「あ、あわわ……」
四葉がこれでもかというほどにたじろいでいた。でも、俺も今激しく動揺しているから気持ちは分かる。今にも「なんだこれ」と言い出したい気分になっている。
「透け透けです……」
「悪趣味すぎる……」
内装に個性が溢れていた。照明はなんだか気持ち悪い暖色だし、シャワールームは全面ガラス張りだし、とにかくわけが分からなさすぎて、動物園にでも放り込まれたようだ。
「え、えっと」
四葉はきょろきょろと視線を泳がせて、最後には部屋の中央に鎮座するやたらと大きいサイズのベッドを見た。
「ど、どうしましょ?」
「作法は予習済みなんじゃねえのかよ」
「いざ入ってみると頭の中が桃色でまるでダメです」
限度いっぱいまで頬を染め切った四葉は、機能停止したように俺にもたれかかって。
「り、リードをお願いしても?」
「じゃあ、日中汗かいたろうしひとまず風呂から……」
覚束ない足取りで風呂場に向かい、電子パネルをいじくって湯を溜める。外から丸見えなので溜まりきったタイミングが分かりやすいのは一つの利点なのかもしれない。問題はそれ以外のデメリットを一挙に背負っているところなんだけど。
「あ、あの」
「なんだよ……」
「お風呂が準備できるまでどうしましょうか?」
「俺はシャワーだけでいいから先に入るけど」
「えっ」
「え?」
「ここまで来たら、一緒じゃダメですか……?」
「…………ダメでは、ないけど」
しかしそうなると、時間の潰し方が見つからない。やることをやるにしたって、体を綺麗にしてからの方がいいだろうし。
このままのテンションでそわそわしたまま待つのは、流石に苦しいことに思えた。心臓にかかる負荷が馬鹿にならなそうだ。
「お、おー。スプリングがしっかりしてんな」
間のつなぎ方が分からなくて、ベッドに腰かけて何度か体を弾ませてみた。そもそも数えられる程度しかベッドで寝た経験がないので、スプリングがしっかりしているかどうかの判断基準を持ち合わせていないのだが。
「あー、なんだ。お前も座れば?」
「……し、失礼します」
がっちがちに固まった四葉の体重分、マットレスが沈む。何も、肩が触れる距離まで近づかなくてもいいと思うのだが……。
「……痛いって本当なんですかね」
「そういう話を今すんのか……」
「怖いんですよ。分かってください」
「まあ、うん……」
異物を体内に突っ込むのだから、防衛反応として痛みがあるというのは理屈として通ると思う。だが、予めそういった目的で形成された器官であることもまた事実なので、実際のところはどうなのだろう。男なので、想像しか出来ないのが悔やまれる。
俺をガンガンに犯していった連中はそういった素振りを見せなかったので、そこも姉妹共通していればなんとかって感じか。
取りあえず、今のうちに唇でもくっつけておいて、彼女の緊張を少しでもほぐせれば。そう思い、ゆっくりと顔を彼女に寄せて――
「えと、キスとかってどのタイミングが良いんですかね……」
「聞かれると一気に恥ずかしくなるからやめてくれ」
「も、もしかして今しようと……?!」
「確認されると死にたくなるから勘弁してくれ」
「さ、さすが手練れ……」
これ以上しゃべらせても無益なので、さっと唇に栓をする。すると、瞬間的に四葉の体が強張って、感情のやりくりを間違えたようにぷるぷると震えだした。爆発でもする気か。
「…………い」
「い?」
「息って、どうするんでしたっけ?」
「鼻呼吸しろ鼻呼吸」
そのレベルまで教えてやらないといけないのか。いや、テンパっているのは重々承知の上なんだけど。
「で、でもあれですね。一応成功ですよね」
「成功失敗が存在するのか知らねえよ……」
でも確かに、勢い勇んで歯を当ててくる奴とかがいるかもしれない。それを思えば、流されるままぷるぷるしていた方がまだマシなのかも。
「オーケーです。バッチコイです。このペースで、その、大人なやつも……」
「言いながら照れんのやめろ」
「上杉さんがしょちゅう一花たちとやっているアレを」
「急に冷めるな」
とかなんとかやり取りをして、もう面倒なので四葉をベッドに寝ころばせる。背中を何かに預けていた方が少しは安心感があるだろうし。
