昨日出かけた伊里愛家の長女瑠奈は……夜が明けてから帰宅する。
桜花がおちゃらけながら理由を問うが、姉の様子はいつもと変わっていた……。
瑠奈がいない伊里愛家では朝から次女と三女が騒いでいた。
桜花により怜里は大変な目に会っている。
「やだぁ!めっちゃ可愛い!流石お姉ちゃんであるウチが着付けしただけはあるぅ!」
「こんな……格好恥ずかしいよぉ、桜花お姉ちゃんみたいだもん!」
涙目で必死に反抗する怜里。
彼女の今の格好は普段の大人しく落ち着いた格好の彼女をよく見かける者達からは想像もつかない姿だ。
アイロンをかけられウェーブが出来た髪、猫耳がついたパーカーを被せられ強調するようにブラもなにもつけてない谷間をさらけ出している。
「私と姉貴より少し小さいくらいだもんね怜里は。あんたも結構恵まれてるわね」
「お姉ちゃんのエッチ!そんなこと言わないで!」
瑠奈さえいれば桜花の横行を許さなかったのに……床につっぷして溜め息をついた。
「今の怜里の写真撮って理雄君に送ったらあんたらも大分進むんじゃない?」
「理雄君は変態じゃありません!こんな写真送られたら幻滅するよ!」
「なに言ってるの男なんて女の胸とスタイルしか―――
怒りで何倍もの速度がついた怜里の螺旋サマーソルトで桜花の身体が真上にぶっ飛んだ。
気を……否、命を落としかける。滅茶滅茶痛くて瑠奈の金レイアにも劣らない威力だ。
死ぬかと思った……この子のこういうとこ姉貴にそっくり……あんな堅い姉を見習わないで私を見習えばいいのに。
毒状態になった。
「あ……あんた。原種なのに……なんで螺旋サマーソルトが放てるの?あと威力もリオレイア原種のものとはとても思えないんだけど」
知らない!と言って玲里は瑠奈を摘まみだしドアを閉めた。
「あっちゃあ急かしすぎたか、いたたた」
まさか……。
可能性が1つ思い当たる。
真に強くなった原種だけが身に付ける変化、発達変異。
2つ名を持つほどの強さになること。
「怜里のリオレイア、紫毒姫になったの…」
この町で巻き起こる異変を案じてか……あの焔を操る禁忌の適合者に恐れをなしても町を守らなきゃと決意をしたからか……怜里の信念がリオレイアに届いて答えたのかもしれない。
あの子、たまに解放してリオレイアを撫でたり水で洗ったりしてたっけ、レイアもそんな優しい主人に恩を返したくなったのかな。
ただいまと声がした。
玄関が開き誰か入ってくる、瑠奈だ。
優秀な姉が一晩も帰らず、夜が開けてから家に戻ってきた。
山で禁忌の力を渡された者以来の遅いお帰りだ。
「あれれ帰り遅いよ姉貴、またヤバイ適合者と争ったりしたの?……それとも~銀陽君とイチャついて朝までお熱だったとか?」
「羨ましいわね。貴女は楽天家で」
見下すような作られた笑みで視線も向けずぽつり呟いた。
「私も貴女みたいに愚かでちゃらけた精神が少しあればこんな重い運命に遭わずすんだのに」
違うこの瑠奈は何か違う……いつも悪態を互いにつく時はどちらも冗談混じりで言い合いキレた桜花のサマーソルトを食らうのがオチなのに、今の瑠奈からは本心で自分を嘲笑ってるように思えた。
……悪ふざけしながらも暖かく姉妹の身を考える姉は何処に行ったのだろう、冷たい憎悪が瑠奈を覆っている。
「姉貴……喧嘩売ってる?」
「売るわけないじゃない。そんな大層なもの。貴女には勿体ないわ」
どうしたんだこの姉は、やはりいつもと雰囲気が違うし英気や元気も感じられない。
「瑠奈…何があったの?」
「学んだのよ強くなければ大事な人は守れないって……私は絶対にあの人を救わなくちゃならないの!」
自然と流れ出る涙と叫び、銀陽……祖雷に拐われた彼を絶対に救わないと……しかし壁はあまりにも大きい。
禁忌の一角、祖龍ミラルーツを打ち倒す力は自分のモンスターにはない。
「ちょっと落ち着きなよ」
「強くならなきゃ……私は強くならくちゃ!……でもどうやって、禁忌から見たら私なんて……」
武術や殺人のプロに一般人が挑むようなものである。
