東京にある勾玉研究所本部の調査委員会は、白咲研究所所員、燈極氷崋の起こした事案に研究会全体としての判断を当人に告げた。
この者は研究員として勾玉に携わる者でありながら友の為とは言え他の適合者を能力でいたぶり最後は脳幹を操り歩道橋から落下させて殺害した。
自白したあと本部の個室で軽い監禁を受け、窮屈な時間を過ごしたが今日で終わる。
私の……処遇はどうなっちゃうのかな?。
金属的な施錠音が響きドアが開いて歳が20代ぐらいの女性が入って来た。
「あなたが燈極さんね、処遇の内容が決まったわ。といってもこれじゃ処遇なんて無いに等しいけど」
至って普通のトーンで語られる。
もっとおぞましいものと感じたが……あまり驚く事案じゃないのかもしれない。
もしくは、意外と研究員が他者を殺すことが常態化してることの表れ……?。
それはそれで恐ろしい。
「言うね、破壊を目的とした禁忌の適合者から白咲の町民、町の死守に全力を尽くしてほしい。だってさ」
「……は、はぁ」
「軽いとか思ってる?……まぁ大きな犠牲を止める為に小さな犠牲に目を瞑れってわけじゃないけど、意外とあるのよ適合者として生まれた研究員が他の適合者を殺めてしまったりすることがね」
多いんだ……。
少しホッとしてしまう自分に嫌悪を覚える。
「なんだかんだこの組織だって問題児はいるからねぇ、貴女は仲間を思ってやたんだからいい方よ」
「そう……ですか」
どうしよう、喜べばいいのか、落ち込めばいいのか、笑えばいいのか、このもやもやが不快でもあって心地よくも感じる。
「さぁ氷崋ちゃん帰る準備をしてね。白咲研究所にいる煌輝君も君の帰りを待ってるみたいよ」
あの町には待ってくれる仲間がいる。
「はい、分かりました。禁忌のアルバトリオンの適合者の彼や信頼出来る大事な仲間達と共に町を守れるよう全力を尽くします。私が犯した愚行を償うって意味でも!」
そこまでのべると一礼した。
大輔君を殺してしまったこの力で一人でも二人でも多く救わなきゃ……それが私の償いだわ。
「見過ごしたら被害が日本全体に広がりそうなこの苦難に本部でも惜しみなくあなた達を支えるつもりだからね」
「助かります、本当にお世話になりました」
「あ、なんか変な男の子が勝手に研究所に入って来て困ってるとか言ってたわ」
「変な男の子?」
「うん、なんかクルペッコの適合者らしいんだけど、モンスターのデータとか見てお宝だとか言って眺めてるんだって」
普通にヤバくない……その人。
私の知合いにクルペッコの適合者はいないし、何処から来た人かしら町人かな?。
「ともあれお世話になりました。少年についても研究所に戻って事情を確認してみたいと思います」
ディスフィロアの力を纏身させ建物の外に出た瞬間翼を生やし白咲町方面を目指し飛行した。
ガソリン代も交通費もかからない素晴らしい移動手段である。
=====
藤沢家の彩菜の部屋に煙草の匂いが浸透していった。
「まず、これだけは言っておく。美穂はお前を救う為に必死に動いていたとな」
前彼女に聞いた時も
語られる……幼馴染みの真実。
彩菜がいじめを受けてた裏で美穂が何をしてたのか明らかになるのだ。
「そうなんだ。でもどうして彼女は……」
言葉が詰まる。
私が孤立したのは当然の結果だったけど、なんでいじめと無関係の美穂が一人で動く必要があったの?……中学からの友達の恵美や結子もいたのに……。
当時いじめを受け誰とも打ち解けず仲間が居なかった彩菜は孤立無援だった。
だからこそなぜ、いじめに全く関係ない立場にいた美穂が蓮以外とは協力しなかったのか、多人数や仲間が多い方が物事が進みやすいのは現在進行形で体験してる。
私が夏休み前結子と仲違いしたから?……違うわね、その後も結子と美穂はちょくちょく話しあってた筈……どうしてなの美穂、なぜ蓮を選んだの?。
中学時代からの友人で成績優秀姐御肌でクラスの委員長まで勤める滝嶋結子、高校に入り黒い噂が絶えない不良の常盤蓮……もし、二人に初めて会う人間がどちらが信用に値するかと考えた時、決して見かけで選ぼうって柄じゃない彩菜でも前者を選ぶだろう。
思えば美穂は昔から口数が少なくてミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
初めて美穂に会ったのは小学生時代あの子が転校してきた時だったな……改編前の世界では心臓が弱くて町の花火大会にも参加出来なかったっけ、そんな美穂に屋台のお菓子を買って喜んでもらえた時は凄く嬉かった。
『わ、私と友達になってくれない?』
