俺の初めてのエターナルとの殺し合い。その幕開けを奪ったのは敵側、タキオスではなくントゥシトラだった。
業火のントゥシトラ。
それは「永遠のアセリア」本編におけるラストミッションに登場する立ち絵も存在しなかったエターナルの一人。本編において話の内容そのものに関わってくるのがロウ側からはテムオリン、タキオス、シュンの三名だけなので残りのメダリオ、ミトセマールと共に、戦闘時以外にセリフをもらえなかった存在でもある。ならばその彼? 彼女? とりあえずントゥシトラがどれくらいの強さを誇ったのかというと。
そこまで目立ったものはない、という他ない。
例えばメダリオ。彼に関してはPS2版で得た100%流転というネタ技がある分マシと言えるのだが、ントゥシトラ、及びミトセマールにはそんなものは存在しない。つまり、ネタにもしづらい存在……せいぜいがントゥシトラの、剣の意思を己の意思と勘違いしているお茶目なところ程度しか、ネタとして扱える部分すらない存在なのだ。
だが、それは弱いということではない。
技の説明欄を見る限り、テムオリンが直々に勧誘を行ったというントゥシトラ。その時点で強いだろうことは想像につくし、そうでなかったとしても歴戦のエターナルであるというだけで俺よりも十分に強い。その力は、まずいくら気を抜いていた、しかも若輩である俺が相手ということを差し置いても、制空権を取るためには飛行にマナを行使する必要があるのだからその行使を誰にも気づかせない、というだけで十分にその実力の高さが理解できる。
そんな彼が契約している永遠神剣の名前は「炎帝」。特別な能力と言えるのは名前からわかる通り炎に長けている程度。けれど、基本的にはそれで十分。シンプルイズベスト。たったそれだけで、彼はエターナルとして名を馳せるだけの実力を持っている。
「シュルルルルッ!」
俺には理解できない言語を口など存在しない図体から放ち、単眼で瞬いた。王冠型という、俺にとっては最もやりやすい、特殊能力が強いパターンの永遠神剣。たとえ歴戦のエターナルであろうともその能力が俺に直接作用するものである限りは通用しないという「星辰」の守りに、諸に引っかかってしまうパターンの相手だが。
その攻撃が、俺を中心とした半径五百メートルの空間そのものに対しての爆撃であれば話は別だ。
ントゥシトラが瞬いた直後、無数の目玉がその空間を制圧するように出現したことを目視するよりも早く、空間に満ちたマナの震えを感じ取って全身をめぐる血流にこれまでにないほど「星辰」の粒子とオーラフォトンを流し込む。流し込まれた人体にとって特異な物質の影響で、俺の体がこれまでにないほどに力強く、そして淡い黄金の光に包まれた。そうして「炎帝」の攻撃に対する防御行動を取り終えるまでにコンマ数秒すらかからない。その動作を終えて今回の戦いで最も注視するべき、空間操作、瞬間移動の能力を持つ「無我」の担い手。ロウ・エターナルの中でも屈指の実力者であろうタキオスの動きを見ようとしたところで
このアガスティアにおいてはエターナルも普通の人間と同じようになっていることを思い出してその場から飛び退いた。
アガスティアではエターナルも空腹に陥る。睡眠を必要とする。ならば
「甘いぞっ!」
そこに、空間操作の妙を知り尽くしたタキオスが出現していた。今この瞬間にントゥシトラが爆破を開始しても空間操作でタキオスの表皮には絶対に届かない。そんな、絶大な距離が開いていた。驚きを隠せていないだろう俺の間抜け面は、しかし目の前の戦士には関係がない。大上段からの振り下ろしを、この極大の鉈でよくもまあこれほどの速度を出せるものだと、驚愕に塗れた思考の中の空白に呆れを混じらせて。もはや反射の域で拳をその正面から叩きつける。空間を削り取る一撃、それが削った空間を殴り砕くことで元に戻し、叩きつけられる歪みすらもそのままの勢いで殴り飛ばして消滅させるが、タキオスの力は絶大で、ぶつかり合った瞬間に弾かれて今一度爆殺空間の中心にまで叩き戻された。
「ちぃっ!」
もう一度飛び上がっても叩き落とされるだけだと、すでに臨界点を突破しかけていつ爆破が始まってもおかしくはない空間にて拳を組んでダブルスレッジハンマーを地面に向けて放つ。「星辰」によって阿呆みたいに強化された身体能力がオーレルア国の王都に近い森で解き放たれ、大規模な地震を発生させる。それと同時に殴りつけられた地面がいくつもの極大の土片を舞い上がらせながら砕け散っていく。地面に入った罅に足を突っ込んで無理やりに持ち上げる。両足を同時に持ち上げたことによって俺の体が重力に従って地面に沈んでいき、それと同時に足によって持ち上げられた岩片が俺の体を守るように盾として俺の周囲に展開される。蹴りと拳によって作られた即席の盾たちは、俺の肉体に触れたところから俺のオーラフォトンが流れ込み、最低限の盾としての役割はおそらく果たせると思う。問題は酸素だけだがーーー
