※この作品はR-18です。

星の巡り主   作:ぴんころ

14 / 24
280年目 アガスティア

「はむはむ……」

 

「ああ、ほら。こぼすなミュー。誰もとったりしないから慌てなくてもいいんだぞ」

 

 ミューギィ・ファナン。「悠久のユーフォリア」でユーフィーが出会うことになるエターナル。昔から見ているという夢でユーフィーが出会っていた少女、永遠神剣第一位「宿命」の担い手である”宿命に全てを奪われた少女”ミューギィの分離体。分離体が何かはまだ説明されていなかったのでよくわかっていない。けれど、”『宿命』と契約したミューギィ”を殺すことが目的であり、おそらくはすべてのミューギィ(分離体)がそれを目的としている。そんな程度のことは想像がついていた。

 

 それがまさか

 

「美味しかった……」

 

「それは良かった」

 

 こんなに小動物じみた魔性の女だったとは。四十年前は思いもよらなかった。

 

 いや、正確には「ユーフォリアと食べることが大好き」とか色々と小動物を連想させる言葉自体は俺がこの世界に生まれ変わった時点でも色々とあったのだ。ただ、彼女の紹介文である「ボクは、ボクをすべて殺す」とは結びつかなかっただけで。この四十年、まともに生活できない彼女の世話を焼くだけで過ぎ去ってしまった。さすがにそろそろアガスティアを離れないとまずいかなぁ、という気がしないでもないのだが、この世界で生まれてくるであろう分離体たちを殺さないといけないからとミューギィは離れるつもりがなく、こんな生活能力どころか常識すら危うい少女を一人にするつもりにもなれずにズルズルと付き合っていた。

 

 結果として、テムオリンを探す旅には出ることができていないのに。それでもこの状況にどこか満足している自分がいた。けれど殺意は未だに途切れていない。俺の内側で黒々と光り輝いている。……できることなら、誰もいない時にテムオリンと会いたいものだ。こんなに際限なく膨れ上がっていく殺意を、仲間には見せたくない。仲間と呼べる人物はいないが、それでも両親やユーフィーは首を突っ込んできそうだから。

 

「今日も、するの?」

 

「ああ、うん、頼む」

 

 今日も今日とて訓練。やはりこういうのは相方がいた方がやりやすい。己の隙を教えてくれる。しかも彼女は敵を多く屠るために攻撃を受けないようにする動きを本能的にとっている。一対一であれば、基本的に彼女の動きを捉えられることはない。だからこそ、捉えるために動きの無駄が消えていく。もうすでに俺の動きの全てを見切られているが故に、その状況から拳を叩き込むためにはどうするべきか、己の攻撃を理解していても躱せないほどのそれに鍛え上げるか、それとも一度限りの奇策をいくつも用意するか。基本的には前者を選びながらも戦い方の幅をどこまで増やすのか、それを彼女との戦いの中で探っていくのが今の日常である。

 

「うん。それじゃあ、また後で」

 

 出会ったころに比べれば本当に人間らしくなった。最初の頃は「殺す」が口癖で、さらには言葉もほとんど知らなかったために「殺す」に含まれた雰囲気から彼女の言いたいことを読み取る技能が必須で、もしもミューギィ語検定があるなら二級は堅いなと勝手に思っている。

 

 そうしてまったりとお茶を飲んで二人で緩く過ごしている中。

 

 ズシン、と俺の感知できる範囲内で永遠神剣の。それも「絶炎」のそれと似たような反応を検知した。こうなってくると予定が変わる。ミューギィもどうやら同じ反応を感知したらしい。こちらをただじっと見ている。それに一つ、行こうと促すようにして頷いて席を立つ。ミューギィも立ち上がった。俺は、今回のそれには手を出すことはできないけれど、彼女の動きは参考になるところの方が多い。エターナルという永遠の闘争を約束された人種として生まれながらも人間としての精神が邪魔をする俺に一番合ってない戦い方ではあるのだが。それでも結果として『一番ダメージが少なくなるような戦い方』になっている彼女の動き方は、それだけで見る価値がある。

