後書きを最後まで読んでくれると嬉しいです。
Chapter 3-1 思惑
「欠片、か。本当にこんなに小さいんだな」
上条は、サイコロほどの大きさの破片を拾い上げる。無色透明なそれは、つい数分前まで祟り神を生み出していたとは思えないほどに綺麗だった。神々しい、という言葉に相応しい輝きを放つそれを、芳乃に手渡す。
「無事に回収できたようですね。では、帰りましょうか」
芳乃の号令で、一同は山を下りていく。その間も、誰一人として口を開くことはない。祟り神を倒した後、謎の声が残した言葉が耳に残って離れなかったのだ。
実験場。結果は良好。支配者然とした発言の数々が、棘となって全員の胸を刺す。そんな中でも、一人思案する者がいた。
(あのクソ野郎が誰であれ、ヤツの思惑通りに事が運ぶのは気に食わねェ。裏をかいておきたい)
学園都市第一位は、既に先の展開へ目を向けている。
人里へと降りてなお、五人は沈黙を保つ。異様な雰囲気を放ったまま、神社まで戻ってきた。
「おかえり、お疲れ様。……? 芳乃、何かあったのかい? 顔色が良くないな」
「いえ、何でもありません。かなり山奥に祟り神がいたので、行き帰りで疲れただけです」
「そうかい? ……ともかく、みんな無事で何よりだ。お風呂、沸いてるから」
それ以上追及する気はないのか、無難な言葉を返す安晴。その言葉に従って、ぞろぞろと家へと上がっていく。誰が言い出すでもなく、自然と居間へ集合していた。
「有地さん、憑代を」
「ああ、ちょっと待ってて」
ほどなくして将臣が戻ってきた。その手に、割れた玉石を持ちながら。
「始めてしまいましょう」
あっさりとした口調。躊躇う素振りもなく、先程拾った欠片を玉石へ近づけていく。
接触と同時に、光が視界を覆った。しかしそれも一瞬の事。目の前には、ほんの少し大きくなった玉石。対照的に、芳乃の手からは欠片が消え失せていた。状況が全てを物語る。
「これが、祟り神を倒す一連の流れなんだな」
上条の確認に、
「オイ、そォいやオマエどこにいやがった?」
虚空へと語りかける第一位。だが、それは正確ではない。上条からはそう見えるというだけで、
「吾輩か? 吾輩はな、叢雨丸に宿っておったのだ」
その四人目、ムラサメは得意げに胸を張る。そのまますらすらと説明を始めた。
「叢雨丸はな、そのままではただの刀に過ぎん。吾輩が宿ることで、穢れを祓う神刀となるのである」
「ふむ、なるほどな。三位一体か、効率の良い方式だな」
「え? また神様同士の高度なコミュニケーション? てか
なかなか他人に敬称を用いない上条が、珍しくそれを使用している。彼にはムラサメが見えないため、その容姿が想像できないのかもしれない。しかし
「…………ムラサメ『さん』、ねェ」
そう思うのも無理はない。いくら口調が大人びていようと、背格好は
ただし、背丈の話はこの神霊にとってタブーである、という所までは考えが至らなかったようだが。
「おいお主、今不敬な事を考えたであろう」
「別に」
場が和みかける。緩みかけた空気を戻したのは茉子だ。
「待ってください。今は祟り神への対策について話を進めるべきです」
「……ああ、そうだな」
全員が神妙な面持ちに戻る。とはいえ、
「何をどうすればいいかさっぱりだ」
ぼやく上条。実際、祟り神が強化されたと言っても、芳乃達が取りうる選択肢は一つ。祟り神を倒し、欠片を集めて憑代を復元することだけだ。
「これから祟り神の発生ペースは増えるし、強さも増す。そうなれば、いずれは俺達も消耗しちまう」
そうすれば、いずれは穂織が滅びる。後手に回った時点で追い込まれる、そういう類の戦いで消耗戦など愚の骨頂だ。
どこかで、逆転の一手を打たなければ。誰が言うでもなく、意思統一が行われる。
しかし、疲れた頭ではまともな議論も始まらない。そう結論付けた芳乃が、皆を見て口を開いた。
「今日はもう寝ましょう。夜も遅いですから」
忘れてはならないが、
人造悪魔と契約していようとも、その本質は変わらない。ムラサメにしたって、本来見えるはずはない。そもそも、彼はあのようなオカルトを否定する立場の存在だ。そんな彼が、科学では見えないはずのものを見通した。ともなれば、代償が伴うに決まっている。
隠し通せたのが奇跡だった。そう思えるほど、彼の体は傷ついている。魔術行使の代償は、即座に現れるのだ。それを耐えきった時点で、この怪物は只者ではない。もっとも、それには悪魔の助力もあったのかもしれないが。
幸いにも彼がいるのは風呂場。血も、洗い流せば誤魔化しは利くだろう。
「チッ、やっぱやり過ごすにも限界があるか」
『ほらあ、だから言ったんですう。私がコンタクトをとる方が負担が少ない、って』
誰に聞かせるでもなく呟く
「…………オイ、オマエ何でここにいる?」
『え゛っ゛!? それは、そのぉ……』
「出てけ。ガキの風呂の面倒は、もォうンざりだ」
『でもぉ、ご主人様のサービスショットは超貴重ですからあ』
「誰にサービスしてる訳でもねェよ。下らねェこと言ってる暇があンなら山の監視でもしとけ」
