追撃をくらいこれまでかと思われた時、一人の適合者が駆け付ける……。
……18年前、日本のある病院で一人の妊婦が夫が見守る中赤子を産もうとしていた。
口には酸素マスクを付けられ、顔が汗だらけの最愛の妻の様子は医療の心得がない自分が見ても……難産で母子共に危ないのだと一目で分かる。
「先生!出産日まであと2週間もあったのではなかったんですか!」
「深淵さん。落ち着いてください……出産日はあくまでも目安の範囲です。昔に比べ機器が発達した今でも我々医者は正確な時期を当てるのは難しいのです」
「そうですか……」
医者の言葉に深淵と呼ばれた男性は気の抜けたように肩を落とした。
口ではああ言ったものの、今回の事態は医者側から見ても異常だ。
予定日より早まることは確かにある。
それが原因で本来ならもっと居なければならない子宮の中に入れず、死んでしまう子も勿論存在するのだ。
だからこそ、数多の出産を見てきた医者として1つの判断を下そうとしていた――
この状態……では母子共に助かる見込みはない、と。
現に母親は子宮からの出血が酷く、かなり弱っている。
早く子供を助けたいのは山々だが無理に帝王切開でもすれば死期を早めるだけだ。
……旦那さんには辛い判断になるかも知れないが、まだ赤子の命を諦めれば奥さんの方は助かる可能性がある。
医者として少しでも命が救えるとあるならば……その方法にすがりたい。
医者からの提案を説明された夫は……床に崩れ落ち泣く泣く了解した。
勝手なものだが二人して死ぬよりは一人だけでも命が助かった方がいい。
今回の子は諦めよう……どうせまた子供は作れるんだ。
お前さえ無事であれば……。
子の命を微塵も考えず俺は最低な男と頭の片隅で罵りながら、夫は意識が朦朧としている妻の額に手を載せ手術室から去った。
妻を助ける手術はすぐ行われるとのことだ。
「すまない。お前を産ませてやれなくて」
手術が終わるまで手を組みキリスト教徒のように自分の死にいく子に必死に懺悔した。
2時間が経った……手術室のランプはまだ赤く発光しているのを見て重い溜め息を吐く。
「まだ終わりそうにないか」
するとドアが勢いよく開いて、血相を変えた医者がマスクと帽子を急いで脱ぎ捨てながら自分の元へ駆け寄る。
まさか……そんなまさか……。
「つ、妻も……妻も死んでしまったんですか!」
怒る口調で医者に浴びせた。
「ち、違います!奥様は無事です!」
懸命に首を横に振り医者は否定した。
「そうですか、すみません。大声を出してしまい……」
「いいえ、良いニュースと言っていいのかどうか。深淵さん……あなたのお子さんが無事生きた状態で産まれました」
「本当ですか!?」
祈りが届いたなんては信じないが、暗く後ろめたかった気持ちは吹き飛び歓喜が夫を包んだ。
今日は美味い酒が飲めそうだ。
「先生ありがとうございます!」
両手を握り上下に振るも医者の顔はいまいち振るわない。
助かったのに何か疾病でも見つかったのか……。
「深淵さん。医療に携わる者としてあまりこういうことは言いたくないのですが……まずあの状態で子が生きてるというのは私が知りうる事例に照らし合わせてもほぼ0パーセントです。そこが少し気掛かりで」
「はぁ……。でも産まれただけで僕はもう満足です。これから妻と共に育てて行きます」
「分かりました。もう1つあなたに言いたいことがあります……奥様のお腹から取り出した時あなたのお子様は産声もあげず、自分より大きな我々を見ても恐れるどころか笑みを浮かべていたのです。赤子としての通常の反応があの子は出来ていませんでした―――
あの子は先天的に恐怖に対する感情が欠如していると私は診ます」
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いつだったっけ、父さんからお前は邪悪な力を宿してる上にサイコパスの素質があるって言われたのは……酷く泣きじゃくりながら僕に語ってくれたっけな。
でも、僕としては痛みも感じてる筈だけどな、今目の前で四肢を弾き飛ばされ横たわるダルマを見ても凄く痛がってて楽しいし。
僕に楽しさを与えてくれるこの力(ミラボレアス)の何処が邪悪なんだ、今度は首を離してサッカーボールみたいに蹴り飛ばそうかな。
彼が言うダルマとは、刻竜unknownの適合者……藤沢彩菜の現在の姿のことを指す。
彼女の凶禍の力を受けた黒邪は御返しとばかりに青白い光線が放たれ四肢が紛失したのだ。
「あぁぁぁっ!……痛すぎる!」
