※この作品はR-18です。

五等分の〇〇   作:なるせいぶき

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そうだつさばいぶ①

 唐突だが二択だ。一つの選択肢は『遠回り』、もう一つは『見て見ぬふり』。登校時間を考慮したときに前者は遅刻覚悟になるためちと厳しく、されど後者は著しく成功率が低そうだと考えるだけで分かる。

 俺が何から逃れようとしているのかという問いに関しては、『面倒ごと』の一言で全て片付く。最近しょっちゅう襲ってくる悪い予感というやつが、今日も朝からエンジン全開だ。たまには俺を休ませてくれないものかと毒づいてみても、現実問題として設置型の爆弾が視界に収まっている以上対処しないわけにはいかない。肺を空にする勢いで長く息を吐いて神経を尖らせ、ポケットから取り出した単語帳に意識を預ける。幸いにも向こうはスマホをいじるのに必死なようだから、気づかれないうちに強引に突破するしかないだろう。

 少しでも不自然な動きを見せればこちらを注視されてしまうだろうから、ここは駆け出したい心を必死に殺して普段と変わらぬペースで優雅に歩く。あくまで視線は前に向け、横にあるものにはまるで意識が向いていないとでもいうような涼しい表情を浮かべながら。

 対象との距離が縮まるごとに表情筋が引き攣りだすのが分かったが、それでも限度いっぱいまで平静を貫く。せめて朝くらいは平穏無事な生活を送らせて欲しいのだ。

 そんな俺の願いが神様にでも通じてか、彼女の様子に変化はない。俺が血相を変えて声でもあげるだろうと高を括っていたのではないか。その油断が命取りだぜと心の中でほくそ笑み、目の前を悠々と通り過ぎる。これで俺の勝ちは揺らがないものに変わった。

 だから今急に鳴り出した俺のケータイの着信音は、きっとらいはからのものに違いない。それ以外、誰が該当するというのだ。馬鹿馬鹿しい。

 その場で立ち止まって、ディスプレイに表示された名前を確認する。まあ、なんだ。念のためというか、一応というか。いたずら電話の可能性だってあるのだし、迂闊に行動して良いこともないからな。

 そんな俺の懸念はやっぱり杞憂だったようで、コール音の主はきちんと電話帳に登録された人物だった。これでいたずらの線は消えたなとうっすら笑いながら、通話ボタンに手をかける。

 

「…………もしもし」

「なんで逃げ切れると思ったの?」

 

 自分の声があまりに苦しげ過ぎて驚いた。どうやら想像以上に肉体が絶望しているらしい。いや、確かに、最初から成功率の低い賭けだとは承知していたけれども。

 俺は律義にケータイを通して声を発したが、相手に関してはしょっぱなからそんなのお構いなしで肉声を用いてきた。漢気に溢れすぎていて、俺は今にも泣いてしまいそうだ。

 

「よ、よぉ。今気づいた」

「ふざけてるのかしら」

 

 左手を胸の下に回し、そこを土台のようにして右ひじを乗せる二乃。指先のスマホはもうお役御免なのか、つままれてぶんぶんと左右に揺らされるだけ。

 

「しゅ、集中しててな」

 

 手に持った単語帳を強調する。俺はすっかり勉強に没入してしまっていたから、周りのことになんかなんら意識が移らなかったのだと。

 

「あんたさ」

「なんだ……?」

「困った時に前髪触る癖があるわよね、そんな感じで」

「…………」

 

 言われて気づいたが、俺の右手は無意識のうちに親指と人差し指で前髪をいじくっていたらしい。意識下で制御できるものではないから癖と呼ばれるのだろうが、それにしたってそんな事細かなことを二乃に把握されているとは思っていなかった。故に狼狽し、単語帳を手から取りこぼす。客観的に見て、今の俺は相当に挙動不審だ。

 俺と二乃とのちょうど中間点に落ちたそれを、彼女が先んじて手にした。構図としては、奪い取られるように見えなくもなかったけれど。

 

「はい」

「お、おう。サンキュ」

 

 なんてことなく目の前に差し出され、特に思うこともないまま受け取ろうと手を伸ばす。ありきたりな善意に感謝こそすれ、この場において警戒を払うに足る要素が存在するとは思えなかった。……が、まあ、それが結局のところは俺の大いなる過失で。

