家に戻るとシャルがちょうど目を覚ましたらしかった。
彼女は擦り寄ってくると、耳元にむけてこうささやいた。
「わたくしの風紀、乱されちゃいました❤️」
なんだその今後の夜のお誘いの隠語にでもなりそうなワードは。
そんなことを話しているうちに、ナタリアがプレイの準備を進める。
ジータにめちゃくちゃにされるプレイは新鮮だったが、なにぶんそれで快楽を得たと言うよりは、その反発で快楽に浸ったと言う方が正しいわけで、攻め手のナタリアがどんな事をするのか、いまだに謎であった。
シャルを呼び出して少し話をする。
その間に双狐に捕まり、それを撫でていると、話が決まったようで双狐を引き離し、拓人を連れてベッドに登る。
少し不服そうなジータとジータだったが、シャルがその空いた空間を埋めるように正座で座ると、2人にも同じようにするようにいった。
一体これから何が始まると言うのだろう。
スズもそれに合わせるようにして座ると、ナタリアの番が始まった。
「んふふふ〜❤️」
愛くるしい笑顔を浮かべて、あぐらを組んだ膝の上に乗って首に手をかける。
お姫様抱っこのような体勢をとると、自然と拓人もそれを支えるようにする。
「ねぇ、たっく?これから私が出す質問に正直に答えてね」
そんな事を言われずとも、ナタリアからの質問に嘘なんてつけるはずがなかったが、とりあえずうなづく。
「私たちの中で一番料理が上手いのは誰?」
そんなのは決まっている。
ナタリアだ。
事あるごとにご飯を作ってくれるが、毎度凝っていて味も見た目も完璧なものを作ってくれる。
「ナタリアだろ?」
この時点ではなんのことだかよくわかっていなかった人も次の質問でなんとなくわかる。
「じゃあ、この中で一番付き合いが長いのは誰?」
スズ、ではなくナタリアだろう。
シャルのST科編入は後々だったし、ジータゼータは新入生、スズとは空白が10年ある。
となれば自然と創立初期からの付き合いであるナタリアが一番だ。
「…ナタリアだろ?」
「うんうん、そうだね、じゃあたっくのことを一番知ってるのはどうかな?」
と、このような調子で、回答がナタリアになるような問題を次々と出していった。
これから先何が起こるかを悟ったジータがそわそわしているがそんなことは御構い無しだ。
だが、拓人の口からナタリアという言葉が聞こえるたびに、正座組の表情は酷く苦しいものへと変わっていく。
「ナタリアだろ?なんだよ〜」
顔を支える腕に擦り付けるように甘えるナタリアに見ほれて、周囲に目がいかないのが余計に、正座組の嫉妬の炎を燃やした。
最初のスズとの情事を見ていた時は、我慢できたシャル達もこんな風に見せつけられてしまってはたまったものじゃない。
だが、ナタリアは正座組がムキになればムキになる程、優越感に浸り機嫌が上がっていく。
「じゃあ、この中で一番好きなのは?」
「えーナタリアかなぁ」
ついに拓人の口から、口外が避けられていた禁忌の言葉が飛び出る。
もちろん、雰囲気に流されて、そう言うであろうなと、狙ってでた言葉とはいえ、ナタリアがあまりにも魅せつけるように甘えるものだから妬ましいものに聞こえる。
ジータゼータにはよほど効いているのか、歯を食いしばって今にも食ってかからんとする勢いだ。
「俺ナタリアめっちゃ好きじゃね?」
不意に拓人がそういった。
シャルの顔にも戦慄が走る。
「いや思い出せば出すほど恥ずかしいんだけど」
拓人の脳内には過去にあった様々なナタリアエピソードが蘇ってくる。
「マジで独占欲全開かよ、俺めっちゃ恥ずいわ」
勝手に顔を赤らめ、内心の告白を続ける拓人にナタリアはニヤニヤしている。
当然、それに比例してシャル達は握る拳に無意識に力が入っていき、歯を食いしばった。
(おーおー、最初の時からなんとなくわかっておったが、ナタリアはこういうタイプなんじゃのう)
多少羨ましく思えど、スズはその他3人に比べて冷静だった。
なんとなく見惚れていたのだと思う。
自分の好きな人はかっこいいと思ってるし、ナタリアは拓人の言う通り美しい娘だ。
まるで神話の目撃者にでもなったような、そんな気分だった。
スズはさておき、何人もの女性から求愛される彼の寵愛を一身に受けるナタリアは自慢げにその思い出を口に出していく。
