※この作品はR-18です。

ワールドトリガーのヒロインたちが色々な目に遭うお話   作:名無犬

7 / 8
たいっへんにお待たせしました!
そして度々ごめんなさい!
今回でラストのつもりだったのですが、あともうちょっとだけ続きます……


雨取千佳の場合 その7

男は告げる。

 

「チカ、君はきっと、このままどんなにめちゃくちゃにしたところで、アマトリチカであることを捨てないんだろう」

「そんな……」

「どんなに強く責めても、君は受け入れてしまうだろう。どんなに辱めても、君は受け入れてしまうだろう。だから、そんなに自分を犠牲にするチカの代わりに、せめて俺は、俺だけは、アマトリチカという女の子を大事にする。ひたすら甘やかして、どこまでも与えてやる」

 

 それは、千佳にとっては快楽を認めるよりも、理性を放棄するよりも余程厳しい取り立て方。そう、それは自縛でありながらも、千佳が数年の時をかけて作り上げた一種の「尊厳」さえも奪い去る、そんな意味を持っていた。

 

「ひぅ……♡ そんな、そんなの……いら」

「いらないと拒絶されようと、たとえそれで君が苦しもうと知らない。俺は、俺のために、チカを、自分を否定するチカを、剥がしてやる」

「そんな……そんなぁ……そんなのって……ひぅんっ♡」

 

 そして、千佳の拒絶をもう男は聞き入れない。

 早速と言わんばかりの性急さでありながら、非常に柔らかい手付きで、男の指が千佳の乳首を捏ねる。

 与えられた甘美な快感に千佳の抗議が止まる。

 顔を上げて男の目を覗けば、そこには、今までにないほど優しく千佳を見つめる眼差しがある。

 

「チカ……するぞ」

「優しくしないでぇ♡♡んっ♡♡はぁ♡♡入ってきたぁ♡♡♡」

 

 千佳を抱きとめ、男が今度はゆっくりと挿入を始める。男のものに馴染んだ千佳のおまんこもまた、それを温かく迎え入れる。

 どちらにとっても一方的だったこれまでのセックスとは全く次元の異なるそれが今から始まるのだと、思考は異なれど肉体は互いに理解した。

 

「んっ、チカ……どうだ?」

「んぅ♡ 耳元で囁くの、だめ……♡♡」

「もうチカのダメは聞かない。答えないのも許さない」

「いぢわるぅ……」

「ほら、ここだよ。ゆっくりゆっくり蕩かしてあげるから、どう?」

「…………」

「答えないのは許さないって言ったろ」

 

 ずりっ、と、男が千佳の弱い部分を擦る。力加減は優しく、声音はそれに追従するように。

 

「んゃぅ♡ ……き、きもちーれす♡♡ずんずんされりゅのもきもちかった、けどぉ♡♡」

「ぅぁ……けど、なに?」

「こーやって、ゆっくり、しゅるのも♡ きもちー、よぉ♡はぁん♡♡」

 

 その動きに、思わず本音が零れてしまった千佳だったが、先程までであれば追って出たであろう、それを否定する言葉は、後を追うことはない。

 お互いの形を確かめながら、相手と快感を共有するためのセックス。ただ快楽を貪り合うだけだった今までとは打って変わって静かな、相互に反応を確かめ合いながら行われる性交が、仄かな熱の広がりとして情欲を再び昂ぶらせ始める。

 言葉は幾分素直になった千佳の口からは、快楽を享受する文言が飛び出すものの、しかし彼女の中にあるのは実際には当惑だった。

 何もかもめちゃくちゃにされるような荒々しいものを望んでいたのに、まるで壊れ物を扱うかのような優しいものに変わってしまった。男の変心のその理由が、よもや自分への恋心の自覚だとは思いもしない彼女には、急に男の様子が変わった意味に気付けるはずもなく、ただただ戸惑いが心中を満たす。

 その戸惑いは、男の態度へのものだけでなく、こんな静かな行為であるのに、先程のそれとは趣を異にする気持ちよさがあることへも及ぶ。

 

(なんでぇ……どちゅどちゅされてないのにきもちーのぉ……♡)

 

 男の動きはゆっくりだった。当初の愛撫のように緩急をつけて千佳の反応を楽しむものではなく、徹頭徹尾、千佳の気持ちよさを発掘し、快楽を食らわせるのではなく、まるで捧げるような柔らかく、優しい動き。

 千佳の奥が疼き始める。決して、物足りなさなんてものではない。この動きのままで、ゆっくりと昇りつめることに否やはない。この疼きはもっと別の、千佳の心からくる疼き。

 

「やだやだぁ……優しくしないでぇ……わたし、優しくされる資格なんてない、ないよぉ……♡」

 

 暴力的に壊してくれるなら、屈することにも言い訳ができた。だが、これはダメだ。男は辿り着いている。「千佳を本当に壊せる唯一の道」に。

 それは、ただ同じ向きを向くだけではない、ただ千佳の有り様を肯定するでもない、千佳を理解し、寄り添うこと。千佳の罪悪感も何もかも認めた上で、その重石を何でもないものにしてくれる何かの存在になること。

 

「逃げるな、チカ。前に逃げ続けたところで、そこに君の救いなんてないし、何より俺が逃さないから」

 

 だから、この男にこのままされるがままにされていては駄目なのだ。千佳の自分に縛り付けた鎖を解くのではなく、それごと掴んで離さないなんて迂遠な解法に、よりにもよってこんな快楽責めなんて方法からたどり着いた男とのセックスを、気持ちよくなんて感じちゃ駄目なのだ。

 

(駄目……なのにぃ)

 