 完全に気を抜いていた折にぎゅっと力強く袖を引かれ、つんのめるようにして彼女との距離が意図せずして詰まる。最近よく嗅ぐ匂いがして、状況的な類似点から、これは中野家で使用しているシャンプーの香りなのだなと理解した。身長差がそこそこあるせいで、基本的に俺の鼻の位置はこいつらの頭に寄る。

 そのままの勢いで体が触れあってしまいそうなのを脚力と指先の力とでどうにか踏みとどまり、結果的に二乃が最至近で俺の首元を眺めるような体勢になる。そしてそこには、隠しようもない淫行の痕が消えず残ったままでいて。

 

「昨日すれ違った時にもちらっと見えてたんだけど、これ」

「虫刺されだ」

「そう、最近多いもんね」

「ああ、ほんと多すぎて困ってる」

「で、どんな虫だったの?」

「……蚊とか」

「数字で言うと?」

「…………」

 

 まあそりゃそうだわなと嘆息を挟んだ。こんな分かりやすい弁明にうんうん頷いてくれる奴なんているわけがない。……いや、昨日約一名と遭遇したけども。

 

「教えてよ。あんたと私の仲じゃない」

「なんだその仲……すまん俺が悪かったからやめてくれ無言で腹をさすらないでくれ」

「で、誰?」

「…………言えない」

「三玖?」

「…………」

「一」

「…………」

 

 唐突に口に出された核心を突く数字に全身が硬直する。だがここでボロを出すわけにはいかないとどうにか関係ないように装った。

 

「三」

「…………」

「四」

「…………」

「五」

「…………」

「もっと露骨に反応するかと思ったけど全然ね。で、誰?」

「頼むから勘弁してくれ。これ以上拗らせると高校卒業どころじゃなくなるだろ……」

 

 ローラー戦法で助かった。これといった決まり手はなかったらしい。

 本音で泣き落としにかかるとそれがちょっとだけ響いたようで、二乃の眉が数度ぴくぴくと動いた。俺の本分と彼女の本願とを秤にかけたうえで検討してもらおうという寸法だ。朝から全力で脳みそを回転させているせいで、既にちょっとだけお腹が空いてきた。

 

「……はぁ、仕方ないから今回だけは見なかったことにしてあげる」

「すま……助かる」

 

 謝るのは何かが違う気がして、感謝の方に舵を切った。まだそこまで暑い季節ではないはずなのに、俺の冷汗はまるで引く気配を見せない。

 

「でもあんた、それはどうするのよ? 私以外にも気づく子がいると思うけど」

「……む」

 

 首筋を指さされる。確かにこれが残りっぱなしな以上、誰かに見咎められる可能性は必ずどこかに残り続ける。

 

「それは……困るが」

 

 だからといって、首の肉をこそぎ落としでもしない限り消えることはない痕だ。そしてそんなことをした暁には出血過多で即ゲームオーバーである。頸動脈のパワーを侮ってはいけない。

 

「消し方、教えたげよっか?」

「あるのか、そんなの?」

「女子高生はそういうの詳しいわよ。雑誌とかに特集組まれてるし」

 

 ティーン誌の掲載内容が年を追うごとに過激になっているという話は確かに聞き覚えがある。そんなものを世間の女子高生が知っていると考えると世も末感が目まぐるしく加速していくが、こと今に関しては渡りに船だった。見つかるとやばそうな相手に思い当たる節があり過ぎるためだ。

 

「かなりの力技になるからいったん人目のつかない場所に行きましょ。準備もあるし」

「ああ、頼む」

 

 彼女に連れられ、入り組んだ路地の方に進む。いやあそれにしても、持つべきものは物知りな友人だな!

