ランスが魔王になってからもう10年以上は経っただろうか。私、魔人サテラは今日も魔王様のお側に侍っていた。
「………………」
「退屈ですか?、魔王様」
昔はあれだけ騒がしかった魔王様も、最近はめっきり笑わなくなってしまった。
魔王になってからしばらくはかつてのランスのまま、女を引っ掻けたり遊び歩いて毎日を過ごしていたが、一度破壊衝動に呑まれてからはずっと不機嫌な状態。
娘であるリセットのビンタで一時は楽になるようだが、結局また破壊衝動に苛まれている。
こんな堂々巡りを繰り返すくらいなら、もう完全に魔王になってしまった方がかえって楽なんじゃないだろうか。
「魔王様、配下の者から報告がありました、反魔王の過激派が進軍してきているようです」
「ホーネット様…」
そんな空気の淀んだ部屋に私の前主、ホーネット様が上告しにやってきた。
先の大戦であれだけ被害を出したのに、馬鹿な人類だ。
「まだ魔王様の力がわからないとは、愚かすぎる!」
「ええ、ですが魔王様を害せるとは思っていないのでしょう」
ホーネット様によると、報告では反魔王軍と言っても目的も告げずに集めた民兵が大半のようだ。
「魔王様に軍を蹴散らされる事で、各国のランス様と親しい支配者層や国の上層部への批判を強める事が目的だと思われます」
如何致しますか。とホーネット様が恭しく魔王様に返事を仰ぐが、魔王様は天井を見つめて閉口したままだ。
「行って蹴散らすべきです!魔王様の御気分も紛れるかもしれませんし、少なくとも退屈しのぎにはなりますよ!」
「サテラ、しかしそれでは各国の魔王様の寵姫やお子たちの立場が…」
ホーネット様は、いつの間にここまで控えめになられたのか。あくまで平和的な解決を望んでいるようだ。
「関係ありません、もう魔王様は魔王様で、人類総統だった頃のランスじゃないんですよ?かつての女と言っても、人間どもだってこの10年で年老いて変わってます!」
「………魔王様、ご返答を」
「行きましょう魔王様!サテラとシーザーがお供いたします!」
だが、魔王様は退屈そうに、鬱屈そうに、そして面倒くさそうに私たちの顔を見比べると「やだ」と一言呟いた。
「知らんお前らで何とかしろ、俺様はもう寝る、今夜女はいらん」
それだけ言うと魔王様は椅子から立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。
「まだ昼間なのに…」
私とホーネット様だけが残されただだっ広い魔王の間に、私の溢した呟きがさみしく消えた。
_________カッ、カッ、カッ
廊下に私のヒールの足音が響く、ホーネット様は音をたてずに私の隣を歩いている、どうやっているのだろうか。
「かつて魔王様は太陽のような人でした、それこそケイブリスとの大戦で人類にとっては」
ホーネット様が独り言のようにぽつぽつと口を開く。
「ランスは魔王になったのです、なのにLPと同じ苦しみ方をしている、もっと暴れるべきです昔みたいに」
「本当に、それが魔王様の望んでいる事でしょうか」
「どういうことですか?」
私が振り向くと、ホーネット様はじっと見つめてきた、その美貌が羨ましい。魔王様の夜に呼ばれる数も私よりホーネット様の方がが多い気がする。
「確かに、ランス様は人間の頃から傍若無人で、こと風紀においては道徳心の薄い方でした」
ですが、とホーネット様が続ける。
「心許した相手には慈しみをかけられる方でもありました、だから多くの女性が無理やり集められた彼の下から去らなかったのだと思います」
それは私たちもそうでしょう、とホーネット様がまた前を向いて歩き始めた。
「ランス様という太陽は時に明るく、時に身を焦がすように眩しく輝き、私たち魔人や人類を照らして来てくださいました。」
