篠ノ之箒が攫われた。その事実が、IS学園内で様々な印象を与えていた。例えば、今回の件でほとんど関係の無い2年と3年。『またIS学園が襲われた』ということしか思い至らなかった。
IS学園がここまで狙われている、その事実とISのパイロットというさらに貴重な存在という2つの理由だけで篠ノ之箒がさらわれるのには十分な理由となる。何せ、あの篠ノ之束の妹なのだから。
無論、中心にいた1年の専用機持ち……織斑一夏、セシリア・オルコット、鬼村五十冬の3人はすぐにでも助けようと必死だった。
そして、IS学園内生徒会……メンバーの全員がテロ組織『亡国機業』に属しているという前代未聞の生徒会。彼女達は、また厄介事が起こったという印象しかなかった。
そもそも1年間の間でここまで問題が起こり始めたのは、織斑一夏という存在がIS学園に入ったから。そして、織斑一夏は篠ノ之束と身近な関係である。つまり、篠ノ之束のせいで起こっていると言われても仕方ないのだ。あの狂人は、身近な人物ですら玩具にするというのは知る人ぞ知る事実である。
「……助けに行く算段、整ってないのにいくつもり?」
「俺は1人でも箒を助けに行く、邪魔はしないでくれ 」
「邪魔はしない、けどもう少しだけ待って欲しい」
簪が織斑一夏を止めている。現在、篠ノ之箒はバイタルサインだけ表示されている状態であり、どこにいるかも分からないという状況だ。
けれど、織斑一夏……正確には白式だけが篠ノ之箒の紅椿のサインを追えていた。明らかに罠であり、そしてこれを仕組んだのが誰なのかも容易に想像できる。
「何でだよ!!」
「……相手は稀代の天才、篠ノ之束。彼女が紅椿に何かしら細工をしている可能性は否定できない」
「だから……なんだって言うんだ」
「幾ら白式が進化したからって……調子に乗ってるといたい目に遭う、よ」
「っ……」
簪の台詞が届いたのか、一夏は悔しそうに拳を握るだけだった。力があっても、万能ではないのは彼も理解している事である。
「……チームを編成する、あの量産型に対する……チーム編成」
side?
篠ノ之箒が攫われた後の事。IS学園とは別の場所で、問題は起こっていた。
「あ、あんたは……!?」
「んっんー……声は良好、体も問題なし……いいねこの体……使いやすくて実にいい感じ」
そこには、ボロボロの満身創痍と言わんばかりの格好の大人がいた。名を篝火ヒカルノ……白式を作りあげた倉持技研の人物であり、エクスカリバーの事件の際にはO.V.E.R.S.を提供した人物でもある。
そんな彼女の目の前に、黒いモヤが人型となって現れていた。
「さてさてさーて……篝火ヒカルノさん、あんた……何を作りあげた?」
「そ、それは……」
「量産型IS、さっき見た感じそうだろうね? けど黙ってつくりあげてる……名前は緋蜂? へぇカッコイイね? 量産型の紅椿なんでしょう?」
「そこまで知って……」
「いや今調べた。この体さ、物調べるのにとっても便利でねぇ……」
そう言いながら、モヤはまるで後ろを振り向くように顔らしき部分を動かしていた。その視線の先には、また別の人物が立っていた。
「こんな便利な体、どうしてみんな変えないのか不思議だけど分かる? 化け物博士」
「んー、今の君に化け物だなんて言われたくないなぁ!」
「し、篠ノ之束……!?」
「はーい! みんな大好き束さんだよー!」
篠ノ之束、今回の事件の黒幕と言っても過言ではないだろう。そんな彼女が、今ここに立っている。その事実がヒカルノを震え上がらせていた。
「……犯人は犯行現場に戻るとはよく言ったけど、まさか本当だったとはね? 化物が戻ってきたみたい」
「……化物化物って言うけどさぁ? この世界、私みたいな化物じゃないとまともにステージに立てないんだぜ?」
普段、糸目と言われても過言ではない彼女の目。それが不気味に開かれていた。ヒカルノは怯え、モヤは自分が驚くくらいに冷静に立っていた。
「……ステージ?」
「そう! 私こと篠ノ之束! そして……織斑姉弟!」
「……姉弟?」
モヤは首を傾げていた。織斑千冬は、確かにバケモノじみた強さだ。しかし、織斑一夏が化物級だとはとても思えないし、別の分野でも化物らしい片鱗は見せていなかった。故に、疑問が出ているのだろう。
「まぁ……いっくんは私達みたいなタイプじゃあ……無いけどね」
「……何が言いたい?」
「話してあげよう! 人間を辞めてるそこの貴方に! 特別に! あなたの人生の最期に!!」
まるで劇の様に仰々しく彼女は両腕を広げてくるりくるりと回る。ただ、完全に目に入っていない篝火ヒカルノに向けて唐突に何かを投げる。
「がっ……」
「……目に入ってないと思ったら、いきなり麻酔弾投げつけるってほんとイカれてるね」
「ん? なんの事かな? 束さんわかんなーい!」
わざとらしく演技をする束に、モヤはため息をする仕草を取っていた。息をする機能が備わっている筈もないが、つい取ってしまったのだろう。
「……で、何を話すって?」
「んー? 私という天然と……織斑千冬という養殖と……織斑一夏っていう化物の話だよ? さ! 相応しい場所に移動しようか!! ナノマシン人間1号さん!」
「……」
