両親の間を抜け出て外に飛び出し、そのまま心臓と融合している永遠神剣を動かして身体能力を一気に引き上げる。そうして上がった身体能力を解放して、地面にクレーターを作りながらも空中へ向けて跳び立った。
この動き、実はエターナルがやろうと思ってもなかなかできないらしい。歴戦の勇士であっても、あるいは成り立ての未熟者であっても。歴戦の勇士であればそもそも力の伝達が完璧でありクレーターを作り出すことはなく、未熟者であれば二位、三位問わずに契約者が発露する力は俺のそれには及ばないために、クレーターを作ってもそこまで大きくないのだ。そういった点を鑑みるに、つまりこれが俺の永遠神剣の単一仕様と呼んでも良いのかもしれない。
永遠神剣、と呼ばれるものは上位になればなるほど固有の能力を持つものが増えていく。それは例えば俺の父親が持つ「聖賢」の、「聖賢の知識に契約者が接続することで、莫大な力を発揮できるようになる」という見た目にはわかりづらいもの、俺の母親が持つ「永遠」の「世界の外への門を開く力」といった、能力としてはわかりづらいものの結果はわかりやすいもの。そして俺が出会ったことのない倉橋時深の持つ「時逆」の「時間移動」といったもの。ロウ・エターナルの首魁であるミューギィの持つ「宿命」の「思ったことを現実に反映する」。そんな強大すぎる代物まで。
逆に、かつての父さんの友人である碧光陰の持っていた永遠神剣「因果」のように特殊な力を何も持たない永遠神剣も存在する。こういう神剣の多くは下位神剣であり、上位神剣で言えば、俺の知る限りではユーフィーの持つ「悠久」、そして父さんがエターナルとなった戦いで敵対していたロウ・エターナル、法王テムオリンの持つ「秩序」に関しては能力が俺の記憶にあった限りでは描写された覚えがない。
そういうわけで、俺と話をしてくれない「星辰」のせいで自分で色々と確かめることになり、五年の間で色々なことを推測できた。「知ることができた」ではなく、「推測すること」程度しか結果を残せなかったのが痛かったが、けれど今日の旅路……以前ユーフィーが母さんと一緒に行ってきたという花畑に向かう程度であればそれでも問題ない。
まず、俺の永遠神剣である「星辰」は異常なレベルの身体強化を行える。第三位であるにも関わらず、その神剣の強化具合は二位の契約者である父さんのそれをはるかに上回る。それこそ、神剣魔法で強化した父さんすらも。さすがに一位の契約者であるローガスやミューギィには敵わないだろうが、それだけでもかなり強くなった気分だ。
次に、俺の肉体の強度を底上げしてくれる。具体的にはユーフィーが取り出した「悠久」をマナ剣状態にしてぶんぶん振っていても俺の肉体にその刃を通すことはなかった。父さんたちだとこの辺り防御する必要があったので、おそらくはこれも固有能力だと思われる。
これらの固有能力を持つ代わりに、俺の神剣はゲーム的にいうならサポートスキル、現実に即した言い方をするのであれば神剣魔法と呼ばれる類の補助、あるいは攻撃用の魔法の一切が使用できないことも確認できた。幸いというべきかマナの操作そのものは血流をマナが強化している影響で、己の第六の感覚器官と呼べるレベルでできたので、ディフェンススキル……防御用のオーラフォトンを展開して体に纏わせることはできたので、神剣魔法として展開することだけができないのだと判断した。
これ以上のことは自分で考えても、というよりも「星辰」が教えてくれるか、かつて「星辰」と──いたのか知らないが──契約していた者の知り合いに聞くかしかないだろう。だからこれ以上は考えない。というかこの世界、本当にカタログスペックだけがすごくて、ゲーム的な都合とはいえスピリットと呼ばれる存在ですらエターナルを倒せてしまうという現実だけが存在する。長年戦い続けてきたタキオスを、「聖賢」と契約したての父さんが倒せたりといった部分も含めて。だから、能力に関しては「そういうものもある」とだけ考えたほうがいいだろう。
まあ、俺の能力はこれ以上考えてもわからないのでしょうがない。しょうがないから今は両親に捕まらないように目的地に行きやすいという身体能力にのみ感謝しておけばいい。
空に飛び上がったところで地上に目を向けると、ようやくフリーズから解除されたのか外に飛び出してきた両親の姿が見える。そんな両親が俺が跳び上がる時に作ったクレーターを発見して、空中に浮いている俺を見つけるまであと数秒と言ったところか。空中に跳躍したことがバレれば、母さんがウィングハイロゥを展開して空を飛ぶことで捕まえに来る。
なのでそれよりも早く空気を蹴り飛ばし、少し離れたところに見えた花畑の近くに狙いを定めて一気に流星と化して落ちていく。
「さあ、目的地は近いぞ」
とは言っても、そこにたどり着いたからと言って何かあるわけではない。できたとしても花を摘んでいく程度。だからと言って何もしないというのも怒られる理由を増やすだけでしかないだろう。「ついさっきまでミニオンがいたから危険なのに」という部分がおそらくは今の両親の怒りのポイント。それならば「ミニオンの危険があるにも関わらず外に出なければいけなかった理由」をでっち上げる必要がある。それがあれば多少は怒りも小さくなるのではないかと思われる。