『私の扱いどんどん酷くなってませんかねえ!?』
「なら聞くが、オマエ、俺の風呂なンざ覗いて楽しいのかよ」
『へっ!? そ、それは…………はい、たっ、楽しいですう』
顔を赤らめ、しどろもどろになりながらも答える悪魔。なぜそんな態度をとるのか、
「…………そォかよ、なら勝手にしろ」
『にひひ、そうさせていただきますう』
怪物と悪魔。一見おかしな組み合わせなのに、そこには断ち切れない強固な繋がりがあった。
風呂場というと、その日の晩にはもう一つ事件が起きていた。
上条当麻。一級フラグ建築士の面目躍如とも言える事件が。
とは言っても、彼に長ったらしい前振りは必要ない。
結論から言おう。
彼は風呂場の前の更衣室で、着替えている最中の芳乃と対面していた。
「………………………………あの、ね? これは決して故意ではないというか事故というか」
早口でまくし立てるHENTAI紳士上条。言い訳がましい、というかただの言い訳が届いているはずもなく。
「な、ななななななななななななな」
肩を震わせる芳乃。もちろん、悲しみ故ではない。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
「だああああああああああああああああああああああああああごめんなさああああああああああああああああい!!」
羞恥、怒り、その他諸々。謎の声に対するものとは別のベクトルで、感情が爆発した。その勢いに身を任せた彼女が、タオルやらカゴやらとにかく色々投げつけてくる。
「おいちょっと待て死ぬ死ぬ死ぬからそれ!!」
「いいから出て行ってください!!」
互いにパニックになっている。よく考えれば、タオルやカゴの直撃で死ぬような上条当麻ではないはずだが、そんなことは頭から吹き飛んでいた。何とか直撃を避け、命からがら更衣室を飛び出す上条。後ろ手で扉を閉めると、ふう、と息を吐く。
その直後、背筋を冷たいものが駆け巡った。祟り神や謎の声、あるいはそれを遥かに超える殺気がひしひしと伝わる。
恐る恐る横を見ると、ニコニコと笑みを浮かべた茉子が立っていた。
クナイを片手に、見れば誰もが畏怖するであろうオーラを放ちながら。
「……上条さぁん?」
表情を一切変えず、茉子は静かに語りかける。笑顔が逆に怖い。
少しずつ、しかし確かに歩み寄る恐ろしい何かを目の当たりにしてしまう。
「ふっ……」
上条の口から、息が漏れる。笑っているわけではない。彼はあくまで、己の境遇を端的に評価しているだけだ。彼を彼たらしめる、あの一言で。
「不幸だああああああああああああああああああああああああああっ!!」
Point.03 余興
「ふむ、そういえば」
気軽な調子で、魔法使いは言う。最強の魔術師、アレイスター=クロウリーとの激突を経た直後であるというのに、それを微塵も感じさせない。
「祟り神の完全復活。アレを見てみるのは、面白そうだな」
玩具にすらならない。そう断じたあの街にも、まだ遊べそうな玩具が残っていたことに気付く。見る目を恥じながら、遊びを全うするべく必要なパーツを調べ上げていった。
「鍵は、あいつか」
彼が見ているのは、上条当麻ではない。
では誰を?
Chapter 3-2 転機
その日は朝から騒々しかった。芳乃が将臣と同衾していたからだ。
茉子やムラサメは最初こそ冷やかしていたものの、目覚めた芳乃に犬の耳が生えていること、本人の意識とは関係がなかったことが明らかになっていく。
更に、憑代が不気味に点滅していることに一同が気付くと、更に事態は急加速する。
「おそらく、信号のようなものを発して、他の欠片に呼び掛けているのだろう」
というのはムラサメの弁だ。芳乃は寝ている間にその信号に操られたのだ、と推測した彼女は、続けてレナを呼ぶように指示を出す。
連れてこられたレナは顔色が悪く、明らかに不調だった。
「ここにいると耳鳴りがします」
との言葉から、彼女も憑代の発する信号を受信したと断定。ムラサメはこの信号を使って、欠片を一気に集めることを提案する――
ここまでの光景を、上条と
(アイツらは今晩にも行動を起こす。今日のうちに手を打っておく必要がある)
「オイ。昨日の欠片、オマエも確認したか?」
『はい。それがどうかしたんですう?』
「保険を掛ける。手伝え」
『???』
可愛らしく首を傾げる悪魔。面倒そうな顔で、第一位は考えを口にする。
全てを聞き終えて、彼女はこう言った。
『ご主人様あ、本当に上手くいくんですう?』
「知るか。俺は予知能力者じゃねェンだよ」
『心配ですねえ』
「勝手にしてろ、そンなモン」
不愛想にそう告げて、
「浮いてろ」
戸惑いながらも指示に従い、悪魔はふわりと浮き上がる。それを確認すると、
『ちょ、ちょっとぉ!! 何するんですご主人様ぁ!?』
しかし、そんなことは一切気にかけない
「ここにはねェ、か。呆けてねェで次行くぞ」
目的のものがないと分かるや否や、すぐに電極のスイッチを戻す
『…………ご主人様、もしかして変態ですう?』
「は?」
