破軍学園近くには、全国に展開している(群馬と香川以外)ショッピングモールがある。まあ東京ドーム十個分の広さを誇る破軍学園なので、何らかの店と隣接しているのは当然といえば当然なのだが。
破軍学園に住めばショッピングには困らない、とは誰の言葉だったか。そんな自傷気味な言葉が、留年生たちの間で広まっているくらいだ。
そんなところに、普段は特訓しかしないような男子生徒……黒鉄一輝は遊びに来ていた。
というのも、今年同級生になった妹、黒鉄珠雫とその友人有栖院凪。そしてどういう因果か、同じ部屋になってしまったヴァーミリオン国の皇女、ステラ・ヴァーミリオンとの親睦を含めたお出かけなのだ。
性別だけならばダブルデートと言っても良いだろうが、どうも三人から貞操を狙われているような気がしていた。そして今は、女子三人(一人おなべ)のガールズトークの真っ最中であり、クレープやおしゃれといったものに無頓着な一輝は少し疎外感を感じていたのだ。
(まあ、仲がいいに越したことは無いか)
人見知りから人間嫌いへランクアップしていた妹に、その身分と力のせいで若干クラスで浮いている感がある同居人。その二人が、新たに出来た共通の友人と親睦を深めている。きっと素晴らしいことなのだろう。
これで一輝も話題には入れたら良いのだが、甘いものにあまり興味がないので━━というより趣味というものが鍛錬ぐらいしかないので、入れない状態なのだ。
「はぁ……資金調達ですか? 今時んなことしなくても、十分稼げるですよ。それともなんです? 洗浄が面倒ですか? ったく、これだからチンピラは……。いや、なんでよりによってそこにしたですか。馬鹿ですか」
「お肉……食べたいわ、柔らかくて臭みのある雑食性のお肉を……食べたい……」
「ザクロでも食べててくださいです。……脱出の手伝い? こっちはしっかりブツそっちに流通して、ちゃんと報酬渡してるですよ。そこまで手伝う義理は━━支払いが無しになる? 別にこっちは構わないですよ? あんたんとこの大切なもんが、電子レンジでパンってなっても。大切な家族や友人がゴミみたいに死んでも構わないってんなら良いんですけど」
「ザクロと同じ味って言ったやつ私絶対許さないわ、どこが一緒なのよどこが。心臓抉り取って食べるわよ。ってか私にかまいなさいよ食べるわよ」
「ここ奢ってやるから待つですよ。……そうそう、最初から素直にしてればいいですよ。私とあなた方は無関係、ワンナイトフレンズです。ですです、それじゃいつも通り、スイス銀行で。ご利用ありがとうございましたです」
……何やら不穏な会話が背後から聞こえてきたが、一輝は全力で他人のフリをしておくことにした。
たかが一介の学生が関わってはいけないような雰囲気がムンムンしたからである。
一輝はおとなしく、注文したパフェを食べる。四種のブレンドチーズと特性ピリ辛ピザソースのかかったおかず系クレープ。甘いのに合うのかと疑惑があったが、意外とイケる。
そんな新発見をしていると、ふと見知った顔が視界に入った。
自分がまきこんでしまったようで勝手に申し訳なく感じているが、同じランクというので勝手にシンパシーも感じてしまっている、去年━━というより、留年を通達された今年になってできた初めての友達。。
「やっほやっほ一輝くん、留年報告ぶり~」
へにゃりとした笑みを浮かべながらやってきたのは、闇のように黒く長い髪をポニーテールにしてまとめている、どことなく焦点の合わない眼をした、たった一人の同じ待遇生。
どこで買ったのかコスプレ感全開のセーラー服を着た、何も考えていないような笑顔を浮かべた、唯一一輝が技を盗めなかった相手。
「あはは……僕としてはあまり思い出したくないんだけどなぁ……」
「まあまあ良いじゃないか、一緒に酒飲んで慰め合った仲じゃあないか。われらFランク同盟、生まれし日、時は違えども……何だっけ? まあいいや、飲むか一輝くん!!」
