第一話 最強と最弱と神
Point.0 世界が変わる日
その日、ある世界が閃光に包まれた。
これは、決して起こり得なかったはずの、可能性の話。
Chapter 1-1 二体の怪物
彼が目を覚ましたのは、深く暗い森の中だった。
「……あァ?」
学園都市第一位の
(何が起きてる? 昨日は確か黄泉川の家で飯を食って、それから――)
そこに思考が至ると、次に考えたのは、
(
体を起こして周辺を見回すが、それらしい姿は見つからない。はぐれてしまったのか、それとも最初からここにはいないのか。現状の把握に努めようにも、そもそも状況に理解が追い付かない。ここは何処だ? 何故自分がここにいるのか? 打ち止めたちはどこにいる? 浮かび上がる疑問のいずれにも、誰も答えを返してくれない。
(気味が悪ィな。今度は俺に何させよォってンだ)
打ち止めたちを探すべく、杖を支えに立ち上がり、斜面を降りていく。しばらく歩くと、小さな沢に辿り着いた。
(バッテリーはまだ生きてるみてェだが、無駄遣いは控えた方が良さそォだな)
ここに来てから何時間経ったか分からない。突然動けなくなるリスクがある以上、可能な限り最短で移動する必要がある。そう考えて下流へと足を向けた一方通行の耳に、何かが草木を掻き分ける音が届いた。そちらへ目を向けると、こちらへ向かってくる影がある。
「誰だ」
「……」
「答えはねェ、か。悪りィが、手早く済ませンぞ。こっちはいつまでもつか分かンねェンでな」
そう言って、足元の石を無造作に蹴り飛ばす。触れた力の
すると、怪物から触手が生えた。それを素早く振り回すと、飛来する石礫を掴み取って投げ返す。
だがその時には、学園都市第一位はそこにいなかった。石を飛ばすと同時に飛び上がった彼は、空気の塊を叩き落しながら蹴りを放つ。
空気の塊は、正しく着弾した。しかし本命である彼の蹴りは、触手によって防がれ、撃ち落とされた。
(何だ? 大気の弾は当たったのに、怯む素振りもなく迎撃しやがった。アレが当たってンなら、まともに動ける筈ねェンだが)
その思考は無理矢理に中断される。怪物が触手を伸ばして、力任せに振るってきたからだ。『反射』で防ごうとした一方通行だが、それは失敗した。脇腹を強打され、横向きに数メートルも吹っ飛ばされる。血を吐きながら、それでも地面を蹴って次の攻撃をどうにか躱す。
「か、はァッ……!! 『反射』も通じねェのか……!?」
既存の物理法則に縛られていれば、まず回避できない『反射』の壁。それをすり抜けた。そんな事ができる法則に、彼は心当たりがあった。
(魔術。もしくはそれに近い何かが作用してる。それなら『反射』できねェのも納得だ……とすりゃァ)
「クリファパズル545。アレの解析をしろ」
かつて契約し、救った悪魔の名前を呼ぶ。小気味良い破裂音とともに、アンバランスな体形の少女が空中に出現した。
『にひひひひ、やっと呼び出してくれましたねえ』
「この状況下だ、呼ばなくても出てこい」
『相変わらず無茶振りの酷いお方ですねえ。前には呼んだ時以外出てくるなって命令したじゃないですかあ』
突如現れた少女を危険視したか、怪物が触手を振り回す。空気の流れから軌道を読み取って、どうにか回避すると、悪魔は呆けていた。
『……何ですあれ?』
「オマエに聞いてンだよ」
振り回される触手を避けながら、少女が言うには、
『観測した限りではコロンゾンに近い部分がありますねえ。供物と儀式を以て召喚される高次生命……ですが、それだけでは説明できない何かがありますう』
「具体的には」
『怨念や呪詛といったものが混ざり合っているようにも見えますう。それにしては総量が多すぎるような気もしますけどお』
「オマエの力で干渉できねェのか?」
『やってはいますがねえ。凶暴性を増しているだけのようですよお、にひひひひ』
触手が、地面に炸裂する。まともに当たれば危険なのは、先ほどの一撃で確認済みだった。しかし今の攻撃の痕跡は、先ほどよりも更に攻撃力が上がっていることを示していた。