本気の殺意を向けられた。竦み上がってしまう悪魔に、怪物が声をかける。
「ふざけたこと言ってねェで、オマエも欠片を探せ」
三十分も経たないうちに、欠片は見つかった。すぐさま山を下りると、芳乃のもとを訪れた。
「巫女」
身もふたもない呼び方にも、芳乃は表情を変えることなく振り向いた。
「はい、何でしょうか」
その問いに、
「穢れ祓い、だったか。この欠片にもそれをやれ」
「はぁ。どうして、今?」
「ただの保険だ」
それと同じ頃。上条当麻は、公民館に来ていた。とはいえ、地元住民との触れ合いだとか、史料の閲覧だとかが目的ではない。
彼はただ、インデックスの捜索をしていただけだ。その過程で、将臣と出会っただけのこと。
「きえええええっ!!」
この公民館で、将臣は毎日鍛錬をしている。朝夕二回、祖父と剣道の特訓をするのが将臣の日課だ。
「すげえな。おっかねえ」
との上条の評は、将臣に向けられたものではない。その祖父、鞍馬玄十郎に対するものだ。
この老爺、既に還暦は迎えているはずなのだが、将臣は彼から一本たりとも奪うことが出来ないでいる。圧倒的な剣の技量、そして体力、気迫。どれを取っても一流だ。
「俺はああはなれないな」
「ならなくていい。お前は今のままジジイになるのがお似合いだ」
「そうかな。貫禄ある爺さんってのも良さそうだろ」
「お前、精神年齢はジジイなんてとっくの昔に通り過ぎているだろう……それでこの体たらくなのだから、貫禄なぞ身につく筈も」
「おいやめろ、その話はナシだ」
そう言っている間も、上条は右手を開いたり閉じたりしている。落ち着きのないその動作に、オティヌスはうんざりした様子である。
「おい人間、そろそろ鬱陶しいぞ」
「悪い。…………けど、どうにもジッとしてられなくて」
「気持ちは分かるが、どうせ今は何も出来んだろう。先の事を考えながら目の前の誰かを救えるほど、お前は器用ではないのだ。今はこの街の事に集中したらどうだ」
「……ああ、そうだな」
上条はそこで思案を断ち切る。『理解者』の言葉で吹っ切れたようだ。
「この街を、あんなヤツの好きにはさせない」
そう宣言した時には、彼の顔から陰は消えていた。
「まずは、インデックスを見つけないとな」
Scene 0-2 来訪者、あるいは迷子と呼ぶべきもの
喫茶店『シュバルツ・カッツェ』。綾地寧々、そして銀髪のシスターはそこにいた。
「ええ、と」
一晩経っても、いまだに完全には状況を把握できない寧々。ちなみに昨晩、寧々はシスターを家に泊めていることは明記しておく。そんな苦労人は、ともすれば荒唐無稽とも言える話を、一つ一つ整理していく。
誰かに聞かせるように。
「まず、貴方の名前は『インデックス』さんで」
「うんうん」
「貴方は迷子の『かみじょうとうま』さんを探している、と」
「そうだね。本当、とうまってばどこで何をしているんだろ」
机に広げたノートに『上条当麻』と記していく。昨晩のうちにあらかじめ教わっていたその文字列を、スラスラと並べていった。
「漢字は、これで合っていますよね?」
「うん、合ってるんだよ」
インデックスと名乗る少女は、無邪気な笑みを浮かべている。
「貴方は学園都市という街の人で、一昨日までは間違いなく学園都市にいたはずで」
「昨日目が覚めたら、あそこにいたんだよ」
あそこ、とは姫松学院のことだ。彼女は最初、鍵の空いている部屋を一つ一つ見て回っていたのだが、途中で空腹ゆえに力尽きてしまった。
と、本人は語っている。
「そして、上条さんも学園都市の人である、と」
「うんうん、私ととうまは一緒の部屋に住んでるからね」
何やら聞き捨てならないことを言っているが、寧々は気にかけない。これも昨日聞いていたからだ。
そこまで説明すると、彼女は別の方へ向き直る。
「ということなのですが」
そちらにいるのは、寧々と同じオカルト研究部のメンバー。
「皆さん、『上条当麻』という名前に心当たりはありますか?」
Level 0-2 不確定因子
鷲逗研究都市にいた削板軍覇は、平常運転だった。
「おらーっ、どうした!! お前らの根性はその程度か!!」
街で見かけた事件、全てに首を突っ込む。今日もまた、『ヒーロー』は人助けに精を出していた。勿論、異能をフル活用である。
圧倒的な力に、次々とぶっ飛ばされる三下悪人たち。根性無しと判断したか、そちらには目もくれずに被害者の安全を確認していた。
「無事みてぇだな。よかったよ」
しかし被害者は礼も言わずに、逃げるように現場の路地を後にしてしまう。恐ろしさで言えば、悪人たちよりも目の前の男の方が上だろう。
だが削板は気にする様子もなく、満足げに笑顔を浮かべている。
「何とかなるもんだな、意外と」
そう言って路地を出ようとした、その時だった。
かつん、という足音が、背後で響いた。
一瞬で、周囲の喧騒が遠ざかる。圧倒的な存在感に、削板の意識は釘付けにされていた。姿を見ていないにも拘わらず、だ。
「あまり、調子に乗らないで貰おうか」
どこか冷たい、男の声。それに応じて振り返ると、そこには魔法使いが立っていた。日の光を吸い込む暗い色のローブの奥から、次なる声がかけられる。
