「……ユーリのばか、変態」
「いや、ミューも途中まで結構ノリノ……ごめんなさい」
ちょっと挙動不審なミューギィに涙目で睨まれて途中で言葉を止める。ユーフィーの説得を両親に任せて二人でデートしていたのだが、デートの最中にそのままラブホテルに入ってそれから一日、今の今までずっとセックスをしていた。何気に「星辰」が全力で働いて、常に精子を作り続けさせられたことに対しての不満の意を伝えて来るのだが、誰も頼んでいないことを勝手にしたからといって不満を叫ばれてもちょっと……
「これで、父さんたちにもいい報告ができそうだな」
「ん。お義父さんたちにもちゃんと挨拶しないと」
父さんはユーフィーには甘いけど、それでもやっていいこととダメなこと程度はちゃんと教えることができるはずだ。だからきっと、問題ないと信じている。帰ったら何も問題なく、ユーフィーを含めての平凡な生活が待っているのだと信じている。
信じていた、のに。
「ユーリ」
気づけば、隣にユーフィーが出現していた。すっと首筋に手を這わせている。恐ろしい。
「この子がユーリのお嫁さん? お姉ちゃんに内緒で作った?」
「ん、よろしく、お義姉ちゃん」
「あはっ。……ユーリのお嫁さんにふさわしいか、あたしがちゃんと試してあげる」
瞳が笑っていない笑顔で、ユーフィーは呟く。すっと取り出された「悠久」は心なしか煤けて見えるが、多分目の錯覚だろう。それに対応するようにミューギィも「絶炎」を取り出す。そちらは気力も十分、実際に炎まで吐いている。
「ユーリ、ちょっと待っててね? お姉ちゃん、この子と話し合わないといけないことがあるから」
「……なら神剣しまえよ」
話し合いなら絶対にいらないだろ。そう思っての発言もスルーされて、ユーフィーはジリジリとミューギィとの距離を詰める。……仕方ない。ミューギィが危険だし、どうなるかわからないため封印していたあの手段を使うか。
「姉さん」
「なあに?」
「ミューとの仲、認めてくれないの?」
「認めると思う?」
見えない。圧倒的に見えない。拳で殴り合って分かりあうのもいいかとは思うが、殺し合いに至るとそれはダメだろう。言って止まらないなら強制的に止めるしかあるまい。とは言っても、ユーフィーに対して俺が勝てる要素は一切ない。なので
「認めてくれないと、姉さんのこと嫌いになるよ?」
最後の手段。ユーフィーのブラコンっぷりに一縷の望みを託した。言葉を聞いて、じわりとユーフィーの瞳に涙が浮かぶ。「悠久」が投げ捨てられて空中で消失する。そのまま投げ捨てたユーフィーが俺に突進して抱きついてきた。
「だ、ダメぇぇぇ!!」
一触触発の状況が瞬間的に解除される。ユーフィーが抱きつくのを目撃していただけのミューギィからすればよくわからないことだろうが、俺は賭けに勝ったのだ。
ユーフィーが俺を閉じ込めようとしていたりなんやかんやしようとしていたのはひとえに彼女が超絶ブラコンだったから。実際、昔にずっと一緒だのなんだの言ってたのも、覚えがある限りでは俺が一人で出歩けるようにするためだったはず。つまり、大元はブラコンなのだ、この子。ユーフィーが弟に嫌われても問題ない、自分が弟のために色々とやるんだ、系のブラコンだったら意味がなかったが、そうではなく俺が望んでることを全部叶えてあげるんだ系だったためにこの言葉が効いた。
「ユーリィ……お姉ちゃんのこと捨てないで……?」
あ、やべ。母さん譲りの美貌で潤んだ瞳の上目遣いは効く。一瞬ころっといきかけたけど、ミューギィのジト目で戻ってこれた。正面から抱きついてくるユーフィーのことを抱き返して耳元に口を近づける。ユーフィーの叫び声でやってきたおば様方が抱きしめ合っている俺たちを見てあらあらまあまあとつぶやいているが、別に俺とユーフィーはそういう関係ではない。
「なら、俺とミューの関係認めてくれる?」
俺の言葉に顔を胸元に埋めてうーうー唸り始めるユーフィーだが、やがて満を辞したかのようにそっと見上げて尋ねてくる。
「……なんであの子なの? お姉ちゃんじゃダメ?」
ダメです。
なんて一言で言っても納得しないだろうし、これで納得してくれる保証はないが、答えるぐらいはいいだろう。
「まず、俺は血の繋がった姉に欲情する変態じゃない」
「うっ……で、でも! それでもこの子と一緒にいる理由にはならないでしょ!?」
「いや、ユーフィーみたいに閉じ込めようとするんじゃなくて、実際にロウに攫われそうになった時に助けてくれた相手だし」
「で、でもこんな短期間で……」
「ユーフィーよりも長く一緒に暮らしてたけど?」
ユーフィーとは三十年ほど、ミューギィとはすでに四十年ほど経っている。短期間というならユーフィーの方がそれっぽい。年月が大事だと言うのなら、それこそユーフィーよりもミューギィの方がふさわしいのだ。
「……って、あれ? ロウに攫われそうになった?」
「うん、前に一回」
「……へえ、誰?」
「ん?」
