そぞろ歩く。冬の寒空の下を、上着の一枚も羽織らないで。
頭の中に響いて消えないのは、先ほどした三玖との会話。自分はただ二人が知らず交際関係にあったのかを確かめたかっただけなのに、彼女の口から飛び出てきたのはそんな予想をはるかに上回ってくる、出来ることならば知らないままでいたかった特大の秘め事で。
本当は祝福するつもりでいた。その用意を万全にしたうえで、話しかけたはずだった。三玖が彼に対して好意を持っていることは本人直々に聞かされていたのだから、それが正しい行いだと思っていた。
自分の中にある嫉妬や後悔自体は否定しない。なぜ私では、という思いが常に脳裏をチラつくことも事実で、その感情に嘘はつけない。でも、姉妹が思い人と結ばれたのならそれが喜ばしいことでないわけがないのだ。だから、渦巻く様々な感情の処理は後回しにしたって、今だけは素直に祝う側に回ろうとしたのに。
なのに、なのに、なのに。
そんなのは、あんまりだ。
私には見えていないところで、私には分からないうちに、私以外の全員が、密かに彼と繋がりを持っていたなんて。
いつからとか、誰からとか、そういうのはどうでも良かった。『そういう事実があった』というだけで、既に乱れ切っていた私の心を壊すには十分だった。
出会いは、決して良好なものではなかったと思う。第一印象はどう繕っても最悪で、あんな人に自分たちの未来を任せるだなんて考えられなかった。自己中心的でデリカシーに欠け、こちらの考えも知らずにずけずけと心の深くまで歩み寄ってくる。そんな彼のやり方には不満を持つことばかりで、何度も何度も衝突した。勉強ができる人に、努力しても努力しても成績に改善の見られない自分の気持ちが理解できるわけがないのだと思いもした。頭の出来が初めから違うのに、分かったような顔で語らないでくれと。
でも、そんな絶望的な関係の中でも、ゆっくり時間をかけて育めたものだってあって。
彼のしつこさや諦めの悪さは私たちの可能性を信じて疑わなかったがゆえのもの。ぶっきらぼうな言葉の数々は人付き合いに慣れていないあの人なりの励まし。その他にも、考えが変わったことはたくさん、たくさんあった。斜に構えた受け取り方を排することで見える本質が、たくさん身近に転がっていたのだ。彼はただ不器用なだけで、実際は感情表現が下手くそな普通の人だって。そんなことに気付くまでに一年もの時間を要しながら、それでも私たちは、お互いのことを少しずつ理解し合いながら、笹船が進むくらいのスピードで、じっくり、じっくり、歩み寄れた。
そして、その過程で、私は。私は……。
なのに、なのに、なのに。
どうして、こんなことになってしまうんだろう。
どうして、こうなってしまったんだろう。
――ねえ、上杉君。分かり合えたと思っていたのは、私だけですか?