※この作品はR-18です。

星の巡り主   作:ぴんころ

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281年目 アガスティア コアラな女

「ちょっとそこまで出かけてくる」

 

「ん、行ってらっしゃい」

 

 そう言って、ミューギィと会話をしながら家を出る準備をする。今はまだ早朝。これまでならミューギィの分の朝食を用意し始めるような時間帯なのだが、最近になってはミューギィも”結婚”という言葉を己の口から吐いたことで、わずかばかりではあるが家事に興味を見出してきた。おかげで、こうして一食程度であれば準備を任せることはできる。この国ではおばちゃんたちの井戸端会議でかなりの頻度で生活に使える玄人のテクニックと呼べるものがでてくる。一応、稼ぎは俺の持っている貴金属であり、そして家事も俺が行なっているということを知っている近所のおばちゃんたちは少しでも負担を減らしたいという俺の意思に答えてくれて、色々と教えてくれるのだ。

 

 それを、あとでミューギィにもわかるようにして教え込む工程がなかなかに難しいのだが。

 

「ミューも早くまともに飯を作れるようになるといいな」

 

「……難しい」

 

「そうか? 料理って考えるから難しいんだろ」

 

 ミューギィに教えるにはコツがいる。具体的には、ミューギィという存在が他の己を殺すことにご執心なので、戦いに交えた形で教える必要がある。それを、本人が無理矢理に家事という別次元のそれで考えようとしているから、彼女にとってそれが難しいことのように思えてしまうのだろう。

 

「いいか? いつも言ってるけどあれは食材じゃない、死体だ。ミューは、これから死体を取り込むために普段ミューギィを相手にやっているように解体するんだ。そして、解体する場合には解体の手順ってものがある。取り込むために必要な工程って考えれば普通にできるんじゃないか? これまでも血肉を切り裂くことを工程としてミューギィ相手にやってきてたわけだし」

 

「ん……頑張る!」

 

 ぐっと握りこぶしを胸の前で作るミューギィ。これまでの彼女にはありえないあざとすぎる行動に対して、一体誰に教わったのかを尋ねてみると、三丁目のおばさんらしい。『これでユーリ君もイチコロよ!』なんて言ってたらしいのであとで一度説教しておこう、うちのミューに変なことを教えないでくださいと。

 

 何だか思考が母親じみているような気がしてきたが、別にミューギィの母親ということではないのだ。昔からなんだか放ってはおけなかったせいで世話を焼いて兄妹、あるいは親子。そんな関係に近い精神性を築いていることには変わりないが、それでも俺と彼女は血の繋がらない同年代の男女という一緒に暮らさせるには一番まずい間柄なのだ。

 

 とは言っても、俺たちの間にそういった感情がないことはあの人たちもわかっているはずだ。そもそも見た目で言えば俺たちはまだ子供。多分、あの結婚関係の話も「私(僕)、大きくなったら〜〜と結婚するー」の延長線上の話ではないのだろうか、と感じている。

 

 最近、「星辰」がミューギィの体に宿ったせいでこれまでに築いた関係性も微妙に変化が起きているのは確かなのだが。

 

 家を出る。ミューギィに送り出されて、外の空気を目一杯に吸い込む。普段は家で家事をしていることが多いので、こうやって朝から新鮮な空気を吸えるのは珍しい。しかしながら考えるのは俺が今日こんな朝早くから家を出る必要になった原因のこと。

 

「あの神剣反応……確実にあいつのだ……!」

 

 考えるまでもない。一年、それだけの期間を共に過ごしたのだ。俺があいつを間違えることなんてない。……まあ、当人が隠すために色々と細工をしていたら話は別なのだが。例えば、誰かに自分の永遠神剣を持たせておくとか。あるいは、最初に出会ってから毎日漂わせていたのは自分が契約している永遠神剣とよく似た形状のものであって、実際には永遠神剣第二位「秩序」を一度たりとも俺が見たことなかった、とか。

 

 そういう策を取られたなら、俺はこの神剣反応をかつて漂わせていた主、”法王”テムオリンを間違えることはあるかもしれない。

 

