※この作品はR-18です。

星の巡り主   作:ぴんころ

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281年目 ハイペリア

 時深さんが以前、俺のことを発見した時に彼女の目のうちにあった不穏な光。その正体を時間があるときはたまに考えていたのだが、未だに分からないままだった。ただ、少し程度であれば予想をつけられることだってある。

 

 前世の記憶が正しく、そして今も反映され続けているという前提であれば今もまだ父さんに対して一途な思いを向けているという時深さん。信じたくはないけれど、あるいは俺という存在に対して逆光源氏的な何かを仕掛けようとしていたりしないよな、とか。そんな予想を。

 

 そんな予想を俺に立てられているとはつゆ知らずの時深さん。彼女がミューギィの「俺(ユーリ)の嫁」発言を聞いて固まったのは友人の息子にーーー今もなお自分には恋人すらいないにも関わらずーーー嫁ができていたことなのか。それとも逆光源氏に失敗したからなのかは見ただけでは分からない。そんな彼女が再起動を果たしたのは、本人の力ではなく外部からの干渉だった。

 

「あれ、時深さん。こんなところでどうしたんですか?」

 

 その声の持ち主は少女だった。本来なら二人組であろう少女。その少女の頭には狂気の産物なぽりたんが鎮座している。この邪悪な存在に関してだけは父さんを恨みたくなるほど気持ち悪い。

 

 高嶺佳織。父さん……聖賢者ユウトが人間だった頃、高嶺悠人だった頃の義理の妹。人間だった父さんがファンタズマゴリアに召喚され、そして戦うことになったとき、父さんに対する人質として機能していた少女であり、父さんがエターナルになる後押しをした人物でもある。つまり俺からすればおばさんという立ち位置にはなるのだが、彼女はそんなことを知る由も無い。

 

 少しばかりの悲しさがありながらも、そんなことを表面に出すことはしない。だって俺が知っていることを誰も知らないもの。

 

「あら、佳織さん。……いえ、知り合いの息子さんを少し預かっているだけですよ。とは言ってももう結構成長しているので面倒を見る、預かるというのは正しくはないのかもしれませんが」

 

 おばさんの言葉によって再起動を果たした時深さんは、無難な言葉を選ぶ。まあ、流石に自分の初恋の人の息子を預かっているとか言えませんよねー。ついでに俺の左腕に抱きついているミューギィを見て何をどう邪推したのかキャーキャー叫んでいる。まあ、女の子から見たら異性に抱きついている見た目中学生程度って、そうとしか思えないもんね、ごめんね、でも恋人ですらないんだ。

 

「話が長くなりそうなら、僕が先に連れ帰っておこうか?」

 

「ああ、はい。そうですね。ならローガスにお願いして……はいけませんね。ナルカナ様がキレますし」

 

「……それもそうだ。負ける気はしないけどね」

 

「無駄に喧嘩を売らないでください、お願いですから。こっちはいい迷惑なんですよ」

 

 そういうわけなので、と断りを入れて関係性を聞かれる俺とミューギィを脱出させる時深さん。今だけは感謝してもいいかもしれない。

 

「とりあえず、ユウトのところに行こうか」

 

 ただしローガス、てめえはダメだ。

 

 口を挟んできたローガスに、テムオリンとの戦いから救われたことへの礼はあれど、ユーフィーと出会うことになるであろう家族との面会とかいう地獄に連れてきたことへの怒りと殺意が混じり合って剣呑な視線を向ける。

 

「ははっ。諦めて、ユーフォリアと出会わないことを祈りながら『出雲』に行くといいさ」

 

「……逃げさせて」

 

「ほら、行きましょう? あなたの両親が待ってますから」

 

「……タイムアクセラレイトしない?」

 

「しません」

 

「……クリティカルワンは?」

 

「しません」

 

「ユーフィーから守ってくれる?」

 

「……ユーフォリアと何があったんですか?」

 

「一緒にいたら命の危機を感じる」

 

「なるほど」

 

 多少子供っぽくなってしまったが、最後のそれにだけは無駄な重みがこもっていたと思う。あの愛ゆえの脅威は実際に受けてみないとわかりっこないだろう。俺が受けているこれは、時深さんが父さんを産まれる前からストーキングしていたようなものだから、守ってくれるなどとは信じないが。