「あー、私が放課後お見合いがあるって言った日とかね」
「やめてー」
あれは酷かった。
拓人はそう振り返る。
あれ最高に可愛いかった。
ナタリアはそう振り返る。
放課後、予定通り断ることになるであろうお見合いの席に向かう足取りを、急に引き止められる。
『………この手はなぁに?』
何かと思って振り返ると、ナタリアの服の裾を拓人の手が握って離さない。
『え゛っ……えっと、なんでしょうねーあははー』
自分でもなぜこんなことをしているのかよくわからないと言いたげに、なんとなく笑って誤魔化そうとするが手を離す様子はない。
『……大丈夫だよ、断ってくるから』
その手の意味がなんとなくわかったのか、ナタリアはそう言って拓人の頬を撫でる。
『い、いや、べ、別にそんなんじゃないけどね、だって告白は断ってるわけだし?俺にそんな権利ないわけですし?』
珍しく必死になって取り繕う彼の様子は、ナタリアのネジをぶっ飛ばす要因に十分になり得た。
というか、ほとんどこれがきっかけでナタリアがストーカー化したと言ってもいい。
ナタリアの思考能力が高かったことや相手を思う気持ちが強かったこと、少女漫画や恋愛小説が好きだったことなどが複雑に作用して拓人つきまとうまさに嫉妬に狂った蛇のようになってしまったのである。
つまるところ、彼女は超絶圧倒的な一途性純愛者だったのである。
今も垣間見える理性を超えるほどの排他性を行使してしまうのは、彼に受け入れられることのない自分を保護する精神的働きに他ならない。
彼女が偏愛を拗らせたのは拓人のせいである。
『ナタリアさんは貴族の家柄だから、相手も当然位の高い人になるわ。断るのに顔も見せないと世間体が悪いのよ』
雪乃の囁きもあってかなんとか手を離した拓人がナタリアに言い放った言葉がこちら。
『いかないでよ』
この言葉が聞こえた瞬間、ゾクゾクとしたものがナタリアの背中をかけていく。
ことごとく躱されてきたアプローチの失敗を全部帳消しにできるような、そんな幸福感が彼女を襲った。
というか、わかったのだ。
秋田拓人という人間の自制の強さが、無意識にまで染み出す独占欲から生み出されているということが。
だから当然、いつもならアプローチしていたナタリアが自分を置いて別の男に会うと言う、普段と反発した事象においては、自制と反発する独占欲がなによりも先に前に出て、彼女の足を止めたのだ。
ちなみにソッコー家に電話してお見合いはキャンセル、拓人に求められたことが嬉しすぎて次の日の朝までずっと巻き付いていた。
「思えばアレからナタリアががっつり来るようになったんだよな」
2人が感慨深く思い出に浸っていると、事情を知らない正座組が恨めしそうに見えるのが、やっと拓人の目に入った。
「うわっ」
ナタリアの番なので特に何も言わないが、マジで戦闘時の殺意に似た何かを感じる。
その時なんとなく拓人もナタリアがしていることに気がついたようで、ちょっとうなだれる。
自分が言った言葉と、現状がどれだけ酷い結果を呼ぶものか、なんとなくわかっていた。
「ナタリア…これは…」
少しうろたえた彼の様子に、ナタリアは強い語気で答える。
「プレイだよ。煽りプレイ」
これ以上ないほど激しく燃え上がっているのに、それをさらに煽いでどうするつもりなのか。
まさに火に油を注ぐとはこのことである。
小一時間ほど問い詰めたかったし、まさかナタリア好きって言っただけでこんなにも大変なことになるとは思いもしなかった。
実際はその発言だけでなく、ナタリアの魅せによる効果も大きかったのだが。
「いいんだよ?たっくが言ったのは全部事実なんだから。それに私が好きでもみんなが嫌いになるわけじゃない、でしょ?」
主要な“一番”という部分を抜かしていたが、拓人はあわてて気づいてないようだった。
それはそうなんだけど、と不服そうに引きずるが、強引にキスで塞がれる。
「というか、みんなの時もそれぞれやってたじゃない。私にもその自分だけアピールさせてよ」
そうだったか?拓人が自分のものアピールするのは多かったと思うが、唯一拓人を自分のもののように扱ったのはスズだけだったような気がするが果たして?