「誰に攫われそうになったの?」
「……テムオリンの部下」
正確にはテムオリンなのだが、その理由はントゥシトラにあるのだから、ある意味では間違っていない。その言葉を聞いてユーフィーはもう一度笑いをこぼすと、先ほどしまった「悠久」をまた取り出す。
「うん、ユーリのことをその子が助けてくれた事実は変わらないもんね。それならユーリの心がそっちになびいちゃうのもしょうがないよね。あたしは結局、守ろうとしても守ってる姿は見せられなかったわけだし……」
でも、だからと。なにやら恐ろしい雰囲気をまとったユーフィーは笑った。
「お姉ちゃんにもユーリのために何かさせてね?」
「……なに、するつもり……?」
「ロウの殲滅……最低限、テムオリンは殺さないとダメだよね」
殺意の発露。そんなことをされてはこれから先に色々と困ることになる。「悠久のユーフォリア」の物語がどんな形になるのかは知らないが、さすがにテムオリンの出番が存在しないなんてことはないだろうし。……この時点でテムオリンに対する感情が悪化の一路を辿り続けているために、アガスティアに行っても仲間になれそうにないという事実は置いておくとしても。
「姉さん、さすがに心配になるからやめて」
「大丈夫だよ、ユーリ。お姉ちゃんは強いんだもん。ユーリのためならロウの一つや二つ。簡単に潰してあげるよ?」
「姉さんが強いかどうかと心配するかどうかは話が別、別だから……!」
それに、俺のせいでユーフィーがロウに殴り込みをかけたとか、色々とやばい案件にしか思えない。テムオリンのことだから、すでにユーフィーがとんでもないブラコンだと知っていてもおかしくはない話だし、そうなると何かしらの罠を張っている可能性だってある。
「今はまだ父さんたちに任せて、家で待ってよう?」
必死の説得。それが功を奏したのか、今にも飛び立とうとしていたユーフィーがこちらを振り向く。
「それは、ユーリも一緒に?」
「うん、一緒に」
そうじゃないと何をしでかすのかわからない。ちゃんと監視しないと。そんな思いを乗せての宣言に、けれどユーフィーは笑って。
「そっかー。ユーリはお姉ちゃんと一緒にいたいんだー。うん……それならしょうがないなぁ……」
甘えん坊な弟を持つと大変だなぁなんていうユーフィーに、言葉を間違えたかと思うが、嬉しそうな顔をしているユーフィー相手にそれを告げると後が恐ろしい。……俺のことを思ってくれているわけだしそれでいいかと諦める。
「姉さん、ちゃんとミューも一緒だからね?」
「うー……二人っきりじゃダメ?」
「だめ」
あーとかうーとか唸りながらも、俺のことをチラチラ見て、引かないのだろうと理解したユーフィーがため息をついてしょうがないなぁなんてこぼす。
「いいよ、認めてあげる。……でも! 代わりに絶対に逃げないでよ? ユーリはこれからずうっとお姉ちゃんとも一緒だよ?」
「はいはい」
ぎゅうっと抱きしめてくるユーフィーを抱きしめ返し、ほら帰ろうと促しても離れてくれたのは十分後のことだった。
「パパとママには謝らないとダメかなぁ……」
「ん? どうした?」
「あたし、ユーリにお嫁さんができたって聞いて飛び出してきちゃったから心配かけちゃっただろうし……」
「あー」
それは確かに心配をかけているだろう。ちゃんと帰ったら謝らないと。ユーフィーが右腕、ミューギィが左腕に抱きついた状態で。けれどミューギィも姉弟同士の会話だとわかっているからか特に首を突っ込んでこない。
一日空いての帰還。その後はきっと、二百五十年以上もの間帰宅していなかった実家への帰宅となるのだろう。とりあえず、これから先の原作という意味合いではまだまだ不安はあるけれど、家出に関してはこれでおしまい。……うん、多分父さんたちもこれからはちゃんと外に出してくれたりするはずだと信じてるから。これで終わりになるはずだと信じたい。
……そういう意味ではユーフィーが未だに危険なままであることからは目をそらして。
第一部的な何かが終了? これからユーリくんは姉が横で寝ている中、ハラハラドキドキしながらミューちゃんとセックスする日々が待っています。起きたらTHE END 旅団の皆は何事もなく帰って行ったよ!!その理由は少し下
〜〜少し前〜〜
エト・カ・リファ「うーん、なんだか時間樹内が変なことになってるぞ? これはリセット案件かな?」
ユーフォリア「ユーリ……あたしの弟がどこにいるのか知りませんか?」
エト・カ・リファ「ん? 誰だ貴様? こんなところに遊びに来るんじゃない。今からナルでてんやわんやしてるこの時間樹をリセットする予定なんだかーーー」
ジュボッ(レゾナンスリムーバーを受けて消滅した音)
ユーフォリア「知らないならどうでもいいです。ついでにリセットされるとこの時間樹の中であたしを待ってるユーリまで危険じゃないですか。死んでください(殺した後に言う)……あ、記憶戻りました(怒りのレゾナンスリムーバーにて鞘の方からバックアップを抽出)」