也と明らかに雰囲気が違う。
明確な殺意を向け普段の優しい様子は何処にもない。
「しかし彩菜、その防御も命もってこそというものだ。お前の命はあと何分だ?」
「……さあね、うぅ!」
燃えるような熱さの激痛に心臓を手で掴む。
ただでさえラギアクルス希少種の大放電で命は物凄く削られてしまった。
そこにネルギガンテの棘飛ばしと裕也の蹴りである。
あと10分ぐらいか……こんなんでどうやって電気を摂取できる……!?。
スマホで防御しながら煌輝に連絡をとろうにも、大放電で壊れて使いものにならない。
視界や感覚がぼやけてくる……近くにある電柱を壊して電気を浴びようとするのも難しい。
「少し哀れに思えてきた。君はもう死ぬ寸前だ彩菜、目ももう満足に見えてないんだろ?再生だってさっき僕に刺されたところの傷も1mmも治ってない」
何をしゃべっているのか聞こえない。
いよいよ死がすぐそこまで来てる表れか―――
「いや…だ、私は……生きるんだ!」
「なに……?」
防御を解いてそのまま高速で上に跳躍し背中から赤黒い翼を展開させた。
翼爪を翼からむしり片手で持ち、併の上に立ち宙を張る電線に翼爪を接触させる。
「うぅぅぅぅ……、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
電線と地面の間に彩菜が存在するため感電した。
翼爪が接触した電線はショートし火花をあげ彼女の身に恐ろしい規模の電気が流れる。
ガクガクと震え、バタリと倒れた。
「気を違えたか?。どうせ死ぬなら自分の手でと言ったところか」
哀れな女だ。
けどこれで、自分の復讐が一歩進んだ。
あとは、彩菜の母を殺せば全て終わる。
彼の表情は溢れんばかりの憎悪に支配されていた。
……待っていろよクズどもが。母の敵討ちだ。
「母の敵……討ち……ですって?」
「なにっ、生きてるだと!」
どんな魔法を使ったのだ?。
さっきまで壊れかけの機械だった者が新しく製造された機械のように新品に近い状態で立ってるではないか。
傷も一切なくなっている。
いや、今気にすべきは彩菜の発言である。
「……俺の記憶を読んだというのか、俺が真莉をたぶらかしお前を死に追い込もうとした記憶をっ!……禁忌の適合者でもないのに忌ま忌ましい能力を使いやがる!」
「全て読んだわ。あんたが如何にして復讐に駆り出されてしまったのか……」
ラ・ロの読み通り電撃により死の淵から甦った彩菜は禁忌と同等の力をその身に宿すことに成功していた。、裕也の執念が濁流のように彩菜の脳に流れる。
……9年前。
当時小学3年生の裕也は母と二人暮らしで父はたまにしか帰って来なかった。
幼いながらも聡明な裕也には理由は何となく理解していた……父と母は結婚つまり正式に夫婦ではない。
父にはまた別の家庭がある、自分は愛人の子というわけだ。
だが親を恨んだことはない。
父は自分達にお金を入れ、母も父を凄く愛している。
結婚とか愛人とかそんな言葉が小さく思えるほどに二人は愛しあってる。
惨めなものか、むしろ僕はこの二人に感謝しなきゃ。
将来的に母を楽にさせたいため裕也は文武両道に励み常にナンバーワンの成績を出した。
母だけじゃなく父もきっと喜んでくれる。
……だがその考え方は崩れることとなる。
ある時裕也は自分の母……紗也が風邪をひき看護のため学校を少しだけ長く休んだ。
4日目あたりで母にもう学校に行きなさいと言われたがすでに勉強は先の範囲まで進んでるので一週間ぐらいなんてことはなかった。
そんな時、父総一朗が家を訪れ紗也と共に裕也は話を聞かされる……。
今の妻のことは全く愛していないこと。
この結婚は藤沢が総一朗を勝手に手駒にとり、婿に入れられ従妹の紗也との愛など踏み倒し藤沢の娘の雪と結婚させられたこと。
だが総一朗はこの逆境に負けずして何れ歳でやめる藤沢にとってかわり自分が藤沢グループの頂天へ立つこと。
そうすれば自分達は幸せに裕福に過ごせ、母の教育の苦労も拭える。
「お母さん……」
少年は父の野心に希望を見た。
でもこれは親の問題である、子供である自分がそれに加わっていいのだろうか?。
僕も手伝おう、お父さんの手伝いをして―――
『藤沢の血を途絶えさせよう』