四葉はそれに戸惑ったようだったが、何を勘違いしたのか大人しく目を閉じてくれたので、それに乗じて唇を重ね、無防備な口内にそのまま舌を挿入する。
まるで誇れることではないがこの数か月これをひたすら続けさせられてきたので、妙に習熟している感があった。未経験の女の子一人くらいなら、そこそこ満足させてあげられるかもしれない。
奥歯や歯茎に順繰り触れて、最後に舌同士を絡ませ合う。四葉は完全にされるがままのスタイルになっているが、こうも従順だと心に余裕が持てて良い。終始俺優位で進められるなら、マズいことは起こらないはずだから。
「…………ん、っ!」
失念していたが、こいつは基本的に俺よりも力が強かったのだった。不安に駆られたのか両腕でぐっと引き寄せられた俺の体は彼女にぴったりと張り付いて、胸部にある存在感の塊を強引に意識させられる。こんなものを抱えた上でよく運動なんて出来るもんだなと、唐突に感心した。
「き、きもちいいですね、これ」
「なら、良かったけど」
「みんなが夢中になる理由がなんとなく分かりました」
「分からなくていいから」
わいきゃい言っていると、電子音が響き渡った。どうやら風呂が沸いたらしい。
その音で我に返ったらしい四葉は、この後俺の前で素肌を晒すことを思い出してか、急速に赤面して何も話さなくなった。既に中野姉妹の体つきは把握しているので、俺はだいぶ気が楽だったりするのだけれど。
「ほれ、立て」
「……お姫様抱っこでどうでしょう?」
「落としても文句なしな」
冗談抜きで俺の力だと取り落しかねない。それを恐れてか、彼女の腕が首に回る。重心を上手く合わせてくれれば人間は意外に運びやすいから、ありがたいことだ。
そのまま脱衣所に彼女を下ろし、だらだらしていても仕方ないので上に着ていたシャツを脱いで上半身裸になる。その様子をじろじろ見ていた四葉はやっぱり赤面していて、固まったまま動かない。
「そのまま風呂入んのかよ」
「心の準備がありまして……」
「……あっち向いてるから、その間に手早くな」
個人的には、裸を見るよりも脱衣のシーンを眺める方が背徳感があった。四葉はどうか知らないが見られていない方が気楽なのは誰でも同じだと思うから、気をきかせてそっぽを向く。
自分だけ先に全裸になってもあれだからとたらたらズボンを脱いでいたら、後ろから「あっ」という何かマズいことにでも気づいたような声が聞こえてきた。虫でも出たのかと思って、すっとそちらを向くと。
「…………あ、あの、違うんです。これはそういうのじゃなくて」
上下下着姿の四葉が、主にショーツの方を隠そうと手を交差させていた。けれど慌てているためか完全に隠しきれてはおらず、シンプルな綿地にリボンがあしらわれた布がちらちらと覗いている。いつだか聞いたお子様パンツってやつだ。
「いつもはもっと大人な感じのを履いてるんですけど、今日はたまたま……」
「バランスを考えてくれ……」
「バランス、ですか?」
ダイナマイトみたいな体に合わせていいアイテムじゃない。もっと貧相な体躯だったら目立たなかったのかもしれないが、出るところが出まくっていて引っ込むところは引っ込みまくっているこいつみたいなのが履くにはさすがにアンバランス。こんなのはもう半分凶器だ。
でも、なんだろうか。自分に特殊な嗜好はないはずなのに、なんだか妙に興奮している気がする。禁忌に触れた気分になってしまっている。
「え、あ、上杉さん?!」
「どうせこのまま脱ぐまでに時間かかんだろ」
「そ、それはそうかもですけど……!」
寄って、さっさとブラのホックを外す。布が落ちないようにと下の守りが手薄になったところで、ショーツの方もずりおろす。四葉は盛大に狼狽していたが、どうせいずれ全部見るのだから遅いか早いかの違いだけだ。
「じゃ、じゃあ、私も失礼して……」
観念して両方の布から手を離した四葉が、俺のパンツに手をかけた。が、突起が引っかかっていてなかなか上手くいかない。もどかしい刺激を与えられて悶々とするが、あくまでこれは体を洗う前段階なのだから、今から盛るわけにはいかなかった。
「お、おっき……」
「感想は良いから……」
「……私は欲しいですけど」
そう言われた後からでは直視できない。どう思われてもいいが、こんなときに限ってクールを気取りたくなる。
