「ん……もう朝……」
カーテンの隙間から差し込んでくる光が目に入り、体を起こす。
昨夜は息子からの手紙を整理してるうちに寝落ちしてしまったようだ。
「はぁ……すっかり朝型に、私悪魔なのに」
元より日光は苦手なのだが以前人間たちと生活していたこと、今は半分人間で特に光を苦にしない息子との生活に合わせるためどんどん人間的に規則正しい生活習慣になってしまった。悪魔としてはどうなのかと思う。
寝起きでぼ~としながら手近にあった一枚の手紙を見る。差出人は息子で日付はつい最近、魔王ランスに関係する一連の騒動に関する事だった。
「終わったんだっけ……全部」
手紙だけでは実際の状況は思い浮かばないが、なんでもランスが魔王から解放され しかも魔王の元を倒した?らしい。
「よくわかんないし、も~いつ帰ってくるの~」
今は悪魔が発端の騒動を追いかけてるらしいけど、そんな慌てずに帰ってくればいいのに。
と思っていると玄関のドアがガンガンとノックされる。
「はぁ~、朝からうっさい……」
しかし息子から新しい手紙が来たのかもと思い寝起きの重い腰をあげて行ってみる。
念のため鍵穴から外を覗くとそこに茶髪でギザギザの歯をした戦士風の男が立っていた。
息子が帰って来たのだ。
「おかえり~! も~何やってたのよずっと旅して!」
「んぁ?……魔王をやってた…?」
「…は? ……え、はぁ!?」
そこにいたのは茶髪でギザギザ歯の戦士。 息子に、いや私の息子が似てるのか。 ともかくそこにいたのは…
「ラン、ス……」
「おう」
私をエリート悪魔から引きずり落とした鬼畜外道変態戦士で真の名を知られたご主人様、ランスだった。
「え……なんで?」
「いや たまたまここらに居るって聞いたから」
一発で目が覚めたが同時に混乱する。 何故? どうして? すると更にその後ろからピンクのもこもこ頭が出て来て挨拶してくる。
「あ、どうもお久しぶりです。フェリスさん」
「あ、シィルちゃん……でえええええええ!?」
故人まで出て来て状況が読み込めなくなったのか、頭がパンクする。あれ?今って何年の何月で何日だっけ……?
―――――――――――――――――
「………は!」
「お、起きた」
「おはようございますフェリスさん」
「まだいるぅぅぅぅぅぅ!!?」
パニックになる私に二人があーだこーだと現状を教えてくれる間にだんだん色々な事を思い出し、もう一度息子からの手紙を確認する。
魔王ランスが元の人間に戻り、魔王の元を倒し、シィルちゃんが生きてた、全部書いてある通りだ。
「ったく、やっと落ち着いたか」
「は、はぁ……それで何のご用で……」
「ランス様はフェリスさんが心配になって様子を見に来たんですよ~」
「やかましい!」
ランスがシィルちゃんの頭をぽかりと殴り付けシィルちゃんの口から「ひぃん」と悲鳴が出る。
本当に昔のままで何だか拍子抜けする。
「それで…ダークランスは?」
「知らん、放ってきた」
「何でよ! あなたの子供でしょ!」
ランスは居間のソファに腰掛けふんっと鼻を鳴らしお茶(私が淹れた)をズズズと啜る。
「もうガキじゃ無かったろ、自分で何とでもなる。俺様の息子なんだしな。」
「それはそうだけど……」
淹れて貰ったお茶に温いと文句を言ってシィルちゃんに淹れ直させるランス
「今あの子、ネプラカスって悪魔を追ってるの。覚えてる?一度悪魔回廊で戦った凄く強いやつ」
「あ~こないだぶっ殺した」
「神事変とかあってから色々状況が変わって心配で……今何か言った?」
ランスは新しく来たお茶をふーふーと冷ましながら目だけをこっちにチラっと向けてくる。
「だから、その何たらとかいうのはぶっ殺した。ダークランにも文句言われたぞ、因縁の敵だったのに~ってな」
バッ!と机の上の手紙をもう一度見る。長旅の道程や出来事等が色々書き列ねてあり、その魔王騒動の顛末の下にさらにこう書いてあった。
ネプラカスは死んだ、親父が倒した。
手紙の字とランスの顔を見比べる。息子が嘘をつくわけ無いし本当にあのネプラカスが死んだ?