 けれど、少なくとも今感じているのは、かつて出会った時に感知していた永遠神剣の反応。だからこそ、あれがテムオリンの契約していた永遠神剣であるのなら。きっとそこにはテムオリンがいるはずだ。そう信じて地上を駆ける。下手に空から向かって身動きを取れない状況を狙い撃ちにされたりしたら困る。ウィングハイロゥがあるとはいえ、徒手空拳という武器の関係上、本気を引き出すのには地上の方が都合がいいのだ。

 

 加速を重ねる。いつ門を開いてこの世界から逃げ出すのかわかったものではない。その前に確実に捉えて殺して話を聞かないと。

 

 その一念だけで第三宇宙速度を上回りながら疾走し、テムオリンの神剣反応があった場所へと向かう。ミューギィはミューギィの反応ではないからと特に興味を抱いていなかったので、今回に関しては特に連れて行くようなことはしない。

 

 そうやって草原を、舗装された道を、王都の中を、全力以上の力で破壊する嵐の暴威と化して駆け抜け、その反応があった場所へとたどり着いた。周囲を見渡す。未だに反応があることからこの場にテムオリンがいるはずだと信じて。そうして探すこと十秒足らず。というかぐるりと首を一周させたらそれだけで十分に見つかった。

 

「……”法王”テムオリン」

 

「ええ、久しぶりですわね、ユーリ。……昔のように、テムと呼ばなくてもいいんですの?」

 

「今の俺たちはそういう仲でもないだろ」

 

 言外に、ノワールたちの時のことをほのめかす。あれによって俺たちはすでに『友人』から『友を殺された被害者と殺した加害者』の関係性を追加されて、確かに友情を感じながらも友情という言葉を理由に彼女のことを無条件に受け入れられるだけの度量は削られていた。……元から法王だからと、そこまで信用していなかった俺がいうのはおかしいかもしれないが、それでも彼女から友人と呼ばれた、最後に会った時のあれは嬉しかったことには違いない。

 

「答えろ、テムオリン。どうしてあの時、ノワールたちを殺した」

 

 殺してから話を聞く、なんて言ったのに。舌の根も乾かぬうちにこうして尋ねている。友情、というもののせいだろうか。両親の敵で、生まれた時からカオス・エターナル側にいた俺からしたら敵で、そして友人を殺した敵で、友人の恋人を辱めた上で殺した敵なのに。かつての友情のせいで今もなお殺しに行けなかった。

 

「ふふっ……理由ですか。あなたのことを知りたかったから、というのではダメですか?」

 

「俺を……?」

 

 詰問のようなそれ。けれど彼女にとっては子犬がきゃんきゃん鳴いているのと同じ程度の効果しかないであろうそれを、愛おしそうに笑った後にテムオリンはその理由を口にした。けれどそれは想定など一切していなかったもので。あってもマナ・ゴーレム技術を完成させないためだとか、そんな理由だと思っていた俺からすれば意味がわからないものだというほかない。……まさか、「あなたのことを知りたいの(はあと)」なんて気持ち悪い理由ではないだろうし。

 

「ええ。あなたは異常ですもの」

 

 端的に、異常と断言された。異常な理由。確かにいくつかは思いつく。まずそもそもが転生者という俺の状態。それも、この世界に存在した存在の転生した姿ではなく、別の、この世界のことを観測できた世界から生まれ変わってきた存在であること。これが一番大きな異常。そして次にあげるのであればエターナルの間から生まれ、生まれながらのエターナルであったということ。

 

 二つ目に関しては、そもそもそういった関係性のエターナルというのが一組しか存在しない関係で、エターナル間で子供を作った場合にどうなるのかの実験の結果としてこれが異常なのかどうか判断するのは難しいのだが。

 

「あなたは”何か”を知っている。その知識の源泉、それに興味がないとは言いませんけど、それよりもまずは『どこまで知っているのか』を知らなければどうしようもないでしょう?」

 

 そんなことのために……? 呆然と呟く。そんな俺の気持ちを察しているのかいないのか、けれど特に俺の状況を機にすることはなく、それを知らないことにはあなたを作戦に組み込めない、とテムオリンは嘆息しながら言う。

 

「あなたが性格からしてこう動く、と判断してもその内側にある知識(ブラックボックス)がどう作用するのかわからず、結果として私の想像外の行動をとるかもしれない。そんな相手をそのままにしておけるわけがないでしょう?」

 