「もうイイ。これ以上無駄遣いはできねェ、一撃入れたら離脱すンぞ」
そう言って、手近な木の葉に触れる。それだけで数枚の葉が刃となって、猛烈な速度で怪物へと飛んで行った。直撃すれば、少なくないダメージは与えられる――
はずだった。当たってさえいれば。
「……!?」
絶句する第一位。それもそのはず。飛ばした木の葉の全てが、怪物の体をすり抜けていた。
回避、あるいは防御されることはあった。かつて、今と同じ攻撃をミナ=メイザースへと撃ち出した時は、パレットナイフで全て叩き落された。しかし、今のは違う。回避も、防御もしていない。
ありえない事象を目の当たりにして、一瞬足を止めてしまった。それを待っていたと言わんばかりに、怪物の触手が容赦なく振り降ろされる――
「
すんでのところで、触手は動きを止めていた。ツンツン頭の
その右手の名は
Chapter 1-2 神と呼ばれるもの
「おい無事か!? くそっ、ようやく知り合いに会えたってのに忙しいな!!」
上条は触手を掴みながら、振り返らずに問いかける。すると、珍獣を見るようなトーンで返事があった。
「オマエ、なンでここにいンだ?」
「分かんねえ、気付いたらここにいた!!」
触手が掻き消える。否、怪物が引っ込めたのだ。同時に別の角度から生えた触手が振りかかる。それは先ほどとは打って変わって、複雑な軌道を描きながら上条へと襲い掛かった。
それに割って入る、新たな影。
クナイを手に触手を受け止める、いかにも忍者ですと言わんばかりの装束に身を包んだ少女。彼女の生み出した隙を利用し、上条が飛び退った。それを確認すると、その少女も触手を別の方向へ流して、その場から離れる。
そこに、更に別の声が聞こえてきた。
「大丈夫ですか?」
そちらに目を向けると、巫女装束に身を包む、耳の生えた少女が立っていた。……耳?
「怪我は……しているみたいですね。下がってください、祟り神の相手は私たちがしますから」
毅然とした態度で告げると、あの怪物へと向かっていく。恐れを感じない、堂々とした振る舞いに素直に感心する第一位。すると、また見知らぬ姿があることに気づく。刀を振るう、同年代と思しい青年。彼の斬撃は、怪物の触手を切り落としていく。
ますます理解の追い付かない第一位だったが、先ほどの巫女の言葉は聞き取っていた。
「祟り神、か」
『にひひひひひひ、どうやら私の推測は正しかったようですねえ、にひひひひ』
「……」
『あれっ、無視ですかあ!? ちょっとそれはあんまりじゃあありませんかねえ!?』
(無駄口はともかく、さっきの解析には意味があった。祟り神って言葉から考えりゃァ、確かに高次生命そのものだな。だがコロンゾンには肉体があったし、エイワスにしたって定形はあった。それに、神だとか言う割には力が弱い。アイツの攻撃の威力はエイワスほどじゃァなかった。どちらかと言えば、クリファパズル545やA・O・フランキスカに近いってのが正しいよォな気もするな)
ならば話は早い。アレを叩く方法は、もう彼にも分かる。この空間に満ちているのは魔力とは違った力であったが、それが何なのかも先ほどの交戦で解析はほぼ終えている。完璧に制御するのは難しくとも――
そこまで考えたところで、戦況の異変に気付く。四人が押されているのだ。
「こいつ、今までの奴より強い……」
そうぼやくのは、刀を持った青年。見れば、触手が四本に増えている。先ほどまで第一位と戦っていた時は、一本しか生やしていなかったはずだ。
「えっ――きゃっ」
触手が、巫女の手前の地面を叩いた。その衝撃で、姿勢を崩してしまう巫女。そこへ向けて、四本の触手が殺到する。急に攻撃対象を変えた祟り神に、他の三人の反応が遅れた。間に合わない、直撃する――
寸前で、触手が爆散した。一方通行が大気中の神力を集め、捩って飛ばしたのだ。呆気にとられる四人。だが、彼は冷静だった。
「急げ。あの触手はいくらでも生えてくるンだろ」