「……どこもかしこもデカい」
「お尻は見ないでくださいよぉ」
「見てねえよ……」
残念ながらこれは嘘だった。安産型でとてもいいですねと心の中で批評して、そっと目を閉じる。……と、視界を自ら潰したのが災いしてか、突然顔にお湯を浴びせられた。どうにも、四葉がシャワーを使ったらしい。
「えっちな上杉さんへの罰です」
「前見えねえからやめてくれ」
「まじまじみられたら恥ずかしいのでなおさらです」
ばしゃーっと湯を頭から浴び続けて、見る見るうちに髪の毛が潰れた。そこまでやって満足したのか、四葉は次に自分の頭にもお湯をかける。
「せっかくなので頭の洗いっこしますか?」
「幼稚なプレイみたいだから勘弁してくれ」
近くのシャンプーをワンプッシュして、適当に髪を洗う。短髪なので、時間も手間もかからない。
「……む」
「なんだよ」
「私は洗ってもらいますからね」
「いいのかそれで。女の命だろ」
「上杉さんに命を預けます」
「……ったく」
加減はさっぱり分からないが、なんとなく5回分ほどプッシュしたシャンプーを手に取った。こいつはそこまで髪が長い方ではないから、要領が違い過ぎるということはないはずだ。
「優しくお願いしますね」
「まるで分からん。こんな感じか?」
「そんな感じですねー」
適当な強さで髪を梳いて、泡が回るように頑張ってみる。しかし、後ろから手を回しているせいで、ちょくちょく俺のが四葉の尻あたりを掠めるのがどうにも。やっぱり変態っぽいなこれ。
「じゃあ、そろそろ流してもらって」
「おう」
さっきの仕返しとばかりに、流水で彼女の頭をぐちゃぐちゃにする。わーきゃー騒いでいるから、ここに来た主旨を忘れている説すらあるなこいつ。
「じゃあ次は体の方を……」
「それは完全にアウトなやつだろ……」
「そ、そういうところから慣れていければなと思いまして」
「言いながら石鹸泡立てんな。そういうのは本職の人に任せとけ」
「ほんしょく……?」
「忘れろ」
失言だった。だが相変わらず四葉はせっせと泡を立てていて、それをどうするかに悩んでいるようだ。
「……そうだ」
「絶対ろくでもない思い付きしたろ」
「あわあわの私が上杉さんに抱き着けば……」
「やめろ。そういうのは玄人のお姉さんたちに任せとけ」
「くろうと……?」
「忘れろ」
失言が止まらない。しかし、彼女の発想は非常に危険だ。少なくとも知り合いとの間でやることじゃない。
「おい」
「や、やるだけやってみましょうよ」
「待て。待って」
「素肌が触れあうと、気持ちいいですし」
ちょっと目を離した間に泡まみれになった彼女が、俺の体を抱きしめてくる。完全に絵面が終わってるだろこれ。
確かに人間の体は良く出来ていて、素肌と素肌が触れあうとなんとも言えない多幸感に満たされる。しかもそれを潤滑に進める泡が仲介するのだから、気持ち良くないわけはないのだが。
「あっ、これはヤバいやつですね」
「急に我に返るなよ。どうすんだこれ……」
「か、体動いちゃいます。勝手に」
「完全に体を綺麗にする目的から外れてるだろ……」
「そういう上杉さんも、さっきから私のお尻……」
「…………」
手に馴染むもち肌は姉妹共通らしい。しかし、意図していたわけでもないのにこの動き。数か月間返上していたお猿さんの称号を取り返すときなのかもしれない。
「なんだかいけないことをしてるみたいで……」
「してるだろ実際」
口ではそう言いながらも、ちゃっかり体は動いていた。四葉の背や腕に泡を塗り込みながら、こっそりと彼女の柔肌を堪能している。こうなればもう、変態の誹りは免れまい。やっぱりお猿さんは健在だったようで、自分の進歩のなさに愕然となる。
「あの、大丈夫ですか?」
「何も大丈夫じゃないけど」
「いえ、さっきからその、おへそのあたりに熱いものが……」
「だから大丈夫じゃないんだよ……」
「…………さ、触っても?」
「こんなとこ来てる時点で腹は決まってんだから一々確認しないでくれ……」
「私の体で興奮してますね?」と詰め寄られているみたいで、なんとも気恥ずかしい。実際にそうなのがまたなんとも。
