※この作品はR-18です。

とある魔術の柚子世界   作:バハルストスFF

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 前回からの変更点です。
・枡形兵馬を表す三人称を枡形→兵馬に変更


第六話 最狂対最凶

 Phase 2-1 侵入 / Invade.

 

 

 海上都市に降り立った怪物。一方通行(アクセラレータ)は、打ち止め(ラストオーダー)を連れて荷台を出る。彼は特に苦労することもなくこの島へと入り込めた。そう、異世界人の第一位が、である。

 本来海上都市に入るには、公的身分証を用いた本人確認や荷物検査など、複数の審査をパスしなければならないのだ。そして、異世界から来ている彼が、この世界で有効な公的身分証など持っているはずがない。だからトラックの荷台の奥深くに隠れていたのだが、それでも搬入物の検査は避けられないはずだった。

 だが、こうして一方通行(アクセラレータ)は楽園にいる。不自然なほどすんなりと、ここに立ててしまっている。そのことを認識している第一位だが、今はそれを無視した。

 優先すべきことは、他にある。

 

 

 そして、金髪の魔術師も、彼の存在を認識した。

「あーあー、どんどん厄介なことになってくぞ、ちくしょう」

 彼はどこから、それを見ているのだろうか。建物の隙間、あるいは屋上? それとも、人混みの中? いずれにしたって、まともな方法ではないのは確かだった。

(こっちに引き込めりゃ、上手く事を運べそうなんだが……面識一切ねえしな。どうすっかね) 

 しかし、これも彼がやったことのツケが回ってきただけである。御坂美琴に化けて黒幕とあ(・)る(・)人(・)間(・)を誘き出す、という無謀極まりない作戦の、だ。

 やがて腹を括った魔術師は、再び観察に戻る。

(ま、やるしかねえわ)

 

 

 一方通行(アクセラレータ)達は、人通りの少ない道を歩いていた。繁華街から少し離れたそこは酒場が立ち並ぶ路地。夜になれば賑わうのだろうが、やはりと言うべきか、日が出ている間は静かな街の一角に収まっていた。

(まァ、こンなモンだわな)

 あくまでも日中の目的は下見だ。夜中に集まる人間が多そうな場所をあらかじめマークしておくことで、有用な情報を獲得できる確率を上げられる。

 夜中を選ぶ理由も単純だ。日陰の住人は、日向の住人より多くの情報を持つものである。そういう日陰の住人と遭遇する確率が高いのは夜だ。だから夜を選ぶ。それだけのことである。

 そんなわけで海上都市をぶらついていた一方通行(アクセラレータ)達。だが、同行者がいる以上、ある問題が発生する。

「ねえねえそろそろ限界なんだけど!! ってミサカはミサカは水分の不足を切実に訴えてみる!!」

『ご主人様あ、児童虐待はいかがなものかと思いますねえ、にひひひひ!!』

 学園都市第一位は現在、打ち止め(ラストオーダー)、そしてクリファパズル545の駄々に付き合わされているのである。とはいえ、この島……ひいては海上都市が属する日本は現在夏だ。暑さ故の水分不足は仕方ないことだ。

「……オイ。何度目だ、これで」

 勿論、これは同行する少女たちの見方。その面倒を見て財布の中身と悪戦苦闘する一方通行(アクセラレータ)にとっては、無駄遣いは可能な限り避けたいというのが本音だった。とはいえ、出費を渋り過ぎて少女たちを死なせては元も子もないので、

「ったく、面倒くせェなァ」

 近場で空いている店を探す。昼の飲み屋街でそれを探すのは難しいことのように思われたが、そうでもなかった。この時間にもやっているバーがあったのだ。名前を見ると、『アレキサンド』とある。しかし第一位はその意味を考える事もなく、迷いのない足取りで店へと入っていった。

「いらっしゃい」

 妙齢の女性が、カウンターの向こうから声をかけてくる。店内を見回すと、彼女と第一位一行以外には誰もいないらしい。つかつかとカウンターへ歩み寄り、そのまま腰掛ける。その両隣を、打ち止め(ラストオーダー)とクリファパズル545がそれぞれ陣取った。その様子を見た女性が、意味ありげな笑みを浮かべる。