一度藤沢家を調べる機会が来たのは中学生の時。
裕也は寝てる時父と母の会話を偶然耳にした。
「あの馬鹿娘が私立に入れと言ったのに、友達と一緒に居たいからと白咲中に行くだと!?」
出来損ないの馬鹿娘が!と一蹴した。
「でも言わなきゃ分からないんじゃない……藤沢って言う姓は多いから」
お母さんもう遅いよ。
そこから裕也は彩菜と一緒になってから藤沢家のことを調べあげた。
彼女に直接聞いたりもしたものだ。
親……特に父親とは上手くいってるか?と。
中学ではまだ藤沢家への復讐の一環として彩菜を潰す材料も人間も揃わずまた潰した際の影響も大したことがないと一旦見送った。
まだ実行に移すのは早い……この街でも父親の会社のヘッドハンティングにより経営を追い込まれた会社が3桁近くあるのだ。
勝負は高校に入学し、浮かれながらも楽しい1年となる3年生の時だな。
彩菜、腹違いの兄としてお前には一生忘れない高校生活をおくらせてやろう。
彩菜が白咲高校に進むため、裕也は態々推薦までされた北ヶ原高校を辞退してまで白咲高校に進んだ。
高校に入学し、裕也は様々な操れる人間を見つけた。
中学から高校にかけてのメンツの中では、彩菜の親友の恵美、結子、美穂。
裕也と幼馴染みで彩菜に恋心を抱く亮と不良の蓮。
入学してからは彩菜に会社を潰され父親を失いその日その日を懸命に生きる真莉。
この少女を見た時いい活躍をしそうだと喜んだ。
『藤沢彩菜は藤沢グループの娘だ』
真莉を彩菜への復讐に駆り立てる悪魔の進言を真莉にしたのは裕也だったのだ。
3年になり裕也は躊躇う真莉の背中を直接彩菜に報復しろとは言わないもののそうなるように誘導し真莉には復讐の心が芽生え4月の結衣の嘘に乗じ彩菜はいじめられる運命になった。
あとは描いた通り、徐々に孤独になっていった彩菜は蓮率いる不良グループに犯されたり、千鶴達に金を盗られたりなど散々な目にあわされた、これで彩菜はもう耐えきれなくなり死ぬだろう。
11月までそう思った。
しかしそのあと彩菜はいじめをものともしなくなり裕也の計画が狂いはじめる。
どころか彼女はクラスメイト一人一人に報復をはじめてただ潰すだけじゃなく仲直りまでして着実に仲間を増やしだしたのだ。
危険と見た裕也は風翔をけしかけ、彩菜を襲わせたが錆びたクシャルダオラすらラ・ロは倒した。
自分のことをばらされない為に風翔のことは旅館で棘を放ち殺した。
途方にくれた裕也は新たな情報を入手する。
禁忌の適合者が白咲町に集ってきてるというもの。
あの隕石騒ぎ……謎の白光と赤雷……ミラボレアス種の仕業と特定するのに時間はかからなかった。
彩菜が禁忌の適合者ないしそれに準ずる者との戦いで疲弊したところを狙えないだろうか。
暫く裕也は彩菜のあとを気付かぬようにつけ出した、そして今日真莉のグァンゾルムの幻影が解除された時ボロボロで横たわる彩菜を見つけ……裕也は千載一遇のチャンスとして攻撃を開始した。
「お前を、お前を……倒すチャンスだったのに…クソ!クソッ!」
「……裕也」
こんな取り乱した彼見たことない。
いつもは優しい雰囲気を出して自分を僕と呼ぶ彼が殺気に染まっている。
「あなたが私の腹違いの兄だったなんて」
「望んだ結果じゃないのはお前だって知ってるだろ。俺は父の助力となりたかったんだ……俺の両親が真の幸せをつかんでくれるよう子供ながら願っていた」
息を吐き、だんだん彼の身体が黒く染まり鋭利な棘が無数に生えた。
「喇叭を鳴らしてやる。俺とお前ら藤沢の血筋の戦いに」
飛び上がり拳が振り落とされ地面が隆起した。
感じる、必死に戦う訓練をしたためかネルギガンテが強大な力を宿したのを。
さしずめ歴戦の中でもさらに死闘を繰り広げ頂天へと近付いた歴戦王だ。
超速で空に飛んでから彩菜目掛け殴ってくる。
さっきのラギア希少種の雷の竜巻に勝るとも劣らない破壊力とスピードだ、流石滅尽龍ネルギガンテ。
しかし彩菜も新形態を手にいれるにあたり禁忌と同格となったその肉体は普通の適合者が持つ感覚が数百倍近く上昇しモーフィングパワーやサイコキネシスなども兼ね備える。
回避は容易だ。
「滅尽天で一気にカタをつける」
―グォォォォォォォォォッ!
