※この作品はR-18です。

星の巡り主   作:ぴんころ

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280年目 アガスティア 絶炎vs魔炎

「頑張れ、ミュー」

 

 ユーリはこの戦いに手を出せない。

 この戦いは”宿命”のミューギィが作り出した分離体たちが、己に根付いた本能である”ミューギィを殺すこと”を達成するために行われる。

 そこに、ミューギィではないユーリの出る幕は存在しない。

 だから、こうして応援することしかできない。

 

 

 

 

「『絶炎』よ!」

 

「『魔炎』よ……!」

 

 同時に駆け出した二人のミューギィは、己の契約している永遠神剣に同時に呼びかけた。

 ”自分を殺す”という同じ目的を持ったミューギィたちが最初に取った選択肢は、己の永遠神剣の力を汲みあげるという神剣使いである以上は当然のこと。

 

 「絶炎」は特殊な形状をしている。持ち手からそのまま刀身が伸びるのではなく、持ち手の先に魔法使いの杖のように、あるいは錫杖のようにリングが融合していて、その内側にはどういう理屈か赤い宝石が浮かんでいる。その先にようやく刀身が存在する。そんな神剣。

 己の剣身と持ち手の間に存在する円。その内側に納められている赤い宝石が担い手の言葉に応じて瞬いて、刀身に刻まれた赤い異世界の文字が恒星のように輝いたことをユーリが視認した直後には、刀身を赤黒の焔が包んでいた。

 

 「魔炎」はそんなことはなく、シンプルな両手持ちの大剣。けれど柄に青い宝石が埋め込まれ、刀身には青黒のその身によく映えるように、純白の異世界における古代文字が刻まれているという事実から、気品のようなものが誰の目に見ても明らかに感じられた。

 柄に埋め込まれた青い宝石が担い手の言葉に応じて瞬いて、刀身に刻まれた純白の古代文字が輝きを宿し、刀身を包んだ青黒の炎にかき消されないようにと存在を主張し続ける。

 

 お互いに同じミューギィでありながらも、歩んだ道はまるで違う。

 お互いに同じ過程を踏んでここに来ながらも、その過程にはまるで違う要素がいくつも混じり合い、道中ですら違う結果を生み出していた。

 培われた剣術。培われた技法。培われた神剣魔法。それらは、生まれてから彼女たちが得る個性である。

 

 他の分離体を殺し取り込み、己を強化する。それが分離体ミューギィに埋め込まれた設定(宿命)。

 ”絶炎”のミューギィが取り込んだ分離体の数はすでにして二十八。これが多いのか少ないのかはユーリにはわからないが、本来ならすでに人格のオーバードーズが起きていなくてはおかしいような数ではある。代わりに、取り込んだ数によって強化されるという分離体の宿命に従い、圧倒的な力を持ってはいるが。

 

「……っ!」

 

「らぁっ!」

 

 だからこそ、青黒の炎と赤黒の炎をそれぞれ纏った二振りの剣がぶつかり合った時、純粋に、己のスペックだけの戦いになった時に、より個体値の高かった”絶炎(ミューギィ)”が圧倒するように剣を弾いたのは当然の帰結だった。

 

 スペックの差。それを一合で互いに理解する。だからこそ、二人が取った次の行動はそれぞれ全く違うものとなる。

 

「マナよ。漆黒の闇へと変われ。冷たき闇の中で、我が敵を永劫の眠りへと誘え」

 

 ”魔炎”は下がりながら神剣魔法を詠唱し、手をかざしながら青属性と黒属性が複合した魔法陣を展開する。

 

「逃さ、ないっ!」

 

 ”絶炎”はさせじと一気に距離を詰める。

 

 先の一合で”魔炎”は”絶炎”には及ばないと互いに理解したことで、確実に己が勝てる接近戦という環境に身を置くために距離を詰める”絶炎”と、確実に負けると理解している接近戦を捨てて遠距離からの神剣魔法狙いの”魔炎”。

 

(これなら間に合うっ!)

 

 ”絶炎”は己が魔法を使うのに必要な時間から、己よりも弱い”魔炎”が魔法を起動するのにかかる時間を判断して間に合うと踏んで一気に距離を詰める。

 

「ふん……!」

 

(ボク(”魔炎”)はなんで、笑っ……しまっ……!)