 

 

 

 

 

 

「……あの、二乃?」

「何よ?」

「リップクリーム塗り直すのはいいから、さっさとその方法ってのを教えてくれよ」

「これもそれに必要な作業なのよ。だからちょっと待ってて」

「あ、そう……?」

 

 鏡と睨めっこしながら入念にメイクを整え直している二乃にやきもきして催促するも、それすら手順の一部だと言われてしまえばそれ以上強く言うことは出来なかった。悪魔的な儀式が始まるわけでもないのだろうが、正直現段階では何が起きるか想像も出来ない。

 

「よし、じゃあ始めるわね」

「お、頼むぞ」

「やりやすいようちょっと上向いてちょうだい」

「こうか?」

「そうそう」

 

 従うと、直後に首をこそばゆい感覚が襲った。ちらと覗き見ればメイク用のパフを使ってファンデーションを塗りこんでいるらしい。なるほど、こうすれば色味をぼやかせるわけだ。男には到底思いつかないし、思いついたところで道具も力量も足りないやり方なので、素直に感服する。

 だが、今俺に対して行われている施術と彼女のメイク直しに何の因果関係があるのかが分からなかった。俺をいじるだけなら、彼女の顔に手を加える必要はないのだから。

 

「はい、鏡」

「おお……大分目立たなくなってる」

「まあざっとこんなところね」

 

 化粧が俺の人生の役に立つ時がくるとは思わなかった。ここは素直に礼を言って学校に――

 

「はい」

「…………なに?」

「だから、はい」

 

 目を瞑って背伸びをしてついでに唇まですぼめて、二乃は俺に何かを乞うてくる。ここは狭い路地で、だから滅多に人が来ることはない。そんなところで、こいつは俺に何を要求しているのか。

 

「感謝は口で伝えるって習わなかった?」

「……マジで助かった。ありがとう」

「感謝は行動で示せとも言うわよね」

「……それに関しては追い追い」

「その二つを組み合わせたときに何をするか、頭いいあんたなら分かるでしょ?」

 

 些か短絡的な結論だと思うんだ、それ。別個の事象として成立すべき事柄だから、強引に一つにまとめたら本来あるべき役割を失ってしまう気がするし。第一、そんな屁理屈をこねて強引に突っ込んだりしたら、場合によっては犯罪沙汰に……。

 

「別にいいじゃない。二度目なんて大したことないでしょ?」

「そういう話はしてないんだよ……」

「……私とあんたがそろって遅刻したりしたら、他の子はどう思うかしらね」

「うっ……」

「ここはさっさと片付けちゃうのがスマートな対応だと思うなぁ」

「…………分かった。分かったからちょっと黙れ」

「あ……」

 

 地獄が連鎖しないように、ここできちんと堰を設けるのだ。そう自分に言い聞かせ、彼女の顎を持ち上げた。すると、みるみるうちに紅潮する二乃の頬。……この状況になっていきなり赤面するとか本当に……その、どうかと思うぞ。うん。今更うぶっぽさを出されたところで、俺はこいつの本性を知っているわけなのだから。……だからわざとらしく震えてみたりちょっと俺の袖に縋ったりする演技程度で、騙されるなんて思わないことだ。マジで。本当に。

 

「んっ……」

「…………ん、む」

 

 二乃の舌が強引に俺の口内に分け入ろうとしたところを強引にシャットアウトする。感謝のキスなんだから、そこに性的な意味合いを帯びさせる必要はないのだ。言うなれば外国式のちょっと派手な挨拶。そのくらいの行為。そう思えば、特に問題はない。

 俺に密着しようとする二乃をどうにかこうにか払いのけて、十秒足らずでお互いの距離を離した。鼻で息を吸うと、さっきまで俺の胸の中に納まっていた彼女の香水がふんわり香る。それでちょっとだけ頭に血が上りかけたが、頬を張って正気を取り戻した。今の間に、何もやましいことなんてなかった。

 

 だけどどうやら、二乃は俺の対応に少なからずの不満があるようで。

 

「…………足りなくない?」

「何がだよ?」

「感謝の気持ち、みたいなの」

「足りてるよ。今も俺の胸の中はお前への感謝でいっぱいだよ」

「でも、それが私には伝わってないわけじゃない。それってどうなの?」

「お前の感受性の問題に俺を巻き込まないでくれ」

「いや、だからね。あんたの感謝で私の中をいっぱいにするとか、そういう方法もあるじゃない」

「ないよ。どういう意味だよ」

「セッ――」

「あーーーーーー」

 

 昨日も似たような方法を用いた気がする。忘れたけど。それにしたって、そんな限界ギリギリの下ネタを言うようなキャラでもないだろうに。この数日の間に、何が彼女を変えてしまったんだ。

 

「いいじゃない。ちょっとくらい」

「良くねえよ。ちょっとってなんだちょっとって」

 