その話は、だいぶ長くなりそうだと予感したモヤ。彼女にあった憂鬱さが、さらに憂鬱なものになっていきもはや面倒の領域にまで達していたが、しかし聞いておくべきなのかと……黙って篠ノ之束についていくのであった。
「……ここは……」
篠ノ之束のラボ、そこに彼女は案内されていた。そこで話される内容、一体どれほどのものなのか……それが彼女に取って利となるか損となるか……それはまだ分からない。
「さて、昔話をしよう!」
「……昔話?」
突然なんのことだと思ったが、しかしモヤはそれでも話を聞き続ける。気まぐれか、興味か……それとも彼女の中にある殺意がそうさせたのか。
「昔昔、ある所に……とある研究所がありました! その研究所の研究内容は『人工的に人を超える力を持った究極の人間を生み出す事』でした」
「……」
「そうして、その研究の甲斐あって……1人の人外が産まれました!」
「……それが織斑千冬、って事?」
「そう! 正解! ……で、その究極の成功例の実験……織斑計画。ちーちゃんが生まれたことで、その実験は続けられました。けど、とある理由によりその計画は頓挫してしまいました」
モヤの答えは2つ。1つは研究所が他のどこかから倫理的な理由により止められたこと。二つ目は、織斑千冬が反逆したこと。しかし、篠ノ之束の答えはそのどちらとも違っていた。
「正解はただ1つ、束さんが発見されたからさ! 元々究極の人間を作るための計画だったのに、天然でそれが発見されてしまったら……前提そのものが覆る」
要するに、篠ノ之束の登場により人類のスペックの限界が引き上げられた、という事だろう。だが、そんな話がどうかしたのか……ということになる。
「けどね、その時点で……束さんがでてた次点で成功例2人と番外個体1人……生まれてたんだよね」
「うち1人が織斑一夏、うち1人が……エム……織斑マドカか」
「正解! じゃあ、問題……なんでいっくんは殺されなかったと思う?」
織斑一夏が殺されなかった理由。生まれてしまった個体とはいえ、恐らく織斑千冬が守っていたのだろうかと、モヤは予測する。それもまた、違う答えだった。
「答えはね……簡単だよ、究極の遺伝子を持つ人間……それも男……要するに、種馬なんだよいっくんは。究極の存在を生み出すための種馬……」
「……種、馬……」
その答えは、モヤにどう刺さっているのか。篠ノ之束はニコニコと微笑みながらモヤがどう反応するのか楽しみにしながら……ただ待つのであった。
side■■■■■
「━━━ぷッ、はは、あははははははははははは!! はは、あはははは!! あー……ははっ……あー……で?」
「……ん?」
『つまらない』それが私の感想だった。何を言われるのかと思えば、ただただつまらない話とつまらないなぞに対するつまらない回答。
私の印象はたったそれだけだった。
「それで私が何か言うとでも?」
「『自分』が惚れていたかもしれない相手、でも今は嫌悪している相手……その姉も、実験動物さながらの研究生物……」
「……まぁ、うん。驚きはしたよ? それをなんで今、私に話したの?」
それが謎すぎた。今ここで話す内容ではないし、私に聞かせる内容でもない。何がしたいのかさっぱりわからなかった。
「言っただろ? 私達と同じステージに立たないといけないぜ? って」
「私が化物になったから話した……それだけ?」
「それだけだよ、話した理由は! まぁでも、連れてきた理由は……別だけど」
「別って……」
「
捲し立てるように説明口調な束に、段々とイラつきが募る私。明確に、さっさと説明しろとしか思っていなかった。
「織斑計画、それはこの私束さんが出たことで終わりを迎えた……けどせっかく作った究極の人類、織斑一夏を種馬として使うのが一つめの計画。じゃあもうひとつはなんだと思う?」
「……まさか、カリオストロが?」
「んー、正解であって正解じゃない! 正確には、後天的に究極にしていこうと考える計画の2種類になったのさ。けれど2つ目の計画は、並大抵のことでは成し遂げられなかった。それこそ、織斑計画そのものよりも難しい事だった」
遺伝子の操作、産まれる前から……それこそ胎児よりも前から究極という存在になれるようにする事は出来る。だが、既に完全な肉体を得ている人物を後天的に究極の人類として変換するのは難しすぎる事だった。
「だから私は、プレゼントしてあげたのさ……ISって存在を……ISのコアと人間を繋げられるISをね」
「……人間の脳がISのコアとつながって……無事生き続けていた人物だけが究極の存在たり得る、と」
それこそ私だ。いや、それ以降コアを新しく会得して……更にそれとすらも繋がった。それでもまだ生きていた。膨大なデータの塊を人間の脳一つで受け止めきって……それでも尚生きているのだ。
「そう! そして君は無事生き延びてる! 肉体こそ失ってるけどね! だから……だからこそ━━━」
そう言いながら、篠ノ之束は何かのスイッチを取り出す。ドクロマークまで書かれたそれは、見るからに危険しかないものだが……
「
ポチッと……篠ノ之束がスイッチを押した。瞬間、私は強制的に電源を落とされたパソコンの様に、意識を落としたのであった。
side?