咆哮し飛び後ろに下り黒く染まった鋭利な棘を地面に叩きつけながら突っ込んだ。
ネルギガンテの必殺技だ。
土煙がもくもくとあがる。
「やったか……」
煙が晴れていく……。
「凄いな、禁忌や形態変化したわけでもないのにここまでの威力の技を繰り出すんだもの、相当な修行した証だよねこれ」
「あ……ぁ……」
生きていた無傷で五体満足で。
何事もなかったようにぴんと彩菜は立ってる。
「僕は……俺はぁ……父さんと母さんに幸せになってほしかったんだぁ……彩菜……君だけは絶対に……!」
もう私はこの人には力では対抗しない。
「疲れたでしょ」
裕也を暖かな感覚が包んだ……それを彩菜だと認識するまで10秒の時間がかかった。
いつしか二人の瞳からは涙が止めどなく零れ落ちた。
暖かい……この感覚。僕が小さい時お母さんに抱かれてた時を思い出す。
彩菜は自分と父親を共にする存在……父親の従妹の紗也の血が彼女に流れててもおかしくない。
「辛かったのね認めてもらいたかったのね」
台詞と顔が自分の母と被る。
「ごめんなさいあなたの家族までメチャメチャにしてしまってごめんなさい裕也……」
「なんで彩菜がそんなこと言うんだい……父親を奪って君を殺そうとした僕にさ」
もう完全に邪気が抜けたようだ。
「分からない。けどあのお父さんがあんな無愛想でおおよそ人としての感覚がない人を凄く愛している裕也がこんな思いをして生きてるのが可哀想に思ったの」
酷いお父さん持っちゃったねと自虐気味に笑った。
「……彩菜。ごめんね、父親の助力と思い君を酷い目にあわせた。こんなやり方じゃ両親は喜ばないよな……僕は最低だ……死ぬしかないか」
「気にしてない……っては流石に言えないけど、あなたはあなたの目的のため、両親のため頑張ったんでしょ?それに行動に移したのは確かに私達だけどその元凶にはあの父親の存在がいる。よくも悪くも私達はあの父親に影響を受けこの道を歩んでるんだろうね」
「言えてるね。流石俺の妹だね、客観的に周りを見ている」
「ふふ、そういうことにしておきましょうか」
「う……ん」
話し声が聞こえ真莉は目を覚ました。
「いってぇな……あの電気ウナギ希少種め、強すぎだわ。何れ炎で焼いて蒲焼きにしてやる。ん?彼処に見えるのは?」
裕也と彩菜だ。
何か話してるが人間の聴覚では聞こえないので纏身し聴くのに集中してみた。
「それじゃ取り敢えず私の家に行きましょ。お父さんが来るまで待つのね」
「あぁ、是非君と俺のことを話したいからな」
え、これって……まさか。
プ、プロポーズ後の結婚の承諾をとりにいくやつじゃ……そんな確かに私達は18で法令的には何の問題も…っていうか彩菜って亮がいたはずよ…ね?……えぇぇぇぇ!!。
裕也が彩菜を横から抱き締めながら一緒に歩き始めたではないか。
彩菜がくっつかないでーと笑いながら言うと、だって気持ちいいからと裕也も笑いながら返した。
ノリはカップルのそれだ。
「こんな真っ昼間からあの二人は……駄目ねこれは」
早まるなぁぁぁぁぁ!と真莉の声が聞こえて二人が後ろを振り向いた時には裕也の顔面に炎が直撃し燃えあがった。
「ゲホゲホッ。な、なにこれ……」
「え、裕也……」
真莉がただならぬ雰囲気で近付いてくる。
「やめなさい彩菜!軽率な判断が身を!人生を!人を!狂わすのよ。愛は盲目とは言ったものねさぁ早く話しあいましょう同じ友達として!」
「え、いやあの……裕也ぁ裕也ぁぁぁぁぁ!」
「彩菜を連れて行ってしまった。真莉の奴なに考えてるんだろう……」
このあと彩菜に事実を説明された真莉は二人の前で67回
ぐらいごめんなさいと謝った。
タイトル候補に雷の覚醒―刻龍―があったのですが裕也メインなのでこちらにしました。
ってか王ネギ強すぎ……。
やっと自分が書く復讐の唄の小説の中で終われそうな雰囲気が出てきた。