「……本当に死んだんだ、あいつ」
「そう言ってるだろ 一撃だったわ、がははははは!」
怪しくなってシィルちゃんを見るが「本当ですよ~」と困った顔でにこにこしていた。
本人の弁は怪しいがシィルちゃんと、何より息子が言うなら本当なんだろう。そう思うと何だか力が抜けてきた。朝から凄い脱力感。
「……その」
「ん?」
「ありがとう。」
「……ふん」
昔、一度ネプラカスを撃退してくれたことがあった。
あの時はたまたま運が良かっただけだろうけど、私を気遣ってくれた事は知ってた。
こいつに関わってから色々酷い目にばかり会ってきたが、今になってやっとそれ以外の事を見る余裕が出来た。
「何か…俺様が思ってたよりずっと元気だな。もう治ったのか?恐怖症は」
「えっ…」
「はい、何だか最初の頃のフェリスさんみたいです。
その、ランス様のせいで最近はずっと元気が無かったので…」
「最近て……」
もう15年も前の事なのに。ああそっか、シィルちゃんにとっては最近になるのか。
「誰かさんが育児放棄してる間、放蕩息子を女手1つで育てたんですからね、少しはたくましくもなるわよ」
当て付けも何処吹く風で当の育児放棄元魔王はお茶を啜っている。
「じゃ、もうヤれるのか?」
「ぐ……」
やっぱり、正直考えないようにしてたけど無駄だったようだ。
「あのあの、ランス様 あんまり酷いことしたら…」
「うるさい」
「ひん!」
シィルちゃんを小突いて黙らせ、ソファの反対側座ってる私の前にずんずん歩いてくる。
「げ……」
「なんだ、お前が無理と言うからずっと待ったんだぞ
もう大丈夫なんだろ」
「それは~……」
いや、抵抗しても意味はない。真の名を知られた主従関係なのだ。
「ラ、ランス様~」
「うるさいぞ、空気を読め 宿でも探してこいシィル」
シィルちゃんに助けを求めようにもさっさと遠ざけられてしまった。
申し訳なさそうな顔をしていたが結局ランスに背を押され外に出ていってしまう。
二人っきりになるとランスはガンガンと詰め寄ってきた。
もうどうにでもなれ…。
「……ッ」
目をぎゅっと瞑ると頭に手が置かれて……それだけ?
「……?」
「本当に平気なのか?」
優しい手つきで頭を撫でられる。やっぱりこいつ何か変わった? 昔はずっと酷かったが、導く者から助けられて、再開した時から何か違う…?
「どっちなのだ」
「へ、へーきです…」
優しい手つきのまま頬を撫でられる。顎をくっと上げられ思わず目を見開く。
目の前にランスの顔がある。当たり前だが息子にそっくりで、いつもニヤニヤ下品な笑みを浮かべていたが今は何故か真面目な感じ。
「…いいんだな?」
「は、い……ん」
キスされた。そういえば前はあんまりしたこと無かったような…何か緊張する。
「ん……」
「……ぷは」
短い、そっと唇が触れるだけのキス。 やっぱり気遣ってくれてるようだ。昔のこいつからは想像も出来ない
「…まだいいか?」
「………んむ」
何も言わないでいると、肯定と受け取ったのかもう一度キスされる。今度はちゅっちゅと啄むようなバードキス。 思わず体に力が入るが、私の反応を見ながらしているのか時折止める。
「力抜け、次は少し舌いれるぞ」
「う、うん………ちゅ、んむ」
何かする前にイチイチ確認してくる。キスをすると舌が入ってきたが、あまり深いとこまでは来ず、唇を割り開いてくる程度。
キスしているとあやすように片手で頭を優しく撫でられる。 もう片方の手は安心させるように背中をポンポンと叩いてくる。
「ん……ちゅ…ふぅ」
ランスの口が音をたてて離れていく。ほんの数秒だったが口内で暖かくなった吐息が漏れる。
何か……緊張する。何この感じ……。
「次は本気でキスするぞ、嫌なら逃げろよ」
いや、逆らえないんですけど
「ん……ちゅ、ちゅる…んむぅ」(うぁ、舌入って来る)