 

「今日のお夕飯は何?」

 

「ミューが勝ったら教えてあげる」

 

「頑張る……!」

 

「うん、頑張って。勝った後にミューの食べたいものはなんでも作ってあげるから」

 

「頑張る……!!」

 

 力強い返事。俺がまだ考えてないなんてことはこの返事を聞く限りではバレてなさそうな雰囲気がある。よかったよかった。テムオリンを倒すための訓練をーーーミューギィと出会ったことで少し気を緩めることには成功したとはいえ今もなおーーー必死になってやっていて、その結果彼女の夕飯に関して全く考えていなかったなんてバレたら殺されかねない。……いや、実際には殺されないんだとは思うけど。その程度には懐かれていると思っている。

 

「それじゃ行こっか」

 

「うん」

 

 促して、二人して飛び立つ。この四十年、何もしてこなかったわけではない。母親がウィングハイロゥを得意とするブルースピリット出のエターナルであり、「悠久のユーフォリア」においてはユーフィーが純白の、まるで天使のような翼を背面に備え付けていたことを俺は知っている。永遠のアセリアの息子であり、悠久のユーフォリアの弟でもある俺ならば、おそらくは出せるはずだと信じてこの四十年、最初の十年ほどかけて翼を出せるようになり、そこから三十年かけて空の旅を行うのに支障がない程度には空中飛行には慣れた。加速に関しては普通に「星辰」の力を借りた方が早いが、それでは一直線に超速でしか進めないので、今回のような俺自身が主役ではない場合はミューギィを立てるために彼女に合わせて飛行する必要がある。

 

「ユーリ」

 

「ん? どうかしたのミュー。今日の夜に食べたいものでも決まった?」

 

「違う」

 

 いや、違わないけど、と言って不貞腐れる。こういうところで不貞腐れる理由がよくわからない。女の子って難しい、なんて思ったりもするけれど、風呂に関してはミューギィがまともに自分で洗えないということが発覚したので、特にどちらも気にすることなく一緒に入っているため、そういう女の子的な機微ではないのではないかと思う。お互いの裸を見ること以上に恥ずかしいことはないだろうし。

 

「それじゃ何? 今日、何かあったっけ?」

 

「うん……ちょっと。後で話がある」

 

 ほんのりと頬を染めているミューギィを見て、常に己(ミューギィ)を殺すことを第一目標としていて”分離体(ミューギィ)である”ことに対する自己否定が本能に根ざしている、なんてことは知らなかったなら絶対に思えない。”絶炎のミューギィ”と今目の前にいるミューギィは別物。そう思っている。

 

「それは、大事な話?」

 

「うん。そうじゃないとこんなタイミングで言ったりしない」

 

「……なんか死亡フラグを感じるな」

 

「何それ?」

 

 なんとなく、『大事な話がある』なんて言われると死亡フラグを感じてしまう。ここで話をされても死亡フラグとしては成立しているし、『この戦いが終わったら大事な話がある』でも成立している。どっちにせよミューギィは死亡フラグを立ててしまった。「悠久のユーフォリア」に参戦することが決まっている以上は死なないと信じたいが、それでも異物(おれ)が加わっている時点で何が起きたとしてもおかしくはない。

 

 純粋な目で聞いてくるミューギィに正しい知識を教えるのは憚られたが、かと言って後で嘘だったと気づいて怒られるのもいやだ。仕方ない。ここは死亡フラグの回避方法も併せて教えることで許してもらおう。

 

「ふーん。そんなのがあるんだ」

 

「あるんだよ、俺のいた世界には」

 