「こんな時間にお客なんて珍しいと思えば。両手に花じゃない。随分モテるのねぇ」

「そォじゃねェ」

「でも気を付けた方がいいわよ? 警察に見つかったらあらぬ誤解を招きかねないし」

「そォじゃねェっつってンだろォが」

 一方通行(アクセラレータ)が苛立ち交じりの視線を向ける。学園都市の人間ならば、大半はこの時点で泣いて逃げ出すだろう。しかしこの女性はというと、

「あらやだ、怖いわねえ」

 なんてことを言いつつも、からかうような雰囲気は一切変わっていない。一方通行(アクセラレータ)の眼光にも、全く動じていなかった。その態度に更に苛立ちを募らせる第一位だが、ここで事を荒げるのは馬鹿馬鹿しい、とどうにか怒りを飲み込む。そんな彼を見て女性は薄く微笑んだ。

「それで、注文は決まった?」

 いの一番に答えたのは悪魔だった。

『この店で一番味の良い酒でお願いしますう』

「ふざけンじゃねェ。殺菌消毒して無菌室に放り込むぞ」

『冗談ですよう、ウィットに富んだジョークじゃないですかあ』

「笑いのセンスが一向に改善されねェのは仕様か?」

 もォイイ、と吐き捨てて、一方通行(アクセラレータ)は視線を外す。すると次は打ち止め(ラストオーダー)が声を張り上げた。

「はいはい、ミルクミルク!! ってミサカはミサカは未来の可能性に期待してみたり!!」

「はァ?」

 電脳幼女が素っ頓狂なことを言い始めた。その視線は、第一位を挟んで反対側にいる悪魔――クリファパズル545へと向けられている。正確には、その胸元に。

 かたや、ロリ巨乳。こなた、ぺったん娘。哀れ、胸囲の格差社会。背格好がほぼ同じ二人であるのに、その胸部には明確にして歴然とした差が存在していた。

『にひひひひひ。やはり持つ者こそが勝ち組ですよう、にひひひひひひひひひ!!』

 意地の悪い笑みを浮かべる悪魔。見た目と相まって大人げなさ全開だ。

「ミサカはまだ発展の途上にあるだけ、ってミサカはミサカは論理的思考に基づいて述べてみる!!」

『構いませんよう。あなたが机上の空論の証明に明け暮れている間に、私はご主人様を篭絡してしまいますからあ』

 机上の空論はオマエもだろ、なんて口を挟むことすら面倒になった一方通行(アクセラレータ)は、二人を無視して手早く注文を伝える。

「オイ、コーヒーを出せ。ブラックだ」

「……ここ、カフェじゃないのよ?」

 

 

 一方通行(アクセラレータ)は、苦めのコーヒーを啜る。結局、場違いな注文にも平然と対応されてしまった。こうなると、今なお両隣ではしゃぎ続ける二人が余計に幼く思えてしまう。

「だからミサカにはまだ伸びしろが残されてるんだ、ってミサカはミサカは至極当然の結論を」

『将来が楽しみですねえ。そんな未来が来ればですけどぉ!! にひひひひひひひひ』

「まだやってンのかよ……」

 実際のところ、一方通行(アクセラレータ)にとっては身体的特徴など考慮に値しない。そもそも他人に対して性的関心を持っていないのだ。彼が重視するのは精神性。強い精神を持っていれば、老若男女問わず敬意を払う。学園都市第一位は、そういう類の『人間』だった。

 そんな彼の事情を知ってか知らでか、女性は第一位をからかってくる。

「モテる男はツラいのねえ」

「ふざけンな」

「あら、ごめんなさいね」

 全く申し訳なく思っていないのが、誰にも分かるような軽さだ。掴みどころの無さは、第一位が今まで会った者の中でもトップクラスだろう。まともに相手をするだけ時間の無駄だと悟ったか、それ以上反応することはしなかった。

「帰るぞ」

 さっさとカップを置いて立ち上がる一方通行(アクセラレータ)。幼女たちは互いに睨みを利かせたまま付き従った。

 そうして二人分の代金(悪魔は結局何も飲まなかった)を支払おうとしたところで、ふと思い出す。新聞の切り抜きを財布から取り出して、女性へと見せた。

「オイ。この女に見覚えはあるか」

 彼が切り抜いたのは一枚の写真。そこに写る人物に、女性は思い当たる節があったようだ。スラスラと情報を開示していく。

「御坂美琴、だったかしら。昨日の真夜中に、島中駆け回ってたわよ。今はどこにいるか知らないけど」

 ただ、と女性は一息おいて、更に告げた。

「その子に変装してた人物もいる。トールと名乗る男も、この顔を使っていた」

 トール。一方通行(アクセラレータ)が聞いたこともない名前だった。大きい(Tall)、だろうか? などと考えるが、答えは出てこない。

「どちらが貴方の知り合いかは知らないけど、どちらにせよ注意が必要よ」

 妙に真剣そうなその言葉だけが、嫌に耳に残った。

 