「え、いや、うん?そうだったかな」
いったー!誤魔化されたー。
考え事をしている時に駄目押しをされるとさっぱりわからなくなったのか、よくわからないけど多分そうなんだろうとあまりいいとは言えない納得の仕方をしてしまった。
それにしてもジータゼータの獲物を狙う獣のような鋭い眼光と、食いしばりむき出しになった牙は、今にも我を忘れて飛びかかってきそうである。
そんな中でも行為は平然と続行された。
愛らしさ全開でキスを求めてくるナタリアに少し困惑するが、本人の言う通りならこれに応じてもきっと大丈夫だろう。
不安を微塵も感じさせないナタリアの態度から、なんとかなると思ったのかキスの連弾に応じることにする。
なんというか、ナタリアらしい甘え方ともいえる。
本当に絵に描いたような美しさを持つ彼女と、こうして触れ合っているだけで、まるで自分が映画の中の登場人物にでもなったんじゃないかと錯覚してしまう。
今はこの朦朧とするような甘ったるい快楽に溺れてもいいという気さえする。
熱く燃えたぎるような情熱的な彼女の求愛は、答えれば答えるほどに勢力を増していく。
愛おしくてたまらない。
だんだんとナタリアの熱が伝わってくる。
重なる唇、交わる指、触れ合う場所全てから、どんどん安心が流れ込んでくる感じがする。
一瞬嫌な思いがよぎったからか、その安心はいつも以上に心地の良い癒しに感じられた。
「ふふ、硬くなってきたね」
ナタリアを下から持ち上げるようにして、かの肉の柱がズボンにテントを張っていた。
あっという間にずぼんをめぐり窮屈そうにしていた肉棒を取り出すと、拓人に背中を向けるようにしてまたがった。
観客を意識したダンサーのようなポーズをしながら、拓人の体に淫美に絡みつき、早速挿入の構えを取る。
「私たちって相性いいよね」
「…それは………そうだな」
改めて口に出されると、彼女たちの前では肯定し難いが、彼女とは非常に相性がいい。
それは先日から始まった体の関係に限らず、戦闘や私生活においても、幼少から長い年月を共にしてきた雪乃に負けず劣らずの連携ができる。
今まさに2人は心も体も繋がったパートナーと呼べる。
だが、それを大きく肯定してしまうことは、今散々その片鱗を見せつけられた彼女たちには残酷なことである事がわかっていた。
だが、完全にナタリアによって支配されたこの場で、NOということもできまい。
事前にどんなことをするか教えられていたシャルの胸にも、痛みが走る。
ジータやゼータも同じだった。
わかりきっていたことを、こんなにも満遍なくむざむざと見せつけられて、改めて自分たちとの差をわからせられるのは辛いものがある。
別に寝取られているわけではない。
全員が同じように愛されているのだから。
でも、そこには確かな壁と幅があったということを認識させられた。
プレイ参謀として、ゼータをけしかけ、自身はかなりマウントをとったプレイをするジータに至っては悔し涙を流すほどであった。
「ふふん♪」
それをオカズにと言わんばかりに、笑顔のままナタリアはあの逸物を受け入れた。
あの巨大な刃渡りの肉の刀を、まるで専用に作られた鞘のようにぴったりと飲み込むナタリアの体。
どこまでも魅せつけてくる。
ナタリアの中は相変わらず暴力的な性感のユートピアだった。
だが、すぐにいってしまうわけにはいかない。
ここですぐにイってしまっては、ナタリアへの返事が確信的なものになってしまう。
みんなの面目を守るためにも、平等な愛を貫くためにも、もう遅い気がするがまだ負けられない。
自分の上でシャルたちに魅せつけながら体をくねらせ、屈伸で肉棒を出し入れする彼女の胸に手を伸ばし、興奮で硬くなった乳首を掴む。
「あひっ❤️んもぉ、なに?急にヤル気〜?」
「ナタリアぁっ…くそっ調子に乗りやがって…」
「でも好きでしょ❤️」
完全に思考が把握されている。
気持ちいいのが相まって、全然考えがまとまらない。
「ほら、いいんだよ?いっちゃえ❤️」
それなのにナタリアの腰使いはどんどんレベルアップしていく。
ただ上下への運動だけでなく、グラインドや前後運動も加え、どこからでも攻めてくる。
亀頭に吸い付いてくる子宮口がものすごく健気にアピールしてくるものだから、すぐにでも出しそうになる。
こんな時こそ、過去様々な体験から経験則で今活かせることを考えよう。
①ハンサムな拓人は起死回生の逆転方法を思いつく。
②シャルたちが参加して助太刀してくれる。
③やられる。現実は非情である。
個人的には一番を期待したいところだが、こんな快楽にさらされている状態じゃ、思考だって限界が…
いや、そうだ!師範代!
