暗くなった白咲町の公園で川本大輔は一人の学年が同じ生徒と話していた。
「それで、俺にお前の仇討ちを手伝ってくれってか、きひひひ!。」
「……頼む、あの女に睨みつけられて漏らしたなんて死ぬことよりも恥ずかしいんだ……!。だがあいつは急に強くなった…、理由は分からないが突然強くなりやがったんだ……だからあいつの弱い友人を狙う……。」
不良とは言え元々弱気な所があった大輔は、今の彩菜に敵いそうに無いことを悟っていた。
見下していた彩菜にあんなことをされ、ちっぽけながらもプライドは傷つき、かなり精神を病んでいた。
しかしそれじゃ、自分の鬱憤が晴れない。
なら……彩菜の友人を酷い目にあわせ奴の困る顔が見れれば……。
「なんとも情けねぇ理由だな。安心しな。楽しそうだしやってやんよ!。……だが俺の勾玉は攻撃範囲が広くて危険だからなぁ……。」
『多少、先公や生徒に死人が出ても覚悟しとけよぉ。』
満面の笑みで男は告げた。
本当に狂ってるとしか思えない。
この男は狂ってるという噂は聞いたことがあるが、本当のようだ。
「…あぁ…。なるべくあんたが他人をぶっ殺さないように俺は奴のダチを屋上に追い詰めるように努力はするさ……。」
「痛めつけたあと、そっから俺のモンスターに乗って一緒に脱出か。中々いい方法だな。本来なら御返しを求めてぇが、面白い作戦だからいいや!。」
「助かる。」
自分の仲間の蓮に協力を仰ぐ方法もあるが、こんな下らなく卑劣な作戦認めてくれないだろう。
何しろ蓮は……。
「決行日は8日後か、楽しみにしてるぜ、あー、待ち遠しい!。学校を火の海に変えてやろうやバゼルギウス!。」
『ウォォォォォォォン!!。』
不気味な鳴き声が深夜の町に響いた。
=====
昼休みの屋上、私は結子にラ・ロの現実改変を話した。
「それじゃあ、今の彩菜は、unknownの勾玉によって改変された世界に……居るってこと?。」
「うん、改変がなされる前、元々の私は力もなくて奴等になすがままにされる存在だったの。絶望した時1組の瑠奈ちゃんから貰ったラ・ロの勾玉で私は改変された世界でラ・ロから与えられた試練を乗り越えいじめが存在しない世界を作ることに決めたんだ。」
口を抑える結子。
簡単には信じられないだろうな。
「にわかには信じられない……。私達が当たり前のように持つ勾玉も彩菜の勾玉の能力の副産物だってね。」
けれど、と一言おいた。
「こっち(改変後)でも、彩菜はいじめ続けられてたのよ。藍を真莉がぶん投げたこととかあなたは驚いてるかも知れないけど、日常茶飯事に行われていたわ。」
……勾玉を手に入れた分、やはりいじめの中身が悪化してる。
結子は続ける。
「けど、あなたはその攻撃を防いだ。unknownの勾玉を持つ彩菜にとっては至極当然の行為だろうけど、私達はその行為に驚いたわ。そこから、少し不信感を持ったけど、あなたの説明で納得した……。」
信じるよ、と結子は私に手を伸ばした。
「ありがとう……。」
「やめて、友達だもの!。あなたへの罪悪感や不甲斐なさから私はあなたの試練に血を見る結果になろうと手伝うつもりよ。」
本当に頼もしい友人だ。
これからの試練にあたりどれだけ彼女の力を借りることになるか……。
心の中で、また感謝を述べた。
「で、次は誰を狩るの?。」
「この男……。」
私が提示した写真を見て、うぇぇ…こいつかぁ…。と重苦しく言葉を吐いた。
無理もないか、この男はクラスから法螺吹きと呼ばれ嫌われてるんだから。
峰嶋貴志……。あることないこと人の悪口を言いまわるのが趣味。そのせいでクラスからは男女問わず嫌われている。
イジメが始まってから私はこの男に散々悪口を言われた。
「ウザい顔で、中身も最悪ときたもんだ……。この嘘つき男をどう狩るの?。」
「毒には毒を……嘘つきには嘘を。貴志は自分の今までの行ないから自ら墓穴を掘るのよ。」
結子に作戦を話し、今日は解散した。
この嘘を長所と呼んでいいかは疑問だが、抑えの効かない長所は仇となる。
「さて、『駒』に今回は『餌』を加えるとするか。」
=====
翌日、この日は移動教室がある日だ。
一・二時間目は美術室で美術の授業。
全員、移動を終え予鈴もなって本鈴がなる直前一人の生徒が困惑の顔を浮かべていた。