 店を去る白い怪物。女性はそれを見送ると、おもむろに携帯電話を取り出す。

「念のため、だけど」

 女性はどこかへと電話をかけた。昼(・)間(・)で(・)あ(・)る(・)が(・)故(・)に(・)、繋がるまでがやけに遅い。じれったく思いながらも繋がるのを待つ。

「ああ、もしもし。今、貴方の所の御坂美琴ちゃんを探ってる人が来てね」

 相手は風紀班の枡形兵馬である。そんな人物と当然のように連絡が取りあえるこの女性も、当然只者ではなかった。

「ええ。白い服、白いズボンに、白い髪。瞳は赤。右手で杖を突いてる。…………ええ。よろしく」

 電話を切り、溜息を漏らすその女性の名は。

 淡(あわ)路(じ)萌(もえ)香(か)。陰陽局に所属し、えげつない手段を用いて必要な情報を手に入れる、この島の中でも有数の敵に回してはいけない人物である。

 

 

「だ、そうだが」

 兵馬が伝えた情報を御坂美琴が正常に処理するまでに、実に五秒を要した。それだけの時間をかけた結果発せられた第一声は、

「は?」

 であった。言われた特徴に合致する存在など、彼女には一人しか思いつかない。学園都市最強の超能力者(レベル5)、一方通行(アクセラレータ)である。

「何であの怪物が…………」

 呆然としてしまう第三位。彼女にとって、あの第一位は存在自体がトラウマに等しいのだ。それが、自身を追っている。得も言われぬ感覚が彼女の身を包んだ。

「お前の知り合いか?」

「知り合い、なんて優しいものじゃない。敵なんて呼ぶのすら憚られる。それくらい恐ろしい化物なのよ」

「化物……吸血鬼なのか、そいつは」

「…………人外ですって方が、まだ納得出来るわね」

 微妙に噛み合わない会話を繰り広げる二人。この食い違いが、住む世界の違いを如実に表していた。

「出来れば接触は控えたいわね。あいつ、とにかく危険人物だから」

「危険なんだろうが、接触しないわけにはいかない。不法入島の疑いがある」

「不法入島?」

「ああ。合致する特徴の者が入島審査を通過したという記録が見つからない。となると、こいつはまともな方法で島に入ったわけじゃない、ということになるわけだ」

 それはお前も同じなんだが、とぼやく兵馬は、疲れを感じさせる顔をしている。

「……私を追い出したりしないの?」

「お前の場合は事情が違う。お前は『気付いたらこの島にいた』と説明した。しかも実際問題、お前に関する記録が一切ない。となると、お前の扱いは不法入島者ではなく、遭難者が妥当だ。そういう『人間』を追い出したってなると、上が困るんだと」

 困った『人間』を問答無用で島から追い出す『吸血鬼』、という構図が出来上がると、困るのは吸血鬼たちだ。だから御坂美琴を追い出せなかった、ということである。

「あのトールとかいうのと共々、お帰り願いたいところだな」

「……やめた方がいいわよ。あの怪物は別格だから」

「そう出来れば楽なんだがな。事情が複雑なんだ」

「でも」

「そういう仕事だからな」

 大きな溜息でも吐きそうなくらい、力なく告げた兵馬。結局この日、手を出すか出さないかの議論に決着がつくことはなかった。

 

 

 Phase 2-2 激突 / Conflict.

 

 

 日が沈んで、夜も更ける頃。六連佑斗は寮の共有スペースにいた。彼が通う月長学院が管理する学生寮の二つめ。その一角で、彼は物憂げに虚空を見つめている。

 彼の脳裏にあるのは、トールと名乗った男の話。

(人間を、ライカンスロープに変える…………)

 あり得ない話だった。ドッキリ大成功、なんてパネルでも持って笑い飛ばしてくれた方が、まだ受け止めやすかった。

 でも、あの男はそんなことはしなかった。本当だとずっと主張し続けた。「事実である保証はない」なんて本人の口から忠告されたことで、かえって嘘だと思えなくなっていた。

 それに何より、佑斗が元人間のライカンスロープであるかもしれない、という否定できない疑惑が、あの男の話に説得力を持たせてしまっている。

(考えてたって答えは出ない。そう分かってはいるんだが……頭から離れない)