 その行為はちょっととか少しとかで片付けられるものではない。付いてくる副詞はおそらく、がっつりだとか思いっきりだとか、そんなのばかりだ。

 

「高校生なんてみんなお猿さんなんでしょ?」

「全国の高校生に謝れ」

「少なくとも私とあんたはお猿さんだったじゃない」

「蒸し返すな。早く忘れろ」

「あんなにすごいの覚えさせて後は放置するの?」

「お前から襲ってきたんだろうが」

 

 なんともいたちごっこで堂々巡りな感が拭えない。今も着々と始業のベルまでの時間は近づいてきていて、このままで行くと結局そろって遅刻することになってしまいそうだ。

 それは正直困る。疑われる。もっと拗れる。

 そうなってしまえばさらに関係性の修復が困難になるのは明白で、だから俺はこの場で出せる最善策を考えなきゃいけないのだが……。

 

「ねえ」

「なんだよ」

「最近、あんたと話してるだけで濡れるようになっちゃったんだけど」

「そんな自己申告は要らねえよ」

「つまり今も――」

「もう勘弁してくれ……」

 

 こいつのスカートの下で今どんな大災害が起こっているかは知る由もないし、知りたくもない。だって、知ったところで俺にできることなんてないのだから。……いや、本当は一つ知っているけど、それはさすがに……って感じだし。

 二乃は短丈のスカートをぱたぱた振って、十代半ばの瑞々しい太ももを惜しげもなくこちらに晒してくる。まあ、今更太もも程度でなんだよって話だけど。しかしながら、それでもなお視線が引き付けられてしまうのは一体なんなんだろうな……。

 

「この下、気になる?」

「たくし上げるな。さっさと下ろせ」

 

 視線がバレたようで、俺を煽るように二乃がスカートの裾を大きく持ち上げた。咄嗟に目を逸らすも何か白系の布のようなものが見えてしまった気がする。しかしまあ、気のせいだということにしよう。

 彼女は俺の要求に思いのほか従順で、そのままスカートを元に戻した。

 ……そこまでなら、良かったのだが。

 

「待て。下ろすな」

「? あんたが言ったんじゃない」

「スカートは下ろせと言った。だがその下の布に関しては何も触れてない」

「布の下にはこの前触ったじゃない」

「そういう話はしていない」

 

 揚げてもいない足を取られた。ここまでくると完全に屁理屈のレベルで、だから俺はもうどうやって対応して良いのかも分からない。

 それよりも目下一番の問題となっているのは、彼女が意気揚々と自身のショーツをずりおろしにかかっていることだった。お願いだから誰かこの暴走機関車を止めてくれ。

 

「私、自分で思ってたより性欲強かったみたいでね」

「だからそんな自己申告は要らないんだよ……」

「あんたとした時のことを思い出そうとして色々試してみたんだけど」

「聞きたくねえよ……」

「でも、ほら……ね?」

「『……ね?』じゃないんだよ『……ね?』じゃ」

「……指だと、届かないじゃない」

「顔を赤らめるな。その羞恥はもっと早い段階で発動させろ」

 

 もじもじと体をくねらせる二乃に、割とガチなトーンで説教をしそうになる。これが今どきスタンダードな女子高生なのだとしたら、きっとこの国に未来といったものは用意されていないのだろう。というか、用意されていない方がいい。ここらへんで滅んでおく方が長い視点で見たときに有益だとすら言える。

 

「……でも、私にもプライドがあるから、道具には頼りたくなくて」

「捨てちまえそんな誇り」

 

 男子と猥談する口で何を言ってるんだこいつは。守りたいものが全般的におかしいって自覚はないのか。

 

「で、そうなったらもう、あんたに頼るしかないじゃない」

「……馬鹿か?」

「知らなかったの?」

 

 知ってたわ、そういえば。

 

「性欲の処理なんて自分でなんとかしてくれ。他人に頼むようなことじゃないだろ」

「……いいの?」

「何が?」

「私、性欲強いのよ?」

「だから何だよ?」

「大したことない刺激でちまちまやってたら、勉強なんか手につかなくなるわ」

「マジでお前人として……」

「それを、あんたがちょこっと力添えしてくれるだけで満足するって言ってるの。こんなのもうメリットしかないでしょ」

「ガバガバ理論……」

 