「げっ」
「イッキ、珠雫、この人知り合い?」
「珠雫の様子からして……あまり良い人ではない感じかしら?」
ステラが首を傾げ、方や久しぶりの友人との再会に喜ぶ笑顔を浮かべ、方や心底嫌そうな表情を浮かべている黒鉄家に尋ねた。
黒鉄一輝としては、彼のことは知っている。だがなぜ人嫌いで、少し前まで人見知りだった珠雫までもが知っているのか。
「……なんでここにいるんですか、
「……もしかして君、珠雫ちゃん? うわっ懐かしい! 大きくなったねぇ!! 飴ちゃん食べる?」
「大阪のオバちゃんですかあなたは」
「君と俺なら結構いい線イケると思うんだけどなぁ、レッドカーペット2回戦ぐらいには」
「一人でスベってください」
「一輝くんこの子辛辣!! ところで一輝くぅんなになにダブルデート? 羨ましいねぇ、こっちは全然春なんか来ないってのに。気温だけだよ春が来たのは。ああそうそう魔王あるんだけど飲んでみるかい? というか飲もうぜぃ飲もうぜぃ人数分用意すんの頑張っちゃうよおじさん!!」
「残念、あたしはオカマよ」
「となると一輝くんハーレム? 股間の一刀修羅すぎませんかねぇ巨乳に貧乳に男ってこりゃもう残りはふたなりぶっこむしかねえなぁ一輝くぅんところで綾辻絢瀬さんにちんこ生やしたら凄く似合うと思わな」
「死ねっ!」
「OKOK落ち着け珠雫ちゃん腕はそっちの方にゃ曲がらないだだだだだ!? 一輝くん助けてこのバイオレンスジャック妹ちゃん止めてというか! ゴスロリ幼女にプロレス技かけられるとか!! ご褒美でしかないと思ってた時期が僕にもありました!! りゃめぇそっちには曲がらにゃいのおおおおおおおっ!!!!」
「……ねえ、この人は誰なの? 一輝とどういう関係? 随分と、仲良さそうだけど」
阿吽の呼吸、というより叩けば響くというムードメーカーっぷりを発揮し合っている二人を見て、ステラが一輝に尋ねた。
なぜか、若干拗ねた風に。
そんな様子のステラに、一輝と珠雫は首をかしげる。
そして、しばらくしてから、一輝ではなく珠雫が、ステラからの質問に答えた。
「ああ、この馬鹿ですか。これは黒鉄家と付き合いのある……分家ではなくて、父の知り合い? 昔から黒鉄家と腐れ縁で繋がる運命、という感じの赤錆家の長男です」
「えっ、崩くん
「えっこの人女性じゃないの!?」
「あっはは、実はそうだったのだよ一輝くん。あと女性に言われると嬉しいなぁ、やっぱり僕が一番かわいいんだね! 技かけられている僕も可愛い!!」
もはや何を言っても暖簾に腕押し、糠に釘。あの黒鉄王馬を振り回した実績のある正真正銘の馬鹿には何をやっても無駄だと悟ったのか、珠雫は腕を開放した。
急に開放された崩はそのまま一輝の隣へ突っ込むように座る。
「まあ関わりあるって言っても魔力制御のレクチャーもやってないけどな、気軽に遊びに行って、気軽に遊んで、王馬くんの参考になりそうな漫画貸しまくってオタクに染めたって感じ」
そこで言葉を切り、黒鉄一輝の反応を見る。
王馬、黒鉄一輝の兄の名が出た瞬間、『友人として』興味を持っていたのが、『一人の騎士』としての興味に塗り替わった。
にやりと笑い、ウェイトレスに『ケミカルパフェ』を注文してから、珠雫に矛先を逸らす。
「さて、珠雫ちゃん。君の愛しのお兄様と恋敵とついでにオカマが僕の過去について知りたがっているみたいだから、話してあげなよ。僕も待ち合わせまで暇でさぁ」
「……はあ、仕方ないですね。まあ、こいつは放っておけば謎を無駄に残して消えるようなヤツですから。━━話しましょう、あの『悪夢の元旦』を」
「……なぜホラーを語るような口調なのかしら」
◆
━━あれは、いつも通りの元旦。お兄様の姿が無く、分家の人間が手柄話を自慢するような、退屈な元旦でした。
一家だけ……赤錆家だけはどういう訳か、伐刀者でもないのに雑談だけで分家と打ち解け合うという、ある種いつも通りの正月でした。