その言葉通り、触手が再び現れる。一方通行を脅威と認識したのか、本数は更に増えていた。応じるように、傍らにいた悪魔に指示を出す第一位。
「おい、オマエも手伝え。俺は適当に集めるから、形はオマエが調整しろ。あの無能力者以外には当てねェよォにだ」
『出力の調整は必要ないんですかあ?』
悪魔が聞き返すと、第一位は当然といった表情で断言した。
「加減なンざ、する必要ねェだろォが」
その言葉を聞くや否や、触手が振り回される。各々防御、あるいは回避しようとするが、
「ふン、馬鹿の一つ覚えかよ」
嘆息と共に、全ての触手が一撃で根元から切り落とされる。集めた神力を、刃に変えて上から落としたのだ。その後も触手を生やして攻撃を試みる祟り神であるが、その全てが生えたそばから断ち切られていく。
「あの触手は俺がやる。オマエらは本体をやれ」
第一位の言葉に、無言で応じる各々。彼が触手を切り落とし、それを再生しようとするその一瞬の隙に、四人が次々と攻撃を加える。
まず、幻想殺しが直撃した。怨嗟の声を上げる祟り神。更なる隙が生まれ、クナイと刀が次々と攻撃を加えていく。
最後に、鉾鈴が深々と突き刺さった。一際大きな叫びを上げて暴れまわろうとする祟り神だが――
そこへダメ押しと言わんばかりに、神力の塊が降り注ぐ。ついには声を上げることも叶わず、夜闇に溶けるように祟り神は消滅した。
『にひひ、やりましたねえ。流石ご主人様ですう』
「索敵」
『……本当の悪魔ってのはこの人のことじゃないですかねえ?』
ぶつくさ言いながらも命令に従う悪魔。それと入れ替わるように、
「おいお前っ!! 最後のやつ思いっきり巻き添え喰らったんだけど!? 何だよ俺の被害については一切合切無視なんですかーっ!!」
呆れた目でそれを見る第一位。お前は何を言っているんだ的な雰囲気が醸し出される中、尚も涙目で睨みつけるツンツン頭を見ていられなくなったのか、巫女たちを指差しながら第一位が口を開いた。
「オマエにはその右手があンだから、考慮の必要ねェだろ。あの女に当たるよりはマシだったと思うンだがなァ?」
泣くしかない上条当麻。基本的に周囲の人命を考慮する一方通行にすら考慮に入れてもらえないとは、いよいよもってこの
蹲って涙を流すツンツン頭を他所に、第一位は戻ってきた悪魔とやり取りを続ける。
『周囲に似た反応はありませんねえ。あの一体だけのようですう』
「そォか。ならここからは聞く方に徹しろ、オマエがいると話がこじれそォだ」
『こじれた方が面白そうですけどねえ?』
「俺が面白くねェンだよ」
さっさと話を切り上げた第一位は、首元のスイッチを切り替えて三人のもとへと向かう。先程まで祟り神のいた場所に集まって、あれこれと話をしているようだ。さっきまで泣いていたバカも取り残されまいと合流する。
向こうもそれに気づき、こちらを見やる。その顔には、安堵の他に猜疑心も浮かんでいた。緊張状態ではかける言葉を適切に選ぶ必要があるが――ここでも、バカがやらかした。
「いやーほんと助かりましたよありがとう! ところで祟り神って何? というか何で巫女に忍者? これ青髪ピアスがいたら大発狂でそれどころじゃないんだろうなあ!」
頭を抱える第一位。初対面でここまで距離を詰めようとする男などこのツンツン頭以外にいるだろうか? あまりの能天気さに、上条以外の四人が揃って沈黙してしまう。
静寂を切り裂いたのは巫女だった。
「はぁ……とりあえず、それについては後でお話しします。怪我の手当てや、お清めも必要ですし、早く山を下りましょう」
Chapter 1-3 回らない歯車
巫女の案内に従って連れられた先で、一方通行は信じられないものを目にした。
「こんな夜中にどこ行ってたのー!! ってミサカはミサカは夜間徘徊癖がつかないよう叱ってみたり!!」
「……は?」
神社の本殿に、探していた打ち止めがいる。二の句が継げない第一位。これには巫女たちも驚きを隠せないようだった。
「ど、どちら様でしょう……? こちらの方々のご家族ですか?」