そうだ、そして強い。人間の頃からあの馬鹿にリーザス進行を邪魔されアイゼルやノスをも失ったからこそ、かつて私たちはケイブリス派に遅れを取ったのだ。
なのにそんなケイブリスを倒したのもあいつだった。
「ホーネット様、魔王様は、ランスは確かに昔ほど楽しく笑うことは無くなりましたが、それでもあいつはランスで、魔王様なのです…」
「はい、それは私やハウゼルたちにとってもそうですよ」
今、ランスという太陽を沈みきらないように繋ぎ止めているのは娘のリセットたちの存在だろうか。
いや、今の魔王様を見て沈みきってないと言えるだろうか。いつか……
「いつかまた、太陽が登る日が来るのでしょうか」
「わかりません、ですが信じましょう、これまでもそうだったように、これからも」
ホーネット様は真っ直ぐ前を向いている、私よりもランスに出会ったのは遅いはずなのに、真っ直ぐ信じている。
ランスに抱かれてからか、触れあってからか、ホーネット様は変わられた。私もそうなのだろうか。
「いつかまた、ランス様が太陽の様に明るくなる時を信じて、それまで支え続けるのが私たちの使命です」
「サテラにはわかりません、苦しいならいっそ完全な魔王になった方がランスだって……」
「サテラ」
優しく、ホーネット様は姉のように私をぎゅっと抱き締めた。
「あの方を信じましょう、それに今は火急の事もあります」
「人間どもの軍ですね、どうしましょう」
「扇動している頭を潰します、学者たちに追撃不可を徹底させれば、被害も抑えられるでしょう」
するとそこに魔人の中では新顔のリズナが現れた。ぱたぱたと駆け寄って来て転けそうになっている。
「あ、サテラさんにホーネットさん、やっと会えました~、またお城の中が変わってから道が覚えられなくて~」
「くっ…もう魔人になって数年経つのになんてふわふわしたやつ」
「リズナさん、ちょうど良い所で会えました、力添えをお願いします」
そうか、リズナの能力なら血を流さずに反乱軍なんか鎮圧することは容易い、私は苦手だが…
「よしリズナ、今から私と来い!あ、間違っても目開くんじゃ無いぞ」
「詳しい事は道すがらお伝え致します」
「え? え? 何ですか~?」
こいつのふわふわ感で何となく空気が軽くなった気がするが、今はそれが有り難かった。
「仕事だ仕事、今日は働いてもらうぞ!」
「えぇ~!?私にはシルキィさんのように重工事は無理ですよ~」
「何か勘違いしているようですね…」
元々人間だったこいつがいると、かつて人類と組んで戦っていた討伐対の頃を思い出す。
いなくなった奴もいるから普段は思い出さないが、毎日が戦いだったのに楽しくて騒がしい思い出だ。
「わかりました~ハニーさんたちにも手伝って貰いましょう、人手は多い方がいいですから」
「何を言ってるんだお前は」
リズナに説明しながら軍の編成に向かったホーネット様と別れる。
下級兵は足手まといになるから私とリズナが先行して制圧、ホーネット様と学者が後詰めの大隊を引き連れてきて事後処理だ。
「行くぞリズナ、ハニーどもは置いてこいシーザーに乗せてやる」
「は、はい!待ってくださいサテラさ~ん」
空はまるで最近の魔王様のように曇天だった、濡れたくないから雨は降らないで欲しい。
「ランスさん、最近また元気無いみたいですね」
「ああ、だからこういう事はサテラたちでやるんだ」
「はい、そうですね」
「こ、こらフェロモンを抑えろ!」
「す、すみません!ランスさんの事を思うとつい…」
シーザーの肩で揺られながら空を眺める、帰る頃には晴れるだろうか、雨だろうか。
ああ、魔王様、きっとこの空はそのうち晴れるでしょう。
ですがあなたのお心が晴れる日は来るのでしょうか。
ランス、サテラのランス、私の魔王様。
女魔人とのエッチはどんくらいかかるか分かんないけど全員書きたいです。