四葉はちょっとだけ名残惜しそうな顔で俺から離れて、もう手がつけられないくらいに膨れ上がった俺の下半身をまじまじと眺める。そしてそれから、右手でつーっと裏筋を撫でた。泡で滑りが良くなっているせいで、まったく知らない感覚が俺に襲い掛かってくる。
その快感に、堪え性もなく顔を歪めてしまった。彼女はそれに気を良くしてか、今度はその小さな手のひら全体で包むようにして、俺を擦りあげてきた。その力加減がまた絶妙で、口から情けない声が漏れてしまう。
「気持ちいいですか?」
「必死に耐えてんだから気ぃ散らさせんな」
「で、出そうですか?」
「恥ずかしいなら言葉責めはやめとけっての……」
「はぅ」
ぎこちなさに耐えかねて、デコピンを叩き込んだ。似合わないことをされると、背中が痒くなってくる。
こちらはどう避けようとしても常に目に入ってくる四葉の健康的な肢体を前に思考が過熱しているから、正直それだけで十分なのだ。変化をつける必要性が感じられない。
「う、上杉さん」
「なに」
「せっかくぬるぬるなんで、胸でしてみます……?」
「…………お願いするけども」
大質量に圧迫されるのはさぞや気持ちのいいことだろうと思う。ぜひとも試してみたいし知ってみたい。なれど、どうしても見た目がマニアっぽくなってしまうのが難点だった。俺は四葉にお金を払ったっけ。
「どくどくしてて別の生き物みたい」
自分の意思で制御できないことが多すぎるからその感想になんの間違いもなかった。四葉は不慣れな様子で自分の胸を持ち上げてから、その谷間に俺を誘導する。
「……これだと顔にかかっちゃいますね」
「想像しちまうから言うな」
「…………かけたかったりしますか?」
「しねえよ。俺を何だと思ってんだ」
「わ、私はちょっとだけかけられたいって思ったり」
「するなよ。しても言うな」
会話中に、もう動きは起こっていた。上半身を全て使うようにして俺を扱きながら、四葉は時折熱い吐息を吐いている。
「……ちょっ、もっとゆっくり」
「これ、私も気持ちよくって……」
俺は直立状態なので、押し寄せる快感に何度か膝を折りそうになる。転ばないようにと彼女の肩を掴んでいるせいで、密着度が余計に上がっている気がした。
慣れてきた彼女が緩急なんかつけるせいで、いよいよ軽口を叩く余裕すら消え失せる。どうしようもない射精感がせり上がってきて、思考全てが白に染まった。
「…………ぁ」
何度も何度も激しく脈を打ちながら、ためこんでいたものを盛大に吐き出した。ここ最近ご無沙汰だったというのも相まって、冗談みたいな量が出る。それらは彼女の胸と、そしてお望みどおりに口の周りへ飛び散っていた。
「…………にがいれふ」
なぜ舐めたと問いただす前に笑ってしまった。とにかく、さっさと体を洗い流さないと。
「湯船、広いですね」
「それが分かってるならなぜこのスタイルなんだ……」
「正面からだと恥ずかしいので」
せっかく湯を張ったので、二人そろって湯船に浸かった。彼女の言の通り足を悠々と伸ばせるくらいにバスタブは広いのに、なんでか四葉は俺の胸板に背を預ける格好で座っている。角度のせいで、妙に色っぽいうなじが目についた。
「そんなもんか?」
「ひゃっ、なんでお腹つまむんですか?!」
「つい」
「つい?!」
手持無沙汰なので、なんとなくの行動だった。日頃から運動している成果なのか、腹回りはかなり引き締まった印象を受ける。俺も見習いたいくらいだ。
「じゃあ、私も失礼して」
「内腿撫でんな。ぞくぞくする」
「……上杉さんもいかがですか?」
「……いや、それは」
絶対にそのままエスカレートしてしまう自負があった。体勢的にも、とある部位を非常にいじりやすくなっている。
「い、いかがですか……?」
「誘導すんなよ……」
手で手を招かれて、彼女の左の太ももに触れる。やはりこちらも引き締まっているが、それ以上に柔らかさが目立った。男女で人体の組成がここまで変わるものなのかと驚嘆するのはいつもの流れだからもうやらないが、それにしたって興奮するものは興奮するのだ。
さわさわとその周辺をいじくりまわしながら、こっそりと手を上へ上へと持ってくる。なんとなくサケの遡上を彷彿とさせる動きに、我ながら何をしているんだろうなあと呆れた。で、両者の間にあった暗黙の了解を守りながら、偶然触ってしまった風を装いつつ、彼女の秘部を一撫でする。
