※この作品はR-18です。

星の巡り主   作:ぴんころ

13 / 24
240年目

 二百年。ノワールたちがテムオリンに殺されてからそれだけの時間が過ぎた。

 

 あの後、俺はアガスティアをすぐに出てテムオリンを探す旅に出た。なんでノワールたちを殺したのか、それを問い詰めて殺すために。かつて共に遊んだ……というよりもあいつが俺を玩具にしていた時に、個人的には友情を感じていた。そんな相手だから敵同士とはいえわずかに気を許していたのかもしれない。けれどそれが間違いだったことを、あの時にようやく気がついて、そうして出た旅の中でも

 

 未だに一度もテムオリンに会えてはいない。

 

 あいつがあの時にノワールたちを殺したのはどういう理由だったのか。知ったところで許せるわけがないが、俺にその想像を許すほどの痕跡すら残さずに、ただノワールたちを殺害したという結果だけを残したテムオリンは、あの殺戮以来全く動きがなくて不気味だということを別のエターナルから聞いた。

 

「クソがっ……!」

 

 悪態の一つもつきたくなるというもの。もうすでにロウ、カオスを問わずに何人ものエターナルに接触した影響で、両親にも俺の大体の居場所を知られてしまった。ここまでバレなかったことの方が異常なのだと言われればその通りなのだが、まだ捕まるわけにはいかない。少なくともテムオリンに会うまでは。ああ、そうだ。役割を放棄していると言われればその通りだ。父さんたちはその役割のことを知らないから、そちらに関しては何も言わないだろうけど、それでも出会えば家に連れ戻される。それだけは回避しないといけない。

 

 だから、今日もまたどこかの世界に一時的に身を隠す。

 

 降り立った世界で拳を振るう。いくつかの世界で武術に関する本をパクったまま”渡り”をしたから、すでにこの本はその店に仕入れられなかったことになったか、あるいはどこかの誰かが代わりに犯人として逮捕されてくれているだろう。そんな、表には出せない方法で得た本の知識で、俺は今日もまた武術の練習を行う。仮想敵はタキオス。あの男を突破しないことにはテムオリンにまでたどり着けない。

 

「ミラ・レインだっけ? この世界の名前」

 

 ああ、そうだ。そういえば思い出してきた。この時間樹の名前、確か父さんがローガスと初めて出会った世界と同じ名前。……いいや、違う。この世界は同じ名前なんじゃなくて、まさしく父さんがローガスと出会った世界そのもの。つまりは身重の母さんと、身重だとは知らなかったとはいえ一緒に戦っていた世界だ。ここは内部世界の枝分かれが激しすぎてそう簡単には見つからないだろうと思う。そう過信して、エターナルというアガスティアのような特殊なルールが働いた世界でもない限りは人間が生きるために必要な食べる、寝るという行為の必要性が存在しないこの肉体を頼りに、武術という概念に触れていく。食事も睡眠もただの嗜好品だ。気分転換程度で問題ない。

 

「まあ、最低限雨風を防ぐための掘っ建て小屋程度は作る予定なんだけどな」

 

 さすがに、元日本人として風呂は欠かせない。身を清潔にするだけのものとはいえある程度、本当にある程度ではあるがこだわる。以前こだわりすぎたせいでそれを作るのに時間をかけすぎて、そのせいで修行を全く行えずに去ってしまうことになった世界もあった。なので本当にある程度で。

 

「あー。そういや昔姫さんの裸を覗こうとかいう思春期男子じみたこともしたなあ……」

 

 約二日。眠ることもなくそこら辺の木を手刀で切り飛ばして作った小屋とその内部に存在する風呂を見て、この二百年である程度心の整理ができてきたのか、昔のことを思い出す。まだ楽しかった頃のことを。

 

 確かあの時はどっちからかは忘れたけれど『男子高校生の修学旅行の夜といえば女子風呂覗きだろ!』と言って神剣の力まで使って覗きに行った覚えがある。最終的にはノワールがリルの裸を夢想したことで鼻血を出して気絶して、結果バレないように撤収するのに苦労したんだ。