「どうよかわいいっしょ? かわいいっしょこれ? ふはははは崇めろ称えろぉ! 伐刀者ランクFでも可愛さランクAだゾッ☆ エロいだろぉ、ロリコンになってもいいんだぞぉショタコンになってもいいんだぞぉアハハハハ!! 五歳で抜いてもいいんだぞ!」
「うちの息子凄いでしょう、あれで素面なんですよ」
「「ちょっと待って」」
まだ本筋に入ってもいないというところで、ステラと一輝がストップをかけた。
その反応は予想していたのか、なんてことないように、甘いクレープに合わせたコーヒーで口を潤す。
「なんですか?」
「いや『なんですか?』じゃないわよ! 五歳児の口から出て良い言葉じゃないわよ!? というかどういう教育してんのよその家は!?」
「独学だよ。あの時はまだ河原の土手の下とかにエロ本が転がっててなぁ、当時は児ポルもゆるゆるでそういうのが……良い時代だった」
「僕としてはそれよりも崩くんがあの分家に受け入れられているのにショック受けてるんだけど……いや五歳の発言もインパクトあったんだけどさ」
「ほら、仕事と関係ない友人だから。なんかお父さんも結構あのおっちゃん振り回してたみたい」
「よくあそこから
「当時のブームはもっぱら女装男子×女の子だったからな」
「性癖ねじ曲がりすぎじゃない?」
やんややんやと騒ぐ四人を横目に、珠雫はコーヒーのおかわりをウェイトレスに注いでもらい、シュガースティックを二本入れてかき混ぜてから、口を開く。
「話続けましょうか?」
全員全く同じタイミングでうなずくのを見て、珠雫は小さく笑ってしまうのだった
まあそんな感じに娼婦もドン引きなくらいに愛想振りまいていたんですが、全く反応しないのが一人、王馬兄さんがいました。
ちょうど、王馬兄さんがいつも通り━━まあいつもと違い、この日は龍馬おじいちゃんの近くで瞑想していて、当然ですが一目すらおいてませんでした。
それを面白く思わなかったのかこの馬鹿の思考は読めなかったですが、崩がおもむろに王馬兄さんへと話しかけました。
「寝てるん?」
「いんや、こいつは瞑想してるんさ。こういう日くらい修行やらんでも良いだろうになぁ」
「ふぅん……なんで修行するん?」
「そりゃあ、強くなるためだろうよ。こいつはそういうヤツだからな、なあ厳」
「ああ、伐刀者としてあるべき姿だと私は思う。あの子とは違い、しっかりと自分の道を理解している。君も……うん、公序良俗に違反しない程度に、自分の道を進みなさい」
「マジかよアイドルのてっぺん目指すわ」
「……君は何を目指しているんだ?」
「……なんだろ?」
この日から毎年父の困惑顔を見るのが正月の日課になりましたが、まあこれはどうでもいいので割愛します。
この後父と祖父からお年玉を貰ったり、この馬鹿がキャピキャピ踊ったりしたんですが、まあ関係ないので割愛します。
悪夢の始まりは、……あの曲なんでしたっけ。そうそう、ピンクレディーのS・O・Sを踊り切った辺りで起きました。
「なあ黒鉄のおっちゃん、伐刀者なったら酒飲めるってほんとなん?」
「まあ本当だが……君にはまだ早い。仮に君が伐刀者だったとしても、飲ませるわけにはいかないよ」
「あっはははは! なあ王馬くん、声聞こえてるよね!? 真に強い者って酒にも強くないといけないと思わない!? ねえ爺さん!!」
「うむ一理ある!」
「お父さん悪乗りはやめてください、王馬にもまだ早いです!」
「つう訳で飲み比べしようぜぃ!! 酒持ってこいオラァ!!」
「「イエス・マイエンジェル!!」」
いつの間にか魅了されていた分家が崩の指パッチンと共に、王馬兄さんとこの馬鹿の周りに酒を並べ始めました。
父はそれを止めようとしていましたが、悪酔いした祖父に羽交い絞めにされて……。
しかもその時、王馬兄さんは強いという単語にとにかく反応する時期だったようで、この挑戦を受けてしまったのです。
「良いだろう」