「ひゃぃぅ」
「どうやって発音した今の」
「あ、あの、恥ずかしいので口押さえててもいいですか……?」
「お前の好きにすればいいと思うが……」
正直、普段は聞くことの出来ない声を脳に刻んでおきたいという思いはある。かつてはそれが暴走して、某次女さんにずいぶんと恥ずかしいお願いをしたこともあった。
だが、俺も脱童貞して久しい。そういうがつがつした価値観からは抜け出すタイミングなのかもしれない。
いきなり奥までつっこむわけにもいかないだろうから、入り口のまわりを揉みこむようにして丁寧に撫でるところから始めた。水の中なのに彼女が濡れているのが感じられて、四葉みたいな元気っ子もこうなるのかと悟りを開く。なお、俺の下半身状況はとてもじゃないが悟りを開いた人間のそれではない。
「……んんぅ……ぁぅっ……」
「余計エロいからやっぱダメ」
想像以上に早いギブアップ。くぐもった声は密室内で良く反響して、下手な言葉責めよりもよっぽど俺に突き刺さった。こうなるくらいなら普通に喘いでいてもらったほうがなんぼかマシだ。
「じゃ、じゃあ、キスしてもらっても?」
「どこからその接続詞を召喚した」
「今のままだと下ばっかりに意識が向かって大変なんですよぅ」
「良いだろそれで。ほぐすためにやってんだから」
「……あと、あんまりえっちな姿をお見せするのがどうにも」
「気にしねえよそんなの……」
むしろ、男性心理からすれば積極的にお見せしてもらいたいくらいだ。その方がこちらも割り切りやすくていい。
「……ほれ、こっち向け」
だけど、キスしながらの行為も乙なものに思えたので、彼女の動きを促す。腰を捻ったせいかは知らないが指先に伝わる感触が変わって、こういうやり方もあるのかという新たな知見を得た。
「……んっ」
唇を触れ合わせたタイミングで、彼女の狭い膣口を分け広げる。瞬間的にびくりと体が震えたようだったが、痛みはなかったのか、その後は体の力を抜いて、一切の結末を俺に委ねてきた。
「……ん、む……」
手を余らせておくのはどうかと思い、彼女の乳房を揉みしだくことにした。手に収まらないサイズの果実はずっしりと重くて、見た目に反さず異様な柔らかさを誇っている。ついさっきこれに搾り取られたばかりだからどこかに畏怖の感情が残っていて、敬意を示すみたいに、全体を余すことなく揉みほぐす。性感帯を同時に何か所からも刺激されている四葉はもうわけが分からないようで、頼りない力で俺の舌技に応え、あとは時折甘い声を漏らすのみ。
その仕草に愛おしさのようなものを感じてしまった俺は本当に末期なのだが、今はその感情を捨て置く。しばらくそれを繰り返しているうちに、彼女の全身が大きく脈を打って、その後脱力した。指先からは、ひくつく感覚が伝わってきている。
「…………お上手ですね」
「特別なことは何も」
「お上手ですね」
「うっ」
どうやら未経験でないことは察されてしまったようで、刺すような視線から逃れるために、下半身のもっとも敏感であろう部分を刺激した。手法が最低すぎる。
「そ、そこはダメです」
「言ったらもっと攻められるのに」
「あ、だ、ダメですってばぁ……」
集中的にいじくりまわしていると、再びの痙攣。どうやら本当にここが弱いらしい。強い人間がいるかどうかは謎だが。そもそも強いってなんだ。
「お湯が汚れちゃいます……」
「気にすることじゃないと思うが」
それからしばらく、お互いの弱点をいじりあいながら湯船に浸かり続けた。ふやけたりのぼせたりしそうだったが、果たしてそれがお湯だけのせいだったのかは定かではない。
空気を揺らす低温が室内に響いている。音源はおれの手の中にある家電で、その効果を享受しているのは目の前に座った四葉だった。
「上杉さん、ドライヤー慣れてますね」
「妹がいるからな」
濡れたままには出来ないので、据え付けられたドライヤーで乾かしていた。四葉たっての希望で、俺がわしゃわしゃと未だ水気を含んだ髪を梳いている。
これまた備え付けのガウンを着ているので裸ではないが、もうこの服の下がどうなっているかを知っているので、今更感が酷い。
「まあ、こんなもんだろ」