 

 けれど、”魔炎”は神剣魔法の発動速度が異様に早く、気付いた時にはもう遅い。

 躱す躱さないの瀬戸際、なんてものではなく、気がついた時には絶対に躱せないほど距離を詰めてしまっていた。

 

「眠れ、ダークコフィン!」

 

 放たれたのは黒の棺。

 周囲に顕現した闇夜を塗り固めたような暗黒空間に囚われ、”絶炎”は動きを止める。

 

(なに、これ……! 体、おも……)

 

 その正体は重力。

 推定三百倍の闇夜の重力圏。

 永遠神剣の加護があっても死にかねない絶殺の空間。

 耐え切れるのは偏にこの”絶炎”のミューギィがすでに大量のミューギィを取り込んで己を強化していたからこそ。

 周囲の景色すら歪みかねないその圧殺空間において、されど”絶炎”は炎を宿す。

 

(今このタイミングでこれを使ったってことは、これ以上の何かはおそらくボク(”魔炎”)には存在しない……!)

 

 使わなければ死んでいたのだ。

 そのタイミングで出し惜しみする理由などないはずで、まともな戦いに持ち込んだら確実に負けると踏んだからこそ戦いを成り立たせない正面からの暗殺。

 だからこそ、これを破れば少なくとも今この場では”魔炎”には手の打ちようがないと判断した”絶炎”は、その魂に勝利への渇望という薪をさらにさらにと際限なく焚べていく。

 

「マナよ。ボクに力を。全てのボクを焼き尽くす、漆黒の憎悪に濡れた焔と化せ」

 

 業炎が、その総身に宿る。

 ”絶炎”のミューギィすらも焼き尽くしかねない地獄の業火へと。

 

「デストラクションフレア」

 

 ミューギィ特攻の炎。

 それが分離体だろうとなんだろうと、ミューギィという存在に対する特攻効果を持ち、ミューギィの技である以上はこの炎に焼けないものはない。

 よって内側から、重力空間そのものが、加算された重力という概念が全て焼き払われていく。

 倒すための戦術を完成させたために、その炎を解禁した。

 

「ーーー鍛造、完了」

 

 その炎に己の身をも焦がしながら、彼女は完成する。

 触れられぬ刃(アンタッチャブル・ブレード)。遠い未来にてその名で呼ばれて恐れられることになる少女は、未だ万人に対しての触れられぬ刃として完成には至らぬまま。

 されど今この場において『”魔炎”のミューギィ』という戦士には決してこれ以上触れられることなき一本の剣として完成した。

 

「絶剣、派生」

 

 己の魂という炉心に勝利への渇望という薪を焚べて、今この場においてのみ通用する魔剣として鍛造されたその戦術。

 これより先に一度たりとも攻撃を受けないこと(絶対回避)と確実に殺しきる(絶殺)を誓い、そしてそれを実行するに足る道筋を発見したことの宣言。

 これより先、重力を操る固有個体、”魔炎”のミューギィはただの獲物となるのだと無表情のまま、何を考えているのかわからない瞳で”絶炎”のミューギィは宣言した。

 

「これより、絶殺の工程を終了する」

 

 終了宣言。

 もう、勝利は決まったという断言。

 彼女の中では当然の事実。

 

「ふざけないで……!」

 

 それは、”魔炎”のミューギィに対しての挑発としても作用した。

 

「グラビティホールドっ!」

 

 放たれたのは黒属性の魔法。

 青属性のバニッシュスキルも同時に併用することで、神剣魔法によっての脱出を不可能とする、先の重力圏を生み出す魔法を、空間ではなく個人を対象に収束させた一撃。

 

「無駄」

 

 それを、剣から溢れ、己の肉体をも焦がす黒炎で焼き尽くす。

 向かってきた重力の概念を真正面から受け止め、その上で完全に粉砕したという、相手からすればわけのわからない行動を実行して、増加されるはずだった全てが届く前に焼失する。

 二十八のミューギィを殺害する中でミューギィの共通性を発見し、それが乗った全てを焼き払う力を具現化したことで生まれた、ミューギィという存在に対しての絶対特攻を振るい、あらゆる攻撃を焼き尽くした。

 

「だったら……!」

 

 ”魔炎”はマナを集中させる。

 ”魔炎”の魔炎たる所以、己の永遠神剣の名であるというだけではなく、その名を示すに足る力。全てを焼き尽くす魔性の業火を剣に宿し、さらにはもう片方の手にも青黒の炎でできた剣を握りしめた。

 いいや、青黒ではなく、蒼黒。

 炎剣の色が変化し、その属性も青……氷や水の属性と黒……夜の闇、深淵の属性の二つへと切り替わる。

 それは絶対零度の闇のゆりかご。

 焼き尽くし、消し炭と変えて命を焼失させるものではなく、暗く冷たい闇の中に沈めることで、苦しむ間も無く殺していく死のカウントダウン。

 