恐怖なのか驚きなのか自分でもわからないが、未知の感覚に背筋がゾクゾクする。
ランスの暖かい舌に口内をまさぐられると強張っていた体から徐々に力が抜けていき、いつの間にか重なっているランスの手を思わずぎゅっと握ってしまった。
「……っと、大丈夫か?」
「あっ…は、はいぃ……」
な、何でこんな優しいのこいつ……昔はフセイの日に無理やり犯したりしてきたのに。 そのせいで子供が出来て、それから転がり落ちるように階級が下がって、思い出したら涙出てきた。
「お、おい……何泣いとる」
「何でもないです…グス」
少し慌てたみたいだがすぐ涙を指の腹で拭ってくる。
何か変な感じ…割れ物を扱うみたいに丁寧だ。ハニーはすぐ割るのに。
「まだ続けるぞ…いいな?」
「そんないちいち聞かないでも逆らわないわよ」
「ふん……ほら」
「あ……」
あっちも屈んでいるが、こっちが座ってるのでどうしても上を向かされる。
顎を持たれて舌を差し込まれると、さっきより遠慮無く舌が入って来たが、乱暴な事はなく歯や頬の裏を優しくなぞられる。
粘膜接触の刺激でどうしても体が反応する。ぴくんと肩が跳ねると空いた手優しくそこを叩かれる。
(な、何これ…)
まるで体が自分のものじゃない感じ、てゆーかこいつキスうま……。
「……んッ…れろ…れるる」
大人しくしていた私の舌にランスの舌が重なる。ねぶる様な事はせず、舌を舌で持ち上げて優しく絡んでくる。
「んん…ふっ、むぅ…ちゅる」
優しく舌を絡めているとだんだん頭に霧がかかってくる、何でこんな奴相手にこんな気分に…。
でも今さら嫌がれないし、あ~もう何でこんなことに。
「……んむ…ふ、どうだ涙が出るほど気持ちいいだろ」
「…はい、ご主人様のおっしゃる通りで……」
や、やっと終わった…。力入んないし、昔こいつに犯された時はこんなこと無かったのに。
「お前元カラーなのにクリスタル赤だしな、どうせ俺様以外に男知らんのだろ、がはははは!」
何て嫌みなヤツ、その通りだけど、でも…
「あんたに孕まされたせいで下級悪魔には犯されまくったんだけど」
「ぐっ……」
私が男恐怖症になった原因、そう言うと罰が悪そうに顔を背ける。やっぱりそこを気にして私に優しくして来るのだろうか。
「忘れろ、それはノーカンだ。俺様の様ないい男のみカウントしろ」
「だから、あんたしか知らないって…」
「じゃあ俺様は怖いか?」
「え……」
怖いんですけど。いや、でも今は何かもう…
「こわく、無い…かも」
「ならそれでいいのだー!」
「あ、ちょ……」
またキスをされる。もう何度目かのそれに緊張する事もなく、舌を絡め取られされるがままに身を任せる。
肩や手をさすられ口をつけたまま見つめ合う。
「ん……む…ちゅぅ……ちゅっ」
こいつ、前はもっと原始的な感じだったのに、こんな優しいキスできるんだ…。
てゆーかこいつのキス上手すぎてだんだん私の意識が……。
「……ふ…んちゅ…ん!」
あ、胸…。と思った時にはもう触られていた。
こっちも乱暴な事はせず、服の上から形を確かめるように撫でられるだけ。
乳房の下から布越しに撫でられ、むにゅうと掌で押される。そしたら自分の心音がランスの掌で跳ね返ってどくどくしているのがわかり、ちょっと体の熱が上がる。
いやらしい触られ方のはずだが優しくされて内心ちょっとホッとした。
そのまましばらく優しいキスと愛撫だけでゆったりする。
さっきまでは緊張とか不安で色々考えていたが、それらにぼーっと集中してランスの目を見ていたら何も浮かんでこなくなった。
「んぷ……あ……」
長いキスが終わって唇が離れると、唾液の糸でできた橋が朝日できらきらとしている。
「がははは、今の俺様にかかれば下僕悪魔の一人や二人キスだけでメロメロだ」
「……なってません」