 頭ではまだわかる。そんなこと千佳じゃなくたって女の子であれば当然だ。自分に突き立っているペニスは、強姦魔のそれ。そんな男が自分の救い手になるかもしれない、なんて、間違っても思ってはいけない。縋るなんてもっと駄目だ。

 

(でも……でもぉ……)

 

 思ってしまう。こんな形だったけど、果たしてこの先、この男ほど千佳を理解し、また更に解きほぐすことなく一切を振り切ってくれる存在に出会えるのかと。長い間倦んでいた千佳の心の柵に手をかけて、あまつさえそれごと運び去ろうと言わんばかりに強引に千佳を求めるような男に。

 

(離してくれないって、言った……今なら、私も……)

 

 そして、身体と身体が比喩でも何でもなく繋がりを得ている今、その「離さず」は決して一方通行ではない。しようと思えば、千佳も男を離さないことが可能なのは、先程タガが外れてしまったときの自分の腰遣いが証明してしまっているのだから。

 ここで千佳が、男を求めてしまえば――

 

くちゅっ

「きゃうっ♡」

 

 そんなことが過ったタイミングを狙いすまし、男の腰遣いが千佳の弱点へとペニスを捩じ込む。ゆっくりとした、激しさのない挿入なのに、タイミングがあまりにも絶妙で、あっさりと嬌声を上げさせられてしまう。

 

(わかってる♡ 解られちゃってるぅ♡♡)

 

 きっと、千佳の内心を男は見抜いている。そうじゃなかったら、こんなにタイミングを合わせて千佳を気持ちよくするなんてできないはずなのだ。むしろ、見抜きもせずにそれができるなら、それこそ身体の相性が奇跡的に合致していることになってしまう。

 

くち……くち……ぬちゅぅ

「んっ…♡ ふぅぅ……♡ くぅん♡♡」

「ここゆっくりするの、どう?」

「きかないでぇ♡♡ わかってるんれしょぉ♡♡ んんっ♡♡」

 

(これ以上、わたしを解ろうとしないでよぉ……♡♡)

 

 正常位に戻り、抱きとめていた腕を解いて、代わりに掌を重ねると、どちらからともなく千佳の指と男の指とが絡まり合う。上気した頬は桃色に染まり、その表情は明らかに、このスローセックスをお気に召してしまったことを男に白状している。

 もはや千佳がどれだけ言葉を否定の形で吐き出そうとも、身体が男に真意を密告する。もう、理性なんて残っていないのだから当然だ。どれだけ否定を示そうと、男に行動の主体を預けようと自ら彼を誘ったあの数行の誘惑は、間違いなく千佳が選択した行為だったのだから。

 

「んぁ…♡ もっと、奥までぇ……♡」

 

 自然、千佳の腰が動く。男の息遣いに合わせるように、身体が順応していく。快楽に抗う気持ちはどこかに失せた。代わりにあるのは、欲求だ。こうしてほしい、こうされたくない、そういう原始的な欲求。

 せめて、いまどうされたいかだけでも知られたくなくて、千佳は偽りの「そうされたい」を男に伝えるが、

 

「だめ」

「んんぅぅん♡♡ あしゃいとここしゅこしゅしにゃいでぇ♡♡奥ってゆったのにぃ♡♡♡」

「チカの言葉がウソかどうかなんて、もう解ってるから」

「ふぅ〜♡ふぅ〜♡ やらよぉ、ゆっくりやらぁ♡♡」

 

 言葉だけの否定など、とうに男には通用しなかった。むしろ、それを解っていて千佳自身そういう言葉を選んでいるかの如く。裏返しをきちんと汲んでくれるかどうかを試すかのように。

 本当は浅いところを擦られたい、ゆっくりされるのは今までとは違った気持ちよさでたまらない。男は、そういった千佳の本音を、ちんぽに伝わる千佳の動きから察していた。

 

「だいぶ素直になったね、チカ。あとはその口からも、素直な言葉が欲しいな。いや、引き出してやる」

「んふっ♡んっ♡♡手ぇ、ぎゅってしないでぇ♡♡」

「ん? こう?」

にぎっ、にぎっ、とちゅっ、とちゅっ

「ひゃぁぁぁぁぁ♡♡ぁんっ♡ぁんっ♡きもちっ♡♡んぁっ♡」

 

 段々と、男が察する度に、千佳の身体に最後に残っていた余計な強張りがときほぐれていく。

 

「らめ♡らめらよぉ♡♡しょんな、なんれぇ♡♡きゃぅ♡♡」

「またダメダメか。つまりこうだね、んむっ」

「んちゅっ!?♡ んむ♡♡れる……♡♡ぴちゃ♡♡にぁぁ♡♡んふっ♡♡ふっ♡♡ふむぅぅ♡♡」

 

 以前のように、千佳がダメダメをすれば男がキスをする。そうして口を塞げば、以前のようにどちらからともなく舌が絡む。

 そう、これは追体験だった。千佳の身体が堕ちてからの手順をなぞることで、千佳の心にも思い知らせるための、儀式。

 

「んむっ♡♡れろれろ♡んくっ♡♡」

くにゅっ、くちゅぅ、くにぃ

 

 舌が絡むたび、男が膣壁を回すように擦り上げる。擦られるほどに、千佳の心から抗いが削ぎ落とされていく。

 

「うっ……チカ、いいよ……君のおまんこ、俺のを離したくないって言ってる」

「ふぁぁ♡ 言っれない……♡♡ こんらの、きもちーらけ、なんらからぁ♡♡」

「だめだ、見てご覧ほら」

「んぅぅぅぅ♡ やらやらぁ、見せないれぇ♡」

 