 

「もう、あんな馬鹿もできないんだよなぁ……」

 

 今更になって、ノワールの死体が存在していた違和感に気がついても遅い。アガスティアを出てしばらくしてから気がついた違和感はスピリットであるノワールの死体が残っていたこと。スピリット、ミニオン、神剣使い、エターナル。その全てがマナ存在であるために、死んだならマナの霧と化すのが道理。それなのに肉体が残っていたというのはつまり、あれはノワールの服を着た誰かであった可能性もあるということ。ノワールが生きている可能性が潰えたわけではなかった、と”渡り”をして全てを忘れ去られてから気がついた。

 

 だから、もう二度と行われることはない。

 

「……ちょっと休憩するか」

 

 思い出して辛くなってきた。少し休んで心を落ち着けよう。簡易的なベッドの上に寝転んで、けれど目は冴えたまま。今も、幸せだった頃を悪夢として見てしまう。だから、眠ってしまえばきっと心は休まらない。忘れてはいけないものだと気がついているが、かと言って心を落ち着けるにはそのことを考えないほうがいい。

 

「二百年。……二百年かぁ。ユーフィーもさすがにもう、まともになってくれたよな? 多分、父さんたちがまともにしてくれたよな? そうじゃないとテムオリン倒しても怒られる以外の理由で帰りたくなくなるんだけど……」

 

 だから、全てが終わった後の、実家に戻った後のことを軽口として、独り言として言う。それに返答してくれる誰かがいないことを悲しく思いながら。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 翌日、今日も今日とて闘気を練り上げ、マナを練り上げ、「星辰」の粒子を限界近くまで練り上げて。それらを全て同時に拳に乗せて、足に乗せて、身体中のありとあらゆるところへと使う瞬間にのみ送り込みながら、武術へと触れる。

 

 テムオリンと会うには、よほどの幸運がない限り彼女の配下と戦った後ということになる。そしてそれはつまり、確実に敵としてみなされるということ。以前、あの花畑で出会ったような奇跡はもう二度と起きはしないと考えたほうがいいだろう。

 

「…………」

 

 だから、出会った時に揺らがないように、己の内側にてテムオリンへの殺意を漲らせる。法王テムオリンと出会った時に、自分の友人だったテムと混同してしまわないように。純度を高め、黒色の殺意をより暗く、昏く。己の心を殺意の沼へと落としていく。しばらく休んだから、心は落ち着いている。ただ純粋に、彼女を殺害をするためだけに己の拳を鍛え上げていく。殺せるだけの力を手にしておかないと、会話に持ち込むことすらできはしない。まずは一度殺してから、話をするのはそれからでもいい。……いや、殺したら多分次からは逃げられるからダメだけど。とりあえずはそれぐらいの気概を持って。

 

「そういえば、今の俺なら”俺自身が剣になることだ”的なこともできるのでは? 手刀で木を切れたわけだし」

 

 けれどそれは隠す。これから先、いくつもの世界を回るのだ。それらの中でテムオリンの情報を集めるのであれば、ある程度は社交的な顔をできるようにしておかないと情報を得られないかもしれない。だから、本当に必要な時以外はこの殺意をひた隠しにしなければならない。

 

「って、そろそろあの日か。……なら一旦向こうの世界に行かないとダメ、だよな」

 

 三百六十五日。日本人だった頃の名残として俺の中では一年の区切り。俺の時間換算ではそろそろアガスティアを旅立ってから……つまりリルが殺されて、俺がノワールと最後に出会った日ーーーノワールが死んだかどうかはわからない、とは言ってももう寿命も尽きているだろうしーーーから二百年目になる。毎年、時間樹ごとの時間の流れの差があるので結構当日からは日数がずれることにはなるが、それでも墓参りには行っている。

 

「よし、行くか」

 

 最低限の荷物を整える。もう二度とこの世界にやってくることはない。父さんたちがこの近辺を探しているという情報もあったのでまたどこか別の世界の方に向かうことになるだろう。この世界から出るための門を開く。なんだか嫌な予感がするのだ。今すぐにこの世界を出ないと何もかもが間に合わなくなる予感が。

 

「ユーリくん! ようやく見つけましたよっ!」

 

 声が聞こえたのと同時に開いた門に、振り返ることなく飛び込む。時深さんっぽい声だったけど、あの人が探しに来たとしても今の俺なら逃げ出せる。

 

「止まりなさい! 止まらないとタイムアクセラレイトからのクリティカルワンですよっ!」

 

 ……逃げねばっ!!