「でも、どうするかねぇ」
もうちょっと考えておけばよかったと少し後悔している。とは言っても両親の親バカ具合を考える限り、あのままだとさらに数年は外に一人で出してもらえそうになかったのだから、両親がわずかにとはいえ疲労しているあのタイミングで抜け出すしかなかったという事実もある。ぶっちゃけた話、一人で外出することに全力を賭けていたせいで何も考えていなかった。
「とりあえず、花を摘んで帰るか」
花を摘んでしまえば、そこに両親に渡す何かしらの理由づけを適当にすればいい。思いつかなかったら思いつかなかったでユーフィーが以前持ち帰ってきた花のお返しということにでもしておくか。
まあ、まずは
「そこらへんにいるミニオンの処理をしてからの話だよなー」
降り立ったところは森の中。花畑が森の奥にあるから当然のことといえば当然なのだが、こうして森の中であれば両親がすぐに発見できるということはないだろう。そしてそれは同時に、両親が処理しきれなかったミニオンが隠れ潜んでいる可能性もあるということで。近くにいる俺だからこそその存在に気づくことができたのだった。
「じゃ、初戦闘……いや、狩りか? まあとりあえず殲滅を始めよう。こんな程度の雑魚に負ける気はしないし」
ぞろぞろ湧いて出てくるミニオンたち。こいつらを倒してマナを吸収すれば強化に繋がりそうだな、なんて思うが、よくよく考えてみればここでド派手に戦ってしまえば両親にバレてしまう。
じゃあ、とっとと殴り殺さないと。俺が両親に怒り殺される。
「はい、どーん」
なんとなく気の抜ける声を出しながら、地殻変動を起こしうる威力を持った拳を第三宇宙速度という埒外の速度で移動しまくって叩き込んでいく。一撃で人間のような見た目の存在の体のどこかに拳大の穴が開いていく光景はグロテスクなことこの上ないのだが、それも倒れるよりも先にマナの霧に帰ってしまうので死体が残ることはない。それを吸収して未来、旅に出た時のための貯蓄としていく。俺たちの肉体はマナさえあればだいたいどうにかなるのだから。
もはや局所的な嵐と呼んでも差し支えがないであろう被害をもたらしながら殲滅を実行していく。だいたい十数人程度を顔面、胴体、腕、様々な部位を消しとばして殺すことで、そのマナを吸収し終えた。そこまでにかかった時間がだいたい一分程度。無駄に時間を使った。ちょっと急いで先に進もう。
そうしてたどり着いた先は、まさしく絶景と呼べる光景だった。
「おおー」
怒られることになるとわかっていても、この光景を見られたのならチャラだと思ってもいいかもしれない。それほどの光景。黄金の花が風に揺れ、それによって生み出されるさざめきが耳朶を震わせる。前世では絶対に見られなかったその光景は、どこか俺の身に活力を与えてくれるようにも感じるが、そんなものは幻想。すぐに将来のことを考えてブルーになってしまう。
これ以上は考えるな。考えたら自害したくなる。でもそんなのは怖いから結局恐怖に震えるしかない。そもそもが敵対する連中のチートっぷりを考えたら、何をどうしても意味がないんだ。対策を考えることにも意味はないし、ただただ逃げ惑うだけしかできないんだから。……俺はユーフィーのように戦う気概は持てない。人間だった頃の父さんのように戦うに足る理由もない。母さんのように戦うのが日常だったこともない。
俺は所詮はただの人間で、
「さーて、どの花を摘んで帰るか」
いや、全部同じ種類なんだが。
ついでに言えば俺には花の良し悪しなんてわからないのだが。
「あっ……」
そうだ。思い出した。そろそろ俺の誕生日だ。というか以前この時期にユーフィーが行って来たというのも俺の誕生日に花冠を渡すためだったような気がする。……うん、よし。今日の理由はこれで決まりだな。二卵性双生児な俺たちの誕生日は同日。ユーフィーは綺麗な花が好きだったから俺に花冠を渡して来たわけだし、俺もそれに合わせてユーフィーに花冠を渡すためにここに来たということにしよう。
そんなことを考えて花を摘み始める。何も考えず、将来の絶望からは目を逸らして。
だからだろうか、彼女の存在に気がつくのに遅れたのは。
「あら、まさかこんなところで出会うなんて。人生、何があるかわかりませんわね」
声が聞こえて来た方に振り向く。
それは童女の姿をしていた。全身が真っ白な服装で整えられており、どういう理屈かはわからないが永遠神剣の反応が存在する杖に乗って宙に浮いている。何があるかわからないと言いながらも、どこかで予期していたのかその表情に驚きはない。
俺はその存在を知っていた。けれど、なぜ彼女がここにいるのか。それがわからない。
その人物の名は
「初めまして。私はテムオリン。あなたの両親の知り合いですのよ」
”法王”テムオリン。かつて俺の両親がエターナルとなった戦いにて、敵の首魁であった、ロウ・エターナルの一人だった。