どの状態が完成形かはよく分からないが、びしょ濡れは脱したので終わりということにする。四葉も文句がないようなので、きっとこれで大丈夫に違いない。
「…………と、言うわけでだ」
四葉のガウンの結び紐をしゅるしゅると外す。彼女も髪を乾かし終わればどうなるかは理解できていたようで、されるがままになっていた。
再び裸に剥き終えて、俺も羽織っていたものを脱ぐ。これからやることを想像してしまって、風呂上がりに一度落ち着いたはずの陰茎がもう一度暴走を始めていた。
「濡れすぎだろ……」
「実は、乾かしてる間もずっとさっきのこと思い出してて……」
指を差し入れて、具合を確認する。このくらいになっていると、もう前戯の必要性は薄いかもしれない。
「ここに、入るんだなあって」
「言葉にしなくていいから……」
そのままゆっくり押し倒す。これはもう流れで行ってしまう展開だと、ベッドサイドにあった小さな包みを破り、中からゴム製品を取り出す。これを使うのが初めてって、よく考えたらとんでもないことかもしれない。
で、それを着用するために下半身に手を伸ばしたところ。
「え、なになに?」
「…………です」
「なんだって?」
「要らないです……」
四葉にぐいっと押しのけられてしまった。どう考えても要らなくはないので、彼女の真意が計れない。
「要るだろ」
「もしもの時はもしもの時で」
「だから要るんだって」
「……私としては、どうにかしてそのもしもを引き当てたいのですが」
四葉の狂気にあてられていると、隙を盗んで手に持っていたゴムが投げ捨てられてしまった。万一傷ついていると困るので、あれはもう使えない。
それならばと予備の方に手を伸ばしたら。
「…………」
「隠すな」
「…………」
「あー……」
ゴム風船みたいに引っ張られて、使い物にならなくされた。やることが大胆過ぎて呆れを通り越した尊敬がやって来る。
「ふふ、これでどうです?」
「フロントに補充してもらうけど」
「…………だめ」
思い切り抱きしめられて、全ての行動を封殺された。こうなると俺には何も出来ない。女子相手に力で負けるとか、割と悲しい話だと思うのだが。
「このまましないと、だめです」
「…………その執念はどこから来るんだよ」
「せっかくの初めてなので、どうか」
「…………力抜け」
涙目の懇願にあっさり折れてしまう自分の弱さを盛大に呪う。今度藁人形でも仕入れてくることにしよう。
「あ、う、嬉しい、です」
「そうやって乱すのやめてくれ本当に……」
手で補助して狙いを定め、先端をゆっくり挿し入れた。彼女の膣内は俺を受け入れてか大きくうねって、肉ひだの一つ一つが執念深く俺の亀頭に絡みついてくる。
「……っ!」
「こら、爪立てんな」
恐怖感があるのか、彼女の爪が俺の背中に食い込む。これは痣になるなと覚悟しながら、出来る限り優しく口づけて、彼女の警戒を解こうと努めた。
「あ……奥、すご……」
「頭空っぽにしとけバカ」
ゆっくり、ゆっくり、時間をかけて、彼女の中に自分自身を埋め込んでいく。焦らされているようで歯がゆいが、ここで派手に動いたら四葉のトラウマになる可能性もあるし。
それで言えば、俺の存在そのものが彼女たちに対する害悪なのは間違いがなかった。かつて二乃が言った、『俺の存在が彼女を腐らせる』主旨の発言は、大正解だったわけだ。
彼女の先見の明にひれ伏しながらも、そもそもこんなことになった原因はお前にもあるのだと責任転嫁する。そうでもしないと、この場で正気を失ってしまいそうだった。
現在進行形で理性と情欲との綱引きが行われていて、今はまだ理性が保てているから彼女への思いやりが残っているが、いざここで押し負けでもすれば、すぐにでも前後運動を開始してしまいそうだ。このもどかしさは疑うこともない毒で、早く自由に快楽を貪りたい。その思いは確かにあって、だからそれを殺すのに苦労した。
「…………はぁ、んっ……」
一度のピストンに十秒くらいかけながら、彼女の体を慣らしていく。意志と肉体が方向性の違いで乖離しかけていて、もうどうにもなりそうにない。
「……悪い、四葉。もう加減出来ないかも」
「ど、どうぞ。上杉さんが気持ちよくなってくれるなら、私はそれで……」