 絡み合った手を解き、千佳の頭を持ち上げて、いつかのように結合部を見せつければ、それだけで千佳まんこは男のモノを愛おしげにちゅうちゅう吸い立てる。

 

「たしか、これも好きだよね」

「ひゃんっ♡ んにゅぅぅ!♡♡ しょれっ、もっろらめなのっ♡♡ おかしくなっちゃうかりゃぁ!♡♡」

 

 乳首をこねながら奥をずんずんと強くする動き。男が一番はじめに気づいた、千佳のお気に入りのピストンのひとつ。

 

「じゃあこっちにしてあげる」

「んひゅっ!?♡ んあっ♡♡ひぃっ♡らめらめらめぇ!♡♡ じゅんじゅんのあとにぃ♡♡しょれはむりらよぉ!♡♡思いらしちゃうからぁ!♡♡ ざりざりとめてへぇ!♡♡」

「思い出させるためにやってる。だから止めてあげない」

 

 そこから、Gスポを擦りつつ浅い動きの繰り返し。一度味わった経験をしっかりと活かす優秀まんこが、ラブジュースを蜜壺から溢れさせる。

 

ずろぉぐちゅぅ……ずろぉぉ、ぐちゅぅぅ

「んほおおおおぉ♡♡ こしゅっ、こしゅれへええぁぁ……♡」

 

 長いストロークが千佳の膣壁を優しく擦り上げれば、はしたない声が思わず口からまろび出てしまう。

 

「んひぁ♡♡ にゃぅぅ♡♡ ゆっくりにゃのにぃ♡♡しゃっきとじぇんじぇんちがうろにぃ……♡♡ わらひ、もっろらめになりゅ♡♡ らめになっひゃうよぉ♡♡」

ぐにゅぃぃぃぃ!

「ーっ、ーっ、ーっ、ーっっっっっ♡♡♡♡」

「ほら、また一番奥に届いた。どう?」

 

 男の剛直が奥を突き、ポルチオが悲鳴のような快感を千佳へ与える。

 呼吸さえ吹き飛ぶほどの強烈な快楽を、もはや慣れ親しんだもののようにあっさりと受け入れている危険性に気づきながらも、千佳は形だけの抵抗を試みる。

 しかし、形だけなのは男もおなじだった。

 打って変わって千佳の心を確かめるように問を繰り返すのも、ある一つの確信が男を先程までのような責めの姿勢にさせてくれないのだ。

 おまんこへと断続的に刺激を与えながら、男はただ、不安に支配されていく。これから口に出そうとしている、その男の本心を告げたとき、彼女はどんなかおをするのだろうと。

 しかし、それを伝えるのは、今はまだ快楽に翻弄されたままの彼女にではなく、一度冷静に立ち返った彼女であってほしいという、相も変わらず身勝手な、しかし男にとっては切実な願望が、その不安をいや増していく。

 

「かひゅっ♡♡はひゅっ♡♡らめ♡♡もうらめ♡♡これ以上は、ほんろに、やめへ……♡♡」

「……ふぅ、いいよ、じゃあ少しだけ待ってあげる」

 

 そして、剛直を最奥へ差し入れた男は、千佳の形骸的な懇願に応じて動きを止めた。

 最後の懇願だった。最早形だけ、骸のような物であったとしても、千佳にとって、まさしく本当に最後の懇願だった。辛うじてだ。辛うじて、今ならまだ雨取千佳に戻れる。

 先程の機会を逃したことで、「以前の雨取千佳」に戻ることはもう出来ないだろう。だが、理性が挫けても、あられもない本能が曝け出されても、まだ「兄と友を、皆とともに助けたい」という矜持だけは残っている。千佳が千佳であるために手放すことのできない枷が、文字通り千佳を縫い止めている。

 だがその縫い目は、綻び、解れ始めてはいた。しかも、その解れた糸の先を握っているのは目の前の男だ。

 男の剛直は、千佳の中に埋められている。それをほんの少しでもいま動かされ、僅かでも絶頂を与えられてしまえば、千佳の矜持の縫い合わせは解け、瓦解するだろう。

 それをどちらも分かっている。そして千佳は男に動いてほしい。男は千佳に動いてほしい。最後のきっかけを、お互いに向こうから与えてほしいと思っている。

 千佳は、最後の矜持を捨てないために。男は、千佳の矜持を捨てさせるために。

 ほんの少しの静寂。だが千佳の心の中は雄弁だった。

 

(ほしい♡ほしい♡ほしいよぉ♡♡おちんちん、欲しいの♡ でも、もし私が今動いたら、もうごまかせないの♡ そんなのいやだよぉ♡♡わたし、もうこれ以上自分を嫌いになりたくないのぉ♡♡だから、動いてよぉ♡♡)

 

 そんな心中を知ってか知らずか、男が最後の言葉をささやくべく千佳の耳元に口を寄せた。もしここで、男が言葉攻めで追い打ちをかければ、千佳は素直にそれに身を任せて、しかし男にその心まで明け渡さずに済んだだろう。「友と兄を仲間と共に救う」という最後の矜持を縁にして、自分を誤魔化しながら辛うじて繋ぎ止めることができただろう。だが、それを最早同調作用など抜きで本能的に見抜いている男は、千佳とは逆に、誤魔化すことを止めた。

 故に、その口から溢れたのは―――

 

「好きだ、チカ。もう俺には君しかいないと思えた。こんな俺が、こんな最低の男が、初めて心から、そばにいてほしいと思ってしまったんだ……だから、俺と一緒にいてくれ。頼むから……」

「……っ!?」

 

