side一夏
俺は軽い変装だけしていくことになった。特に用事がなければ声をかけられることは無いが、果たしてその変装は誰の為のものなのかはわからない。変装と言っても、伊達メガネをつけてマスクをつけて、フード付きの服を着てフードを被るだけ。
歩みを進め、電車に乗り、バスに乗り…幾らほど時間がかかったのか?最早俺にとっては永遠に等しい時間だったが、経過してしまえばあっという間。気づけば目の前にはIS学園……に繋がる道路の目の前だった。
「………どう、するか」
引き返すつもりは無いが、それはそうと直接行くのは足が動かない。俺は自分が自己中な人物のつもりはなかったが、改めて考えると随分と自分勝手な人間だったように思える。
「……いや…行くしかない、か」
ISを展開し、高く高く上がる。そうしてある程度の高さに飛んでから、IS学園の方へと向いて飛んでいく。目指すは校舎の屋上である。そうして飛んでいる時に気づいたが、校門前には銃を持った男が2人立っていた。一般人は近寄れないようになっているんだろう。
結果論でしかないが、どうやらこの行動は正解だったようだ。そう溜息をつきながら校舎に降り立ち、ISを腕装備のみ部分展開していた。
「……やっぱ鍵がかかってるか…仕方ない、ドアノブを壊して━━━」
…実力行使に出ようとした瞬間、ドアノブのロックが外れる音がした。この学校が見た目以上のハイテクなのは知ってたが…ドアノブ式にしてるのは何故だろうか。いや、今はそんなことは関係ないな。
俺は無言で扉の中へと入り、そのままある一点を目指す。勿論、生徒会室である。
「………?何か、静かだな」
てっきり、外と変わらない惨状だと思っていたけど…学園内は全くもって静かだった。教師どころか生徒もいない。本来ならいないだろうが、今ならいてもおかしくない筈の外部の人物さえ居ない。
てっきり廃墟化したのかという疑問が湧くほどに静かだったが、その割には校舎はかなり綺麗でゴミの一つも落ちていなかった。もちろん目に見える範囲だけなんだけど……
「…いや、今気にしてる場合じゃないか」
頭から切り捨てる。何かしらの異常事態だとしても、今の俺にそれを解決できるかどうかは分からない。仮にできるとしても、何が起きているかは分からない以上……取っ掛をつかみに行くしかない。
そう思いながら進んで行った先に……生徒会室はあった。俺は、ノックもせずに扉を開けて…部屋の中にいる人物に目を向ける。
「………ようこそ、
「簪……」
何やら言い方が引っかかる。けどそこに一々ツッコミを入れてたんじゃ、俺がここに来た意味は無い。俺は、挨拶もしないままに目を向けて言い放つ。
「…なんで、箒達を俺の家に送った?」
「…そうだね、あの子達が貴方を好きだったからだけど?」
「それをやる必要は?」
「必要性を問うなら…全くもってないよ。それが答え」
……?少し、違和感がある。俺の知ってる範囲では、彼女はもう少し大人しめの人物で…今は妙にハキハキしている気がする。声のトーンや、調子は最後に会った時と変わらないけど…雰囲気が妙に押しが強く感じていた。
「…お前、本当に簪か?」
「そうだよ…人は変わろうと思えば変われる…それが例え、真似っ子でもね」
「真似っ子って……」
「真似できるところからしてるんだよ……私の好きな人の、ね」
好きの意味を問うつもりは無い。そして、問うまでもなくその真似の対象の人物は直ぐに思い至った。俺と最後に戦った…『彼女』である。
「何のために」
「オドオドしてたんじゃ…私も『利用』されちゃうからね」
「利用…?誰に……」
「この『
「…どういう、事だよ」
意味がわからなかった。どこから聞けばいいのかわからないままに、俺は聞いてしまっていた。何の答えが返ってきても、理解も納得も俺は出来ないだろう。それを向こうも理解しているのか、少し間が空いてから説明を始めていた。
