分散し、敵を討つ……か。
勾玉を宿した弊害により赤く染まった髪をクルクルと指で巻きながら彩菜は作戦を思い浮かべた。
表立って襲って来る禁忌の適合者は、3名。『禁忌』と付かなければなんてことない敵だったろう。
しかし奴等はたった一人でも並の適合者を何人も寄せ付けず逆に殺す力を保有している。
性格も人とは思えぬ悪魔そのもの、煌輝は本当にレアケースだったんだと自信を持って言える。
あいつらの残虐性は彩菜も目の前で見せつけられた……自身の試練の相手の政敏と杏奈を自らの血を流し苦しみながら戦う怪物に仕立てあげ、挙げ句見あった成果を出せなかったがために二人は殺害されたのだ。
……今この場には親友の死を目の前で見せられた結衣と哲也もいる。あの二人も間接的にとは言え禁忌の力を受け取り力が抑えきれず死ぬ可能性があったが煌輝によってそれは解消した。
なんにせよ二人には……親友の仇を討つチャンスが巡ってきたことになる。
いじめの試練も終わりを迎えた今彩菜がこの二人を恨んだり傷つけたりするすべはない。
あるのは、純粋に頑張ってね。という応援の気持ちだけだ……世の中には力を使わず解決する事柄もあるが、力を使わないと前が見えない障壁が立ちはだかったりもするのだ。
禁忌には……彩菜が試練の末見つけた和解や他者を傷つけない思いは通用しない。
今だけは私が試練の中に見せた甘さを全部捨てよう。
能力的な差がなくなったのならば、あと勝敗を決めるのは絶対に負けない意志だ。
煌輝君の作戦で私は黒邪の相手をするように言われた…黒龍ミラボレアスの力を持つ禁忌の適合者の相手……『人が苦しんだりする様が僕を笑顔にする』と公言した男……。
冗談きついなそんな怪物(モンスター)の相手をするとか。
笑いながら心で愚痴ったが彩菜の取るべき道は決している。
「よし」
気合いを入れ指定された場所へ適合者達は移動を始めた。
寒さに皆身を包む。
黒邪一人にこっちは、私含め5人か……人数では利があるけどやっぱりこれで奴に勝てるって見通しはつけられないわ。
割り当てられたメンバーは、逆人、蒼王、理雄、怜里、桜花の5名だ。
全員飛竜種の適合者だ。
無論彩菜はこのメンバーが強いとは信じてるが相手が悪すぎる。
飛竜種はモンスターの生態系に留まった強さでしかない、生態を逸脱した存在の古龍種の頂天たる存在禁忌の黒龍に挑むというのはイビルジョーにアプトノスが挑むようなものだ。
……当然、瞬殺だろう。
瞬殺は言い過ぎたとしても、全く歯が立たないのは確かだ。
それは本人達も重々理解していた。
圧倒的終焉と被虐をもたらす巨闇から勝機も無いのに何故逃げないのか……街を守るため微力ながらも力を尽くし僅かな可能性(彩菜)に懸けるためだった。
玲里や桜花には他の目標もある。
目の前で銀陽を連れ拐われた瑠奈の悔恨の念を晴らすことだ。
あの後、桜花は瑠奈からその禁忌のモンスターと適合者の名前を聞いた。
適合者の名前は深天祖雷、その名前を聞き桜花は小学校時代の他クラスの問題児を思いだし、瑠奈の話を聞くにつれその祖雷と同一なのだと認識した。
モンスターの名前は祖龍ミラルーツ……恐ろしさとは裏腹に美しさすら覚える純白の神々しい姿を持つモンスターだ。
はっきり言って、小学校時代に自分の近くに怪物が存在していた事実にゾクッとした。
瑠奈は今自分の部屋から出れないほど、滅入り母親の介抱のもとベットで横になっている。
瑠奈の異変に気付いた玲里にも理由を話し、泣き崩れながら顔を覆った。
煌輝から禁忌が動くと連絡があった時、恐ろしさも感じたが同時に……姉を救えると二人は感じたのだ。
禁忌の呪縛から。
だからここへ来たのである。
「おーちゃん、玲里ちゃん……。瑠奈ちゃんは大丈夫なんだよね?……ちょっとわけがあって来れないっては玲里ちゃんから聞いたけど、銀陽君もいないからちょっと気になってね」
不安そうに聞く彩菜に桜花は満開に咲いた桜のような笑みを浮かべる。
「大丈夫、瑠奈姉貴はこれぐらいのことで絶対挫けないから!お堅くてちょっと冗談通じないとこもあるけど私達の大切な姉さん……だから。私は今私に出来ることをやってくだけだよ。ね、玲里?」
「うん。街もだけど瑠奈お姉ちゃんを救うためにも私も紫毒姫に進化したレイちゃんの力を借りてやれるだけやってみる!。改めて宜しくね彩菜ちゃん街を守ろう!」
「うん……そうだね!」
「あぁ!見せてやろうぜ!。俺達の反逆をッ!」
青白い稲妻が、頭の回りをバチバチ走った。
逆人のライゼクスも禁忌の雷を受けた影響か、2つ名個体の青電主へと進化したのだ。
「おいおい。いいよな原種は2つ名になれて、ったく亜種は辛いぜ」
「気を落とすなよ蒼王。そのうちさ亜種や希少種の2つ名も出てくるかもよ」
やさぐれたように言った蒼王を理雄は宥めた。
確実に亜種や希少種の2つ名が出れば強いには違いない下手すれば古龍を越えるかも、実現すればだが。
理雄のリオレウスも、日々の修行の成果か黒炎王に進化していた。
そろそろ日が明ける……30秒……20秒……10秒…………。
太陽の明りと共に、集った適合者達の前に黒い稲妻と雷赤雷と紅焔が発生した。
それぞれの禁忌のモンスターを象徴する属性の中から、悪辣な笑顔を浮かべ3人の適合者が姿を現した。
「あら、待ち伏せとはこじゃれてるわ」
「煌輝……。お前が俺の相手か。紅き焔を身に焼き付かせてやろう」
「なれたんだね。僕らと同じ究極の存在に……いっぱい楽しめそうだね彩菜」
「お前が深天祖雷か!。ジンオウガと共にお前を倒す!」
「どうだか。その御自慢の紅き焔を放てないうちに倒すかもよ」
「黒邪、あんたと戦闘するにあたり私は自分の弱さを捨て全力で倒させてもらうわ」
対面する6人の背中から翼が生え、強くぶつかり始めた。
亮は祖雷を、煌輝は焔紅を、彩菜は……黒邪と……街と世界の行き末を掛け争うのだ。
今、火蓋は切って落とされた。