 千佳を求めるのではなく、千佳に求めた吐露。男が初めて見せた、懇願だった。

 それは、思わず千佳の頭から、それまで受けていた快楽の火を吹き飛ばすほどの切実さが込められていた。

 男は、ここに来て自身でようやく気づいた。男が何故、当初は据え膳としか見ていなかった千佳にこれほどまでに執着したのか。

 許せなかったのだ。きっとなりふり構わず助けを求めれば、誰かに手を差し伸べてもらえるような彼女が、他人を想う余りに自分を苛み続けるなどという孤独を選んでいたことが。なりふり構わなかろうと構おうと、そばに誰もを置けなかった者にとってすれば、そのなんと贅沢なことかと。

 気づいてほしかったのだ。ここに、君を必要としている人間が確かにいるのだから、自分を蔑ろにする必要などないのだと。

 それは、優れた才と歪んだ嗜好を持っていたが故に、誰からも理解されることがなかった男の、先刻と同じく最低ながらも、先程までの虚飾など取り払った、心底からの告白。

 千佳の孤立を否定し、己の孤独を埋めてほしいと。自ら輪から外れるなら、何より求めた「そばにいてくれる誰か」という願いのために、外れた君を己にくれという、『ただ、誰よりも千佳を必要としている』ことを何よりも不器用に告げただけの言葉。

 そして、その言葉を受けた千佳も、気づいた。

 

(あ、あぁ……そうなんだ、そうだったんだ……わたしは、この人にメチャクチャにされたけど、わたしも、この人をメチャクチャにしてしまったんだ……この人が、『独りでいるために必要だったもの』を、わたしが、だめにしちゃったんだ……)

 

 きっと、ここで千佳と出会わなければ、もしくは、千佳があっさりと淫欲に堕ちる女であったなら、男は千佳の身体を堪能して、次なる獲物を探す陵辱者のままでいられただろう。

 だが男は知ってしまった。折れず砕けぬ強さを持ちながら、傷つけることも傷つけられることも厭うが故に己を蔑ろにし続ける千佳の在り方を。己以外を蔑ろにしたが故に、主体を自ら保ち続けることしかできなかった男であるからこそ気づけた、己を蔑ろにするあまりに他人に主体を委ね続けた少女の儚さを。その、あまりに自分と正反対で、だからこそ眩しく見えた雨取千佳の健気さを。

 それに気づいた瞬間、男は自分の弱さにも気づいてしまった。欲しい、という意味が、言葉はそのままに全くの別物へと変質した。玩弄の対象としてではなく、ただ自分を、己がそう思うのと同じように『欲して欲しい』のだと理解してしまった。

 だから、ここに至り男は、初めて心から千佳に求めた。千佳を求めるのではなく、君にこそ俺を欲してもらいたいのだと。こんな最低な自分を、見放さずそばにいてほしいのだと。今までの孤独の全てには耐えられようとも、これから先に千佳がいない孤独には耐えられないのだと。

 それは、千佳にはついぞ出来なかった『弱さの吐露』であり、自分の醜さを受け入れた上で誰かに求めるという、本来であれば千佳が何よりも欲していた己の鏡でさえあった。

 

(ずるい……)

 

 それに対する想いは、こんなことをしておいて。というのが、千佳の率直なもの。こんなにも知らなかった事を叩き込んで、どうしようもなく気持ちよくさせて、今まで必死になって目を逸らし続けた『雨取千佳』を掬い上げて、どこまでも『わたし』を肯定した目の前の男は、何よりも最低な陵辱者のはずなのに。

 そんな男が、千佳がついぞ出来なかったことをしている。己の弱さを認めた上で、他人に委ねるではなくただ『求める』という何よりも簡単で、しかし千佳にはそのなんと難しいことを、いとも容易く。

 

(ずるい、ずるいぃ……)

 

 そして、それを雨取千佳は拒めない。拒んでしまえば、己の求めた解答を否定してしまう。救われていいのだと、その柵ごと雨取千佳を欲するのだと、そういう『千佳が嫌いな千佳』こそが美しいから、それを欲するのだと。

 もう、誰かには委ねられないこの状況で、己の弱さへの救いを千佳に求めた男は、うごかない。

 委ねられたのは千佳だから。千佳の答えを、ただただ受け入れるという構え。

 どこまでも卑怯だな、と男は内心で自嘲する。

 こんなものは、告白とも呼べない。千佳の強さと良心につけ込むようなやり口に過ぎない。

 だが、それでも、男は最早なりふりなど構わずに千佳を欲していた。同情でも構わない、色欲でも関係ない。千佳を己に結びつける為なら、汚くとも狡くともすべてを利用することに厭いは無い。

 そして千佳も、そんなことは分かっていた。男が自分を盾にし始めたということくらいは、ぼんやりと。

 もちろん、これを突っぱねることは簡単だ。こんな男の告白など一笑に付し、張り手の一つでも見舞ってやるのがむしろ正道だ。

 だが、千佳には出来なかった。確かにこの目の前の男は最低だ。出会い方も最低で、関わり方も最低で、始まりもここに至るまでの過程も何もかも、肯定材料なんて見つからない。

 ただ、そんな最低の男が、少なくとも初めて『雨取千佳』を探り当てた。キスも、セックスも、自分の知らなかった気持ちよさも、果ては、千佳自身がひた隠しにしていた雨取千佳を見つけることさえも、そしてそれを責めず、厭わず、あまつさえ肯定してのけるような好意さえも、男が初めてになってしまった。

 分からない。何故目の前のこのような男に、殺意さえ覚えて然るべき相手に、こんな気持ちにさせられなくてはならないのか。憎いはずなのだ。とんでもない外道だ。なのに。

 

(ずるいよ、ずるいよぉ……)

 