「コイツは家族じゃねェよ。なンつーか……」
「Zzz……Zzz……」
「おいクソガキオマエこの状況で寝るンじゃねェ!! 全体的に説明不足なンだよ!!」
第一位ですら一切手に負えないモンスターマシン。今回もやはり暴れ馬の手綱を握れなかったらしい。
「……今は家族って認識でイイ。いちいち説明すンのも面倒くせェ」
不思議そうな表情の巫女だったが、すっかり眠っている打ち止めを見て納得したようだ。
「そうですか。ではまずお清めから始めましょう」
腹を見せるよう言われ、服を捲り上げる。見れば、祟り神に殴られた部分は痣になっていた。だが、それが妙に黒い。
「なンだ、こりゃァ」
「穢れですね。清めないと全身に回る恐れもあります。そちらの貴方も」
そう言って上条を呼ぶ巫女であるが、当の本人は落ち着きなく本殿を歩き回っている。
「ん? 俺は何ともないぞ、あの変なのに触れた箇所には何もないし」
「祟り神についての説明もしますから。聞きたいこともありますし」
「そうか。それならいた方がよさそうだ」
素直に従う上条。もっとも、話を聞いたところで彼に理解できるかは不明だが。理解するのは大概の場合、彼の右肩にいるオティヌスという神である。
「おい人間。きちんと状況は説明できるか? 相手の説明は理解できるのか? まあお前の頭でそれができるとは思っていないがな」
「なあオティヌス、俺ってそんなに信用無いかなぁ?」
「自分の胸に手を当てろ。そして留年確定だということを思い出せ」
「まだ確定してねえよ希望はあるよあるに決まってるないと困るっ!!」
「そもそもお前は私がいなければ死んでいたことが幾度もあるはずだが」
「それを上回る数お前に殺されてるんですけど?? もう数えられないほどというか思い出したくもないほど死んでるんだって!!」
説明をする、そう言われてなおこのテンションを崩さないこの男は大物と言うべきか。否、こいつはただのバカである。そんな上条についていけない第一位は、さっさと本題を切り出そうとする。それを片手で制した巫女は、いくつかの道具を取り出すと、清めの儀式を始めた。
儀式が進むにつれ、徐々に痣が消えていく。それをただ眺める第一位でもなく、彼はあれこれと思索を巡らせていた。
(力場を描き、そこに特定の動作、特定の順序で力を流し込み、現実に影響を及ぼす方式。この『お清め』とかいうのも魔術の一種なのかね)
彼が現実に意識を戻した時には、儀式は終わっていた。
「ふう……。お疲れさまでした。傷の手当てをしましょう」
「必要ねェよ。放っておいても治る」
「駄目です。そこから悪化したらどうするんですか」
「敵かもしれねェ相手の手当てをすンのか? まず必要なのは
そう言われて、巫女が押し黙る。彼女にも思うところはあったようだ。
「……そう、ですね。貴方たちの素性も分からないわけですし。……名前を、教えていただけますか」
先に答えたのはツンツン頭だった。
「上条当麻。どこにでもいる、普通の高校生だよ」
第一位もそれに続く。
「一方通行だ」
それを聞いた巫女が、口を開こうとした。それを遮るように、いつの間にかそこにいた忍者が質問を投げかける。
「この神社の結界を破壊したのは、アナタたちですか?」
第一位には心当たりがなかった。上条も疑問の表情を浮かべたのだが――
「結界だって? 壊した覚えは……あれ? 結界??」
「恐らく、アナタたちが来てからだと思われますが。出発の際には壊れていませんでしたし」
「待ってくれ、それってどこに展開してた??」
「神社の敷地一帯を囲むように、ですが」
崩れ落ちる上条。彼には心当たりがあった……というよりは推測ができたらしい。
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁいっっっ!! それ多分俺ですっっ!!」
それから彼は、自身の右手について説明を始めた。右手に宿る幻想殺し、その「全ての異能を打ち消す」性質について。
