自身の欲望を抑えつつ、しばらく日菜が起きないか様子を見ることにした。どうせ下半身は固まってしまって動けない。
数分後、待ちきれなくなり、軽く頬をたたいた。しかしそれでも起きる気配はない。はぁ...嫌が応でも狸寝入りを決め込むつもりらしい。僕は日菜の無防備な唇にーー
「引っ掛かったーー♪」
触れる数センチ前で日菜はさっきまでの安眠が嘘だったかのようにそう言った。少し癪に障ったので
「嘘寝に気づいた上でああしたんだよ」
大人げないと分かりつつ意味の無い反論をしてしまった。
「そう分かってて待ってたんだよ~~♪」
要らん天才性をここでも発揮してくれる。それを世の中の為に使おうという気はないのだろうか。
「ともあれ、丁度いい時間だし、朝御飯たべようか。」
「うんっ!」
そのあと、僕と日菜は紗夜の作ってくれた朝食を食べた。ご飯と味噌汁、卵焼きにベーコンと基本的な物だったが、久々に食べた気がした。炊飯が面倒なのでパンで済ませているからだろう。
「今日はどこか遊びに行こうよ!」
何で既に決定事項になっているんだ。
「春休みなんだし、宿題の一つや二つ、だされてないのか?」
本当は、大学生にもなって高校生とデートする姿を誰かに見られたくないのだが。
「宿題ださなくても満点とれば大丈夫かな~って」
返す言葉もない。自分も宿題は真面目にはやらなかったが、満点がとれるほど頭の出来はよくない。「はぁ...で、どこに行きたいんだ?」
もう逃げるのは諦めた。
「あたし、今やってる○○って映画観たいんだ~」
スマホで最寄りの映画館の空席を確認する。幸い、平日だったので余裕がありそうだ。
「じゃあ、そろそろ支度して、出掛けよっか。」
僕の方は直ぐに支度が済むが、日菜の方はそうはいかない。以前、日菜と同じバンドメンバーの彩ちゃんにアイドルの大変さを力説されたのを思い出す。日菜はそんな苦労をおくびにも出さないのでたまに彼女がアイドルであることを忘れかけてしまう。ん?アイドル....?アイドルがデートするのって、アウトじゃ...
「日菜」
「ん?どうかした?」
服を選んでいる日菜が返事する。
「アイドルがデートって、スキャンダルじゃないの?」
「あ」
日菜の顔がひきつった。アイドルの自覚が全くないのか、この日菜ちゃん野郎は。
「まあ大人しく家amazonqrimeでも観て過ごそ。」
冬の日にわざわざ外出するのはごめんなので願ったり叶ったりではあるが、日菜は残念そうだ。取り出した服をクローゼットに仕舞う。
「ポテト買ってきてやるから、少し留守番しててよ。」
そう言うと日菜に少し笑顔が戻った気がした。そう思いたい。
次回あたり、本格的に紗夜が出てきます。