キャノンボール・ファスト。所謂ISを使った『何でもありレース』のようなものなのだが、どうやらその当日は織斑一夏の誕生日だったようだ。いや、それに関してはどうでもいい……問題はその日にまたもや問題が起こると、スコールから嬉しそうに連絡が届いたことだった。
「絶対差し向けたな…」
なんてことを呟きながら、私は織斑一夏の元へと急ぐ。私が知っている限り、向かったのは恐らくMだろう。Mの生まれは特別だ…特別、そしてその出自故に……織斑一夏のことを心底憎んでいる。
それ故に、機会さえあればあの女は織斑一夏をできる限り殺そうとするだろう。しかも、1人でいるところを徹底的に狙うのも分かりきっている。
「……確か、この辺だったっけ」
久しぶりに来た織斑一夏の家。しかしどうやら誕生日会の真っ只中なのか、中から騒がしい声が聞こえてくる。いっぱい女の子を侍らせて、随分と楽しそうだ。
「……」
『━━━お兄ちゃん!ロウソク消そうよ!』
『そうだな、今日はお前の誕生日なんだ』
『プレゼントもあるからね〜』
ふと思い出される記憶。二度と戻ってくることの無い生活、戻ってくることがないだけで……こうして続くこともある。その対象が、私達ではないだけ。
女尊男卑に取り残された私たちは、この幸せを享受出来ない。まるで、自分のスマホでアップデートで使えなくなったアプリの様に 。
「……おっと…」
物陰に息を潜める。織斑一夏が外に出てきた。私の存在がバレたのか、はたまた全然違う理由なのか…困惑していた私だったが、どうやら後者だったようでそのまま近くの自販機まで移動する。私もそれについて行く。
ついて行った矢先で……
「━━━ち、千冬姉…!?」
「いや……
Mの素顔、それは少女のような顔つきをした織斑千冬のそれだった。しかし、その性格やその他諸々は全然違うものである。だが、そんな事はどうでもいい……やつは拳銃を取りだした。
「私は……織斑マドカだ」
そして、その一言と共に発砲……届く前に、銃弾は私の体に突き刺さる。鉄の腕なので、突き刺さったなんて大袈裟な表現はいらないのだが。
「貴様……」
「…え……鬼村…!?」
「何のつもりだ、何故その男をかばう」
「……なぜ?今何故って言った?」
銃弾による痛みを感じながらも、私はM……マドカを睨む。別に織斑一夏を守りたかった訳では無い。守りたかったのは、自分…そして今回に関してはマドカも救っているのだ。
「こんな所で織斑一夏を殺してみろ、織斑千冬に殺されるぞ」
「それはお前だけだ。私の犯行にはならない……それに、私からしてみれば不要なものを守っているお前の方が、殺される身分だがな」
「……じゃあ何?今から私達で殺し合いでもしてみる?」
私は腕に収納されてあるナイフを取り出す。銃の方がやばいかもしれないけど、私が銃弾の弾なんぞで殺せるとでも思ってるのだろうか?無駄に硬いんだぞこの体。
「鬼村…お前……」
「この事、織斑千冬には喋らない方がいいよ。知ってるかいないかはともかく……な」
「守るのか?織斑一夏を」
「私の相手目標はあくまでも篠ノ之束、けどそのための不安要素はなるべく潰さないといけない」
「そうか……なら、死ね!!」
銃を私に向かって投げ捨てる。ヤケになったのではない、これはよくある常套手段……意識を一瞬銃に逸らさせた上で、本命の行為を行う方法。
「そんな方法…」
効かないと分かっているだろう。私達はあくまでも組織の人間だ、だからこそ…その行為でどう予測するかが肝心となる。私は拳銃を弾き飛ばして、逆にナイフを投げ返す。だが━━━
「やっぱり逃げた……」
「鬼村……」
姿も気配も、夜の闇へと消えていった。織斑一夏は私に声をかける、時間もあるし余裕もある……残念なことに私はこいつのことを理解しているので、そのまま通報はしないだろう。
「……親切で俺を守ってくれたって訳じゃ…無さそうだな」
「まぁね、偶然だよ……それと貴方はちょっと甘いよね」
「……甘い?」
「今ここで私を通報してもいいんだよ?まぁ、私は簡単には捕まる気は無いけど」
「……」
「……何?」
「……なぁ、復讐したとして…その先には━━━」
「何も無いよ、何も無い。私がそれを一番理解してるし、だからと言って辞める気もない」
もうこれは、私自身の問題なのだ。篠ノ之束に復讐を果たしたとして、その先に待つのが死なのかはたまた虚無なのかはわからないけど……でも、もう止まらないのだ。止めることなんて、出来ないのだ。
「分かってても、やるのか?」
「やるよ?やらない訳ないじゃん……それと、今私を止めようとするのはやめておいた方がいいよ」
「……」
お互い、ISのエネルギーが尽きてる。これ以上はどうしようもないのだが、仮に織斑一夏が戦闘を望むのだったら…私はそれに応えよう。まぁ、彼が勝てるかは分からないが。
「一夏!!」
「ラウラ!?」
「ちょ、まじか…街中で不意打ちISは洒落にならん…!」
ISを展開したラウラが、私に向かってくる。流石に、学園に私がいなかったらそれなりに逆らう気力でも湧いてくるのだろうか。いや、単純に惚れてる男は守るだけなんだろう。その際に、自分がどうなっても構わないと思っているようだし。
「くっ…!」
もう一本、忍ばせてたナイフを織斑一夏に向かって投げる。殺すつもりは無い、せいぜい当たったら腹に突き刺さる程度だ。だが、私はそのナイフが突き刺さるわけがないと確信している。
「動くな一夏!!」
「っ…!」
「今の内…!」
