『なあ、どっちが勝つと思う?』
『Aランクのヴァーミリオンの可能性もあるけど……パワーは金剛山の方に軍配が上がるかな』
『いやでも総合的に強いヴァーミリオンさんの方が若干有利じゃねえ?』
『でもFランクに負けたからなぁ……』
『さあ張った張った! 一世一代の大勝負、こいつぁ親を質に入れてでも見たい試合だ! 勝つのは紅蓮の皇女かはたまた核の腕か!!』
『ビールにお茶~、弁当はいかがっすか~』
『やっぱ皇女だけあって実戦経験無いんだろうな……金剛山はどっかの国で大佐やってたり上院議員やっててもおかしくないと思わせる説得力がある』
『上院議員って戦闘系の職業じゃねーだろ!?』
『とりあえず確実なのは、これの後にやる試合絶対盛り上がらないってことだな』
第三闘技場、直径百メートルほどの
他のアリーナとは違い、観客席に空きは見られず、噂の皇女とやらがどれほどのものか見極めんとする者や、どちらが勝つか生徒に賭けさせる者、売り子として食べ物や飲み物を売り歩く者までいた。
『さあやってまいりました、七星剣武祭破軍学園予選大会! 我こそはと死をも恐れぬ荒武者達が、闘技場で闘志をぶつけ合っております! そして強きものに惹かれるのは伐刀者の性なのか、それともいずれ立ちふさがる壁の実力を見極めるがための敵情視察なのか。栄えある第一回戦を飾るのは、武器も道理もねじ伏せて、原始の闘争を復活させんと目論むマッスルモンスター。現代日本に蘇った筋肉ある知性は、果たしてドラゴンの鱗を穿つのか!? はたまた西洋国からやってきた才能という原石を努力という砥石で研ぎ澄ませた、現代に蘇ったアーサー王。母国ヴァーミリオンの期待を背負い、現世に蘇りし勇者がわれらが筋肉モンスターを屠るのか。実況は私、放送部部長にして陸上プロレス実況アマチュア検定二級を持つ月夜見がお送りいたします。そして解説は、可愛く強い最強幼女、
『どもどもー、ってかなんだプロレス実況検定て』
『国家資格ですよ?』
『国家資格なのそれ!?』
三十メートルの距離を離し、ステラ・ヴァーミリオンは第一回戦の相手━━金剛山春と対峙する。
三十メートル、その距離はかなりのものだというのに、相手は妙に大きく感じられた。とはいえ、試合直前に目に入った情報によると金剛山の身長は196㎝もあるらしい。
ステラもたいがい高い方だとは自負していたのだが、まさか上には上がいるとは思わなかった。というか筋肉凄い。
『さあさあ果たして勝つのは西の王女か東の暴帝か、お互いに霊装を展開してください!』!
放送席から流れる漫才じみたやり取りに、ステラは軽く苦笑する。
そして同時に、嬉しかった。自分のことを才能だけの伐刀者ではなく、努力して上り詰めた一人の少女だと認めてくれたことに。
少女に対する登場文句は、おおよそ少女━━というか女の子に着けるようなものではなかったが。
「ふっ、まさか所詮から貴様とはなぁ骨の
「なんでロシア語? ……まあいいわ。あんたとは骨を分かち合った仲間だけど……今だけは、敵同士よ!」
同時、互いの手元に魔力が集中し、自らが持つ武器のイメージを型に、霊装を具現化させる。
観客は一部頭に疑問符を浮かべていたが、そのような小さな疑問も、この熱狂の中に溶けていった。
「正々堂々行くわよ、
「グハハハハハ!! 闘争を楽しもうか、
ステラの手元に、陽炎に揺らめきながら大型の剣が現れる。
対して金剛山の霊装は、巨大な鎖だった。
それはさながら注連縄を思わせるような、巨大な環から構成されたそれは、もはやムチとして扱うというより、大型漁船の錨を繋ぐのに使うのを思わせる程だ。
それが、金剛山の両脇に、とぐろを巻く大蛇のように、ステラの命を狙っている。
『それでは、試合開始!』
開始と同時、ステラの脇腹目掛けて鎖が撓る。
ステラ・ヴァーミイロンは紙一重で剣の腹で受け止めるが、半歩たたらを踏んでしまう。
(うそっ、アタシがのけぞった!?)