「……IS学園は、解体されたよ」
「解体…!?」
「そう、だって既に力を持つことは女には基本禁じられてるんだから。けどここの施設は十分に使えると踏んだ世界は、ここを研究機関にした」
「じゃ、じゃあ生徒は…?」
「当然退学扱い……今は『元』寮室で静かに暮らしてるよ……あぁ、うん。元って着けた理由だけど…寮のあったエリアは『歓楽街』って名前で今は憩いの場になったよ……勿論、研究員達のね」
それが意味することは、俺にもわかる。無知では無い。使われているのだ、生徒達も。けど逆らうことは出来ない。ルールか、力かは分からないけど従わざるを得ないんだろう。
「…話を戻すけど、研究機関となったこの学園はISの研究をこれからすることになる」
「…ISの、研究?」
「ブラックボックスになってるところを研究するのは前提、それ以降で何に役立つかをこれから調査していく…って感じかな」
説明されて、理解はできる。調査し、研究し、推測し、そして繋げていく。それくらいの理屈でなら俺も理解出来る。だがそうなると、『最初の言葉』が理解できない。
「…俺は、何に対しての人類最初だ?」
「勿論…本当の
「…
既にそうされているから、察しが着いた。こいつらの流す噂は、多分世界にとって都合のいいものなのだろう。内容までは分からないけど、内容だけなら
「そう…
「……それで作り方がブラックボックス化してしまったから、研究する…と」
「そういう事」
「…束さんを解放して、聞けばいいんじゃないのか」
「無理かな、篠ノ之束はもう『終わって』るし…」
死んでいるという事にするのだろう。俺は間違いなく見た、最後の戦い…束さんがあそこにいたのを俺は見ている。その時意識はなかったが、あのまま死んだとは到底思えない。だが解放したくないとしても、死んでる扱いはその内無理が出そうな気がするが…
「…一つ言うとね。終わってるって言うのは死んでるって事じゃない。むしろそれならどれだけマシだっただろうね」
「……?」
「まず1つ…篠ノ之束は自分に何かあった時のために、自分のクローン施設を作ってた。意識だけ移せるようにね…そこは五十冬が確保してた。
2つ目、五十冬の経験もあって人の意識や知能を完全に機械に移せる技術が生み出された。この経験で、前述のクローン施設の設備に篠ノ之束の知識そのものを移した。
3つ目、最後の戦いで篠ノ之束は復活した五十冬…文音の功績で筋肉量と知能指数を一般人より少し下くらいに落とされた。今までわかったことが分からず、動けてたのに動けない……惨めな存在になったんだよね」
「……それ、で?」
「既に天才はいない、超人もいない。残ったのは使い道のある体とそれを持った多数のクローンだけ……意識は、コピーしてクローンに移せるようになった…これもカリオストロのおかげだね。
つまり…本当の意味で篠ノ之束は『物』になった。1家に1台…なんて言い方は野暮だけど、欲しい人には安価で流せるようになる流通品になった。施設が壊れない限り、篠ノ之束は存在的に死ぬ事が許されず…一生肉道具として使い回されるだけになった…って事」
絶句した。あの人は確かに少し性格的に宜しくない所があったかもしれない。しかしそこまでされるほどのことではない。少なくとも俺はそう思っていた。開発者ではなく使用する人間が問題である、みたいな言葉があった気がするが…それが頭の中に通っていた。
「なんで…そこまでして……」
「……無邪気で悪意は無くとも、そうまでされる人間だから…かな?」
「そんな訳…!」
「あるよ、少なくとも明確に…彼女は人間社会をぐちゃぐちゃにした。白騎士事件も筆頭にそれはもう……ね」