 拳を握る。そんなことのためにリルを殺したことが、どうしようもなく許せない。ノワールはあの後どんな風に生きて死んだのか、それともあの事件の時に一緒に死んでいたけれど、俺が出会ったタイミングではまだマナの霧に還っていないだけだったのか。その答えはもう永遠にわからない。

 

 けれど、その答えがどちらだったにせよ。もうこの時点であの二人の幸せな生活をこいつが奪ったことに変わりない。そしてこれから先、テムオリンと出会えるとは限らない。故に、その責任はこの場で取らせる。たとえ、俺の方が彼女よりも弱く、敗れることが必至だったとしても。

 

「いいでしょう」

 

 足に力を込めて、それを一気に解放する。拳をそれに合わせて突き出し、テムオリンの体を穿つ流星と化す。拳によって撒き散らされる破壊、そして相手の対処に対してさらなる対処を行うために常のように「星辰」によって引き延ばされる体感時間の中、確かに俺は一つの声を聞いた。

 

「友人が相手ですものね。手加減をする方が失礼というものでしょう。私も、久方ぶりに全力で戦わせてもらいますわよ」

 

 その言葉と共に、「秩序」を構えるテムオリンの姿を認めて。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「えへへ。あたし、ユーフォリアって言います!それで、 こっちは相棒のゆーくんです」

 

 そう言ってユーフォリアがむん、と力むと虚空から彼女の手の内に蒼穹の槍剣、永遠神剣第三位「悠久」が出現する。

 そんな、元気に挨拶をするユーフォリアを見て旅団のメンバーはたいそう驚いていた。

 こんな子供が、あの意念の光を弾き飛ばしたのか、と。

 

 その神剣から感じている力の反応は確かに、旅団の誰のものよりも強い。

 けれど、どうしても人というのは見た目が第一に来てしまい、そして神剣の強さがそのまま本人の実力に繋がるわけではないので、だからこそあの結果を見ていた人間は皆信じられないものを見るような目を一度して。

 

 だから、直後にヤツィータからもたらされた、あの一撃を防いだ代償として一時的に記憶を失っているということに、驚愕の声を出してしまったにも関わらず、心のどこかに「流石にそれぐらいの代償はあったか」と納得する気持ちもあった。

 

「記憶がないのよ? 不安じゃないの?」

 

「不安と言われましても……記憶がないので不安になるきっかけがつかめないというかなんというか」

 

 

 そんな会話から数日。ユーフォリアの紹介も学園中に終わってしまったところで、その事件は起きた。

 

 

「私は妹じゃないですーーー!!!」

 

「な、なんだぁ!?」

 

 校舎の中を歩きながら学祭の準備の手伝いを行えるところを探していた望の耳に届いたのはユーフォリアの怒りの叫び声。

 頭の上に乗っていたレーメも、急な叫びに驚いてずるりと顔の正面に落ちて来た。

 

「ほ、保健室の方からの叫び声だな、行くぞノゾム!」

 

「わかった! でもとりあえずは顔から離れろ! 前が見えない!」

 

 望が叫ぶと、レーメもあっ、というような顔をして頭の上に戻る。

 一階保健室にいるユーフォリア。

 戦闘能力が高い彼女が暴れ出したらどう止めるべきなのか。

 その答えが未だ見つかっていない中で起きた事件だった。

 

「何があったんだ!?」

 

「の、望! ユーフォリアちゃんが急に自分はお姉ちゃんなんだって叫び出して……」

 

「はぁ……?」

 

 その場にいた信介から望は事情を聞く。

 来て数日であるにも関わらず、妹にしたいランキング第一位を獲得したユーフォリア。

 そのことが当人にバレたところ、「ユーフォリアちゃんなら頼んだらお兄ちゃん(お姉ちゃん)って呼んでくれるんじゃないかなぁ」と夢想していた一部の馬鹿たちの思惑が崩れるように『自分が姉である』ことを頑なに主張し始めたのだと。

 

「なんだそれ……」

 

「いや、これが事実なんだからしょうがないだろ。……ちなみに俺も投票した」

 

「お前もかよ!」

 

 後ほど落ち着いたところで話を聞くと、弟がいたという記憶が戻ったという。

 

 そんな、皆の妹ユーフィーちゃんの記憶が一部戻った、とある一幕。




ユーリ人形はちゃんと持っていますよ。ただ、意念の光との衝突時にちょっと負傷して動けなくなっていますけど。

そして世刻転生書いた(ダイマ)
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