そのまま、私は暗がりへと走らせて姿を消す。どうせ、投げたナイフはラウラのAICによって止められているだろう。一方向だけとはいえ、物体の動きを止めることが出来るあの力が強力なのは私も理解している。
「……逃げられたか」
「ありがとう、ラウラ…助かったよ」
「いや、いい……妙に戻るのが遅かったからな…探しに来たのだ。こっちに私が来て良かった……さぁ、早く戻るぞ」
「はぁ……」
というか、誕生日会を行えるくらいにはまだ信用は残ってたみたいだ。いや、もしかしたら噂話で出た嘘だと見破られたのだろうか。マライアに、後で報告しておかないとね。
「あの女子たちを完全に引き剥がせて、ようやく私は織斑一夏に手を出せるんだから……」
その為に、私がやる事は……そこまで考えてから目の前に誰かが立っていた。視線を少し動かすと、そこには…更識簪がいた。
「簪ちゃん、どったの」
「……貴方、今日ISに襲われたの?」
「ん、まぁそんな所……」
「倒したの?」
「倒したし、一応回収済み……どうするの?」
「……装備、外して私のISの物にするから」
「いいよ、別に。私のカリオストロにはもうコピーし終わってるし」
立ち止まりながら、私達は会話をする。何故ここに彼女がいるのか定かではないが、私はそこまで気にしていなかった。もし彼女が私を殺そうとしているなら、既に行っていないとおかしい筈だからだ。
「……打鉄弐式でいいんだっけ?名前」
「…当初はそうするつもりだった、でも……それだけじゃ、ダメだと思った」
ふと、私は何かを感じとった。更識簪特有のオーラと言うべきか、嫉妬と羨望に加えて、自身の卑屈さが混じった…何と言うか、黒いオーラのようなものを感じとった。
「……簪ちゃんさ、一言いい?」
「…?」
「自分の姉が出来ることに、自分が出来ると思わない方がいいよ…けど、逆に一人で出来る人だからこそしない事を、した方がいいと思う」
「一人で出来る人だからこそ、しない事…?」
「一人でISを組みたてた人は、『皆』で組み立てていない。だから、皆で…簪ちゃんに協力してくれる人全員で…作った方がいいよ」
「でも、私は……」
「1人で作ったものは、そりゃあ強いよ。だって自分が使いやすいのを理解してるからね。自分のことを理解してるから、1人で作れるんだ」
なぜ励ましてるのかわからないけど、でも励まさないといけないような気がした。自分でも理解できない行為だが、簪ちゃんには頑張って欲しいと思ってるのだろうか。
「でもさ、皆で作ったら意見の出し合いと折り合いなんかがぶつかってよりいいものになるはずなんだよ。それに関しては、生徒会長相手ならまず間違いなくそう言える」
「……お姉ちゃんよりいいものが出来るって、どうしてそう思うの?」
「だって、私がいた時とかマライアから話聞いてる限り……あの人は人の話聞かないでしょ」
「……」
「聞かない、って訳じゃないかな?どっちかと言うと『聞こうとしない』かもね。どっちにしろ…1人でなんもできるから、皆でやるよりいいなんてことは、絶対にない」
「私でも、お姉ちゃんに勝てる?」
「勝つように、ISを組めばいいよ。私もマライアも手伝うしね……」
素質はあるのだ。更識楯無がおかしいだけで、更識簪という少女も十分な天才である。しかし、天才だからと言って周りに頼らない方法というのは無謀である。あの更識楯無でさえ、生徒会という組織に属している。となれば、更識楯無でも全てを1人で行うこと不可能ということになってしまう。
「……いいの?」
「私達も手伝ってもらってるしね、その分のお返しだと考えてくれていいよ」
「……分かった、じゃあ…お願い」
「任された任された」
そうして、私は離れていく。更識簪が作るIS、打鉄弐式……元々はそれが名前であり、打鉄を超えるための弐式という付けた名前もある。それが、さらに上へと高みへと昇っていく。
「……近い内、IS学園で下克上起きそうだね」
その高みへと昇ったISが、一体どういった面白おかしいことを産むのか。直接目で見れないのは残念だが、その光景はいずれ目にしたいところである。
side?
「皆で…」
更識簪は、呟いていた。初めてできた友人とも言えそうな存在。励まされたのであろう、先程言われた言葉を胸に反芻させながら、帰路に着く。
「かーんちゃん」
「っ!?」
そこで、目の前に現れる布仏本音。彼女に親しくしてくれる彼女だが、姉のスパイなのではないかと…簪は彼女を遠ざけていた。そんなことは全くないのだが、曇った考えではその真実にも届かない。
「……何」
「……どこ行ってたの?」
「私の、自由でしょ…」
「……いけないこと、するのは私よくないと思うなぁ」
「……貴方には、分からないよ。私の気持ちも…あの子の気持ちも……この虚しさは……」
すぐ横を、簪は通り過ぎる。本音は、少しだけ悲しそうな表情を浮かべるが…どうしようもない。彼女がやろうとしていることが、どのようなことであっても、自分では止められないと理解してしまったのだ。
「虚しさ……」
運命は、一刻と動いていく。何が起ころうとも、何がなくなろうとも。その運命の平等さに、抗うことは不可能となる。運命は、もっと変わり果てていくのだ。
その先に、何があろうとも……少女達は動き続けるしか、無いのである。
五十冬の見た目
-
黒髪ロング、胸はない
-
黒髪で肩までの長さ、胸はない
-
茶髪ロング、胸はない
-
茶髪で肩までの長さ、胸はない
-
なんでもいいけど眼鏡が欲しい