雪乃の母親でもあり、拓人の通っていた武道館の師範代である斑目雪那なら、こんな時に何か役に立ちそうなことを言っていたかもしれない。
『逆に考えろ。負けちゃってもいいさ、と』
いや、それ試合前の緊張しなくなる方法やつー!
これじゃあ股間を硬くする緊張からは逃れられないんだよーっ!
…待てよ?いいじゃないか。
ナタリアとの相性は完璧。
それなら、拓人が絶頂を迎える時、必然的にナタリアも同時に絶頂するに違いない。
自分もかなり背水だが、そこは皮肉にもナタリアが妬む狐っ娘達で鍛えた持続力と回復力で、乗り越えていくことにしよう。
「ふ、ふふふふ、わかるぞナタリア、完全に俺のマウントを取ったつもりだろうが、俺だって言わせっぱなしにはできない意地があるんでなぁ!」
そうだ。
確かに相性は抜群だ、否定できない。
でもそれを誰かに自慢したり、それで優越に浸るのはちょっと違うと思う。
でも、彼女を否定したいわけじゃない。
だから、真摯に受け止めたい。
絡みつく彼女の手を掴んで、一気に奥まで突き上げる。
「んっ……ぐ……ぉ❤️」
「くぅっ……」
意識が融解するかのように、熱い蜜と濃厚な柔肉が入り乱れる雌穴で、まるできりもみされるような激しい快感が襲ってくる。
チカチカと目がくらみそうな愛情に浮かれる心をおさえこみ、快楽に落ちていくナタリアの体を引き寄せる。
誰の心にだって、独占欲はある。
今の自分だってまさにそうだ。
目の前で歯をくいしばる彼女達に、自分が他よりも愛されていることを証明したい、それを否定するどころか、どこか喜んでしまっている自分がいる。
だからこそ、それを伝えなくちゃあならない。
もう十分すぎるくらい特別だってこと。
「ほら、ナタリア、惚けてる場合じゃないよ。俺の特別が欲しいんだろ?俺の特別だってみんなに見てもらうんだろ?」
無邪気と呼ぶには妖艶すぎるその返答を聞くや否や、ナタリアの左手首を掴み上げ自分の口元に持ってくる。
酷い執着心もあったものだ。
「これ以上は今はあげられないから、これで許してくれ」
まるで自分への免罪符のように呟いて、彼女の薬指に噛み付いた。
「っ…!?」
突然の痛みに驚いて、拓人の口から出てきた指を見てみると、くっきりと彼の歯型がついていた。
ナタリアはそれの意味に気づくと、すぐさま身悶えて絶頂した。
(こ、これって婚約指輪ってこと!?)
イキ際の幸福そうな笑顔が印象的だった。
力なく倒れこみ拓人に寄りかかると、再びキスをねだった。
そこでアラームがなる。
ナタリアの番終了というわけだ。
絶頂の余韻に浸る彼女の唇を塞ぐと、腰を跳ねさせ再びアクメをキメたようだった。
「ごめんね…、嫌だったでしょ?」
ナタリアがそういった。
「ナタリアの気持ちもわかんなくないから止めなかったけど、嫉妬させた分はちゃんとケアしてあげないとね」
そういって泣きべそをかくジータを呼ぶ。
彼女はいつものような小生意気な様子は全く見せず、ただ子供のように泣きじゃくり、拓人に迫った。
ナタリアを左手に抱えたまま、右腕で泣きつくジータの頭を抱き寄せ撫でてやる。
「ごめんなさい、やりすぎちゃったわね」
ナタリアもさすがの様子に大人気なかったと反省したのか、彼女の方をさする。
「いえっ…いいんですっ!お二人が正式な奥さんですから…、私たちは出過ぎた真似は……うぅっ…」
するとナタリアは不思議そうな顔をする。
「なにたっく、この娘達は娶らないつもりなの?」
「…俺が放っておくと思う?」
わかりきった回答だ。
「じゃあ正式もクソもないわよ。私たちみんなたっくのお嫁さんになるんだから、上も下もないの。ただちょっとやりたかっただけ。ごめんね」
ナタリアの言葉に少し戸惑いを見せるが、彼女がジータの頭に手を乗せると人懐っこく頬ずりしていたところを見ると、どうやら許してくれたようだ。
「たっくも嫌な思いさせちゃったかな」