「学園都市第七位、削板軍覇だったか。面倒なことになったものだ」
「誰だ、テメェ」
「名乗る必要はない。ここで死ぬ相手には、な」
「……ふざけんじゃねえぞ」
第七位の目が光を放つ。攻撃態勢に入っていた。そうせざるを得ないほどの圧力を、彼は感じ取っていたのだ。
それに合わせて、男の手が蠢く。火花のように数字が飛び散ると、その右手には針のように刀身の細い剣が握られていた。
「勝てると思うか?」
「勝てるかどうかじゃねえよ」
削板の体を、強烈な闘気が包む。足元のアスファルトにヒビが入るほどの力を込めながら、第七位は叫んだ。
「必ず、勝つ。そんだけだ!!」
爆破音を発しながら、彼は敵の懐へと踏み込む。男の手に握られた剣も同時に動いていたが、最早関係ない。第七位の身体は異常だ。たとえ細剣が当たろうとも、すぐさま回復してしまうだろう。
たとえどんな傷を受けようとも無視して、渾身の拳を胸に叩きこめる。それで全てが決着する。そのはずだった。
だが、そうはいかなかった。男は囁くように、その名前を口にする。
拳を繰り出していた削板の体が、透明な何かに貫かれる。彼の想像以上の規模に変化したレイピアが、第七位の身体を20メートル以上も突き飛ばした。
「がっ…………あぁ?」
血を吐きながら倒れ伏す削板。理解できないといった表情で、敵の顔を見据える。
「
学園都市の外の法則。かつて第七位が戦った、ある男の使ったものと同じ。
「理解できなければそれまでだ。死ね」
無慈悲な宣告と共に、男は再び剣を構える。
10倍を想像すれば、次は100倍。終わりのない倍々ゲーム。不利なのは、どう考えてもプレイヤーの第七位だ。それを認識してなお、削板は立ち上がる。
「ほう」
驚いたような顔をする魔法使い。アレイスターとの激突に際してすら、そんな表情をしなかったのに、である。それだけ削板軍覇の存在がイレギュラーだということか。
「死に急ぎたいと言うのなら、止めはせんがな」
冷ややかに告げ、男は剣を引き絞る。第七位も、右の拳を撃ち出す構えを取った。両者が、決定的な一手を打つ。
激突は無かった。
その直前、二人の間に割って入る影があったからだ。
「そこまでです」
垣根帝督。
高空から降り立った学園都市第二位の
「……っ!? ぐう…………っ!!」
苦悶の声を上げる男。轟音を立てて殺到する翼が、魔法使いの体を次々に殴る。少し離れていた削板にも、攻撃の余波をまざまざと感じさせた。
しかし、男もただでは終わらない。空中にあった何かを翼にぶつけて逸らし、あるいは破壊していく。
僅かに軌道のズレた翼が、地面に直撃した。土煙がもうもうと上がる。その向こうから、あの冷酷な声が響いた。
「ちっ。今日の所はここまでか……命拾いしたな」
垣根は突き出すように翼を振るって、土煙を晴らす。しかし、そこには既に誰もいなかった。押し潰すほどの殺気も感じない。つい先程まで寄り添っていた死の感覚が嘘のようだった。
呆然としながら、削板が呟く。
「何だったんだよ、今のは」
答えは無い。彼らがそれを知るのは、まだ先の話。
Chapter 3-3 神を浄め魔を討つ者
日は沈み、所は変わって朝武邸。一人娘の芳乃の自室に、上条達は集合していた。
信号を用いた欠片の収集を実践するために。
「芳乃、寝たか?」
「まだです」
ムラサメが確認する。理由は単純で、信号に操られるのは無意識下の時だけだからだ。今日起きている間に乗っ取りは起きなかったことから、そう推測したのだ。
「芳乃様、お眠りになられましたか?」
「……まだです」
茉子も確認する。こうして反応を確認するのは、確かに理にかなっているだろう。
「朝武さん、寝た?」
「…………まだですっ」
将臣が確認する。反応がなければ、彼女はじきに動き始めるだろう。その意味で、判別は重要だ。ただ、彼女の反応がややおかしい。妙に感情がこもっている。
さてこの流れに乗るべきか、と上条は思索する。肩に乗る『理解者』のニヤニヤ笑いに気付くこともなく、乗ることを選択した。
「なあ朝武、もう寝t」
「あー、もう!! 大勢にジロジロ見られながら寝られるわけないじゃないですか!!」
爆発した。当然だろう、その状況下で寝られるツワモノは少ない。その上、代わる代わる声をかけられる。寝たくても寝られないはずだ。
「わ、悪かった。ごめん」
平謝りするしかない上条。女性を怒らせると物凄く怖いという事実を、彼は様々な体験を通じて知っていた。勿論、それは昨晩の一件も含む。
「俺、外に出てるよ。その方が良さそうだ」
それだけ言い残して、彼は足早に部屋を出る。
「あれ? あいつ、どこ行ったんだ?」
玄関に靴は無い。その上、どの部屋にも置き手紙の類が無い。携帯にも連絡はなく、電話をかけてみても反応は無し。これではどこに行ったのかも不明だ。
「何やってんだあいつ、この忙しいときに」
ぼやきながら、居場所を知っていそうな
ドタバタという、慌ただしい足音が聞こえた。将臣のものだ。
「上条、準備だ!