「うそつけ、顔がうっとりしてるぞ」
う、…たぶんほんとにそうだと思う。恥ずかしくなって手で目元を隠す。
「フェリス」
「え、あっ……」
脱力した体をソファに横たえられる。上にランスがソファに膝をついてのしかかって来て、クッションの裏がギシっと軋む。
「いいな、本番までやるぞ」
「いや…その……」
何故か後頭部がカーと熱をもち、上手く言葉が出ない。
「何だ、ず~っと我慢したんだぞ、まだ無理なのか?」
「うぅ…そんな事は…」
どうせ主従関係なのだ、拒否権は無い。でも今のこいつなら言えば本当に嫌がればやめてくれるかも…。
でもそこまで嫌な感じじゃ無いような気も……。
「……ど、どうぞ」
「うむ、そーか では……」
ランスの手が私の服にのびる、時間がゆっくりになったように感じ、伸びてくる手から目が離せない。私は早鐘を打つ鼓動を自覚しながらじっとその時を待って…、ランスの手が私の服を掴んだ……。
「ふぅ~かーちゃんただいま~っと、……何してんだクソ親父」
ランスの手が私の服を掴んだ、という瞬間にガチャっとドアを開けて我が子が帰って来た。
「だ、ダークランス……」
私は身を起こすと少し乱れた衣服を正し、パッとソファの反対まで飛びしさる。
「チッ……空気の読めんガキだ」
「どの口が言うかクソ親父」
ランスもサッと私から離れるとマントを翻してつかつかと玄関まで移動する。
「かーちゃんの様子見に来たのか?」
「そんなわけ無かろう、たまたま寄っただけだ」
ドアを開けると一瞬私にちらりと視線を向けたがまたすぐ前を向く。
「今度は土産でも持ってきてやる。じゃあな」
「あ、おい!」
それだけ言うとランスはバタンと乱暴にドアを閉め外に出ていってしまった。
「はぁ、ったく……人騒がせな、人影が見えた時は誰かと思ったぜ」
「いつ帰って来たの?」
「ついさっき、あ~そーだ、かーちゃん前に手紙にも書いたがもうネプラカスは…」
「うん、あの人から聞いた」
「そっか。まぁやっとこさ色々片付いたな」
「そうね、色々…」
「つーかかーちゃんさっきの、まさか今さら親父のこと……」
「…やめて」
今は考えたくない話題を振られて話を切る。まだ旅の事で聞いてないものあるだろう、そっちの話題を求めて息子の土産話を訪ねようとしたら外からランスの声がした。
「む? 確か君は……」
「ぴゃっ! ご、ごご機嫌麗しゅうお、お義父様!」
「おーそうだダークランスのガールフレンドの子ではないか」
「か、彼女だなんてそんな!え~と、本日はお日柄も良く…じゃなくって…」
聞き覚えの無い単語が聞こえて思わず息子を見る。
「え、あんたのガールフレンド?そんな子いたの!?」
「いや、あいつはそういうのじゃ…あーややこしい事しやがってクソ親父」
「え! ちょっとお母さんも挨拶しないと!」
「あ、かーちゃんはちょっと! おいって!」
息子には私とは違っていい人を見つけて、普通の家庭で幸せになって…それが私の願い。
つい我慢できず勢い良く玄関のドアを開けて外に出る。
「どこ!?ランスどこ!? ダークランスのガールフレンド!」
「どこって、目の前に…」
「あ、あなたが息…子…の……」
ちょこんとした可愛らしい女の子がいた、目の前に、背中の羽をぱたぱたさせて……。
「ひゃ、ひゃい! おお、お初にお目にかかりますお義母様! わ、私はぬぬ、ヌークと」
「ぎゃーーーー!?!! 天使がいるーーー!!!」
「どわっ!」
「かーちゃん!?」
急なショックでばたーんと倒れる、その拍子に頭を地面に打ち、最後に慌てた息子とランスの顔を目にして視界がブラックアウトした―――――。
仲直りっクスも書きたくなってきた…
かなみちゃんと違ってガチ不幸だったけどランス魔王化で人間関係が色々途切れてからは一週して恵まれた方になったのでは?