「いや良くないぞ王馬! お前に酒はまだ早い!!」
「まあまあ良いではないか良いではないか、人間だってファミコン性能のロケットで宇宙に行ったんじゃから。このくらい無礼講無礼講!」
「父さんも悪乗りしないでください!!」
「ルールは単純だぜぃ兄ちゃん、酒を十瓶飲んだ後に幻想形態でバトル!! 真に強い人間はぁ、べろんべろんに酔っぱらってても戦える人間だぜぃ!!」
「ふん、俺の限界を試すか……面白い!!」
父の必死の説得も届かず、ビール瓶を一気に飲み始める二人。
二本、三本、五本と次々と空になっていき、二人同時に七本目を飲み干した辺りで、お酒がなくなりました。
二人とも顔は真っ赤、千鳥の方がまだしっかり立てるんじゃないかという状態。あきらかに戦えるというか、立つのも心配になるくらいに酔っぱらっていました。
「表へ行くろぉ……むりゃしゃまぁっ!!」
「ぐっ、このくらい……龍爪!!」
互いに霊装を杖替わりにしてなんとか立っているという状態、まだ剣を握りたての子供の方がマシな構えでした。
ふらっふらの状態で王馬兄さんが剣を振るいますが、それを崩が受け止めます。
いくら酔っぱらってても力の差は歴然、王馬兄さんが覆いかぶさる形で、つばぜり合いの状態になります。はた目から見たら重なり合って寝ているようにしか見えませんでしたが。
「ふっ、クククク……やはり、酔ってたとしても、俺は強い! 酒は……これから強くなれば……うえっ気持ち悪い」
ああやっぱり駄目だったか、と思った瞬間、王馬兄さんの下から妙に媚びた声がしました。
「アハッアハハッアハハハハハッ!! これまでが作戦通りよ、くらえ我がマル秘奥義!! 『
「んぎにゃあああああ眼がぁ!! 眼が熱いっ!?」
何が起きたかは、一目見ただけで分かってしまいました。
この馬鹿、王馬兄さんの目にゲロぶっかけたのです。
「アッハハハハ!! どうだ、辛党の胃で様々な唐辛子やらが混ざり合った結果、魔力防御すら無意味となる防御無効の攻撃は!? 欠点は歯を溶かすって程度よアッハハハハおろろろろろ」
「くっそあのじじいどこ行った!?」
気が付くとおじいちゃんは姿を消していて、お父さんが鬼のような表情でおじいちゃんを探していました。
怒り狂うお父さんとげろ吐く女装馬鹿と、目を抑えて地面を転がりまくっている王馬兄さん……なんというか、もう、言葉が出ませんでしたね。今でも出ません。
その日以来、我が家では、絶対に未成年にお酒を飲まさないようにするというのを、ダイヤモンドより硬く徹底するようになりました。
「━━というのがありましたけど、……皆さん凄い表情ですね」
「なんというか……うん、酷い」
「日本人ちょっとパンクすぎない?」
「ステラちゃん、違うからね。この人はただの危ない人代表よ?」
「というかあの時の龍馬爺さんそういう経緯か……現実知りたくなかった」
それぞれが崩の過去にドン引きし、一人の青年の夢が壊されているさなか、崩は人工着色料がふんだんに使われたパフェを貪り食っていた。
「……なんというか、私の人間嫌いはあなたのせいな気がしてきましたね」
「気のせいでしょ。……んむ、んじゃ僕ぁもうそろそろ約束の時間なんでドロンさせてもらうよ。んじゃね~」
ひらひら~、と手を振り、崩は人ごみの中へ消えていく。
時計を見ると、映画の上映時間が近づいているころ合いだった。
「それじゃあ、私たちもそろそろ行きましょうか」
「へっぶし」
ステラがクレープを食べようとした瞬間にくしゃみをしてしまい、盛大に顔に生クリームをつけてしまうことになった。
サンタクロースのひげのように生クリームをつけたステラは、一輝の方を見つめる。
「……鼻に直接クリームが入ってどちゃくそシュガーラッシュだわ」
「と、とりあえずタオル貰ってくるね」
「お願いイッキ、あと花粉は許さない」
R-18な理由? 出てくるオリキャラが私の趣味全開で作ったからよ!