「……ああ、分かった」
こうなると、学園都市第一位は置いて行くしかない。探している間に戦闘が始まる可能性だってある。今優先するべきは操られている芳乃だと判断し、手早く準備を整えた。
「悪い、待たせた」
「問題ないよ、まだ追い着ける」
叢雨丸を携えた将臣が視線を向けてくる。無言の問いに、上条は頷きで返した。
「行くぞ」
芳乃は山奥へと向かっていた。その手には、気味の悪い光を放つ憑代。茉子、将臣、上条の三人は、それを少し離れたところから観察していた。
「常陸さん、様子はどう?」
「ずっとあの調子ですね」
こうして話している間も、芳乃は山をふらふらと歩いている。危なっかしいのに、転ぶことはなく、ひたすらにどこかを目指していた。何者かの操作があるなどという、そんなあり得ない可能性すら、そうかもしれないと思わせるだけの異質さがそこにはあった。
「俺の右手で触れたら元に戻るかな」
「可能性は高いな。試してみるか?」
「そうだな。いつでも出来るように、準備だけはしておくか」
オティヌスの言葉に応じて、上条は将臣たちのもとを離れた。そのまま芳乃のもとへ右手を近づけていく。
不意に、芳乃が足を止めた。同時に、憑代を高く掲げる。足を止めた者と、足を止めぬ者。当然、彼我の距離は一瞬で縮まり、右手が芳乃に触れる。
その、一瞬前の出来事だった。
掲げられた憑代が、ふわりと浮き上がる。それと同時に、強烈な閃光を放った。たまらず右手で目を覆う上条。光は一秒と経たずに霧散したが、その代わりと言わんばかりに殺気が彼の全身を包み込む。肌を突き刺すような悪寒を感じ、たまらず目を開けた。
「なっ、なんだ……?」
目の前の光景には、何も変わりはない。芳乃の様子も相変わらずだ。にも拘わらず、違和感が拭えない。何か、取り返しのつかない方向に事態が進んでしまった。上条は、そう直感していた。
「芳乃様! 上条さん!」
異常事態を察知して、茉子と将臣が駆け寄ってくる。二人とも、自身の得物を取り出していた。既に臨戦態勢だ。
「何が起きたんだ!?」
「俺にも分かんねえ。……とにかく、朝武を起こさないと」
上条が、右手で芳乃の肩を揺さぶる。数秒と待たずに、彼女は目を覚ました。
「芳乃様! 芳乃様、ご無事ですか!?」
「う……。あ、あれ? ここは?」
「山の中です。憑代に操られて、ここに」
現状確認をする四人。それを遮るように、大地が震える。比喩でもなんでもなく、山全体が揺れていた。地響きすら聞こえてくる。
それと同時に、上条達を囲んでいた殺気が一層強さを増した。咄嗟に身構える上条。
しかし、変化はそこで終わらなかった。憑代に、黒い何かが次々と纏わりついていく。穢れ、そう呼ばれる何かが。
だがその量は、かつてないほどに莫大だった。空を覆いつくさんばかりに、四方八方から穢れが集まる。忽ち、巨大なボール状に姿を変えていく。
そして、触れた全てを汚染する何かが、上条達を視認した。
次の瞬間、穢れの塊が動いた。着弾。そう表現するべき攻撃を、四人はどうにか回避する。
「……退くぞ」
呻くように、どうにか言葉を吐き出した上条。その表情には、焦りすら浮かんでいた。
「ここで戦うのは無理だ! 足場が悪すぎる!!」
山を駆け降りる。無我夢中で、大木の間を縫うようにひたすら走っていた。
そして、穢れがそれを見逃すはずもなかった。巨体を転がして、斜面を落ちるように移動していく。質量の差は歴然だ。このままでは、すぐに追いつかれる。
が、そうはならなかった。一際太い木に、真ん中から直撃したのだ。中心核の動きを止められ、その場で固まる穢れの塊。その隙に、斜面を駆け抜けて平らな場所を探す。
一行が辿り着いたのは、小さな沢だった。それは、上条当麻が
そして、降りてきた斜面を見上げた。だが、いつまで経っても塊が転がり落ちて来ない。
何故なら、沢へと降りてきたのは、もう塊ではなかったからだ。一本の長い尾を引きずる、黒い獣。祟り神が、元の姿を取り戻しつつあった。
「なんだよ、それ……」
将臣が震える声で呟く。他を寄せ付けぬ存在感。まさしく神と呼ぶに相応しいオーラを放つ祟り神に、将臣以外の三人も圧倒されていた。
意識を逸らせば殺される。誰もがそう直感した。四人が四人とも、己の得物をきつく握り直す。目の前の恐ろしい存在と戦うために。
だから、気付かなかった。
将臣の胸を、何者かの腕が貫いていることに。
「……………………はっ?」
気付いた時には、もう遅かった。ずるりと引き抜かれた腕の先にあるのは、憑代の欠片。
将臣の体に、一切の外傷は無い。にも拘らず、体から力が抜けていく。
「くそっ!!」
上条が飛びかかる。それより一瞬早く、正体不明の何かが欠片を祟り神へと投げつけた。直後、右手に触れた闖入者の姿が消えた。それと同時に、欠片が祟り神へと飲み込まれていく。
『ははは、ようやく面白いものが見られるな。祟り神はこれで完成だ。神代の力が齎す地獄絵図、堪能させてもらうとしよう』
その声には聞き覚えがあった。昨晩、山中で語りかけてきた、あの声。
「テメェ、何をした!!」
『祟り神を完成させる。その為の欠片を取り出したに過ぎん。そこの小僧が、最後の一つの欠片をその身に宿していたのだ』
興奮を抑えきれないといった声色で、謎の声は語る。
『そのままではいつまで経っても完成しない。だから、こうする必要があった』
「そんなことをして、この町がどうなるか分かってるんですか!?」
『分かっているとも』
茉子の怒声にも、何ら感情を変えることはない。まるで歌うように、声は絶望を突き付ける。
『そら、始まるぞ』
合図でもあったかのように、獣が咆哮する。耳にした者全てを威圧するその絶叫に、思わず後退りしてしまう上条達。だが、芳乃だけは違った。妙な落ち着きがある。まるで、この事態を予測していたかのように。
