藤沢から始まる過去の其々の思いが語られ交錯し彩菜にとって重い一日となった……重い日が終わる寸前に煌輝からメッセージが届く。
蓮と真莉は帰り、彩菜と裕也が待ちわびた自分達の父親……藤沢総一朗は午後11時近くなっても帰って来なかった。
「あと、1時間で日が変わっちゃうな」
普段通りの気さくな笑顔を浮かべてポツンと呟いた。
消えそうなぐらいに寂しい顔で。
……心が痛むぐらい彼が無理して笑ってるのはよく分かる。
真実を父に二人で話せると期待を抱いた裕也は、ポツンと座り泣いた子供のように静かに下を向き悲壮を噛みしめてる、笑顔はあの一瞬だけ。
裕也……。
悲壮を取るのは難しいことだが優しく包んであげるのなら彩菜にも出来る。
一人の同級生としても、血の繋がった兄妹としても父親への言葉を胸に留める裕也を支えてあげたい。
元々、あの父親は家に帰ることが少ないぐらいスケジュールに埋もれてるって言えば良かったな、と軽く罪悪感を覚えた。
それにしたって最近の父は家に帰ってたのに……。
やめよう、忙しい人のこと考えても始まらない。
「本当にごめん裕也、あの人に会えなくて寂しい…よね」
「正直ちょっと寂しいよ。でも父さんも仕事頑張ってるだろうし。会えなくても俺は後悔はしない。まぁ、父さんには俺と彩菜の和解を話してもう過去に執着しないでって伝えたいけどね」
「そうだね」
クスっとしながら返事をした。
自室のドアを叩く音が2回する。
「失礼するわよ」
ガチャリとドアを開いて入って来たのは母親の雪だ。
「あなたが裕也君?」
「……そうですが」
何故この人は俺の名前を知ってるのだろう……俺の方は彩菜の母親である貴女を徹底的に調べあげたからイヤってほどしってるが。
この雪のコンタクトは裕也にとって意外なものだった。
藤沢雪、彩菜がいる手前あまりこの人物について思い浮かべたくないがこの人物こそが、裕也の母親紗也から総一朗を奪いとった本人である。
俺が調べた記録では、雪さんとお母さんとお父さんは大学で知りあい一緒のサークルに入って仲を3人とも深めていった……男女が仲が深めるに連れ恋仲になるのは一種の過程なのかもな。
父と母は付き合いだした卒業したら結婚すると誓って……その母親と父親が歩む予定だった生涯の愛の道は雪さんに奪われた。
国内でも有数の藤沢グループの令嬢の彼女は父親を大変愛していたようで……庶民のお母さんに取られたのが気にくわなかったんだろう。
卒業間近で結婚寸前の大学4年生の中盤、お父さんはお母さんと別れ雪さんと付き合った……いや、付き合わせられた。かな。
彼女のその自己的な行動のせいで今の今まで父さんと母さんは表立って愛せなかったんだ。
「そう……あなたが紗也の子なのね。よく見たらあの子にそっくり優しい面影は母親ゆずりね」
「……何が母親ゆずりなんですか?、っていうかなんであなたが俺のことを知ってるんです」
声が怒りに染まる。
彩菜は憎悪を纏う彼が不安になった。
このままお母さんに攻撃するんじゃないよね……。
「裕也……」
「大丈夫だよ馬鹿な真似はしない。自分勝手な軽率な行いが周りを不幸にするのはよく知ってるからね」
憎悪を込めた目が雪を睨む。
「……私が憎いか。当然よね、紗也から総一朗を奪いあなた達親子は肩身が狭い思いをして生きてきたんだもの」
頭が物凄く熱い……破裂しそうなぐらいに。
「知ったようにかたるな…!あんたさえ……お前さえ自分勝手に動かなければ母はあんなに苦しまずに済んだんだ!お前のせいで母は1年前に死んだ…」
激昂する彼の口から語られた台詞に彩菜は大きく目を見開く。
敵討ち……って…正しく死の報復だったのね。
「お前さえいなければ……お前さえいなければ……」
涙を流しながら以前とし眼光炯々とした様子だ。
「本当にごめんなさい裕也君。言い訳も何もしたくないけど私はあの人を本当に愛していたの……だから紗也に総一朗が取られるのが本当に嫌だったから紗也からあの人を引き離したのよ」
「若気の色恋沙汰で逃げるにはあなたのやった行為はあまりにも愚かじゃないんですか?。僕の母親はもう帰ってこないんだ…本音を言えば貴女を殺してしまいたい」
「構わないわ。君が好きなようにして…私のせいで数多の不幸が生まれたんだから」
諦めの境地からか目を閉じ力なく笑う雪……母と兄のやり取りに頬を涙がつたう。
「でも、憎悪だけの搾取一辺倒では生まれるのはまた新たな火種(憎悪)だ…こんな負の連鎖続けてはいけない。それを俺は貴女の娘から学んだんですよ。ね、彩菜」
「裕也!……思い留まってくれてありがとう!」
兄の決断に涙を流しながら二人は静かに抱きしめあった。
「君が悲しむだけだ彩菜、憎悪を掘り返したくないし君をもう傷つけたくない」
「ありがとう……」
「あなた達、素晴らしいわ。やぁね……あなた達より20年以上生きてるのに涙が止まらないわ……」
大学生時代に押し殺した紗也への罪悪感……嫉妬と見栄によって彼女から大切な人を奪った過去の愚行が罪となり重く雪にのし掛かる。
でも今の自分なら乗り越えられる。