ミステリアスな雰囲気でクラスから何考えてるか分からないと除け者にされていた美穂に、興味を持ち友達になりたいと願った彩菜……最初のうちは美穂が私は身体が弱いの構わないでと言ったりして心を開かなかったがこの件以降二人は親友になっていったのだ。
「一人で行動してたのもあいつがお前を思ってこそ……表立って彩菜を守ると言えば、復讐の煽り役の裕也と一番彩菜を潰しがってた真莉に狙われ排除され兼ねない。そしたらお前を守れなくなる……あん時のお前の表の味方は皆無に等しかっただろうが」
二人は罰が悪そうに顔を下げた。
……蓮のいう通りか、美穂のモンスターの種類も名前も分からないけど、ラ・ロの改編が発動する前の私を表立って守ると言うことは古龍の適合者が何体かいるこのクラスの殆どを敵に回すと言うこと……20近い適合者に勝つなんて無謀な行いそれこそ禁忌じゃなきゃ達成出来そうにないな……。
「そんな時だ俺があいつとつるみ出したのは……」
懐かしそうな表情を浮かべ彼は話しだす。
結子と決裂しお前へのいじめが悪化しだした9月、俺がよく通う旧校舎の図書室に美穂が来てな。
「おや、珍しい客もいるもんだ」
「……私が何処にいようが私の勝手でしょ」
「ここは俺のシマとして使ってたんだがなぁ。大輔や一真にも勝手な入場を許可した覚えはねぇ」
鏖魔の怒り状態の紋様を浮かせ煙草を蒸かしながら挑発染みたように言ったんだ。
俺はてっきりこれでひくと思ったんだが、あろうことか美穂は居座り、あんたがいつからルールになったのと言い返して来てな、思わず笑っちまった……。
それ以来……奴はずっと図書室に通いつめては本を読むのを繰り返した。
俺も一人では退屈だったからな、追い出すような真似はしなかった。
ある日なんでそんなに本を読むんだって聞いたら、困難を打破できる知恵が見つかるかも知れないからだとよ。
すぐわかった、彩菜のことだってな。
「美穂は言ってきたぜ。蓮あんたも彩菜を本当に愛してるなら守るために動きなさい。とな」
はいっ?……彩菜を愛して?。
我が耳を疑う、自分を犯したグループのリーダー格が、私を愛していた?。
「たくっ、あの狼野郎と同じ女に恋するとは腐っても幼馴染ってわけか」
「聞きたいことがものすごくあるんだけど、蓮が9月に美穂と接触したのは分かった……で、美穂から守れと言われたのも」
彩菜の心に憎しみが渦を巻く。
この男は美穂との約束を反古にしてるようなもの。私じゃなくいじめと関係ない幼馴染みまでも馬鹿にしている。
「……アンタにとって私を犯すのが守ることとでもいいたいの?」
静寂が流れた。
「すまねぇ、俺はお前に本当の気持ちをぶつける度胸も表立って助ける度胸もなかった。ただ俺は守ると言われながら一真や大輔使ってお前が犯されるのを見て満足してたんだ……」
「なにあんたネトラレって奴?ないわー……ひっ!」
彼にとって侮言だったのか真莉をジロリと睨んだ。
「蓮……君の家は確か前のお父さんが、離婚して新しいお父さんが来たんだったね。小学生の頃か、懐かしいな。よく僕ら3人で遊んだよね」
僕ら3人、今までの発言から推測すると、裕也、蓮、亮かな。
この3人が幼馴染だったのはちょっと意外ね。
「あぁ。新しく来た男は俺のお袋に連日暴力を振るってな……ガキながら必死で止めようと頑張った。けど俺はあることに気付いた、お袋は殴られてるのに喜んでると」
悪辣な笑みが顔に浮かぶ。
「そっから変わった。俺は自分の好きな女が襲われるのを見て興奮するようになったのさ」
「やっぱりネトラレじゃない」
「うるせぇ」
幼少の頃の経験によって生じた歪んだ価値観……好きな女性に対し襲われるのを見て彼は快楽を覚えるようになった。
そんな蓮が、いつ私に恋をしたんだろう。
「ねぇ、蓮いつ私に恋をしたの?」
「高1の時だ……裏でそこのクラス委員会副委員長様とモンスターに頼らず己の身で喧嘩してな。廊下かどっかの途中で力尽きたのを保健室に運ばれたんだろ……その保健室がまさに運命の場所だった。保健委員のお前に一目惚れしたんだ」
2年前確かに彩菜は保健委員会に属していた。
あぁ、なんか覚えてる。体格がいい不良っぽい子が裕也の手で担ぎ込まれてきたな。
「まっ、今となっちゃああれもお前の復讐計画の一環だったんだろうな」
「…そうだね。君が空手の借りを返しに来たのは都合がいい出来事だったよ。君を返り討ちにしたおかげで亮が恋した彩菜に接近する機会になったんだから」
「二人は空手やってたんだ」
質問した彩菜に亮もやってたと答えが返った。