「ふんっ!」
さらに砂を自分の体の上にばらまくように。「星辰」の力で撒かれた砂つぶは驚異の力で投げられたことにより滞空時間が長い。そしてそれら全てにオーラフォトンが宿っていて。俺が砂を撒いた空間とントゥシトラが放つ爆炎の空間は、確かに区切られた。そして、その砂が撒かれたのは俺のいる場所の真上。俺が砕いたことでできた穴を覆うようにして岩片などと合わせて展開されている。俺が沈んだ空間が、そのまま
「一気に滅ぼす……!」
直後轟いた爆発は砂の壁に遮られ、そしてその爆風に乗って砂の壁は散ってしまう。そうして敵手二人が俺の姿を視認できるようになるまでに、俺が二人の姿を視認できるようになるまでに。その僅かな空白の時間に「星辰」をアガスティアに来て見つけた使い方を実行する。
心臓から全身に回している「星辰」の粒子を、己の両の手のひらに集めていく。体全体に行き渡るべき強化の証を己の両手のひらに全て収束させる。全身を包んでいた淡い黄金の光が、重ねられた光の束となって白銀の光の柱に変貌していく。マナ感知でントゥシトラの場所を確認して、殺しきれていないと理解してフレイムシャワーによる爆撃を開始した彼に狙いを定める。
まずは、
「ンシュルルルッ!? グシュウ……!?」
ントゥシトラの末期の悲鳴が轟く。この一撃を受けた以上は確実にこの時間樹に顕現しているアバターは必ず消滅する。
光の柱として放たれた、心臓から生成され両の手のひらに集められた「星辰」の粒子。一時的に心臓から生成された全てを一点に集めるために使用直後は身体能力も普通のエターナル程度にまで落ちることは確認済み。けれどこれをしないと状況の打開はできなかった。そんな、俺の切り札にして、唯一の「星辰」単体の、砂、岩などの道具に頼らない遠距離攻撃手段。
放たれた光の柱を浴びたントゥシトラの体に「星辰」の粒子が入り込んでいく。血流に乗っていく。けれど今の「星辰」のオーナーは俺で、ントゥシトラでは断じてない。よって、その粒子が記憶している俺の肉体に、入り込んだ肉体の持ち主であるントゥシトラを作り変えようとして、内部で強制的な変貌が巻き起こる。「星辰」と契約していることが唯一の生き残る道であり、そしてそれは俺以外には不可能な代物。とても恐ろしかった。この事実をーーー
「星辰」は、一度契約すると二度目以降の契約の時には一人目の契約者の肉体に強制的に作り変える、なんてことを知ってしまった時には。
この技はエターナルを相手にしたらまず確実に殺せる。そもそもが自己の、保存されている概念情報を書き換えるというエターナルの成長方法。それに介入して強制的に概念情報を己のそれと同質のものに書き換えて第二の自分として生まれ変わらせる。この時点で大多数のエターナルが、通常の成長でも『確固たる自分の定義』を認識する術がなければ己を構成できなくなるという法則に逆らえず、術を持っていてもそれを使用することができずに一時的に戦える状態ではなくなる。そしてそれに耐え切ったとしても、今度は「星辰」による特殊な強化がない状態で「星辰」が肉体に入っているわけだから体が耐えきれずに破裂して死ぬ。これは、永遠神剣に関わらない素の身体能力で山河を砕けるレベルでないと耐えきれない。
だから、誰が相手であろうと死ぬ。
欠点は、今みたいな二連戦となると、二戦目で全力を出せなくなること。正直、今も貧血に近い症状が出ている。「星辰」の粒子が足りていない。
つまり、この状況で
ーーーあるいは、ノワールたちにも何かあったのかもしれない。
そう思うと速く帰らないといけないという思いも湧き上がってくるが、だからと言って背を向けてしまえば確実に殺される。今は、普通のエターナル程度の身体能力しかないのであるのだから尚更に。回復までにかかる時間は十分弱。それだけの時間をどうにかして稼がないといけないのだ。
「やれるか? ……いいや、やらないと……!」
体の中で新しく生成され始めた「星辰」の粒子を感じながら、戦えるようになるまでの果てしない時間を、ただ嬲られるだけの十分間が開始した。
今回の光の柱くんを書いてて、これは相手の肉体を自らの肉体で上書きしようとする、ある意味では陵辱のようなものなのではと思い始めた。……つまり主人公の初レイプはントゥシトラ。業が深いなぁ……