「この右手は、異能に触れたら勝手に発動しちまうんだ。だから結界に触れた時にも発動した……んだと思う」
断言できないのは、彼自身にも実感がないから。彼にとっては、いつの間にか発動していつの間にか壊れていた、程度の認識でしかない。しかし、自身が壊したものが重要だったことは何となく理解しているようで、
「ごめんなさいわざとでは決してなくて事故というかとにかくホント申し訳ございませんでしたぁっ!!」
土下座である。男上条当麻、ひたすらに平謝りだった。その姿を見て、やや刺々しかった二人の少女から敵意が少しずつ抜けていく。入れ替わるように、第一位が口を開いた。
「質問は終わりか?」
「もう一つ。貴方たちは
「学園都市だ。そこのソイツもそォだろ」
土下座したまま器用に頷く上条。しかし巫女たちは、学園都市の名を聞いてもピンと来ないらしい。
「あの、学園都市とは?」
「東京西部にある科学の発展の中心……って、学園都市を知らねェのか?」
猛烈な違和感を覚える第一位。第三次世界大戦の勝者である学園都市を知らない日本人など、そうそういるはずがない。あの戦争は何度も全国放送のニュースで取り上げられていた。そうでなくとも、日本の上空は学園都市製の戦闘機が飛び回っていたはずだ。彼女たちの年齢でそれすら目撃しなかったというのはおかしな話である。
無知とかそういう次元ではなく、そもそもの前提となる常識にズレがあるとすら思えるほどの噛み合わなさに、苦虫を嚙み潰したような表情になる第一位。それを巫女たちが怪訝そうな表情で見つめていると、またバカが空気を読まずに場を乱した。
「はいはい質問! 君たちの名前は?? そもそもここは何処??」
バカのテンションに、かつてこれほど助けられたことがあっただろうか。そんなことすら考えてしまう第一位だが、ここが何処なのかは知りたいところだったので黙っておく。答えはあっさりと返ってきた。
「ここは穂織。東京から遠く離れた、古い街ですよ。……長くなりそうですし、場所を変えましょう」
Chapter 1-4 高次存在
彼女たちの家へと案内された上条たち。居間には、先程彼女たちと共に戦っていた青年もいた。
全員が席に着くと、自己紹介が始まる。
「
「
「
ひとしきり自己紹介を終えた……ように思えたが、オティヌスは別の方向に声をかけた。
「おい貴様。見えているぞ、名乗れ」
返事は、オティヌスにしか聞き取れなかった。
『お主らも吾輩が見えるのか?』
「このバカとそこの白いのは見えているか知らんがな。少なくとも私には見えている」
「ん? 俺には何もないように見えるんだが……何かいるのか?」
右手を伸ばそうとする上条。その耳をつねってオティヌスが制止する。
「やめておけ。自我を持つ異能の集合体だ、不用意に触れれば消滅させかねんぞ」
「げっ、マジで? また意図せぬうちに大変なものを壊して土下座ルートだったの俺??」
「そういうことだ」
おっかなびっくりな表情になる上条。そんな彼を一瞥すると、
『ふむ。吾輩が見える者がいるのであれば、自己紹介をしておこう。吾輩の名はムラサメ、神刀「
ムラサメと名乗る精霊がいることを、上条に伝えるオティヌス。その光景を目の当たりにする芳乃たち。彼女らの興味は、先程から異様な存在感を放つ上条の右肩に向いていた。おずおずと、芳乃が質問する。
「あの、そちらの方は? ムラサメ様が見えているようですが」
所定の右肩にいたオティヌスはふふん、と鼻を鳴らしながら得意げに名乗っていく。
「私の名はオティヌス。魔術を極めた神だ。どうだ、崇めてもよいぞ」
「ごめんなさいねこの神様態度は大きいけど本当に神様だから温かい目で見守ってほしいな!!」
先程から謝ってばかりの上条。もう慣れたといった風に、芳乃は咳ばらいを一つ入れて、話題を切り替える。
「コホン。それでは、情報交換を始めましょう」
片や学園都市の最強と最弱。此方呪いと戦う少年少女。彼らの邂逅が何をもたらすのか。それが明らかになるのは、そう遠くない未来の事である。