 

 ただ、俺の重々しい言葉に思わずといった様子で頷いた時深さんは守ることを約束してくれたのでついて行くことにした。あと、この会話の間参加できなかったミューギィが不満そうに手を握ってきてとても可愛かった。

 

 そうして歩き始めてすぐ。『出雲』まで繋がる直通のエーテルジャンプ装置らしきものを発見する。そこに四人で入り、起動させて『出雲』までわずかな時間でたどり着いた。

 

「それじゃあ、僕はここでさよならだ。『叢雲』にバレると厄介なことになるかもしれないからね」

 

「ええ、ユーリ君を見つけてくれてありがとうございました」

 

「あはは。お礼ならテムオリンにも言ってあげるといいよ。彼女と戦っていた最中だったからこうも簡単に捕まえられたわけだし」

 

「……」

 

「そんな嫌そうな顔しないで。これも嫌がらせだと思えばいいさ。『ありがとう。あなたがノロノロと時間をかけていてくれたおかげでユーリくんが戻ってきました』って」

 

「……とりあえず捕まえてくれたお礼は今度会った時にでもさせてもらうわ」

 

 俺もそこに言葉を挟み、それに笑って、ローガスは門を通ってこの世界から出て行った。

 

「それじゃ、行きましょうかユーリ君。あなたのお父さんたちが待っていますから」

 

「……はーい」

 

 頼むからユーフィーはいないでくれと祈りながら三人で出雲の内へと至る木製の橋を渡り歩いて行く。こんな景色を見たことがないのかミューギィがきょろきょろと辺りを見回しているので多少は時間がかかったが、それでもたどり着いた玄関の前で、見覚えのある二つの影がそこにはあった。

 

「父さん、母さん」

 

「……おかえりユーリ」

 

「……ただいま」

 

 父さんたちに抱きしめられ、そして何も文句を言わずにただ「おかえり」とだけ言ったことに罪悪感を感じて。けれどそれよりもまずはユーフィーがここにいないことにホッとした。

 

「悠人さん、アセリア。ちょっとユーリ君がいなくなっていた間のことで話をしておきたいんですが……」

 

 そこに割り込むようにして、時深さんが二人に話しかける。きっとユーフィーのことを共通認識にしてくれるのだろう。ありがたい。これできっとユーフィーから守ってくれるはず。……それなら、家にいてもいいかなとは思う。

 

「ああ、うん。それはそれでいいけど。その前に……」

 

「そっちの子は誰?」

 

 二人の視線が未だ俺の服の袖を掴んだままのミューギィに向かう。抱きしめたりしている時も俺の裾を掴んでいたものだから絵面としては少々間抜けなものになっていたが、今の今までよくもまあ口には出さなかったものだと思う。そんな思考をしているとは知らず、ミューギィはそれを聞いて一歩前に踏み出ていつものように自分が何者かを告げる。

 

「ボクはミューギィ。永遠神剣第三位『絶炎』の担い手で、ユーリのお嫁さん」

 

 空気が凍る。いつものことだからもう慣れた。母さんはいつも通りだが、父さんの手が震え始めた。見た感じ汗も凄い勢いで流れている。何かあったのだろうか。別にユーフィーに彼氏ができたわけでもなかろうに。そんな震えている父さんは、その見た目のように震えた声で、ミューギィではなく俺の方を見て尋ねてきた。

 

「な、なあ、ユーリ。さすがにそれは嘘だよな? まさか父さんたちが知らないうちに恋人を作ったり、ましてや結婚なんて……」

 

「嘘じゃない、本当のこと。だってユーリ、あの時否定しなかったもん」

 

「あの時……」

 

 言われて、すぐに思い出した。俺と結婚すると言った時に、俺は『俺ぐらいしか交友関係ないからな』という趣旨の発言はしたが、その逆プロポーズを断った覚えがない。なるほど、だからか。けれどそういうことならと否定しようとしたが

 

「ユーリ、そんなに嫌?」

 

「嫌ってわけじゃ……」

 

 ただ、恋人の過程とかが全て吹っ飛ばされていることが気にはなるが。別にミューギィと結婚するのが嫌なわけではない。嫌いではないし。

 