時を同じくして、謎の声も異変に気付いた。様子がおかしい。
『何故だ……? 知性が戻らない。完全体になっていない、だと!?』
時は、数時間前に遡る。
『この欠片は、俺が持っておく』
『欠片が揃わねェ限り、祟り神は完全復活できねェ。とすりゃァ、一つだけ隔離しておけば、復活の可能性は排除できる』
そう言って、第一位は欠片を手に取る。
『オマエらが残りの欠片を全部清めた後、この欠片を融合させればイイ。それで復活を阻止しつつ、憑代を完成させられる』
そして現在。
『なるほどな。これは我の失策よ。第七位にかまけていたことが、裏目に出るとは』
感心した、といった調子で言葉を紡ぐ声。それでも余裕は崩れない。
『だが、それでも完全に近い神だ。お前達の手でどうこう出来るものかな?』
「やってみせるさ」
震えを堪えて、上条は断言する。
「悪意なんかには屈しない。人間の意地ってヤツを見せてやる」
その答えは、想定の範囲内だったようだ。薄く笑って、声は告げる。
『楽しみにしているぞ』
それだけ残して、不気味な存在感が一つ消えた。
上条が飛び出す。どの道彼に出来るのは、その右手を用いた戦闘だけだ。だから、一切躊躇しなかった。右の拳を思い切り振りかぶる。いくら完全体に近いと言えども、その源が異能であるからには、幻想殺しはダメージとして機能する。
はずだった。当たってさえいれば。
彼の体が、真横に吹っ飛ばされる。祟り神に触れることすらできないまま、近くの木へと叩きつけられた。
そこでようやく、痛みが追い付いた。呼吸を乱しながら、どうにか今の攻撃の正体を推察する。
(尻尾!? 嘘だろ、見えなかった!!)
だが、呆けている暇はない。次の脅威は既に動いている。
「くっ!!」
祟り神が尻尾を振るう。将臣は叢雨丸で防御するが、刀もろとも宙へと打ち上げられる。
倒れこむ将臣を視認することなく、尻尾が猛烈な勢いで芳乃と茉子に接近する。割り込もうと、右手をかざしながら突撃する上条。
今度は右手が尻尾に触れた。だが、その勢いは衰えない。咄嗟に受け流す方針に切り替えて、ギリギリで軌道を変えていく。
芳乃の右側数十センチの所に、尻尾が着弾した。生まれた隙を使って、芳乃は更に距離を取る。反対に、茉子は祟り神の右側へと回り込んだ。
「おい、何を!?」
自ら危地へと飛び込むその行為に、上条が一瞬動揺する。だが、茉子は素早い身のこなしで、叩きつけられる尻尾をギリギリのところで回避していく。
四人の中で一番速い茉子ですら、回避が精一杯。絶対的な力量差を感じた上条だが、それで挫ける彼でもない。彼は彼に出来ることを実行に移すのみだ。
右手を固く握りしめ、一歩踏み込む。無謀ともとれるその行いにも、意味はある。
(たとえ神であっても、ヤツは肉体があった頃の動きを取ってる。なら、俺の右手を意識させれば!!)
その思惑通り、獣の攻撃に一瞬だけ迷いが生まれた。しかし、祟り神の速度は尋常ではない。迷ってなお、後れを取ることは無かった。
祟り神の尻尾が、風切り音を立てて上条へと迫る。咄嗟に突き出された右腕ごと真っすぐ撃ち出した。攻撃の隙を茉子が突こうとするが、即座に反応した祟り神がそちらへも尻尾を振り回す。バックステップでどうにか回避したものの、またしても距離が開いてしまう。
(
ちら、と周囲に目を配ると、将臣が立ち上がるところだった。高空から叩き落されたダメージから、どうにか復帰したらしい。茉子もそれを視認し、大声で呼びかけた。
「ワタシが隙を作ります!! 皆さんで攻撃してください!!」
どうやって、とは聞かなかった。その言葉を信じた上条は、再び立ち上がって祟り神へと駆け寄る。
動きがあった。
祟り神の尻尾が、茉子の体を殴りつける。鈍い音があった。勢いよく飛翔する影を、誰もが視認した。
だがそれは茉子
上条の拳が、獣の顔へと迫る。身体を捻って左脚での叩きつけを回避し、更に一歩近付いた。その結果ガラ空きになった左の懐に、叢雨丸の一撃が深々と突き刺さる。苦悶の咆哮を上げる祟り神の顔へ、右の拳が吸い込まれる。
右脚の爪で迎撃しようとする獣だが、芳乃が右後方から鉾鈴を突き立ててそれを阻む。更なる大ダメージを負い、攻撃の軌道がブレた。右脚は上条の真横に落ちる。
もう、防御の手段はない。
しかし祟り神は足掻いた。大口を開けて、上条の右手を噛み千切ろうとする。
「いかん!!」
オティヌスがその危険性に気付く。だが、もう遅い。
上下の牙が噛み合って、上条当麻の右腕は半ばから切断された。
目を見開く四人。芳乃、茉子、将臣の三人は衝撃を受けていたが故の動作だが、上条だけは違った。
「ぐ、うううあああああああああああああああああああああああああ!!」
激痛に耐え切れず絶叫した。事情を知らぬ誰もが、そう思った。
だが、それは全くの見当違いだった。
上条の右腕の中で、何かが蠢いた。それ自体が意思を持っているかのように、不気味に蠕動する。
「刀を引けえええええええええええええええええっ!!」
上条の必死な呼びかけを聞き、将臣は反射的に叢雨丸を引き抜く。間に合ったのは、ほとんど奇跡だった。
右腕の断面から、何かが飛び出す。
「おおお、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
全てを食い殺す直前で、何かが押し潰された。神をも殺せる何かが、更に別種の何かに打ち消される。
「はっ、はっ……」
息を荒げる上条。その右腕は、何事もなかったかのように再生していた。虐殺の後に残ったのは、一部分以外は完全な姿を取る球体。呪いの憑代だった。
「終わっ、た?」
そこまで言って、気付く。右腕の奥が食い殺さなかった分は、いったい何処へ行ったのだ?