「……ったく。理由も話さないで一人で抱えて泣きわめいて解決する気?瑠奈!」
「なに……?」
全く私より少し早く産まれただけで姉だもんね。
三つ子だけど長女だからってあんたは昔から張り切って……うざいって思ったことも確かにあった、ぶつかったりもしたし悪態なんて今でもつきあってる。
……でも本当は喧嘩しながらも心ではお互いのこと敬ってたじゃん。
あんたは姉として私や怜里を精一杯支えてくれたんだよ、少しお小遣い使い過ぎたらガミガミ、蒼王君とお泊まりデートしたらガミガミ、凄くうざい……だけどそれは私達のことを心配しているから。
そんな馬鹿がつくほど真っ直ぐで自分を犠牲にしてまで貫く姉の苦悩をたまには馬鹿な妹にも味らわせてよ馬鹿姉貴。
「しれっと禁忌なんてとんでもないワード口にして。一人で解決できると思ってるの?」
桜花の台詞に顔を歪ませながら頭を抱えだした。
「……でも、私が銀陽さんを拐うのを許してしまったものよ。あなたのこと笑えないわ。好きな人とデートして挙げ句つれ拐われた……馬鹿ね私」
「全く瑠奈は一度落ち込むととことん引き摺る、悪い癖だよあんたの」
「……でも!私が軽率なデートに応じなければっ!」
「考えてみ、ウチら18だよ、ピッチピッチの10代の乙女が外出控えろって言われて我慢できる?大丈夫好きな男とデートぐらいするよ。だからさ……自分を攻めないであんたは私と違って繊細なんだから」
「桜花……」
瑠奈は泣き崩れた。
「泣きなよ、気がすむまで」
優しく抱きしめる。
助けてくれてありがとう。と瑠奈は泣きながら大事な妹に伝えた。
助けたいに決まってるじゃない大好きなお姉ちゃんなんだから。
今は私の胸でたっぷり泣いていいからね姉さん……。
銀陽君を連れさって瑠奈にこんな酷い思いをさせた禁忌の適合者……マジで許さないから。
=====
藤沢家の向かいに位置する塚本家。
「ガァッ……!身体が……燃え尽きてなくなっちまいそうだっ……!」
彩菜の親友である美穂の家に、紅焔龍ミララースの焔を食らった蓮が運び込まれていた。
介抱してるのは美穂だ。
「気を強く持ちなさい。ディアブロスは炎には強い種、特に鏖魔は熔岩地帯にも姿を現すと言うもの。傷の再生は行われている心配はいらないわ」
台詞に安堵したのか、フゥーと息を吐く。
焼け死ぬような感覚に捕らわれてるのは間違いない、あの紅き焔による恐怖なのか……再生は行われてても痛みが取れるのにまだ時間はかかるのか……未知だらけだ。
今はもっと知りたいことがある。
「分からねぇ……お前が俺の心配をしに戻ったのがな。さっさと彩菜の元へ行ってやれば良かっただろが」
「行ったわよ。高速形態に変化して……そしたらもう終わってた。彩菜が裕也を優しく抱きしめてね。だからあんたを助けに戻ったの。大規模な列車駅構内火災の現場からね」
列車駅構内火災、悪い冗談だ……事態はより最悪なものである。
鏖魔の爆発で脱出したあと指すら動く余力がなかった蓮は紅焔が引火し燃え広がる駅に出てしまい動けない身体で死を待つのみで実際覚悟を決めたが美穂が助けに来てくれた。
「ってことはあいつら真実を知ったのか。……長かったな」
そうね。とぶっきらぼうに返事した。
「ハッ、残りは俺一人。殺されてもしょうがねぇことをした―――
実際俺は死ぬべきだ。違うか?」
「私に求めないでくれる。ま、あんたが自分の嗜好を満たすため手下共を使い犯したのは事実でしょうけど、私には何も言えない。あの子に謝ってみるのね」
ドアを閉め美穂は出ていった。
可愛げがねぇ女。
心で愚痴が漏れでる。
ふと、部屋の窓から3つの人影が見えた。
彩菜と亮と真莉が歩いていて、彩菜と亮が謝る真莉を宥めてるように見える。
おかしくなってふきだす。
「こんな光景、ほんの数週間前まで考えられなかったぜ」
決心がついたように、ベッドから飛び出すと美穂に世話になったと伝え、彩菜達が入った家に向かった。
彩菜の勾玉がディアブロス亜種だったら、鏖魔の格好いい魅力に惹かれたかも知れないわね。
少し笑いながら蓮を見送った。