父さんたちに見つからない場所を探し求めて、すでに三年が経過していた。
いくつもの
そして、それだけの時間が経てば生活の基盤というものも出来上がっている。この世界についてから初めて出会った相手が貴族だった、ということもあって俺たち二人の生活は十二分以上にはっきりとした代物になっていた。
「どうかしたのかよ」
「ん、ああ、ノワールか。いや、最初は大変だったなって」
「時間樹を抜け出した後か? そりゃそうだよなぁ。俺にはお前と語り合ったっていう性癖の話の記憶がないし、お前からもらったっていう名前も記憶には残ってないんだから」
「俺も、エターナルの”渡り”のことは完璧に忘れてたんだよなあ。だからお前の説得にも苦労したわけだし」
「そりゃ、俺からしたら理由もわからずにいきなり世界の外に出てるようなもんだったからな。お前が転生者だってことがわかってようやく納得できたけど」
あの時間樹を抜け出した途端、ノワールは俺が”渡り”を行なったことによって自分が外に出ている理由も、自分が見知らぬエターナルに掴まれている理由もわからなくなったようだった。最初は、解剖されるのかと敵視された俺だったが、「永遠のアセリア」「聖なるかな」について説明。それも「永遠のアセリア」に関してはこの世界では辿らなかったいくつかのルートを説明することでようやく、俺も転生者だと理解してくれて、さらにそこからユーフィーが原作と違う点を納得させるまでに一苦労。
そうして、ようやく見つけたノワールにとっては安住の地。けれど永遠の時を生きることになる俺からしたら一時の隠れ家。まあ、ノワールがこの地を安住の地と定めたのは、俺がこの土地からしばらくすれば出て行くと決めた理由はそれだけではなく……
「おっ、ノワール。恩人様が来たみたいだぞ」
「その呼び方やめてやれよ、リルが泣くぞ……?」
リル。正式名称はリル・メルリーナ。俺たちを拾ってくれた、この
彼女は私兵が欲しい。俺たちは生活基盤を手にしたかった。
そうした利害の一致により、俺たちは永遠神剣の担い手でありながらも彼女の私兵として行動することができる、エトランジェでありながらもこの国の永遠神剣を持たないために王国に縛られることのない特殊なエトランジェとして彼女と協力関係を結んでいた。
「久しぶりですね、ノワール、ユーリ」
部屋に入って来た、少女と呼ぶにふさわしい体躯ながらも、これから先普通に成長していけば誰もが羨む美貌を手にするであろう俺たちの雇い主を久方ぶりにじっくりと見る。
白に近い金色ーーー俗にプラチナブロンドと呼ばれる色の髪を、齢十三の少女の肉体の背中程度まで伸ばし、紅玉のような瞳は柔らかな慈愛を讃えて俺たちを見つめている。この異世界アガスティアに入るにあたって十五歳程度の肉体に強制的に成長させた俺よりも頭二つぶん程度小さいその少女は、俺たちを見つめながらその相好を崩した。
彼女の存在こそがノワールがこの世界から出ていけない理由。要するに惚れたのだ、こいつは。ここで一生を彼女とともに終えたいと真面目に言うほどに。しかも見る限りはリルもノワールに惚れてるっぽい。この二人のそばに居続けるのが苦痛というのも、俺がこの世界から出て行くことになる理由の一つではあるけれど、
何よりも大きいのは、このアガスティアが永遠神剣シリーズ第三章「悠久のユーフォリア」の舞台となる場所だからだ。
俺が死ぬよりも前に、ついには発売されてくれなかった第三章。けれどここが舞台だとわかっているのであれば、この地に留まらないという対策はできる。正直に言って、「聖なるかな」が「永遠のアセリア」よりも遥かに未来の話であるにも関わらず、「永遠のアセリア」の主人公である父さん、その人間時代に妹だった高嶺佳織が生き残っているという時点で、この
ただ、未だ王女であるアレストリが誕生していないこと、そして王妃が妊娠したことも公表されていないので、あと十六、七年程度の余裕はあるのだろう。この世界が同人設定の「悠久のユーフォリア」通りに動いてくれているのであれば。それだけの時間があればこの二人が結ばれて幸せな生活を送っているところも確認できると信じたい。
「ふーん。契約を交わしたのは俺なのに、先に呼ぶのはノワールの方なんだー?」
それを、この世界での最後の記憶としたいので、嫉妬しちゃうなーなんて言いながら、とりあえずは今日も今日とて彼らの仲をからかうのだった。
「はあ、疲れました」
十数分からかったところでそろそろいいかと切り上げて本題に入る。
「それで、今日はどういう理由で?」
「理由がないと来ちゃいけませんか?」
問うと、そうやって返された。別にそういう理由ではないのだが、彼女がやってくるときは基本的には何かしらの仕事の依頼であるケースの方が多かった。だから今回もそれだろうとあたりをつけただけであって、別に悪いことなど全くない。むしろ、俺たちも彼女と話をするのは楽しいので、こちら側としても嬉しいことではある。