「……否定できなかっただけだから、全部俺のせいにしとけばいいよ」
「はぁーっ!終わった終わった、お前様もやり尽くしたじゃろ!」
亀裂の入った張り詰めた空気を粉々に叩き壊すような覇気のこもったスズの声が響く。
「スズさんは平気ですの?」
「面白い余興じゃったぞ」
ある意味スズが一番怖いかもしれない。
なんかこう、自分は別に一番じゃなくてもいいという思いとナタリア達の態度が対比されて、正妻の余裕のようなものを感じる。
どんなに汚れようと最終的に自分の側にいればいいみたいな、世紀末覇者のような風格さえ感じられる。
「お詫びといっちゃなんだけど、今日は私がご飯作るね」
そういってナタリアが立ちあがり、部屋を後にしようとするやいなや、全員が飛びかかってきた。
「うわっ」
「旦那様ッ!」
「拓人様っ!」
「お前様ぁ〜!」
はい、予想通りといえば予想通りなのですが、やっぱりこうなりました。
フカフカのケモ尻尾やらぷにぷにの肌触りとかがいっぺんに襲いかかってくる。
皆が抱きついてくるのを支えている間も、ジータはずっと拓人の首筋を舐め続けていた。
くすぐったかったが、さっきのこともあるし拒む必要もなかった。
皆をなだめているうちにナタリアがご飯を持ってきてくれ、ベタベタされながら食事を終える。
食べにくいからせめて1人にしてくれ。
そんな都合のいい言葉が言えるわけもなく、夏休み始めの7日間、E区での日々は終わりを告げた。
「あーあ、明日もう帰っちゃうのかー」
「なんだかもったいない気はしますわね」
シャルとナタリアはそんなことを言っていた。
「そんなことそのうち言えなくなるぞ。俺この辺に住みたいし」
このまま卒業して、結婚したら、戦いにじゃなくて普通に平和に身を置きたい。
たしかに技術を学んで実力はついた、それでも、あの耐え難い苦痛はもうこりごりだ。
傷ついた仲間を見るだけで、敵の考えや背負う思いも全部無視して煮え繰り返るはらわたに抱える黒い思いを吐き出したくなる。
それどころか、もし失ってしまうようなことがあれば、敵味方なんて関係なく邪魔するものすべてを消したくなる。
こんな情にもろいやつが、どれだけシビアになったって長くは続かない。
それなら、自給自足と内職やギルド登録でモンスター狩って、ゆるーく生活するのも悪くないだろう。
「はっはっは!お主ら、今は楽しいかもしれんが住んで見ると都会の騒がしさが恋しくなるのではないか?」
「スラム街に今借りてる部屋はそのまま残すつもりだよ。移動させるとA区存続に関わるような機密書類もいっぱいあるしね」
というか、あの部屋に術式設置しておけば、いつでもA区に移動できるため、固定の活動拠点は残しておくべきだろう。
アクセルターンの正しい使い方である。
つまり、A区には好きな時に戻れる。
「さぁ、もう寝ようぜ。今日は疲れた」
「じゃろうな。で、今日は誰と寝るんじゃ?」
「………みんなで寝たらいいじゃん」
こうして秋田拓人のすたれた1週間は幕を閉じた。
朝から飯と帰る準備で忙しない。
「早いもんで、もう帰っちまうのかい」
ご飯を急ぎ目に食べているとおじいちゃんとおばあちゃんがやってきて別れを告げる。
「まぁ、卒業したらまた来るよ」
拓人にとってはあまり気にならなかったようだが、久々に孫の顔が観れたのがよほど嬉しかったのか、あまり顔も合わせなかったのに喜んでいた。
「じいさん、ひ孫の顔拝めるかもしれんな」
そう言っておばあちゃんが笑っている。
女性陣は少し考えたが、拓人は笑ってごまかした。
そしてご飯の後片付けも済ませ、全員が出発の荷物をまとめた頃。
「んじゃあ、帰るわ」
「はい、気をつけて帰りなさい」
「お世話になりました」
皆が歩き始めた時、スズだけが立ち止まって振り返る。
見送るおじいちゃんおばあちゃんが手を振る。
スズは大きく頭を下げた。
そして、少し離れた一行にかけていく。
青い空には夏の始まりが映し出されていた。