根拠もないのに不思議とそう感じた。
逃げちゃダメね、向き合わなきゃ。
それを今……私はこの子達に教えてもらったわ。
「雪さん何故貴女が僕のことを知っていたのか気になります。理由を聞いてもいいですか?」
涙を流しきり先程に比べだいぶ落ち着いた様子で訪ねられる。
「実を言うとね…よく総一朗から聞いてたのよ。紗也と裕也君のことをね」
「えっ……本当ですか?」
表情が固まる。
あの父が藤沢の頂点に立ち俺と母さんを楽な生活をさせようと努力していた父が雪さんに話してたのは予定外のことだ。
「女の勘って言うのかしら……あの人が私や彩菜に愛情を向けてないのに気付いたのは今から6年くらい前ね。彩菜のことも誉めなくなり夫婦間の会話も減っていって…思わず気になって聞いたの……『他に好きな人でも出来た?』って…」
「それで父は……どう答えたのですか?」
一番気になる所だ、自分達家族をどう説明したのか。
「正直に話したよ。俺は君をあまり愛していない、紗也と裕也のために藤沢の頂点に立つってね……じゃあ離婚するのって聞いたら?。今はまだしないが頂点に立ったら分からないって」
彩菜にとっても裕也にとっても衝撃の事実だ。
お父さんは確かに私には冷たくなってきたって感じてたけど……お母さんとは良好なんだと思ってた。
自分には全く両親が見えてなかったと思い知らされる。
「そうだったんですか、だったら尚更父さんに言わなくちゃ。そんな辛い道進ませるわけにはいかない」
「今日はというか暫くあの人帰って来ないわね。電車通なんだけど街の駅で火災事故が起きたようだから、復興まで暫く時間を擁するみたいよ」
そうですか、と落胆した。
なんか、今日は色々な情報を一気に知った日になっちゃったな……。
とても濃い一日だわ。
「じゃあ僕はここらで。長居しすぎてすみません」
「待って、もう暗いし泊まっていけば?。どうせ今臨時休校中だし」
「臨時休校中だからって遊ぶ期間じゃないよ……母さんに線香もあげなきゃならないしね」
彼は困ったような顔を浮かべる。
「あらそう?いいのよ別に泊まっていっても?」
「いえ、勉強も頑張りたいですし」
ポケットが揺れた。
ピコン、とスマホのトークアプリの通知がついたので彩菜は急いで確認する。
これって……!。
吹き出しマークに書いてる文字に彩菜は目を疑った。
メッセージの送り主は煌輝でその内容は……。
『探知機が膨大なエネルギー波を感知したから奴等がそろそろコトを起こすと見られる。皆にも回してるが警戒してくれ。出来れば奴等が暴れる時即座に出現場所を特定して反撃出来るように研究所に来てもらうとありがたい場所は……』
「裕也!禁忌がもう少しで攻めて来るわ!」
「……なんだって!」
「ど、どうしたの二人とも?。キンキって何かしら……今の高校生の流行のもの?」
「ごめん、お母さん!ちょっと行って来る!裕也も来て!」
「ちょ、ちょっと行くってどこに?彩菜!」
突然の娘の行動に戸惑う。
一体夜に何処へ向かうのか……。
適合者以外だと分かるわけないもんなこの危機を。
慌てる雪の肩をポンと叩く。
「娘さんは絶対俺が守ってみせます。雪さんはここで彩菜の帰りを待ってください」
「え、えぇ……」
彩菜の後を追うように裕也も家を出た。
「何がなんだか分からないけどあの子達なすべきことがあるのね……頑張って彩菜も裕也君も微力だけど私は応援してるからね」
それにしてもさっきの裕也君……あの人そっくり。
流石総一朗の子ね男前だわ。
年甲斐もなく雪は顔を赤くしほっぺに手を添える。
「頑張ってね二人ともあなた達のお父さんの分も……」
禁忌の攻撃が始まる4時間前の現在……治安を維持するはずの警察署は紅き翼の適合者により壊滅した。
数々の悲鳴深紅の劫火の中署や署員は灰になっていく。
拘置所に収監されてる者達も2人の適合者を除いて次々と焼け死ぬ。
「あっつ!なにこれ火事ぃ!?」
「それにしてはさ、色々と避難とか手遅れな気がすんだけど……」
尾晶蠍アクラ・ヴァシムの適合者、菅原千鶴と灰晶蠍アクラ・ジェビアの適合者三輪楓は悪質な親父狩りの罪により拘留されてる身だ。
しかし突然の署の燃焼により二人は燃えて死なない内檻を其々の力で壊し外に避難した。
「はぁ……本当に焼きジェビアと焼きヴァシムになるとこだったわ~。結子のナナ・テスカトリと戦った時を思いだしちゃった」
「それはそれはやな思い出ね……つか、マジでこの火の周りはなんかおかしい気がする」
まさか適合者の仕業?。
「ほう……茶々を入れられたりして勝負の邪魔になっては目障りと思い警察署を焼いたらまさか尾晶蠍とその亜種が拘留されてたとはな」
真上から声が聞こえた。
上を見上げると燃えるような紅い翼を広げた男が立っていた。
「誰よあんた」
「深谷焔紅、禁忌の紅焔龍の適合者だ。数時間後の明朝この街は地獄に変わる。これを止めたいのなら精々足掻くことだ―――
楽しみにしてるぞ、雑種共。ハハハハハハッ!」
「きゃ!」
「眩しい!」
太陽のごとき輝きを放ち、焔紅は姿を消した……。