 説明を終えると、まず第一声がそれ。回避方法も一応は教えた。だからかそこまでミューギィは怒っていないかのように感じる。これが出会った頃だったら、そもそも死亡フラグという言葉にすら反応せずに、たとえ説明したとしても「弱い奴が強い奴に負けるのは当然でしょ?」とでも言いかねなかったミューギィが、ここまで感情表現を身につけたことを喜ぶべきことだろう。

 

「死亡フラグを大量に重ねるのが、死亡フラグを壊す方法、なんだっけ」

 

「確かそんなことを誰かが言ってた。むしろ露骨すぎて逆に死なないんじゃないのって奴だな」

 

「なら、ボクもいくつか立てておけばいい?」

 

 きょとんと首を傾げるミューギィは、ひょいひょいと縦横無尽に空を駆ける鳥たちを避けながら尋ねてきて。それに対して肯定の返事を返すと、それならと言って

 

「ボク、この戦いが終わったら結婚するんだ」

 

「いや、誰とするのさ」

 

「……ユーリと?」

 

「俺ぐらいしか交友関係ないもんな」

 

「むっ」

 

 ここで俺の知らない名前を出されたらそっちの方がビビった。逆に俺で安心した。けれど俺以外の場合、誰が出てくるのかをちょっと楽しみにしていた部分もどこかにあったのは事実で。ちょっと残念な気分も今はある。

 

 ただ、ミューギィはこの答えがお気に召さなかったようで

 

「なら、トークォと」

 

「……それってミューギィの弟じゃなかったっけ?」

 

 おそらく、ミューギィの言っているのは永遠神剣第二位「虚空」の担い手にして”宿命に全てを奪われた少女”ミューギィの弟である”虚空の拡散”トークォのことだろう。まあ、こいつもミューギィなわけだからある意味で”虚空の拡散”を知っているのは何もおかしなことではない。ただ、ちょっと

 

 この世界の姉は弟と結婚しようとするのが流行っている、なんてことはないよなと気がかりになる返答ではあったが。

 

「ん。だから冗談」

 

「真顔で言われても」

 

 しかも微妙に疑問符がついている。こいつを「悠久のユーフォリア」でユーフィーに会わせてもいいのか不安になってきた。これでユーフィーがさらに押してくるようなことになったら永遠に恨みそうだ。いや、でも大丈夫か? ユーフィーのあれはおそらくは純粋な興味で俺のチンコを確認してセックスに持ち込もうとしていただけだったし。それなら、あれがはしたないことだとどこかで理解してくれたなら、もしかしたらやめてくれる可能性もあるのでは? ちょっと戻った後のことに関して希望が出てきた。……ユーフィーが微妙に病んでたような気がするのは今は放置で。あれもきっと戻った時には治ってくれてるはずだ。

 

「やっぱり、ユーリぐらいしか相手いない」

 

「ああ、うん。それなら宣言通り結婚でもするか?」

 

「ーーー」

 

 半ば冗談じみた返しをして、彼女の返答は風の音にかき消された。何と言ったのか尋ねようとする前に、すでに今回の敵の前にたどり着いていた。

 

 ”絶炎”のミューギィとは違って純粋な黒色の髪ではなく、どちらかというと”宿命”のミューギィに近い青黒色の髪。あどけない顔立ちとは裏腹に発育は良好のようで、背丈などからうかがえる年の程はだいたい十六程度だろうか。少なくとも俺とともにいたミューギィに比べればはるかに成長している。その手には、少女の姿には似合わない、彼女の髪と同色の強大な両手剣が握られていて、ただただ殺意がこちら側へと向けられているのが感じられた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 互いに無言。これから殺しあう相手に、殺さねばならないと本能からして感じている相手に言葉をかける必要などないと言わんばかりに。距離を測り、隙を探り、そうして二人が同時にマナを総身から溢れさせて飛び出した。

 

「鍛造、開始ーーー」




ヒロイン()を見る。()の中に今現在入っている熟成中の文字を見る。彼女がちょこんと顔を出している鍋の蓋を閉じる。見なかったことにした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。