 俺のメリットはどこだそれ。……ああ、一応卒業までの障害をはらえるから完全無意味ってわけでもないのか。だけど、論調が無茶苦茶過ぎてどこから突っ込めばいいか分からないというのが正直な感想。それこそ、その行為自体にハマってしまったら全てがご破算ではないか。

 

「分かったら早くズボンを下ろしなさい」

「止めろ。俺はまだ何も理解してない!」

 

 正面突破で俺のベルトに手をかけてくる二乃。生まれながらに強姦の業でも負っているのかこいつは。しかし待って欲しい。今そこに触るのはちょっと……。

 

「……なぁんだ」

「…………」

 

 二乃が意地の悪い笑みを見せる。それはまるで、鬼の首でも取ったようで……。

 

「やっぱり、体の方は正直じゃない」

「仕方ないだろ……」

 

 いつの間にか血液を集めていた海綿体を憎らしく思う。俺の体なんだから、もっと主の意図にそって動いて欲しいものだ。

 二乃は少し盛り上がったそこを、鮮やかに彩った付け爪でカリカリいじりながら、

 

「……いいでしょ、一回だけなら」

 

 なんて、耳元で一言。

 しかし、俺は知っているのだ。『ちょっと』とか、『一回』とか、『これだけ』とか、そういう何かを制限する言葉が最近まともに機能しなくなってしまっていることを。情動に任せて全てをかなぐり捨てるのが当たり前になってしまって、その場において後先を考えられなくなる。そして全部終わって悔いる。馴染みの流れだ。

 だから、俺はもうその類の言葉をすんなり受け入れない。信じない。自分の流されやすさを過小評価しない。二乃の言う通り俺はお猿さんで、だからすぐ誘いに乗ってしまう馬鹿だ。それをきちんと理解した上で、頭をしっかり回してから、胸をちょっぴり張って、俺はこう言い放ってやった。

 

「…………一限には遅れないようにだぞ」

 

 妖しく微笑む二乃の体を建物の外壁に押し当てて、腰だけを俺の方に突き出させる。手をスカートの下に忍ばせると、彼女の申告通り既に出来上がってしまっているのがよくわかった。

 そのままの勢いで辛抱たまらずベルトを外してズボンを下ろし、屹立したブツを彼女の卑裂にあてがって、情趣も風情もないままに強引に挿し入れる。すると彼女の中が俺の訪れを喜ぶみたいに大きくうねって、快楽の波に飲まれないように一度はーっと息を吐いた。

 

「やっぱすっごい……」

「…………」

 

 ペースを乱されるのは御免なので、自分の唇を用いて彼女の発声を完全に封じる。これはただの性欲発散であって、それ以上の意味を持たない淡白な行為なのだと必死に自分に言い聞かせながら。

 絡み合う舌の感触も、下半身を包む圧も、唾液の甘さも、なんてことはない生体の反応。無駄に自分の中で捉え方を増やす必要なんかなく、ただ見たまま感じたままを受け入れるのが一番だ。間違っても、今彼女が乱れているのは俺の前だからだとか、心を許しているが故の行動だとか、そんなことを考える必要性は皆無。拍動が早まっているのは体を動かしているからだし、脳が赤熱しているのは処理する情報が多いからであって、そこに俺と彼女の関与を紐づけるものはない。

 自分を納得させるために色々な論拠を並べ立てていると、ただでさえきつかった締め付けが許容値をはるかに上回った。そうなってしまえばもう、肉体の求めるがままに流されるしかなくて。

 どくどくと彼女の奥に種を注ぎこみながら、徐々に正常化する思考が俺を咎める。またやってしまったのかと。どうしていつも止まれないのかと。

 しかし、そんな俺の反省を許してくれない存在が目の前に一人。

 

「…………まだ、いけるでしょ?」

「~~~~~~ッ」

 

 低G環境で視界がレッドアウトするみたいに、見ている世界が赤く染まっていく感覚があった。そんな殺し文句を言われてしまっては、時計を確認する余裕すら世界のどこかに消え失せてしまって。

 

 

 次に自我を取り戻した時に見たのは、全身を小刻みに震わせながら息を弾ませる二乃の姿だった。どうやら俺はもう、理性のタガを完全に失ってしまったらしいのだ。

 

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