そもそも。
何故、レナ・リヒテナウアーは憑代の影響を受けた?
彼女自身は、呪いとは全く関係がない。呪いを受けるようなことも、当然していない。
では、何故?
レナは、山の中を歩いていた。芳乃同様に、フラフラと覚束ない足取りで。彼女もまた、憑代の発した信号に操られていた。
そこへ迫る、黒い影。祟り神のものだ。正確には、その残滓と呼ぶべきもの。通常形態にまで戻された影は加速をつけて、レナに飛び込もうとする。
そう。祟り神は、レナを求めていたのだ。生前抱いていた慕情が、愛した人の面影を追いかけさせた。言ってしまえば、それだけのこと。
だが、今はそれに限らない。もしも今取り憑けば、今度はレナが憑代になってしまう。
そして、あの場にいた四人は祟り神が逃げたことに即座に気付かなかった。今更追いかけてきても、もう間に合わない。
だから、邪魔者などいるはずは無かった。
なのに、そこにはレナ以外の誰かが立っていた。
学園都市第一位の
「よォ」
あっけらかんと声をかける第一位。異物を認識した黒い影の動きが止まる。絶大な存在感に、あの祟り神がたじろいでいた。
「何でここにいる、ってとこか? ンなモンは単純だ、監視してたンだよ。オマエのお気に入りのコイツをな」
祟り神は動かない。次の言葉を待っているかのようだ。
「呪いと関係のねェこの女が影響を受けたってのが、既におかしかった。理由こそ分からねェが、偶然の一言では片付かねェよなァ。神は賽子を振らねェンだろ? なら、コイツが反応することにも意味がある」
神は賽子を振らない。それは元々、不確定性原理に対する反論だった。だが、それは図らずも、神の絶対性を象徴していると言える。
例えばオティヌス。彼女は魔神として完成する前は、自身の取る選択が50パーセントの確率で成功し、50パーセントの確率で失敗するという『無限の可能性』を抱えていた。しかし彼女が完成した魔神となってからは、成功確率100パーセント、失敗確率100パーセントの両方を扱う完璧な存在となっていた。
神の行いに偶然は無い。それを言い当てたのは科学者だ。皮肉めいたものを感じるが、白い怪物はそんなことに拘泥しない。
「さァて、と」
祟り神の目に、明らかな警戒の色が宿る。もはや尻尾ですらなくなった何かを生やして、威嚇するように叩きつける。そんなものに第一位が怯むことはあり得ない。戦意に応えて、電極のスイッチを切り替える。
「オマエの過去なンざ知らねェ。どンな恨みを持ってよォが、俺の知った事じゃねェ」
だから、と
「オマエがあのガキや、この町の連中を傷付けるってンなら、俺はオマエを叩き潰す」
第一位の背中から、爆発的に伸び上がるものがあった。青ざめたプラチナとも称された、極彩色の翼。二枚一対のそれは、世界の何よりも美しく見える。
新たな時代の始まりを告げる神々しき光を携えた怪物が、傍らの悪魔に呼び掛けた。
「行くぞ」
『はいですう』
決着は、あまりにも早く訪れた。絶対の破壊を齎す翼が、怨念の残滓を跡形もなく消し飛ばした。
Chapter 3-4 神の代の終わり
その後、
部屋の隅で蹲る
やるべきことはやれただろうか、と考える第一位。滞在日数こそ少ないが、この町の人間には世話になった。その分の働きはするつもりだった、というのが戦う理由の一つ。
闇に沈みゆく朝武家、ひいては穂織の街を見過ごせなかったのが、もう一つ。
そして、この少女を守ることが、最後の一つ。
今回は、どれも果たせたと言えるかもしれない。だが、これはあくまでも長い道のりの一過程。この成功を、これから先も積み上げていく。密かに、声もなく決意を再確認した第一位だった。
上条は、静かに右手を見つめる。脳裏を過ぎるのは、先程の戦闘で飛び出した何か。
(今日出てきたのは、コロンゾンと戦った時とは違うヤツだった)
謎が深まるばかりの右腕。今日は手綱を握れても、明日は違うかもしれない。
(
得体の知れない恐怖に、ただ苛まれるばかりの上条だった。
次の日。本殿に集った一行は、憑代の復元作業の最後の一手に取り掛かっていた。
「逃げたヤツはどうなったの?」
将臣が疑問を口にする。その疑問に答えたのはムラサメだ。
「憑代を失っては、実体は維持できん。じきに消滅するだろう」
「でも、憑代を求めてやってくるんじゃない?」
「吾輩が監視し、何かあれば伝達する。安心せい」
「そっか」
将臣も、その言葉で納得したようだ。
「後はこの憑代を奉納し、祝詞を毎日上げれば、いずれは鎮魂できるであろう。そうなれば、逃げた祟り神も寄り付けん」
「じゃあ、これで終わったのかな」
何とはなく呟いたその一言に、ムラサメは感慨深そうに応じた。
「ああ」