「あれ……私の絵具がない。」
渋谷真央、彩菜の虐めを始めた元凶の一角。
探す真央に、親友でクラス内、他クラスの一部からも支持されるほどの権力を持つ結城真莉が声をかけた。
「持ち帰ったんじゃなくて?。」
「宿題でもないのにンなわけねーじゃん!。」
二人のやり取りを見て、誰かに罪を擦り付けようと思ったのか、不愉快な笑みを浮かべながら、ホラ吹き男の口が開いた。
「彩菜がどっかに隠したんじゃねーの?。」
「……勝手なことを言わないでもらいたいわね。」
無表情だが一切臆することなく、自分が隠したと妄言する男の顔を冷徹に見返した。
とある生徒はこの光景を見て恐怖し恥ずべき記憶を思いだしていた。
だが恐怖したの彼だけではなく一部を除いてクラス全員だ。
「ひっ、……だ、だってお前最近は言って無かったけどよく真央の悪口を言ってたじゃねぇか!。なぁ!。直人も聞いたよな!。」
貴志が指定した直人という生徒は、内心、俺に振るなよ!と思ったが、貴志の言葉に頷いた。
「……彩菜、優人の絵具とってきて、行きたくないなら他の奴指命したって構わねぇけど。」
最早彩菜はあの弱い彩菜じゃない……。
雰囲気が変わったおかげか、真央も珍しく弱気な発言だ。
「ちょっと、聞いてたら人の友達を泥棒扱いして!。行くこと無いよ彩菜!。」
恵美が声を荒げたが、結子が抑え、唇に人さし指をおくジェスチャーをした。
「大丈夫よ。行ってくるわ。」
彼女は美術室を出ていった。
彩菜がいなくなった後、ホラ吹きが、ザマーミロと虚勢を張るも誰も賛同しなかった。
3時間目が始まり、体操着に着替え終わり恵美を待つ彩菜と結子に恵美はプンスカと怒りながら声をかけた。
「彩菜!。あんな奴等の言うこと聞くことないじゃん!……結子も、何故止めたの?。」
作戦だからと二人は口を揃え、恵美にもその作戦の全貌を伝えた。
「なるほど!。そういうことだったんだね!。」
「物理の時間に奴の全てが終わる……。それまで私達は運動を楽しめばいいのよ。」
「そゆことね。」
仮にあの場で真央が誰を指命したって私がいくつもりだったわよ。
3時間目体育の授業の途中二人の生徒がぶつかった。
「きゃっ!!。」
「だ……大丈夫……!。……の、野村さん……。」
ぶつかったのは野村藍と吉永翔太だ。
倒れて中々起き上がれない藍を体育の教師が保健室に連れ込んだ。
「おい……大丈夫かよあれ……。」
クラスで正義感が強い亮は心配そうに見ていた。
かなり音がしたのだ。
「ったく。鈍臭い女だな!。……そういやさぁ。あいつはこの前も……。」
貴志は持参の水筒に口をつけながら、心配するどころか嫌味ったらしく藍を馬鹿にした。
ある3人が自分を笑いながら見ているのに知るよしもない。
物理の授業が楽しみね。
4時間目、物理の時間になったが、このクラスには2人の生徒が居ない。
「全員席についたな、今日の実験は…」
「先生、野村藍さんは先程体育の授業でアクシデントがあったため早退しました。あと峰嶋貴志君が急な腹痛だとかでトイレに行ってます。」
もう一人の学級委員山瀬裕也がいない生徒の説明を先生にする。
「なんだそれは……仕方のない奴だな。」
嘘くせー、と笑った男子生徒を一慶し藍と貴志がいない中授業が始まった。
「では、これで終わりとする。」
各々、疲れたー、午前中終わったー、と口々に3年3組に戻っていった。
戻ると一人で椅子に座り偉そうなホラ吹きの姿が……。
「よぉ!。今の今まで真面目にご苦労だな。一時間得したぜはははは!。」
「うっざ……。」
後は、昼休みとなるのだが、クラスから物が無くなってるとの声が相次いだ。
「私の財布がない!。」
「真莉もか!。俺の時計もないんだ!。」
「ちょ……!。私のもないんだけど……!。みんなも鞄を確認した方がいいわよ!。」
クラス中パニックである。
何がどうなっているのやら……貴志も自分の鞄を確認しようとしたが……。
「……なんで……開いて……!。」
閉じた自分の鞄が開いていてそこには……。
凡そ、クラスメイトが探してる物品が詰まっていた。
身体が硬直する……。
なんとかこの状況を打破したい……。
だが運命は彼を見放していた。
「盗難とか有り得ないんだけど!。」