Phase.0-1 捨てる鬼と拾う
所変わって、ロシア某所。とある研究所――正確にはその跡地
「人間を人外に変えて兵器化する計画、ねぇ。ふざけやがって、クソッタレ」
その魔術師は、個人で戦争レベルの力を振るう。
「この計画の前提になってんのは『吸血鬼』、それと『ライカンスロープ』とかいう存在か」
その魔術師は、戦いを求める。
「面白そうだな。このよく分かんねえ法則も含めて、いい経験値になりそうだ」
その魔術師は、神の二つ名を持つ。
「吸血鬼の集う島、
その魔術師は、苦しむ人を救う。
「場所は日本か。少なくとも、
その名はトール。北欧神話に名高い雷神の名を冠した、戦闘狂である。
「頼むぜ、『まだ見ぬ強敵』さん。俺を失望させてくれんなよ」
今回登場した禁書サイドの登場人物・用語について、軽く解説します。
なお書いている時点(新約禁書21巻)でのものとなります。間違えてたらごめんなさい。
・上条当麻
ツンツン頭が特徴の、学園都市最弱の
・幻想殺し
触れた全ての異能を打ち消す力。ただし、総量が多すぎたり、威力が強すぎたりすると打ち消しきれない。右手首から先だけしか力が適用されないため、そこ以外を狙われることにも弱い。異能によって存在する思念体が迂闊にこれに触れると消滅する。
・一方通行
白い髪と肌に赤い眼を持つ、学園都市第一位の
・一方通行(能力)
彼に触れた力の
・演算補助デバイス
脳へのダメージにより、演算能力・言語能力・歩行能力を失った一方通行に与えられたデバイス。ミサカネットワークに演算を代行させることで、日常会話や杖を用いての歩行が可能。スイッチがついており、通常モード、能力使用モードの二つを切り替えられる。ただしバッテリー式であり、48時間(能力使用中は30分)しか稼働できない。
・学園都市
上条たちが住む、特殊能力の開発を最大の特徴とする教育研究機関。学園都市の外と中では、科学の発展の度合いが数十年レベルで違う。学園都市内の能力者は、その能力の
・強度
能力者たちの区別基準。強さ・精密さ・規模などから分類される。無能力者から
・コロンゾン
世界を分散させて破壊するべく活動する大悪魔。
・クリファパズル545
コロンゾンによって作られた人造悪魔。一方通行と契約している。死にかけたところを彼に救われ、コロンゾンから離反し一方通行に忠誠を誓う。負の感情を煽って増幅させる力を持つ。
・A・O・フランキスカ
・ミナ=メイザース
リーディングトート78という名の演算装置が再現した故人。パレットナイフを用いて戦う。能力使用中の一方通行に継戦を断念させるほどの強さを持つ。
・エイワス
純粋な物理の世界における天使。上条や一方通行の奥の手すら一切寄せ付けない、別格の強さを持つ。
・オティヌス
魔術を極めて神様となった、露出が凄い金髪美人。世界を作り変える力を持ち、その力で幾度となく上条を地獄に叩き落としたが、諦めなかった上条に己の心の裡を理解され和解。その後、全ての力を失い小人化。以降は上条のアドバイザーとして彼を助ける。
・青髪ピアス
上条の友人。これも本名ではなく、そう呼ばれているだけ。性癖の幅がとても広い。
・打ち止め
学園都市第三位の能力者、そのクローン20001号。幼女。一方通行が命を懸けて守る人物であり、彼女のためなら彼はなりふり構わなくなる。ミサカネットワークへの直接命令権を持っており、彼女の意思一つで一方通行は機能を停止してしまう。
・ミサカネットワーク
学園都市第三位のクローンたちによって構成されるネットワーク。ネットワークであるが並列コンピュータとしても機能する。一方通行の脳機能はこれを用いて補助されている。
・トール
少女っぽさのある少年魔術師。神を名乗るに相応しい戦闘力を持つ。経験値に飢えており、そのために強敵と戦うことを望んでいる。ただし単なる戦闘狂ではなく、戦いに周りを巻き込まないよう配慮する、助けられるものは助けようとするなど、良識ある一面も併せ持つ。