その言葉に、将臣、芳乃、茉子、安晴の表情が弛緩する。終わりのないと思われた戦いにも、ようやく一つの結末がやってきたのだ。
それを遠目で眺めていた上条達のもとに、将臣が寄ってきて、一礼した。
「手伝ってくれて、ありがとう。助かったよ」
「言ったろ、俺は俺のやりたいことをしただけだ。礼なんかいらねえよ」
「そうだったな。じゃあ」
すると、二人は右手を差し出す。固く握りあうと、自然と笑いあった。
「お疲れさん」
「ああ」
二つの世界の『ヒーロー』が、手を取り合う。その光景を見ていた安晴が、上条と
「そうだ、君たちはこれからどうするんだい?」
「当面は、インデックスを探すつもりですけど」
「アレイスターのヤツは、こっちに来てるヤツの居場所を知ってやがるみてェだぞ」
「えっ、マジかよ。じゃあ、アレイスターに手伝ってもらおうかな」
「オマエ、アイツが何処にいるのか知ってンのか」
「おう。八坂総合病院とかいう場所にいるらしい」
聞いたことの無い名だった。だが、次なる手掛かりは手に入った。
「そォかよ、じゃァな」
行動指針が決まった
「おーい……まあ、いいか。とりあえず、俺はそんな感じです」
「そうか。何か、手伝えることはあるかい?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そうかい? 遠慮しなくていいんだよ」
「気にしなくていいですよ。俺の問題ですから」
そこまで言うと、上条は頭を下げる。
「お世話になりました」
そう言って踵を返す上条。その背中を、将臣たちは静かに見つめていた。
建実神社を出て、穂織の街並みを歩く上条。気負うことなく平然としている彼に、オティヌスが問いかける。
「それで人間、足を確保するアテはあるのか?」
「ヒッチハイクかな。全部公共交通機関じゃ、交通費がバカにならないだろ」
「合理的な判断だ。だがお前は食費を計算に入れていないのではないか?」
「そこはほら、道端に生えてる雑草でも」
「人間を卒業するのはまだ早いんじゃないのか『理解者』よ」
何やらオティヌスが必死になっているが、理由は分からない。とりあえず乗せてくれそうな車を探そう。そう考えて辺りを見回した、その時だった。
ポケットに入れていた携帯が震えた。画面を開いて、通話ボタンを押して。
声を聴いた瞬間、上条当麻の思考が停止した。
第一位もまた、古風な街並みを歩いていた。観光気分の悪魔と純粋無垢な少女があっちこっちに引きずり込もうとするのを制して、タクシーを探す。
その過程で、コンビニを見つけた。コーヒーでも買うか、と店に入った第一位の目に、何のことは無い普通の新聞が映る。
手に取って、記事を見て、眉を顰めた。覗き込んできた一人と一体も、驚きの表情を浮かべる。
この写真に写っているのは、よく見知った顔の軍用クローン、そのオリジナルではなかったか?
Phase 0-2 焼き尽くす雷光
上条達が、祟り神と戦っていた頃。
海際の倉庫に、一人の女がいる。制服に身を包み、五指の先から巨大な電弧の剣を伸ばす、女子中学生。
それは、学園都市第三位の
学園都市では、
しかし、そこにいるのは学園都市第三位
そもそも
彼は、己を取り囲む屈強な男たちをぐるりと見回し、嘲りを込めて挑発した。
「かかって来いよ。格の違いってもんを教えてやる」
たった一人の女に見下されたことに腹を立てた男たちが、次々と引き金を引く。
それが、戦争の始まりだった。
というわけで、ようやく『千恋*万花』編が終わりました。長かったです。
千恋*万花サイドの謎は、ゲーム本編で明かされる事ですので是非プレイしていただきたいです。
ちなみに、『削板軍覇がかつて戦ったある男』とは、オッレルスのことです。
それ以外の疑問等あれば次回以降解説しますので教えていただければ幸いです。
次回からは『DRACU-RIOT!』編が始まります。
結構難しい題材なので上手く調理できるか自信がありませんが、頑張りたいと思います。
今後、投稿ペースが落ちると思います。お待たせしてしまうこと、申し訳ございません。
それでは、今回はこの辺で。
お読みいただきありがとうございました。
………………………………
…………………………
……………………
………………
…………
……
Phase 0-3 偽り無き雷光
その記事を読んでいたのは、第一位だけではなかった。
「ったく」
舌打ち交じりにぼやく少女。その表情には怒りが浮かんでいる。
「どこの誰だ、私の顔を使ってロクでもない事してるヤツは!!」
それは、学園都市第三位の
学園都市では、
その少女の名は、
彼女もまた、『ヒーロー』の性質を持つ者である。