 分かってしまうのだ。孤独に自分から逃げ続ける苦しみを知るが故に、孤独に自分だけを進み続けた背反が。

 形は違えど、独りでい続ける苦しさは同じだと、共感できてしまうのだ。

 そして、その苦しみが、共に歩む誰かによって和らぐことを千佳は知ってしまっている。玉狛の皆――師が、幼馴染が、その一番の友人が、肩を貸してくれることによって重さを少しだけでも和らげられることを知っている。誰かがそばにいてくれることの大切さは、何よりも身にしみている。

 千佳は、失うことを恐れた。それは『持っていたから』故の喪失への恐怖。大切な何かがある日自らの過失で失われてしまうことへの自責。

 だが、対象的に男は何も持っていなかった。ここで千佳に出会わなければ、その千佳がこんな在り方をしていなかったら、男は喪失感などおそらく生涯抱かず、気づかず、孤独に苛まれるという恐怖に晒されることもなかっただろう。

 

(ずるい、けど……もし私がここで拒絶したらこの人は……)

 

 ぞくり、と、千佳の心に恐怖感が生まれた。

 あの時、親友を失ったあとに向けられた非難の視線が蘇る。全てから拒絶されるかのような圧倒的な絶望感。現実を受け入れられないのは千佳も同じなのに、それを千佳には許さないとばかりに世界から弾き出されるような激烈な疎外感。

 目の前の男を見る。未だ自分の中にものを収めたまま、千佳の答えを待つ男の顔を。

 この短時間で不本意にも見慣れてしまったその顔は、揺らいでいた。表情そのものには然程変化はない。だが、先程までの、云わば千佳で愉しんでいた頃の顔とは似ても似つかない空気感を千佳に与える。表情そのものは真顔なのに、何かを圧し殺しているような、そんな表情。

 

(あ……わたし、だ……)

 

 結びつけたくはない。こんな男と自分を結びつけたくはないのに、その顔には覚えがあった。かつて、千佳が鏡の中に見た自分自身が、そこに他人の顔で現れていた。

 拒絶されることへの恐怖。傷つくことへの恐怖。男にはなかったはずのそれに耐える姿は、どうしようもなくかつての自分を千佳に想起させる。

 なってしまえばいいのではないか、とは思う。

 先程から、散々自分に言い聞かせようとしているように、当たり前に考えれば、この最後の機会に千佳は男を拒絶し、千佳にとって最悪と言っていい辛さを男にも与えて報復とすべきだ。それを以ってして、人でなしとは評されないほどには最低なことを男はしている。千佳とは違いまさしく因果応報。男が孤独の辛さに耐えかねるのを、だから何だとせせら笑ったとして、かつてのように千佳を非難する者などありはしまい。

 

(でも、それは………それは……)

 

 それが正道。裁きを与えることこそふさわしい。しかし、ありはしないのだ、そんな選択肢など。ここで男をあの地獄に落とすことだけは「雨取千佳」が許さない。だってそうしたら、その地獄を知っていてそれを誰かに与えたら、それは今までの自分を否定することだから。

 男は、千佳の鏡だった。そこに映っているのは、反対でありながらも対照の姿。かつて助けてほしくとも救いが現れなかった千佳自身に等しい。

 たとえ稀代の悪人であろうと、己が知る地獄を等しく味わえと言うよりは、引き上げようとしてしまう。それが叶わないならば諸共に落ちることさえも辞さない。その在り方こそ、彼女を「雨取千佳」たらしめる根幹。何をも傷つけないことを代償にすれば、何からも責められないのではという自己犠牲に、幼い自己防衛を見出した少女のレゾンデートル。

 葛藤はある。いまここで彼を受け入れることは、裏切りに繋がる。彼は異界の輩。彼女の幼馴染の親友や、いまは協力関係にあるチームメイトとは同列に語れるわけもなく、自分たちにとっては明確に敵に相違なく、ボーダーに所属する自分がとっていい選択肢たり得ない。何より、自分の歩む道へ同道してくれた誰も彼もに対する裏切り以外の何者でもない。

 それなのに、千佳はその男への決定的な拒絶を示せない。彼は、自分とは違う孤独を知ってしまった者だから。何もなかった自分に、今まで幸福にも気づくことのなかった彼に、孤独の意味を教えてしまったのは、快楽に堕したこの身体と、千佳の在り方そのものだったから。

 

(あぁ……わたし、本当に……)

 

 戻れないことを認識はしていた。知らない快楽を叩き込まれた身体は、きっともうそれなしではいられない事を。

 折れたことを覚悟はしていた。底から快楽を望んでしまった心は、きっともうそれなくして踏ん張れない事を。

 それでも、彼が強く千佳を責め立て、追い詰めるだけだったなら、千佳はその持ち前の精神力で、堕ちた身体を支え、折れた心を継ぎ直せただろう。他人を傷つけることも、他人に屈することもなかったと、今まで同様にそれを拠り所に、現実に立ち返ることが出来ただろう。

 だが、期せずして、その千佳の強がりこそが男を砕いてしまった。知らずのうちにいた孤独の辛さを、形はどうあれ千佳が男に与えてしまった。例え、それが未来に訪れるもので、相手はそれを与えられて然るべき者だとしても、それを是とすることは雨取千佳が許さない。

 何よりも、

 

(わたし、この人を見捨てられないって、思っちゃってる……)

 

 欲してしまっていたのだ。

 千佳の身体も、心も、ただ男に与えられる快楽のみに屈したのだと思っていた。思いたかった。

 だが、少なくとも、男はただまっすぐに千佳を求めていた。初めは身体を性的に欲したのだろう。だが、千佳と肌を重ねるたびに、彼は千佳を理解していった。理解されてしまっていた。