 そうして、どんどん暗い顔になっていく。誰の目にもはっきりと分かるほど、異様な雰囲気を放っていた。

「……………………」

 そんな彼を、遠巻きに見ている者達がいる。

「六連先輩、どうしたんでしょう……」

 一人は、稲叢(いなむら)莉音(りお)。彼らの住む寮の食事を一手に引き受ける吸血鬼の少女。

「帰ってきてから、ずっとあの調子だね。ヘルに魂を奪われてしまったかのようだ」

 もう一人が、ニコラ・ケフェウス。中二病という、不治の病を患う吸血鬼。

「きっとアレだね、最近オナニーしてないから溜まってるんだね」

 最後が、エリナ・オレゴヴナ・アヴェーン。事あるごとに下ネタを連発する、下ネタという概念がぶっ飛んでいる吸血鬼の少女。

 いずれも佑斗と同じ月長学院の生徒であり、寮の同居人だ。彼を心配するのも当然である。

「それはないと思うけど……。美羽君や梓君は、何か知らないのかい?」

 同居人である美羽と梓に質問するニコラ。二人は佑斗の同僚でもあるため、事情を知っていると踏んだのだろう。

「うーん、調書を読んでる時から様子がおかしかったような…………美羽ちゃんは? 六連くんと一緒に取り調べをしたんだよね?」

「……ごめんなさい。肝心なところは教えて貰ってないの」

 これは嘘だ。美羽だけは全て知っている。何故なら彼女は、佑斗がライカンスロープであるかもしれない、という秘密を共有する数少ない存在の一人である。その秘密が漏洩すれば、佑斗は命を狙われることになる。だから、嘘をつくしかなかったのだ。

 そんな彼女の内心を知る由もないエリナは、また的外れな事を口にする。

「うーん、オナニーじゃないなら…………もしかして、風俗で失敗しちゃったのかな?」

 エリナの下ネタは、常々突拍子もない。セクハラオヤジでもここまでオブラートに包まずに言うだろうか?

「エリナ君の想像力の根源は、どこにあるんだろうね」

「それは勿論――」

「あーはいはい、言わなくていいから」

 一方で、純真無垢さを発揮する者もいた。

「エリナちゃん、風俗って??」

「稲叢さんは知らなくていいから」

 美羽が窘める。「稲叢さん『は』」という辺りが耳年増っぷりを現している、ということは禁句だ。

「もう、ふざけてる場合じゃないでしょ…………っと」

 寮長でもある梓が音頭を取ろうとする。が、そこで割り込む音があった。着信音だ。

「もしもし。……主任(チーフ)? ……はい。…………えっ。分かりました、すぐ向かいます」

「布良さん? 何かあったの?」

「歓楽街で、観光客の人が襲われたって。吸着痕が確認されてて…………私達にも出動命令が出てる」

 吸着痕。正しくは、吸(・)血(・)痕(・)。この文字列が何を表すのかは、最早言うまでもないだろう。吸着痕というのは、吸血鬼を知らぬ者にその存在を漏洩させないための隠語である。

「わかったわ。…………佑斗、仕事よ」

「…………」

 美羽の呼びかけにも応じる様子がない。上の空、とは違った。心ここにあらず、という表現が正しいだろう。

「佑斗、しっかりなさい」

「あ、ああ。分かってる、仕事だよな」

 応対もどこかぎこちない。まともな状態でないのは、誰が見ても分かった。しかし佑斗はそこで言葉を切り上げて部屋へ戻ってしまうので、誰も口を挟むことが出来なかった。

 

 

 一方通行(アクセラレータ)は、夜の海上都市を歩いていた。うんざりするような価格設定に呆れながらどうにか安宿を見つけ出し、クリファパズル545に打ち止め(ラストオーダー)の監視を命じて出てきたのである。彼の目的は、御坂美琴との接触。夜中にうろついていたという情報を得て、接触確率の高い夜を選んだのだ。

 昼間のうちに探しておいた、事件の臭いがする地点を重点的に闊歩していく第一位。何箇所目かの暗い裏通りに着いたところで、前方から不審な集団が接近してきた。数は五人。血走った眼をしたその連中は、明らかに正気ではなかった。

 集団の一人が、一方通行(アクセラレータ)を薙ぎ倒さんばかりの勢いで突き進んでくる。それを視認した第一位は、首筋に手を当てた。

 直後、風速100メートルにも達する暴風が、不審な集団に正面から叩きつけられた。建物を引きちぎるほどの大気を差し向けられた五人は軽々と吹き飛ばされ、突き当りの壁に肉体を深くめり込ませる。一撃で、気を失っていた。

「何だ、コイツら」

 物言わぬ集団に、ゆったりと歩み寄る第一位。それは、姿を持った死という概念に等しい。数秒の後に、五人ともが惨たらしい死体へと姿を変える。そのはずだった。

「待てよ」

 金髪の男が、立ちはだかったりしなければ。

 

 

「もう十分だろ。その辺にしとけ」

「誰だ」

 突如現れた不審人物の制止に、ちっとも耳を貸す気の無い一方通行(アクセラレータ)。会話を成立させることなく、一方的に問いかける。その質問には、裏の意味がある。

 叩き潰すが構わないのか、という意味が。

 それを理解している魔術師は、微かに苦笑した。

「トールだよ」

「……あァ?」

 トール。それは、昼間のバーで女が口にしていた名ではなかったか?