「まずは小手調べだ!!」
闘牛が如き勢いで床を破壊しながら、金剛山がのけぞったステラへと突っ込んでくる。
しかし、隙が生まれたとはいえ所詮は半歩。すぐに体制を持ち直し、ステラもまた、真正面から迎え撃つ。
ステラの袈裟斬りが、鎖を巻いた金剛山の拳とぶつかり合う。
パワーは互角、両者踏み込み、無理やり相手の勢いを殺す。
衝撃に耐えきれずに床に亀裂が入り、二人を中心にクレーターが作られる!
『しかしこれ、一回戦から実質クライマックスじゃない? ステラちゃんはまあみんな知っての通りAランク騎士、対して金剛山は━━ああ、ステラちゃん敵の情報を調べない疑似実戦主義だっけまあ魔力量で言うとステラちゃんの圧倒だけど、金剛山は……うん、正直私超えてるところあるからなぁ……パワーだけなら』
『あの筋肉ヤバいですよね、噂によると純粋な力のみで崖を砕くくらいのパワーなら魔力補助無しで出せるそうですし』
『私でも魔力無しは無理だわ』
続く連撃。右ストレート、左ジャブのスパークリング。それに対しステラは剣で答える。
スピードは皇女が上、だが小回りと体勢を立て直す速さは金剛山の方がわずかに上回っている。
黒鉄一輝とは違い、攻撃に洗練された綺麗さは無い。だが嵐のような荒々しさは、ある種の美しさがあった。
それは、ステラ・ヴァーミリオンの戦い方に似通っているからかもしれない。最も、さすがにここまで荒くはないが。
何度目かの剣と拳のぶつかり合い、衝撃によって砂になったコンクリートを巻き上げ、ステラの腕に突如として、鉛のような重さが現れた。
「極道十番勝負!」
「しまっ」
「龍王釣り!!」
金剛山の純粋なる馬鹿力による、鎖の一本背負い。
それによってステラは、背中で電気スタンドを破壊してしまうほど空中高く放り上げられた。
『出た! 金剛山が誇る極道十番勝負シリーズその七! 地獄深くの龍王すら強引に吊り上げるが如き力による空中投げ!! 一説によれば日本にある龍王山の幾つかは彼女によって投げ飛ばされてしまったという!!』
『うーん……仮にも教師としては、極道という技名を注意すべきなのか……でも無駄にシックリ着てるんだよなぁ』
大砲の如き速さで天井に叩き込まれたステラは、魔力補助によるものか、それとも足にロケットでもついているのか。狂暴なグリズリーのような女がせまってきていたので、急ぎ魔力放射で、自分の身体を天井に固定しているケーブルをぶち破り脱出。砂地となっている闘技場へと降り立つ。と同時に、天井で爆撃のような音が鳴り響き、破片が降り注ぐ。
「チッ、逃げたか!」
「何なのよあんた!」
天井に拳を突き刺し、見下ろす金剛山にステラは思わず叫ぶ。
日本の伐刀者は優秀だとは聞いていた。故に、武者修行としてこの日本にやってきた。どのくらい強い伐刀者がいるのか武者修行という名の、自分が傲慢になってしまうかもしれない国から逃げる為に。
だが、一歩外に出たらこれだ。あまりに規格外な化け物。それが、ミサイルのようにステラへと突っ込んでくる!!
「
これでは井の中の蛙ですらない、水槽の中で育てられた箱入り蛙ではないか。
そうではない、そんなことはない。確かにあの国では、努力すらも『才能』という一言で片づけられてしまった。それが嫌で逃げるように日本へやってきたが……ここまでの化け物が潜んでいるとは思わなかった。
故に、全力で答える。黒鉄一輝との試合とは違う、自分の『努力』も『才能』も込めた一撃。迎撃の赤いドラゴンを、金剛山に向けて放つ!
母国では誰も打け止められなかったそれを、金剛山は
「ハッハッ、熱いじゃないか!!」
こいつは、当然のように打ち消した!