ここに来てそれは卑怯としか言えなかった。おかげで、せっかくセーブしていた感情があふれ出して、もう思いやりも何もかも捨て去り、ただただ己の快楽だけを追求するかのように、腰がひとりでに動き出す。
四葉の声色が、大きく変わるのが分かった。先ほどまでは控えめに喘いでいたのに、勢いづいてからは、声帯が暴れているみたいに、甘い叫び声をあげている。
そんなものを聞かされて我慢できるほど、人間が出来てはいなかった。
その結果、二人の肉体が一体化してしまうのではないかと危惧される勢いで、何度も何度も激しく体を打ち付ける。彼女からあふれた愛液がシーツを濡らすようになるレベルで、止まらずに体を合わせ続ける。
背中に食い込む爪の感触はいっそうリアルになって、それが唯一俺を現実につなぎ留める楔の役目を果たした。そうでもないと夢世界を飛び回っているみたいで、まるで現世を生きている実感がなかった。
そんな俺の虚をつくタイミングで、彼女の膣が思い切り締まった。限界間近だったことも相まって、堪らず彼女の中に幾億の精子を放流することになる。何度も腰はガタついて、一滴残さず解き放ってしまおうと必死だった。
一通りの反応が終わってから、いそいそと陰茎を抜き去る。そうすることによって堰が破られるみたいに俺が出したばかりの精液が漏れ出して、両者の体液が混じり合った淫靡な香りが充満した。
「……も、もう一回、いかがですか?」
「…………っ」
空気感にあてられてしまった彼女のラブコールに、一度は萎れた体がにわかに沸き立った。これ以上精子がこぼれないようにと再度その穴を塞いで、テクニックの欠片も感じさせないような荒々しい動きで、彼女の全てを犯し尽くしていく。
射精して、射精して、また射精して。それからはもう抜くこともなく、体位を変えながら何度も何度も混じり合った。性欲モンスターの俺と体力のある四葉の組み合わせだから、なかなか終わりは訪れず、どちらかが疲れて眠ってしまうまで、ずっとずっと、お互いの肉体を食みあっていた。
朝日が眩しい。結局一泊してしまって、朝帰りになっている。日中も動いたのに夜まで暴れたので疲労が思っていた以上に濃かったらしく、二人そろって熟睡してしまった。
「なあ四葉」
「なんでしょう上杉さん」
「お前、姉妹が朝帰りした時のこと危惧してたろ」
「はい」
「それを率先して実行するって、なかなかすごい皮肉じゃないかと思うんだが……」
疑われるのは間違いなしで、というかほぼ完全に見抜かれる。調子に乗ったせいで四葉の胸元に内出血痕を残しまくってしまったので、問い詰められたら確実におしまい。そもそも嘘が下手な四葉のことだから、隠し通すのは不可能な話だった。
「……やっちゃいましたね」
「今気づいたのかよ……」
「後先を考えてなくて……」
俺も便乗したので好き勝手は言えない。だが結局、自分で自分の首を絞める結果になってしまったわけだ。ことごとく成長がない。本当にこれが知的生命体としての在り方なのだろうか。
「でも、全然後悔してはいないから不思議です」
「お前なあ……」
朝のラブホ街で腕組みはいくらなんでもあからさま過ぎる。昨晩何があったか自白しているのと変わらない。
「……で、上杉さん?」
「なに」
「結局のところ、誰を選ぶ予定ですか?」
「…………この状況で聞くかよ」
「私ですか?」
「圧」
すげえぐいぐい来る。あんなことをした後だから、これくらいはなんてことないってか。
「……というのは冗談です。気長にお返事お待ちしてますから」
「助かる」
「それが良いお返事なら嬉しいです」
「圧」
やっぱりプレッシャーをかけられている。これから四葉も牽制合戦に加わると思うと、そろそろ本格的に胃に穴が空いてしまうかもしれない。
「……一日一回まででしたっけ?」
「圧」
「帰るまでに絶対どこかで使うので、気を抜いちゃダメですからね?」
「手厳しいなおい……」
四葉の頭が、俺の肩にことんと乗った。この甘ったるいだけの日々がいつまでも続かないことは分かっているが、せめて今だけは、心の中を空っぽにしても許してもらえるだろうか。
そんなこんなで、今回も俺は意志薄弱。せっかく数か月に渡って積み上げたものを自分の手でぶっ壊して、また一からのやり直し。
やっぱりどうにも、家庭教師業務の明日は見えてこなかった。