「あー、すっきりした!」
目の前に、先程までのモヤの残骸……ナノマシンの塊が砂山のように積もっていた。篠ノ之束、彼女が押したスイッチは至極簡単な物である。『ISの機能停止スイッチ』だ。もちろん、全てを止めるものでは無い。範囲内の起動してるISを強制的に終わらせるスイッチである。
「さて……あっちの方も終わったかな?」
そう言いながら、束は楽しそうに歌いながら外へと飛び出す。どこかの空、どこかの海、どこかの蒼。それらを全て従えるかのように束はステップを踏む。先程までのことは全て忘却の彼方へと消えて、既に目の前の……本来の目的へとシフトしていた。
「時は来たれり、だよ。いっくん」
邪魔する者は誰一人として存在しない。織斑千冬でさえ雌へと沈んだ。織斑一夏は、彼女の敵ではない。もはや彼女の目的を妨げるものは誰一人として存在していなかった。
束の指が、宙を滑るように動いていく。そうした瞬間、ありとあらゆるISの稼働状況を知らせるウィンドウが360°に展開される。
「さぁ! 終わりの歌を!」
束が空へ腕をかざす。そうして、全ての蒼は紫へと落ちていく。そしてたった一言……束は放つ。
「IS『群咲』起動」
『コード・ヴァイオレット、発令』
その言葉、そしてウィンドウに表示されたたった一つの文。それがこの世界の全てにおける……終わりの始まり━━━
「ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤイ
タㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤダ
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤキ
マㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤス」
「……は?」
全てのウィンドウが、まるで虫に齧られたかのように無くなっていく。成長期の子供がものを際限なく食べるかのように、段々とウィンドウが消えていく。
ISが消えているのではない、このウィンドウを出している存在そのものが消えていっているのだ。
「━━━コードヴァイオレット? IS群咲? 知ったことかそんなもの!! あははは! 失敗作に全てを終わらせられる気分はどう!? 大方別の計画でもあったんだろうけど!! 私は無事! 生きてるよ!! なんでかって!? 確かにISのコアは停止したさ! けど私の意思は! ISの意思じゃない! そして私と一緒にいた『この子』も最早ISの意思という存在には収まらなくなってる!!」
「グァ……アグ……」
「全部全部無駄に返す! あんたの計画なんざ知ったことか! 台無しにしてあんたも終わらせる!! 残念だったな! あんたの気まぐれで作ったISカリオストロは!! 無事!!!! 新たな1個の命として君臨した!! あんたがカリオストロを緊急停止させてくれたおかげでこの子は生きようとした!」
「……そんな進化の仕方をするなん━━━━」
「あんたは喋るな!! あんたはもうステージに立つことすらない!! ここで、私に殺されるからだ!!」
「ムラ、サキ……おい、シイ……」
「物理的には殺さない! あんたの最も嫌な方法で……あんたを終わらせてあげるからさ!! この私と……カリオストロ……いや━━━」
『カリオストロ・ゼロが全てを終わらせる』
この一言が……篠ノ之束を既に遅いながらも理解させた。『彼女はさっさと殺すべきだったのだ』と。
出てないISの能力なんて知りようがないから、出番来ないまま終わらせるね。
ついでに次回はIS学園側からスタートだよ。
五十冬の見た目
-
黒髪ロング、胸はない
-
黒髪で肩までの長さ、胸はない
-
茶髪ロング、胸はない
-
茶髪で肩までの長さ、胸はない
-
なんでもいいけど眼鏡が欲しい