「うーん。そうなるとただの世間話になるか……俺たちにそこまで期待されても困るんだけど」
そうだ。俺たちも別に世情に詳しいわけではない。たまに外を出歩くことはあっても、深窓の令嬢みたいな風貌をしておきながらアグレッシブにすぎる雇い主様に比べればその回数も少なすぎて、特に話をする内容なんてないのだ。……更に言えば、たまにノワールと二人で彼女が出かけているのも見かけるから、それこそ話す内容がある二人は、話が被ってしまうのではないかという危惧もある。
「あ、でしたら!」
「何さ?」
「これまでの二人のことを聞かせてください。この世界に来る前の二人のことを」
俺たちがこの時間樹に降り立ったとき、まず最初に遭遇したのは言語の壁。幸いにも俺たちには永遠神剣があったために、ありとあらゆる世界で契約を行う必要がある永遠神剣の特性が存在したためにある程度は勝手に翻訳してくれた。けれど、永遠神剣の能力を使用してしまえばその残滓が俺たちの体から漂ってしまう。
結果、それを嗅ぎつけたミニオンに襲われて。それを撃退するところを目撃したリルによって拾われたというのが俺たちが今ここにいられる理由。それからほとんど二年、もう完璧にこの世界の言語は喋れるようになっている。
「うーん。そうだなぁ……ここに来るまでの俺たちの話ってなると、楽しいことなんて特にないと思うんだけど」
俺はユーフィーに襲われそうになっていた話になるし、ノワールに至ってはナルカナに仕えていた頃の話になる。どっちも楽しい話とは言えない代物なのでできることなら語りたくはない。
「ダメ、ですか?」
けれど悲しそうにするリルの姿を見て、話さないという選択肢は取れなかった。甘いと言われるかもしれないが、彼女に悲しそうな顔をしていてほしくないと思ってしまう。
「わかった、でも楽しい話じゃないと思うぞ」
だから前置きだけをして昔のことを話し出す。話をしている最中、ふと今のユーフィーたちはどうしているのかという疑問が湧いて出てきたことは心の奥底に押し込めて。会いたくなったりしないよう、厳重に、厳重に、鍵をかけて。
ユウトは、扉の前から部屋に篭っているユーフォリアへと声をかける。
「ユーフィー……大丈夫か……?」
「……はい」
三年前、『出雲』に行った翌日のことだ。気がつけばユーリの姿はそこにはなく、そして唯一の男性個体のミニオンも姿を消していた。これを異常と判断した『出雲』は大規模な捜索を開始したのだが、『出雲』のものとは違う門を通ってハイペリアを脱出した影響で、未だにどの世界に向けて旅立ったのかが理解できていなかった。
そして、それと同時にユーフォリアも自責の念にかられるようになった。
当然のことだろう。彼女はユーリが姿を消した当日、ユーリと同じ布団にて眠っていた。いくら疲労していたからと言っても、一番最初に気がつかないといけない立ち位置にいるはずの自身が気がつけなかったのだからと、今も己のことを責め続けている。
「大丈夫。きっとユーリも見つかるさ。そしたら今度こそ、絶対に離れないようにすればいいだけのことだろ?」
時深の未来視を始めとしたあらゆる異能による探査が、ユーリに対しては通用しなかった。ユウトが考えるに、それこそがあの莫大な身体能力以外の「星辰」の力。物理的なもの以外を全て無効化してしまう力であり、その影響で今もなお見つからないままだった。
「そう、ですよね。見つかりますよね。……うん、そうだよ。見つかるはずだよ。見つけたら絶対に離れないように首輪か何かをつけて……」
「ユーフィー?」
最後の方はブツブツと呟き始めたユーフォリアに、けれどユウトの耳にはその内容は届かない。かつての鈍感主人公の名残が今も彼には根付いていた。
「きっとまたあの時の女の子が関わってるんだ。あの子、妙に執着してた気もするし。”法王”、だったよね。…………倒して捕まえて拷問してどこに連れてったのか吐かせなきゃ。ユーリが戻ってきてないのは”そういうこと”だし」
エターナルに本当の意味での”死亡”という事例は少ない。なぜならエターナルの特性として、『神剣を己の意思で手放さない限りは死なない』という原作者によるーーーユーリがこの世界に生まれた時点では、の話ではあるのだがーーー同人設定と、原作における『永遠神剣の本体を別の世界においていればそちらで復活できる』というものが存在する。
そんなエターナルの特性があるからこそユーフォリアは、戻ってこられないのは監禁、あるいは拷問といった『死なせない』方策が取られているからだと断定した。……実際は自分で逃げ出しただけなので、テムオリンからしたら冤罪なのだが。
「待っててね、ユーリ。今、お姉ちゃんが助けに行くよ……!」