 ストックホルム症候群に近いものではあるのだろう。だが、男の腕に抱きしめられることも、男のモノで女を目覚めさせられることも、当初にはあったはずの嫌悪感はどこかに失せ、確かにそれに縋ったことは紛れもなく事実であり、また、何よりも純粋に求められたことも事実だった。

 

(うれし……かったんだ……きっと、わたしも)

 

 千佳のすべてを汚したくせに、千佳のすべてを肯定してのけた男に、千佳は否定を返すことができなかった。

 そっと、千佳の手が伸びる。最早トリオン体との同調もほぼほぼ切れ、肉体は意思に沿う動きを見せた。それが向かう先は、男の両の頬。まっすぐ、確たる眼差しで千佳を見据えながらも、どこか怯えを感じる表情を浮かべたそれを、小さな掌が包み込む。

 触れた瞬間に、ぴくりと、男が震えた。

 その震えが、千佳にそれを確信させる。ああ、この人は今怯えているんだと。後悔をしているんだと。

 同時に、それを察せるほどに、千佳もこの短時間で男を理解させられてしまったんだと。

 

 

 それを理解した途端、千佳の中に残っていた快楽の疼きが一時的に吹き飛んだ。

 

「わたし、貴方を許しません」

 

 千佳の口から言葉が出る。それは、字面で捉えれば、正しく千佳が内心で不可を下したはずの男への裁断。その判を受けて、男の顔が僅か歪んだ。

 罪過への応としては当たり前だと思っていながらも、都合のいい未来が消えることへの絶望を必死に抑え込むその表情で、千佳は本当に最後の鍵を明け渡すことをけっした。

 千佳自身の言葉を否定するように、内心を肯定するように、柔らかな両手が男の頬へと熱を送る。

 許さない。けれども見捨てない。その決定を、伝える。

 

「でも、貴方を見捨てもしません。貴方のことは嫌いです。大嫌いです。だけど、このまま消えるなんて許さない。だって……」

 

 言葉を紡ぐごとに、思い出す。先程まで千佳の身を支配していた熱を。

 

「わたしをこんなにして、中途半端に壊したままだなんて、許さない」

 

 それに何より。

 

「わたし、もしかしたらもう、赤ちゃんできちゃってるかもしれないのに」

 

 女としての、生物としての、根本的かつ当然の帰結として、その可能性が現実となる憂慮があり、またそうなった場合にそれを失わせることなど、少なくとも千佳にできるはずもなかったのだ。

 男は思い知る。どこまでも自分は身勝手だった。ようやく自分以外に、千佳だけを見据えた彼では、そこに思い至れるだけの余裕も配慮も無かったその悪辣さに。

 

「わたしを自分のものにするって言ったのに、こんなことで怯えるのも許しません。身勝手な貴方の何もかもを、わたしは許さない」

 

 否定が重なる。しかし両の掌は頬に添えられたまま、言葉とは裏腹な暖かさを男に与え続ける。

 

「でも……でも……代わりに見捨てもしないから、だから、わたしはあなたのそばにいます。あなたのそばで、ずっと貴方を許さないでいてあげます」

 

 そして告げられた。男の望むことばではなく、しかし男の望んだ帰結を。

 

「ち、チカ………?」

「……だ、だから……」

 

 事態が飲み込めずに惚ける男から目を逸らすように千佳が顔を伏せる。

 そこで気づいた。千佳は、いつの間にかまた耳まで赤くなり、未だ保っていた結合部の蠢きも再開していたというただの事実に。

 

「あなた以外、見えないくらいに、して……そうじゃないと、わたしは『戻ろうとしちゃう』からぁ……」

「〜〜〜〜っ!」

 

 言葉とともに再び交わされた視線で、男のモノが硬さを取り戻す。いつしかまた蕩けていた千佳の瞳が、掌からの温もりが、当初の男が望んでいた、今の男が最早望むべくもないと思っていたその言の葉が、互いの性欲に再びの火をくべる。

 

「チカぁっ!」

「んきゅぅっ!♡」

 

 男の剛直が、一気に最硬度を更新した。ムクムクという膨張の勢いが膣壁を拡げる感覚が、千佳の火種を燃焼させるふいごのように襲いかかり、たまらず嬌声が上がる。

 あくまで互いに「忘れていただけ」の快楽は、再燃を自覚すれば瞬きの間に燃え広がる。

 性器と性器が、己の役割をこれまで以上に認識し、ただ入れているだけだった男のモノの、硬直のギアを一息にトップに押し上げた。

 

ふに……

「んふぁ……♡ おっぱい、きもちぃ♡ んみゅぅ♡」

「俺もだ。チカのおっぱい、こんなに可愛らしいのに柔らかい」

 

 慎ましやかなふくらみを指先だけでやわやわと揉む。小さいながらも確かに女としての柔らかさを備えた千佳の双丘は、今や大きさに反比例する感度を備えるに至っている。頂点にあるさくらんぼを摘めば、それこそ容易に絶頂できるだろう。

 だが、男はそれをしない。千佳の壊しておねだりに理性は吹き飛びかけたが、ここでケダモノに戻ることは最早男の矜持が許さない。

 奇跡が起きたのだ。少なくとも男にとっては。あまりの都合の良さに、夢かとさえ思う。そして夢ならば、夢だからこそ、男は全霊を賭して千佳へと奉仕することを決めた。

 受け入れられたなんて思わない。それでも、それでもだ。

 

「見捨てもしない」

 

 その一言は、恐らくただ同情や好意を示されるより、よほど男の魂を震わせたのだ。その震えが、一歩間違えば両の瞳から溢れ出しそうなほどに。

 だが、溢れさせはしない。溢れさせそうな思いならば、それはせめてもこの奇跡を与えてくれた相手に還元すべきであり、自己満足でしかない涙という形で消費することなど許されないし許せない。