白騎士事件、世界中から放たれたミサイルをIS白騎士が全て破壊したという話。その際に世界中のコンピューターがハッキングされてミサイルが放たれたという話だが……
「それは……」
「
否定は出来なかった。白騎士事件、ISの仕様、束さんの性格…他にも色々あるが…客観的に見なくとも、身内に近い為に甘い判定を下す俺でさえも…束さんの行為は善悪の判断でいえば間違いなく悪だからだ。けど、それでも。
「人が、人をそこまでしていいわけが無い…!」
「法が機能しないのに?」
「ッ…」
「女尊男卑は、男も女も不幸にする。男尊女卑がいいと言われればそれは違うけれど、ISという存在が…人をおかしくした。なら、おかしくされ返しても文句は言えない」
俺が無知なのは分かっている。女尊男卑という概念は、ここ1~2年でできた概念というわけでは無い。既に俺達の世代でその概念は浸透しきっていて、当世代の様なギスギスしてるような関係性はなかったからだ。
「法は平等だけど、それを駆使する人には感情があるの。女尊男卑が始まった時は…今よりかはマシとはいえ、それでも酷いものだった。蔑み、嘲笑い、無実の事で非難された」
「けど、それは昔の話だ…少なくとも、俺達がIS学園に入る頃には…!」
「ずっとそんな負の感情が続くわけが無い。5年も『異常』が続けばそれは『常識』に成り代わる。感情の関係性は改善されるけど、立場は改善されない……実際、無意識下で今の女学生なんて大半男を地位が下だと思ってた筈だよ」
「そんな訳━━━!」
「セシリア・オルコットは父親に負の感情を抱いていた」
「ッ…!」
俺の言葉をさえぎって、簪は色々と羅列していった。セシリアの父親嫌い、楯無元会長は俺を基本的に振り回していた。鬼村…いや、高村文音は兄が殺されて相手の女性は無罪になった……それ以外にも、色々。簪がその全てを知ってるという訳では無いが、少なくとも俺達の周りで起こっていたであろう事をある程度。
「…まぁ、負の感情を抱いてるのは1部でも…格下と思いつつも好意的な感情を抱くことは有り得るけどね…ペットとか」
「…俺がペットかわいがりみたいなもんだった、と?」
「実際、そうじゃない?人権あった?この学校で」
当たり前だ、と俺は思っている。けど恐らく簪は客観的な話をしているんだろう。簪好意的な感情を抱かれてる、と思う程驕ってはいない。その簪から言われているのだから、傍から見たら相当酷かったのだろう。
「友愛的な好意を向けていたクラスメイトも、恋愛的な目で見ていた幼馴染も、家族愛として見ていた家族も…全員貴方の事を見下してる」
「…箒達や、千冬姉もそうだって言うのか?」
「そうだよ?まぁ、正確には他愛も無い話で聞いただけだけど…」
俺の視点から見れば、そうとは思えなかった。だがそう見えたというのなら、わざわざそこを否定する気は無い。平行線になるだろうし。
「…で?結局ここへは何をしに来たの?」
「……最初の質問を、聞きに来ただけだ。『箒達を送ってきた理由』を聞きに」
「そ……止めないんだ?私の事…どれだけ高性能機を使っても、きっと貴方には勝つことは出来ない……その筈なのに」
「戦いに来たわけじゃない…それに、ここで倒したとしても何も変わらない…もう世界は動いてる」
「そうだね……じゃあ、どうする?もう、あなたの居場所はここには無いよ」
「お前の居場所も、ここじゃないだろ」
「ふふ……私は居場所を探すんじゃないよ…
誰の、とは言わない。きっと帰ってくるのを待っているのだろう。けど彼女がどこで何をしているかなんて、把握出来ているのだろうか。
「…何年かかっても見つけるよ。死んでたら、死体でも遺骨でも…探し出す」
「…見つけられる環境で、い続けられるのか?」