傷が中々再生しない。
「この変異したミラボレアスの攻撃には傷の再生を遅らせる力がある。暫くその芋虫のような格好で地べたを這いずりまわりなよ」
鋭い蹴りが顔面を捉え宙に身体が大きく跳んだ。
意識がなくなりそうな蹴りだ。
「僕と同格の存在にはなれても互角にはなれなかったね」
変異したミラボレアスの力が体内で大きくなる。
次第に空には何人をも飲み込む真っ黒な蠢く巨星が形成され始めた……彩菜も殺せて街の終焉も行える一石二鳥だ。
「愛華の方は別の場所で、あのワイバーン達と戦ってるのか……一方的だろうなぁ。紫毒の瘴炎を操るエスピナス希少種とあのワイバーン達じゃ。今頃全員毒に冒され死んでたりして」
乾いた笑いをしながら、彩菜がふき飛んだ場所へと足を進める。
まぁ、終焉を起こす前にちょっとした腹拵えが出来て良かったすぐ死んだらつまらないもんね。
「死なせはしないわよあの子を」
後方から女の声が聞こえたと同時に、白く光る結晶が自身の身体に浴びせられた。
へばりついたその結晶は黒邪に疲労をもたらす。
「……結晶やられか」
龍属性のエネルギーを体面に走らせ結晶やられを取り除いた。
「龍属性か便利ね。どんな属性やられもすぐ解除しちゃうんだから……結晶による爆破ダメージで倒すのは難しいか」
「今の結晶と君から漂うエネルギーでモンスターがなんだか分かった……変幻の黒影、黒狐竜ミ・ルだな?」
「半分あたりよ。今はもう妖し化けるミ・ルだもの」
ふっ、と笑い一瞬で音や残像すら残さず、幼馴染みのピンチに駆け付けた黒狐竜の適合者美穂は姿を消した。
「妖し化ける、か……それは厄介だな。モンスター区分は分類不明ながらにして禁忌の龍に匹敵する存在だ。サイコキネシスやモーフィング能力だって謙遜なく使えるときている。厄介だけど楽しい戦いになるのは間違いなしか」
龍属性のエネルギーを滾らせ、黒邪はまた歩みを進める。
話を聞けばあの子とは彩菜のことだ。
だから僕は変わらず彩菜に近付けばいい、そこに姿を消した黒狐竜の適合者もいるんだから。
黒邪の読み通り、美穂は吹き飛ばされた彩菜の元により意識や手足を失った彩菜にサイコキネシスを送り治癒を増進させていた。
暖かく懐かしい感じに彩菜は意識を覚醒させる。
目を開いた先には近くて遠かった美穂が昔の無邪気な顔で彩菜を眺めて、ただいま、彩菜と話した。
久々のあの頃の親友との再会に二人は互いを抱き締めた。
「美穂、ありがとう!……」
「よしよし。3年1組のワイバーンの子達を巻き込まずよく一人であの怪物と戦ってたわね」
優しく頭を撫でられ最早泣いてはあやされていた小学生時代だ。
「もう、あなたに隠す事もこそこそ動く必要もなくなったんだけど今はその感動をあとにするしかないのは分かるよね?」
「……うん。これだけ聞かせて……美穂も禁忌に匹敵する存在になったの?」
「らしいわね。騒ぎを聞いてここに来る道中、ミララースの適合者が……確か煌輝って名前の人よね?アルバトリオンの適合者と戦ってる際に焔の一部を心臓に浴びてね……彩菜と裕也が夜中に出てったのを見て只事じゃないと感じたの」
「裏で色々動いてたんだもんね美穂は……なんかうれしいよ私。やっぱり美穂とは幼馴染みだって街の為に行動してるわけだしどっかで通じてるのかな?」
「かもね。それでどうやってあいつを倒す、彩菜?」
「あいつの放つ技に怪我の再生を遅らせる効果があるの……だから技を食らわないような速さで動いて大技を放つしかないわ。でも私のラ・ロは奴の攻撃を避けられる素早さは持ち合わせてない」
「待って彩菜。取り敢えず大技放てば奴を狩れる算段はあるのね?だったら私のミ・ルで互いの弱点を補える。私のミ・ルは速いけど、奴に結晶やられを無効化され主なダメージソースがないから……作戦が浮かんだわ。あなたのラ・ロの破壊力と私のミ・ルの俊敏さを合わせてあいつを倒しましょう」
「うん!」
勝機(希望)が見え、適合者として初めて幼馴染みと協力して戦うのに心が踊った。
別の場所では勝敗を決した戦いも既にあった。
深天祖雷は北浦亮との戦いで後天的に禁忌の力を手にした者が私に勝てるわけないと当初見くびっていたが、自分を上回る雷属性のエネルギーとジンオウガ種の素早さで翻弄し、大技を叩き込んだ。
追い詰められた彼女は能力で仲間の健太郎や恵美を操ろうとしたり、赤雷を落とし民間人を殺すと脅し人を盾に逃げようとしたが全て亮の膨大な雷属性のエネルギーに無効化され彼女は格下と馬鹿にした雷狼竜の雷の焼かれ塵1つ残らず倒されたのだ……。