「だ、だめだ! ユーリはまだ父さんたちと一緒に暮らすんだ!! いきなりポッと出てきた輩にうちの息子をやれるかぁっ!!」

 

 そこで、父さんが爆発した。どうやら親バカは俺に対しても働くらしい。それを見て母さんが落ち着けと言って気絶させる。そしてミューギィのことを見て

 

「ミューギィ」

 

「……何?」

 

 二人ともどちらかといえば物静かだからか、話も単語ごとになっている。

 

「ユーリのことが好きか?」

 

 こくりと間髪入れずに頷いたミューギィにこっちが恥ずかしくなる。

 

「一生一緒にいたいか?」

 

 さらにこれまた間髪入れずに頷いたミューギィのことを、恥ずかしくてもう直視できない。

 

「なら、ユーリにもそう思ってもらえるようにならないとな」

 

「ん」

 

 恥ずかしさでいたたまれない気持ちになっていると、そこでようやくただ見守っていただけの時深さんが手をパンパンと打ち鳴らして介入してきた。

 

「アセリア、先ほども言いましたがユーリ君がいなくなってから起きたこと。特にユーフォリアの様子を知りたいんですが」

 

「ユーフィーの? なんで?」

 

「……どうやらユーリ君が逃げたのは、ユーフォリアが関係ありそうな雰囲気だったので」

 

「! ……わかった。私でよければユーフィーのことを話す」

 

 そう言って、二人は父さんを起こしてから連れて行った。この場にはミューギィと俺だけが残される。さっきの告白があるからちょっと恥ずかしい。別にミューギィとなら一生一緒にいても問題はないのだが、「問題ない」と「一緒にいたい」だと話に大きな差がある。だからまだ頷けない。

 

 だからか、なんとなく何を話せばいいのかわからず、ミューギィも無言だったので気恥ずかしい雰囲気がその場には漂っていた。

 

 

 

 

 一方その頃。

 

 ユウトたちの間には信じられない、と言った雰囲気が広がっていた。

 

「ユーフィーがまさかなぁ……」

 

「ん。最近はユーリ人形を持って色々と話しかけていたりするから情緒不安定になったとは思ってたけど……」

 

「ユーリ君の話を信じるなら、ですけどね」

 

 話の内容はユーフォリアの現在について。両親はユーフォリアがユーリがいなくなってからユーリのことでおかしくなり始めたのは知っていたが、ユーリが戻って来れば多少過保護になる程度で済むだろう、と思ってもいた。

 

 まさか、順番が逆で。ユーリがいなくなったからユーフォリアが異常にユーリを求め出したのではなく、ユーフォリアが異常だったからユーリがいなくなったのだとは思いもよらなかった。

 

「でも、そうかぁ……ユーフィーがなぁ……」

 

「いや、そんな程度で済ませていいんですか!?」

 

「仕方ない。こればっかりは」

 

 焦る時深の前に、けれど二人が思い浮かべていたのは同じ人物のこと。

 

「いや、さすがに驚いたけど。それでも、俺は否定しなきゃいけないし、否定したいけど……」

 

「ユウトの場合はカオリのことがあったからな」

 

 二人は血が繋がらないとはいえ本当に兄妹だった。そして、佳織(妹)が悠人(兄)を愛したのは事実であり、だからこそ、ここでユーフィーが弟(兄)に向ける思慕を、ただ端的に血が繋がっているからで切っていいものかと悩んでいた。

 

 血が繋がらなくても、血が繋がっている兄妹・姉弟(きょうだい)と何も変わらないというのなら、そこでは認められた愛を血が繋がったというだけで否定してもいいものかと。それでは血が繋がっている兄妹・姉弟と確かに違う部分を認めてしまうのではないか、と。彼女と築いた関係性は普通のどこにでもある兄妹だったと信じているユウトは、その思いを嘘にしかねないそれを安易に口にしてもいいものかと。

 

 そう、悩んでいた。

 

「……難しいですね」

 

「……難しいよな」

 

「……難しいな」

 

 三人揃ってため息をついた。




親に『ユーリの嫁第一候補』と認知されたミューギィを見たユーフィーさん「……(無言で『調律』の力を引き出している)」
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