「隣に越して来た、
彼女はそう言って軽く頭を下げると、「これ、皆さんでお食べ下さい」と紙袋を差し出して来た。
「あら、これはご丁寧に」
雄二の母は珍しそうな表情で受け取ると、立ち話もなんですから、と彼女を家に招き入れた。
今日は週の半ば。木曜の、家によっては夕食の準備に取り掛かるだろうかという夕刻の時間帯だった。
「今日引っ越して来たんですか?」
「ええ――」
そんな二人の会話を眺めながら、息子の雄二は呼吸を荒くして、香山睡と名乗った女性をじっと見つめていた。
「み、ミッドナイトだ……」
スーツを着ていても、普通の眼鏡をかけていても、雄二には分かってしまった。
胸元の大きすぎる膨らみ、むっちりしたお尻の肉付き。そして何よりサドッ気たっぷりの顔立ち。ネットで動画を調べては、何度もオカズにしたあの18禁ヒーローである。
そんな人が隣に引っ越して来た。
雄二は歓喜と驚愕と幸せと、とにかく雄叫びをあげたくなるような感情で胸がいっぱいだった。
「こんにちは」
じっと彼女を観察していると、向こうの方から声を掛けてきた。
「え、あ……こ、こんにちは」
雄二は身体を硬直させながら、それでも何とか言葉を返すことが出来た。頭の中ではお祭り騒ぎだ。ありえない、ありえない事が現実に起きている。
彼女はにっこりと微笑むと、よしよしと頭を撫でて、そのまま母に案内されてリビングへと向かった。
雄二は大好きなヒーローに頭を撫でられた衝撃で、どうにかなりそうだった。
あのミッドナイトが。自分の頭を撫でてくれた。
嗚呼、ミッドナイト。ミッドナイト。
僕の女に。僕だけを見て、愛してくれる人に。
ミッドナイト、好きだ。
「……!!」
その瞬間、雄二の個性が発動した。
それは今の今まで無個性だと思われていた雄二の、能力だった。
しかし、雄二はおろか、彼女すらそのことに気がつかない。
雄二はただ、母がいるこの場所で何かやれば面倒と判断して、ズボンに入りきらないほど大きくなったペニスを抱えながら、二階に上がった。
明日にでもミッドナイトの家に向かおう。普通ならば追い返されるかもしれないが、何故かそうならない確信があった。
三十センチ近くになった巨根を扱きながら、雄二は自室にこもった。スマートフォンに保存したミッドナイトの動画を見つつ、ティッシュを何枚もゴミ箱に放り込む。
「ミッドナイト……はぁ、はぁ……」
ぶぴゅ、と何度目かもわからない射精が、部屋の中に飛び散った。
ーーーーーーー
今年で中学生になる雄二だが、毎年行われる身体検査のついでの検査では、例年通り無個性の判定を下されていた。
ここまでくると別段思うことなどない。同級生の友達はこの歳になっても未だ個性の発現を期待しているが、普通はここまで来たら諦めてしまうだろう。中には遅く個性が発現する例もあるらしいが、雄二は期待していなかった。
それより問題は身長だった。雄二はそっちの方がよっぽど心配だ。
背の順なら一番前。席替えでも背が低くて一番前。所謂ショタのあだ名で呼ばれる雄二は、身長だけはどうにかならないものかと日頃嘆いていた。
今日この日までは。
「え、私の家に……?」
「だめ、ですか……?」
上目遣いで、ミッドナイトを見上げる。
彼女の家、玄関先で、雄二はミッドナイトに対面していた。チャイムを鳴らして出てきたのは、私服に身を包んだ香山であった。
いつものコスチューム姿とは違い、昨日のスーツ姿とも違う。自分の体形を理解し、美しく見てもらおうと努力を惜しまない装い。休日故か化粧っ気こそないが、やはり美人だった。
「うーん……」
睡は顎に手を当てて悩む姿を見せた。どうやら昨日の母との会話で雄二が中学生だと教えられたらしい。
幾ら中学生といえども、男の子だ。独身女性の家にあげるのは如何なものか。親族でもないし。
そういった葛藤が彼女の中で行われていた。
「……いいわよ。でも面白いものなんてないからね?」
「うん……!」
結局、睡は雄二の容姿に油断した。
こんなに小さい子なら、問題なんて起きないだろうと、そう判断したのだ。
「……」
雄二は家に入ればこっちのものだと今から股間を盛り上がらせながら、睡のお尻を追ってリビングに。
間取りは殆ど自宅と変わらず、彼女の家も二階建てのごく普通の物だった。
リビングの中央には、ソファとテレビがあった。そこに座らされると、睡もまた隣に腰かけた。
「えっと……」
ここまで連れてきたのは良いけど、何をしよう。
そんな心の声が、彼女から聞こえてきた。
雄二もまたどうしようかと考えてみたが、あまり面白い話題はない。
「ミッドナイト……」
「え……?」
年上の女性と上手い会話なんて出来っこない。そんな考えと、大好きなミッドナイトの隣にいる緊張から、ついついそんな言葉が漏れた。
睡は聞き間違いかと目を見開いていたが、雄二の様子から何かを悟ったように頷いた。
「気がついてたんだ」
「えと……その、はい。一目見た時から」
「そんなに分かりやすかったかな?」
ヒーローとしてはバレた事よりも、あの姿からどれくらい見抜かれやすいのかが気になるらしい。
雄二はぶんぶんと首を振ってその言葉を否定した。無論、雄二からすれば瞬時にミッドナイトと判断出来るが、同じくヒーロー好きの母は気がついた様子もなかった。印象というものは、それほど簡単に塗り替えられるものではなく、テレビであれほど派手なコスチュームを着て戦う彼女と今の彼女では、関係など全くないように思えてしまうだろう。
「僕は、その、ミッドナイトが大好きなんです……」
ちょっぴり頬を染めて恥ずかしそうにそっぽを向いた。
ミッドナイトだと分かったのは、単純に彼女のことが好きで、何度も何度も動画を見返していたからだ。
オナニーを知った最近では、なおの事動画を凝視するようになった。戦闘中の乳の揺れ方、歩くたびに揺れるお尻の肉付き。それらを切り取った動画でも、秒単位で雄二はどのシーンか判断出来る。
そんな雄二だから、分かったのだ。
「嬉しいわ、ありがとう!」
睡は満面の笑みで頷くと、ぎゅっと抱きしめてきた。
わざとかどうかは知らないが、雄二の顔面に豊満な膨らみが当たる。
その瞬間、雄二の理性が弾けた。
今や金属のように硬くそそり立った、惜しげも無く彼女に押し付ける。
「え……!?」
もっこりとした膨らみに慌てて距離を取る睡だが、その時には何もかもが遅かった。
ガチガチに勃起した陰茎から、雄臭いフェロモンが放たれる。
「ミッドナイト、僕の物になってよ」
「──はい♡」
気がつくと、とろんとした目で、睡は雄二を見つめていた。
この瞬間から、香山睡は、
紛れもなく、彼の個性によって。