重量+重力落下+魔力放射の究極落下速度による右ストレート、その威力にステラの放った技が打ち消されたのだ。
大砲のごとく突っ込んでくる金剛山の突撃、これを受けきることは……体重100㎏に加え闘技場の端から端まで届く鎖の重さ、そこに魔力放出による加速の暴力。
速度で言えば、黒鉄一輝には劣っている。だが、その不利を無理やり押し殺すようなパワーが相手では、今のステラでは受け止めきることは難しい。
故にステラがとった行動は、回避。少なくとも、自らの能力を制御し、称賛されるようになって初めて取った、魔力放出による急速回避。
金剛山の落下衝突により砂塵が砂漠のように舞い、雨のように露出した地面へと降り注ぐ。
普通の伐刀者であっても無事ではすまない速度で地面に落下したというのに、金剛山はまるで何事もないかのように立ち上がる。
「酷いなあ同士、私の抱擁を避けるなんてなぁ!」
「あんたのそれ止められる人いないから!!」
「ならば試してみるとしようか、貴様で!!」
離れた距離から振り下ろされる鎖は、さながら神によって振り下ろされる裁きのよう。シルクロードすらも粉塵に帰すような一撃をステラは、
ステラが全身全霊を防御に傾け、それでも尚衝撃までは殺せない。ボロボロになった天井が多量の鉄骨をあられのように降らす。
のしかかる衝撃、これほどの一撃を受け止められたことを、ステラ自身すら信じられない。そう思えるくらいの、重たい一撃だった。あまりの衝撃に鎖が、
金剛山の口が、獅子のような笑みを浮かべていた!!
「見事!! 冥土の土産だ、身体能力者のちょっとした応用を見せてやろう……ルオオオオオオオッ!!」
金剛山が鎖を握りしめ力を入れた直後、空気中の砂塵が何かによってはじけ、連鎖的に爆発を起こす。
不味い、そう思った直後ステラの両腕に途轍もない衝撃が走った。
「ギャアアアアアアアッ!!」
ステラの叫びと同時、金剛山の全身から漏れ出た電気が空中でスパークする。
通電とは、目に見えないものだ。そしてその速度は当然、今のステラの反応速度より速い!
『こっ、これはいったいなにが起こっているのか!? 身体強化能力者であるはずの金剛山選手の全身から、雷系能力者特有の放電が放たれている!? 先生、これは!?』
『おそらく能力によって細胞内と細胞外の電位差を活性化させ、無理やり電気を起こしているんだろうねー、MGS3の生体電気みたいな』
『い、いや理化の時間にそんなの習いましたけども……そんなの、そんなのって可能なんですか!?』
身体能力強化は、伐刀者の中でも弱い能力として知られている。それは体内の魔力を使えば、その能力による強化と同程度の力を出せるからだ。
だが、金剛山はその能力により自らを発電機とし、こうして攻撃に利用している。もし西京の言うことが本当であれば、それは身体強化能力者の地位が急激に上がるということに他ならない。
だが西京はその質問に対し、苦笑い交じりに答えた。
『実際にできているから不可能ではない……んだろうけどね……戦争は変わった』
『先生、これ戦争じゃないです』
細胞間の電位差による発電、現代技術では所詮豆電球をともすことしかできないようなもので苦しめられているという事実。
これはもはや、努力とか才能とか、そういうちゃちなものではない。進化、生物としての進化と言えるだろう。
「グハハハハハ! どうだ、ちょっとした手品は!!」
「なっ……めるんじゃ……」
だが、だったら、ステラは、旧世代の最高傑作であるステラは抗う! 腕にかけて痛々しくリヒテンベルク図形の痕が刻まれるが、そのようなことすら気にせず、
もはや技術ではなく、能力も使って、どのような手段を使ってでも勝とう。勝ちたい。心の底から、そう思える。相手が何もかもを利用して立ち向かってくるのならば、ステラも同じように立ち向かおう!
鎖を自ら腕に巻き付け、ピンと伸びるように引っ張った!
目的は脱出、ならば剣はむしろ邪魔となる!
「綱引きか!! 面白い!!」
照準は伸びた、あとは魔法を打ち込むだけ。
発動に2秒の時間がかかってしまう
もっと発動が早く、そして自分が最も使い慣れたもの。
「
照準は鎖がやる。後は、発動速度が最も早い魔法を放つ。
迫り来る龍の炎、それを金剛山は獰猛な笑みを浮かべ、左拳を大きく振りかぶって迎え撃つ。
ステラの放った炎と、金剛山の右ストレートが激突する。そしてビッグバンが如き衝撃を残し、金剛山が炎に飲み込まれた。
「はあ……はあ……った……!!」
『きっ、決まったぁー!! 日本全体を揺るがす衝撃のぶつかり合い、金剛山春VSステラ・ヴァーミリオン。勝者はステラ━━』
「素晴らしい才能だなぁ、ステラ・ヴァーミリオン!! それでこそ我が同士よ!!」
キン肉モリモリ、マッチョウーマンの変態だ。