 猫が親愛の情を許した相手にそうするように、千佳の首筋に己の頬を這わせる。

 

「んぃ……♡ ふやぁんっ♡」

 

 髪が首筋をくすぐると共に、男の伸ばした背に連動する形で怒張が膣奥に僅か触れ、その甘い快感がかつての絶頂を千佳に思い起こさせる。

 漏れ出た千佳の可愛らしい仄かな喘ぎ声が男の耳朶を間近で打ち抜き、睾丸が己の領分を十全以上に発揮し始める。収められた刀の反りがより深くなり、その鞘は即座にそれに適応する。

 

「チカっ……声、もっと……!」

「きゃぅぅ……聞かないれぇ♡ こんにゃ声聞かないれぇ……♡♡」

 

 男の息遣いがこれまで以上に荒いものに変わっていく。そこに込められた熱もまた。それを耳元に感じて、千佳の声がより甘く、蕩けた色を増していく。

 おまんこはきゅうきゅうと男のモノを締め付け、その中に湛える愛液の熱も、男に感化されるように温かみを増す。

 反して、注迭は緩やかで、性器そのものへの刺激はそれほどでもない。

 

はむっ

「みゃぁっ!?♡♡ 耳たぶぅ……♡」

 

 代わりというように、男が千佳の耳たぶを唇で優しく食んだ。鼻息が鼓膜を撫でるように耳奥へと入り込み、脳を直接くすぐるかの様な焦れったさを覚える。

 男の口づけは、正常位で行える至るところへと及ぶ。このメスは自分のものなのだと改めてマーキングするように。もう逃さないと所有権を刻むように。

 

「きゃぅぁ♡」

 そのおでこに。

 

「んはぁ……んっ♡♡」

 その首筋に。

 

「ひぁ……♡♡」

 その鎖骨に。

 

「ん……♡♡」

 その両の腕に。

 

「あ……♡」

 その手の甲に。

 

「んゃぅっ!? しょこわらめぇ……♡♡♡」

 そして腕を挙げさせてその脇に。

 千佳の肌に伝う汗を上書きするように。

 そして千佳の双丘に八の字を描くように舌を這わせていく。

 

「あっ♡ ふゃっ♡ ぺろぺろぉ♡♡ きもち♡♡ ひゃぁん♡♡」

 

 舌先で緩急を加えつつ、男の舌の動きは次第に半径を狭めていく。思わず、千佳が期待を込めた眼差しを男に送るが、首をわずか持ち上げて見えるのは、男のつむじくらいのもの。表情が見えないことでそのタイミングが読めず、その焦れったさが千佳のステージをまた少しずつ引き上げていく。

 

「んぃっ……ふぇっ? んみゅっ、あはぁん♡」

 

 そして、男の唇が丘の頂点のさくらんぼを捉えた。しかし、その捉え方は先程耳たぶへ与えられたそれ。千佳が覚えている吸い付き、齧るような刺激とはまた違う、彼女を緩やかに昂ぶらせる一変した動き。

 

「んっ♡ にゃんでっ♡♡ ちくっ、じゅばん、らめっ♡♡」

 

 はみはみと、両の乳首を交互に含まれるたび、そのさくらんぼは男の逸物のようにコリコリとした固さを実に蓄えていく。

 少しずつ少しずつ。男の愛撫が千佳の興奮のかさを増していく。

 もどかしさから、おねだりするように千佳の膣肉が男を断続的に締め付けるが、男はそれをあえて無視する。

 

「んひっ!? んむっ♡♡ ……んちゅ、にちゃっ、れるっ♡♡♡」

 

 そうこうする内、男が千佳の乳首を唇で含んだまま軽く吸い上げ、陰圧を加えながら突然離した。その感覚は燃えると言うよりは、まるで千佳というグラスへ快感の一滴を注ぐような瞬間かつ小さなもの。かと思えば、それを意識する間もなく今度は互いの唇が重ねられ、差し込まれた舌が、もう何度か繰り返し慣れた動きで千佳のそれを絡め取る。

 これも、全く荒々しさとかけ離れた動きだった。千佳の舌を絡め取ってからは、むしろ千佳の舌が動くのに合わせてその動きを導くように。

 

「んちゅっ♡♡ れろっ♡♡」

 

 夢中になってしまうような深いキスが続き、いつしかダンスの主導権は千佳に移っていく。

 酸欠になりそうなほど、呼吸も最低限ながら、舌を舐り合うことだけは決して辞めないその動きは、千佳がチアノーゼになる寸前まで続く。

 頭がぼぅっとして、口から伝わる性感だけが互いの縁とでも言うように、ただただ続くだけの口内愛撫。

 先だっての激しさなんてまるで無いのに、身体の熱はもう先刻同様のものまで高まりつつあった。

 ぴちゃ……ぴちゃ……と連続する水音は、舌の動きであると同時に、確かに注がれていく快感の雫でもあった。

 千佳を落とすための、燃え上がる炎をくべて快感を叩きつけるようなセックスを、最大限に開いた蛇口で水を注ぎ、息づく間もなく溢れさせるようなものと例えるならば、今行われている行為は、一滴々々注ぎ込むことで、一つ一つの快楽を自覚させながら溢れるまで待つようなもの。

 絡み合う舌と舌がきもちいい。互いの境界が静かになくなっていくあの感覚が、より緩やかに、千佳の酸欠で覚束ない思考を埋め尽くしていく。

 

(溶ける……とけるぅ♡♡ 私とこの人がわからなくなってくこれ……すきぃ♡♡)

 