「そんなものに意味はない」

 

 そうして二本の剣を重ね合わせての一撃は、絶殺の気概を乗せた漆黒の炎が宿った剣によって切り払われる。

 永遠神剣にすら罅が入るレベルの斬り払い。

 漆黒の炎は今も燃え盛り、その炎は触れ合った永遠神剣、並びに炎剣を通して”魔炎”のミューギィにも伝わっていく。

 

「ぐ、ぁぁーーー!!」

 

 その炎の痛みは、”魔炎”がこれまでに受けたいかなるものよりも大きかった。

 苦悶の声が漏れる。「耐える」「我慢する」と言った行為が全て無駄に感じる一撃。

 これまで彼女が受けたことのある攻撃は全て物理的な代物。

 『斬られたら死ぬ』という人型の存在の当たり前の法則に従っただけの痛み。

 

 けれど、今回のこれは『ミューギィという存在を否定するための概念』が組み込まれた炎。

 ミューギィという存在である以上はこれを受ければ魂をも焼き尽くす。

 分離体を大量に取り込んだことによりそのぶんだけ本体……『宿命』の担い手であるミューギィに近づいたことで炎という形ではあれど再現を可能とした存在否定の一撃である。

 むしろこれを常に身に纏って平然としていられる”絶炎”の方がおかしいのである。

 

「これで、おしまい」

 

 ミューギィという獲物を狙い続けるその炎は対象を焼き尽くさない限りは消滅しない。

 今回の場合は”絶炎”と”魔炎”という二人のミューギィを同時に焼いているが、どちらか片方であったとしてもミューギィを焼き殺したという事実が発生することによってこの炎は消え去る。

 だからこそ、”絶炎”のミューギィ・ファナンは、その炎がより早く”魔炎”のミューギィを焼き尽くすように己の剣を突き立てる。

 

「死炎、抜刀」

 

 紅蓮の炎を生み出して、黒炎を纏った”絶炎”の外側に纏わせる。

 黒き炎がミューギィが生み出したものだと殺意を以て紅蓮の炎を飲み込みながらも、その状況にミューギィ・ファナンは頓着しない。

 

「壱式ーーー!」

 

 炎を鞘とする抜刀術。

 心臓を切り裂く軌道で放たれた斬撃は、肉を切り裂き、炎に焼かれ絶叫を挙げ続ける”魔炎”のミューギィの体内に潜り込み、そのまま外側にまで駆け抜ける一筋の流星と化した。その直後、内側から歓喜の雄叫びをあげるようにして黒い炎が溢れ出る。

 

「ーーー!!」

 

 内外問わずに同時に焼き尽くされる”魔炎”のミューギィ。

 外側から焼かれているだけの”絶炎”に比べてその進行速度は速く、つけられた傷からマナが流出しているのもあってか、どんどん肉体が崩れ落ちていく。

 

「……まだ生きてたんだ」

 

 それは蛆虫を見るような目。

 自己否定が根幹に組み込まれている全てのミューギィ(分離体)は、己以外のミューギィに対してもその存在を否定しようとする。

 だからこそ、彼女は普段は見せないような冷たい目を、己と同一の存在に対して向けた。

 

「とっとと終われ」

 

 その思いに比例して自己否定の炎(ミューギィ殺し)は燃え盛る。

 二人の肉体を焼きながら、周囲には燃え広がらないその炎は

 

「ーーーぁ」

 

 掠れた声を出しながら焼失していく”魔炎”を先に焼き尽くした。

 その光景を眺めて。

 それによって炎が消え去るのを見て。

 ”絶炎”のミューギィ・ファナンは

 

「ぶいっ」

 

 少し離れたところから見ていたユーリに向かって無表情のままピースをするのだった。




ちなみに言っておきますと、永遠神剣第三位「魔炎」の能力は「全てを焼き尽くす炎を出すこと」とミューギィ個体全員が持つ「ログ領域への攻撃に対する防御」の二種類だけ。重力や絶対零度に関しては別の神剣を取り込んで手に入れました。

前回を書く直前にとある作品を読んでいたので影響されたミューギィの必殺状態。

そしてミューギィを書きすぎてミューギィがゲシュタルト崩壊しそう。これはもう責任を取ってミューギィ(本体、分離体を問わず)でハーレムを作るしかないですね!
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