不満をもらすクラスメイト達に、真莉は一つの提案を下す。
「みんな、教室から出ないで。今から一人一人鞄を確認してくわ。」
なんてことを……。
「確かにここで見つけた方がいいな。」
そうだ、腹が痛くなったと言って出れば……。
出口までほんの僅かなとこで、二人の女子が立ちはだかった。
「何処へ、いく気?。」
「トイレぐらい行って悪いのか……!。腹がまた痛くなってきたんだ……。」
「なんでトイレしに鞄を持ってくわけ?。あぁ!?。」
「ちょっと、その中身見せろ。」
やめろ!、ともめ事が起きた。
「男子こいつなんか隠してるよ!。」
亮が駆けつけた。
「おい、騒ぎはよせ!。貴志もやましくないのならさっさとーーー
「やめろぉ!!!。」
「な……んだよ……これ……。」
絶句した。
クラスメイト達のなくなった物が全部入ってたのだ。
「財布ここに!。」
「きっも……信じられない。」
「ここんとこの盗難もこのホラ吹きクソヤロウのせいなんじゃない?。」
「な、なにかの間違いだ……。俺はやってない。そ、そうだ!。彩菜がやったんだ!。」
認めぬ貴志に真莉がキレた。
「あのさぁ、確かに私は彩菜のことは嫌いよ。だからってね!。明確にあんたが犯人なこの状況を他人のせいにするほどガキじゃねぇんだよ!。」
「違う……俺じゃないんだぁぁぁぁぁ!。」
貴志は纏身して彩菜目掛けて飛びかかろうとした。
「こいつだ……。こいつがやったんだぁ!。」
纏身を見るにババコンガか。
「薄汚いあんたにピッタリね……。」
鋭い爪を翳し、うるせぇ!。クソ女ぁ!。と叫んだ直後にラ・ロの炎を纏った彩菜の全力のサマーソルトが顔面に突き刺さり教卓まで吹き飛び、気を失った。
「中々の怒りね……彩菜。」
「なんでもかんでも人のせいにするクズにはぴったりの洗礼だと思うけど……真莉。」
睨みつけるように互いを見る二人に誰も口を挟むものはいなかった。
ほどなくし、普段の雰囲気を取り戻したクラスは担任を呼び貴志は生徒指導室へ連れてかれた。
4人目の試練達成だ。
今回の試練を成し遂げるにあたり、彩菜は二人の生徒を使った。
一人は野村藍。
もう一人は吉永翔太だ。
藍は優人の時から自発的に協力を申し出て来たが、翔太の場合は彩菜が彼をこちらに取り込んだ。
2日前……。
翔太は他のクラスメイトの席から金品を物色していた。
彼の家は、両親が小さい時に事故で他界したため、祖母と妹2人の4人で細々と暮らしていた。
当然、祖母の年金だけでは生活出来ず、翔太自身バイトしてたがお金は足りない。
高校生のバイトなどたかが知れていた。
『盗るしかない』
彼はバレたら退学はまず避けられそうにないクラスメイトの金品やら物を盗む行為に手を染めた。
意外と他人に気付かれないようなので、ほぼ毎週繰り返していたが今日……とうとう彩菜に見つかってしまった。
光るスマホのフラッシュ。
自分の終わりを感じ、呆然と立ち尽くす……。
「あら、やめちゃうの?。こっちはここんとこの盗難はアンタの仕業だって知ってるわ。女子のポーチまで盗って……苦労を共にしてる妹へのプレゼントってわけ?。」
そんなことまで……。
「別にあなたを吊し上げようってわけじゃないのよ翔太。あなたに協力してほしいことがあるの……。最近の私は奴等に逆に警戒されて思うように動けないしね……どう?。しかもこれがうまくいけばアンタの罪を他人に擦り付けられる……協力してくれるかな?。」
選択の余地は最早なかった。
今朝、真央の絵具を隠したのは他ならぬ彩菜だ。
そこから予想通りだった。
貴志は自分に疑いをかけ、真央は嫌々ながらも彩菜を指名し、教室に戻った彩菜はいつも貴志が持参する水筒に下剤を混入、白咲高校は生徒の体調管理で体育の時間に水を飲むことを許される。
貴志はそこで飲んだ。
藍と翔太がぶつかったのもわざとだ。
保健室で早退許可をもらった藍は教室に戻ったあとすぐには帰らず、『貴志の鞄』に『クラスメイトの物品』をいれ帰宅した。
あとはご覧の通りだ。
仮に、貴志が嘘つきでなければ、まだ藍も疑われたかもしれない……。
だが慢性的な嘘は、いざというときいくら真実を訴えても信じられはしないのだ。
バゼルギウスのフン(空襲)もなかなかウザいですよね。