かなり外道な質問だろう。この狂ってしまった世界で、彼女はこのままでいられるつもりなのか。恐らく、いられるつもりなのだろう。何がなんでも、という話なのだろう。
「そのつもりだよ…」
「なら、もう俺は何も言えない。何を言っても…」
「そう、平行線…………で、貴方はどうするの?」
「…終わらせるよ、この世界を」
「………へぇ?」
彼女からは想像つかない様な、圧を感じる笑みがそこにはあった。だが終わらせると言っても、自暴自棄になった訳じゃない。一つ一つ、是正していくつもりだ。
「家族や、親しい人が…皆酷い目に遭わされてるのに…元凶に復讐しようと思わないんだ?」
「やったらやり返される……それが、ずっと続くだけだ。確かに…すげぇ怒りたいよ。けど、
簪の眉がピクりと動く。張り付いていた笑みが消え去って、俺を睨みつけていた。『上から目線で何を語っているのか』とでも言いたいのだろうか。
「……バカに、してるの?彼女を…」
「しないさ、だが俺は俺のやり方をするってだけだ」
「…何で、そう思ったの?」
「…目が覚めて、確かに真っ黒な気持ちになったさ。箒達は壊れてて、世界はこんなんになってて…俺は都合のいい英雄に祀り上げられた。けど…こうやって話してて思ったんだ━━━」
このまま俺が逃げ続けて惰性の生活を送れば、鬼村達が勝った事になる。負けるのが嫌なわけじゃない。ISという武器で、女性達は1度男達にやり返した。それが今の世界。
そして高村文音という少女の復讐に、世界中の男達が乗っかって…やり返した。恐らくこの世界をこのまま放置するのは…また、どこかでやり返しが起きてしまうのだ。それは━━━
「━━━駄目なんだよ、やって、やり返して…やり返される…それの連鎖を止めないのは」
「…男尊女卑と言われた時代から、徐々に男女平等に移り変わり…ISの存在で一気に女尊男卑に傾いた…そこから、戻すと?」
「あぁ…男だの女だの…そんな話は、もうおしまいだ。地道にでも、俺はやっていく」
「……そ、なら頑張ってよ。もしあの子がまだ復讐を望んでたら、私はそれを手伝うよ…きっと、本格的に潰すよ」
「構わない、受けて立つ」
そう言って、俺は踵を返す。きっと、かなり長い戦いになるだろう。それでも俺は、この目標を達成しようと何がなんでも動くだろう。考えがあるわけじゃない、けど動くのだ。たった一つの思い…『このまま終わる訳にはいかない』と思ったのだから。
.
side?
織斑一夏が帰った部屋でたった一人、簪は天井を仰ぎ見ていた。織斑一夏の言葉は彼女に不快感をもたらしていたからだ。だがその不快感は、彼女からはもう抜けている。
「…世界は、男尊女卑を通り越した。それを是正するつもりなら、きっと世界が貴方に牙を剥く。それでもやっていく覚悟があるのなら…やってみるといいよ…何年…いや、何十年かかるかは分からないけれど…ちょっとでもどちらかに傾かせようとすれば…文音の様な人物が絶対に生まれる。それを叶える
不可能だと思ってしまった以上、既に彼女からしてみれば織斑一夏という存在は道化だった。ならば結末を見て、嘲笑ってやろう。自分ですら下品と思える感情を胸にしまいながら、彼女は自らの大切な人を探す作業に戻るのであった。
織斑一夏編終了です。
彼は復讐を認めた上で俺はそれをしない、したくないスタンスにしました。
簪は鬼村五十冬という存在に依存してます。
後書くタイミングないのでここで出しますが、生まれ変わった学園の研究スタッフ達は用済みになったら簪を襲う気満々です。使わせて貰えない姉と一緒に襲う気満々です。それをわかってない簪ではありません。
五十冬の見た目
-
黒髪ロング、胸はない
-
黒髪で肩までの長さ、胸はない
-
茶髪ロング、胸はない
-
茶髪で肩までの長さ、胸はない
-
なんでもいいけど眼鏡が欲しい