「なかでも裕也は道場一強くてな。とても手も足も出ねぇ存在……そんなこいつに一矢報いたかった、結果は惨敗でこいつの駒になってしまったが。笑えないオチだ」
頭を抑えながら鬱屈に語る。
何か新鮮だ……普段の彼から感じる冷たい感じはなく、葛藤が渦巻いてるのが他人からでも分かるほどに蓮は気分が沈んでいる。
「駒にされた上に、復讐劇の過程で好きな女もあいつに奪われちまった。まぁ、俺みてぇなクズ野郎には当然の報いか……言えた義理じゃねぇし、お前が望むならぶっ殺してくれて構わないが、心に穴が開いたように空しくなったわ」
寂しく作られたような顔で必死に笑ってるように見えた。
弱々しく口を開く。
「彩菜……すまなかった。好きなお前を守るどころか歪んだ嗜好を満たすために傷付けてしまって。裕也が仕組んだとか関係ねぇんだ……事実俺は楽しんでいたのだからな。弁解なんて出来ないししたくもない……あとの判断は彩菜が決めてくれ」
立ったまま蓮は静かに目を閉じ、彩菜の動向を待った。
完全に彩菜に身を委ねると言うのだろう。
「蓮……、あなたは本当に死にたいの?」
「分からねぇ、だが生きていたくない。許されるわけもないんだ。だから……俺が痛い目にあわされたお前に殺されるのが一番筋が通ってる気がする」
……ある意味で自分勝手な結論ね、痛い目にあわせたから謝罪だけして自分は死ぬ。
勿体無いじゃない、せっかく謝ってくれたのに。
その勇気があれば人生だってきっと渡っていけるよ。
「死ぬのは勿体無いよ蓮。あなたは強い……復讐劇に運命を狂わされたろうけどそれは皆よ。勿論裕也だってね。あなたへの試練が決まったわ。生きて……生きて今度は弱い人にその力を使ってあげて、貴方なら出来るから」
優しく、諭すように蓮に言った。
「……ハッ、甘ちゃんめ。んなこと言われて死んだら馬鹿じゃんか。やってやるよどれぐらい生きるか分からねぇがよ。……生きて弱い者や希望なき者に手を差し伸べてやる鏖魔と共に」
「うん!応援してるからね」
「本当よこのネトラレ変態、好きな女犯して喜ぶとかマジ信じらんな~い。道踏み外さないようにしなさいよ」
「いちいちウゼェ女だ……」
「おいおい二人共落ち着いて……」
「「元凶は黙ってろ」」
「はい……」
3人が険悪な雰囲気で話してるのを裏に、彩菜はラ・ロから試練を全て達成したことの伝達を受けていた。
―試練達成おめでとう彩菜。
ありがとうラ・ロ。これで創れるんだよね私の理想の世界を……。
―あぁ。だがこの世に未練は無いのか?。私が思うにお前はこの世界でも充分強くなった。
仇敵は仲間となり戦いの中輝きながらお前は生きている。
……うん。言われてみればさ、試練の連続だったけど色んな人と触れ合えた。
ラ・ロの言う通り未練がいっぱいだよ……この世界にで生き続けてもいいのかな?。
―決めるのはお前だ。焦らずゆっくりと決めればいい。
分かったわ。
そうこれは私の物語なんだ。
禁忌の脅威が迫り来るこの世界でどう判断しようが私の自由……。
友人達の喧騒の横で1つの答えを出した。
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白咲町に隣する海の中では、ラギアクルス希少種の適合者冥沙が朱煉から罰を与えられていた。
禁忌の一角である煉黒龍グラン・ミラオスの煉火を何発もその身に食らい皮膚はぐちゃぐちゃになり回りの水は真っ赤に染まる。
彼女が罰を受けてる理由は至って単純……朱煉の懸念の種である藤沢彩菜を排除できなかったからに他ならない。
「せっかく、私が力を与えたと言うのに…。お前のしたことは私に対する裏切りです」
痛む身体に容赦なく強い言葉が放たれる。
「返す言葉も御座いません、どうぞ朱煉様のお好きにしてください」
恐怖の感情はわかない。
毎日朱煉に尽くしていたため感覚が麻痺したのかもしれなかった。
「お前の罪が死なのは変わらない事実です。ですが、最後にお前は私の役に立って死になさい」
「……はい」
「お前の最後の使命は、身が持つかぎり藤沢彩菜の戦力を分析することです。……彼女の真の力をあらゆる手段を用い私にその全貌を見せなさい」
これが私の最後の仕事……藤沢彩菜達に殺されると言うのね。
unknownの力の全貌を見せるためにはやはり怒り状態にさせるのが一番いいな。
……彼女の仲間を襲えば。
「行って参ります」
最後の仕事で成果を出し死をも恐れない忠誠を誓うと決し冥沙は最後の戦いへと向かう……。
もうすでに他の禁忌とその手下達も動いてるはずだ時間はない。