 

 飛び込む寸前に聞こえた、時深さんの声を全力で聞かなかったことにして逃げ出す。むしろあの言葉でどうして止まると思ったのか。どう考えても怒っていることが丸わかりではないか。捕まったら殺される。そうとしか思えないあの言葉。どこか別の欲望が混じっているようにも思えたのは気のせいだろう。

 

 逃げて、逃げて、逃げて。

 

 全力の逃走を続けた結果、けれど足はアガスティアにしっかりと向かっていた。マナを練り上げて……しまっては残滓から見つかりかねないので「星辰」の粒子が馴染んだことで多少進化した肉体で全力疾走。気がついた頃にはアガスティアにたどり着いていた。

 

「あ、危なかった……捕まったら殺されるところだったぞあれ」

 

 ボケてもきっとブチギレていただろう。そうなれば絶対に捕まって殺されていた。それにしても、この行動はどう取られるのだろうか。逃げなきゃいけない理由。それがあると思われたのだろうか。それとも裏切りと取られるのだろうか。俺にはそのあたりはわからない。……きっと、戻った後に怒られることになるだろう、とは思っているけど。

 

「まあ、逃げ出した時点で捕まったら怒られることはわかってたし。ちょっとその規模が大きくなるだけだし」

 

 声が震えそうになるのをこらえながら、後のことは一旦忘れる。時深さんからも逃げたのだ。これは絶対に後で戻った後に時深さんに殺され……いや、忘れろ。忘れるんだ。その時になったらなったでもしかしたら何か奇跡が起こるかもしれない。父さんとの仲をより深めるためのダシにされる程度で済むとか。……ダメだな。父さんには母さんが一番似合う。時深さんの入る隙間はないのでNG。父さんの息子(俺)を使っての光源氏計画とかもすでに精神性が転生前のそれで確立されている俺がいる以上は不可能。時深さんの残念っぷりがわかるだけである。

 

「……うん、これ以上この話題は考えないほうがいいな」

 

 今年はどんな風になっているんだろうか、なんて呟きながら歩く。もうとっくの昔にあの崩壊した屋敷のあったところは色々と撤去されて、これまでに来た時には新しい家が建てられている最中だったこともある。そんな家は大変悲しいことに突然空から降って来た木によって潰されてしまう、なんて事件も昔起きたな、と思い出す。別に俺が木をぶん投げたわけではない。ないったらない。

 

 一年ぶりにこの身を苛む空腹という概念を取り除くために、オーレルア国の特産品である食ってもよし、卵もよしな鶏らしき何かの串焼きを購入して食べ歩きを敢行する。これも、ノワールと一緒に「これ鶏じゃないか……?」なんて話し合った食べ物。見た目は鶏なのに味は牛肉ということで二人してウハウハ笑っていた覚えがある。

 

「ん……?」

 

 懐かしんでしんみりとしながら歩いていると、前方に何か黒い物体が落ちているのが見える。……というか、あれは……人? もしそうならマズい。そう思って駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 返事がない。何かの病気だろうか。それなら街の方まで連れて行かなーーー

 

「…………」

 

 腹が、鳴った。空腹を知らせるその音が。それを聞いて無言になる。

 

「これ、食べるか……?」

 

「……食べる」

 

 これが、俺と永遠神剣第三位『絶炎』の担い手。永遠神剣シリーズ第三章「悠久のユーフォリア」における主要人物、”絶炎のミューギィ・ファナン”との出会いであった。




ヒロイン! 登場! これで勝ったな!!

テムオリンに対して「言いたいことがあるなら殺してから聴く」な主人公
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。