 強烈な快感で呼び起こされるそれより、今みたいな時間をかけたキスで蕩かされる感覚の方をお気に召した千佳の舌が、いまや男の舌を掴んでダンスのリードを始めていることに千佳自身は気づいていない。

 翻弄されるではない、時に互いに主導権が入れ替わるセックスが、お互いに「共にある」ことを強調する。

 そして千佳が思考を放棄しかけた時、男の舌が千佳の口腔から脱出した。

 

「んぇぅ?♡……はぁ♡はぁ♡……なんれ、はぁ……にゅくのぉ?♡♡……ひぁ……♡」

 

 いつかのように一瞬宙を彷徨った舌を納めれば、酸欠の体が酸素を取り込もうと息を荒らげさせる。少し眉根を寄せて、不満そうに荒い呼吸を繰り返す千佳は、完全に女の色香を放っていて、男が生唾を飲み込む。

 きちっ、きちっ、と音が幻聴できそうなほどに、二人の結合部はすでに密着の度合いを限度まで増していた。千佳のつるりとしたおまんこが、より太さと硬さを増した男のちんぽで貫かれている光景は、割とグロテスクとさえ言ってもいい。しかし男にとっては、これ以上なく健気で興奮する光景に変わりない。

 ここからは、男に再び主導権が委ねられる。それは、男が改めて千佳の体制を変えたことで示された。

 繋がったまま、男は器用に身体を正常位から後背位へと入れ替える。

 

「ゃあんっ♡」

 

 体勢の変化で、結合部に回転の刺激が加えられて上がる嬌声を敢えて無視した男は、千佳を後ろから抱きしめるような形で横になり、まだ腰を動かすことなく今度は腹より下を愛撫し始める。

 

「やぁ♡ くすぐっ……たい♡♡ んふっ♡♡ぁは……ん♡♡」

 

 名残惜しげに最後に乳房を人差し指と親指で軽くふにふにして柔らかさを楽しんでから、そことはまた違う柔らかさを持ちながらもすべすべとしたお腹の感触を掌で堪能する。くすぐったさに身じろぎすれば股間から仄かな刺激が与えられてしまい、まだややぼぅっとした頭に電気のような気持ちよさがピリピリと走る。

 

「チカのここも、いじってあげないと……」

「んひゅっ♡ しょこらめっ♡♡ ふひっ♡♡ ぁんっ♡ くしゅぐった♡あぁ♡やら♡♡うごいちゃぅ♡うごいちゃうかりゃぁ♡♡」

 

 そして次に狙いを定められたのは、千佳のお腹にあるちっちゃなクレーター。乳首とは逆のベクトルで可愛らしいその窪みに指を這わせ、おまんこの大陰唇を割り開いた時のように広げ、捏ね回せば、くすぐったさに身じろぎを止められない千佳から抗議の声が上がった。

 抱きすくめられたこの体勢では、へそから指を逃がそうとすれば、胸上よりも腰になってしまい、その動きがまたも千佳まんこにもどかしい刺激を与えていく。皮膚が必然的に薄く、下腹部に近いそこを弄り回されたことで、先端がその付近まで収まっている男のちんぽをより意識せざるを得ない。

 すでにおまんこをじゅぽじゅぽされることの気持ちよさを知った千佳の身体は、刺激そのものは快楽として甘受するものの、それでは足りないとばかりにより腰をくねらそうとしてしまう。

 

「んひぅ!?♡♡」

 

 その動きを察した男が、おへそを解放して今度はその腰へと手を回す。腰からお尻へと手を這わし、一度撫で上げるようにして、体型の割にぷりんとしたその臀部のお肉を持ち上げてすぐに離すと、僅かに弾んだ尻肉が男の下腹に当たりぺちりという小さな音を立てた。だがその音よりも、くちゃりという水音の方が大きく響き、千佳の喘ぎ声がそれに続くように放たれた。

 尻と男の体の隙間に手を入れられて撫で回されたことで、おまんこからちんこがやや引き抜かれたのだ。それはあくまでも千佳が知る平均値より遥かに小さな動きではあったが、それでも今のセックスが始まってからは一番大きな動きであり、おまんこからぴっと漏れ出すように、ほんの少しの潮が吹かれる。

 軽イキだ。まさかこんな弱い刺激で、と男は思うと同時に、千佳の確かな昂ぶりを感じて嬉しくなる。

 千佳というグラスに快楽の雫が着実に貯まっていることを確信し、更に男は掌を千佳の肌へ滑らせる。今度は体の前面へ。尻肉が動きに連れて撓み、菊門が仄かに外気に晒される。

 

「ひゃん♡」

 

 とうにそれも十分な悦として受け取る千佳だが、今更男は嬌声ひとつで止まろうとはしない。

 抱き込むような動きで掌を腰沿いに滑らせて、しかし肝心のおまんこには大陰唇にさえ触れずに、股関節の筋をなぞるように千佳の魅惑のふとももへと這いずりは進行する。

 

「んっ……なん、でぇ♡」

 

 身をくねらすほどのもどかしさが彼女を襲い、触れられなかった蜜壺から催促のような滴りがいや増す。

 しかし男はそんなことは知らぬとばかりに、千佳のふとももを堪能していた。

 

すりっ……すりっ……

「んひゅぃ……♡ りゃめぇ♡♡ せちゅないよぉ♡」

 

 もう、身を明け渡す準備が完了している肢体に与えられるじれったい責めは、肝心な部分に到らないが故に辛さばかりが先に立つ。無駄な筋肉はつかず、さりとて千佳の身体の中で最も女性的な肉感を持つ素晴らしいふとももを男は堪能しきり、その掌が膝に達する。

 

 それが、合図だった。




今度こそ終わりなので、続きはなる早で仕上げます
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