 怪訝そうな視線を向ける第一位に対して、トールは更に言葉を浴びせかける。

「元『グレムリン』、って言やあ分かるか?」

「『グレムリン』、だと?」

 この名前には、一方通行(アクセラレータ)は聞き覚えがある。第三次世界大戦の後、世界各地を荒らしまわった魔術結社の名前。第一位自身も、ハワイ諸島でこの集団が起こす事件の解決に奔走している。言ってしまえば、因縁のある相手だ。より簡潔に言うのならば、敵。

 警戒心をさらに強める第一位。対するトールも、臨戦態勢をとっている。

「元、って言ったろ。だいぶ前から抜けてるよ。何なら上条当麻と一緒に『グレムリン』の邪魔までしたんだが」

「信じると思ってンのか」

 上条当麻という固有名詞にも耳を貸さない一方通行(アクセラレータ)が、徐々ににじり寄る。一歩大きく踏み出せば、それで懐に飛び込めるほどの距離まで。

 戦いは避けられない。そう判断したトールも、右手を持ち上げた。

「ああ、それが正しい反応だよな。……こうなったら仕方ねえ。やってやる」

 言って、トールの姿が消えた。

 一方通行(アクセラレータ)がそう認識した時には、彼の体は宙を舞っていた。

「悪りいが、最初から本気で行くぞ」

 全能神と学園都市第一位。共に世界を破壊するほどの力を持つ怪物の戦いが始まる。

 

 

 路地を塞ぐほどの巨大な竜巻がトールへ殺到する。しかし次の瞬間背中を蹴り飛ばされ、前のめりに姿勢を崩した。振り向きざまに腕を振って突風を巻き起こすが、そちらには誰もいない。刹那、胸部を衝撃が突き抜け、壁に打ち据えられる。そこまでされて、ようやくトールの攻撃を視界に捉えることが出来た。

 この間、第一位はコンマ一秒たりとも反射を切っていない。それにも拘らず、全能神の拳足は第一位にダメージを与えていた。

 荒い息を吐きながら、一方通行(アクセラレータ)は地団駄を踏む。ひび割れた地面から浮き上がった瓦礫を、トールへと蹴飛ばした。だが、これも当たることは無い。衝撃波も含めて悠々と回避すると、ガラ空きの顔を殴りつけた。

「がァ……ッ!!」

 一方通行(アクセラレータ)の鼻から、血が滴り落ちる。ただの物理攻撃なのに、反射が通じない。明らかな異常事態は、否が応でも上条当麻との戦闘を彼に想起させた。

 それでもトールの体を掴み取ろうと手を伸ばす。触れる事さえできれば、その瞬間にトールの五体を引き裂くことが出来るはずだった。しかし、伸ばした魔手は虚しく空を切る。隙の生まれた脇腹を蹴り飛ばされ、第一位は地面を転がった。

「俺からの要求は一つなんだが」

 退屈そうに頭を掻く全能神。のんびりとした調子には、絶対的な余裕が備わっていた。

「俺の話を聞くか、それとも島から追い出されるか。どっちか選べ」

「……素直にハイわかりましたと言うと思ってンのか」

「従うまでぶっ飛ばすことも出来るんだがな」

 冷酷で無慈悲な、神の宣言。そして、この男にはそれを現実にするだけの力がある。

「もうすぐ風紀班……この島の治安維持組織がやってくる。それまでに選べ。でなきゃ俺はお前を風紀班に突き出してこの場を収めるぞ」

 トールのにべもない言葉。それに対する第一位の行動はシンプルだった。

 首筋に手を当て、スイッチを切り替える。能力使用モードを解除したのだ。学園都市第一位としても、触れることすら出来ぬまま殴り倒されていては勝負にならない。使いの悪魔を置いてきてしまった以上、トールが使う魔術を看破することもできない。そもそも、何故反射が通じないのかも分からないのだ。ないない尽くしのこのままでは、何も出来ずに負けに追い込まれるだけだ。

 その動作で戦闘の終わりを認識したトールは、口の端を釣り上げた。

「そんじゃ、場所を変えるか」

 

 

「何だ、これ……」

 轟音と悲鳴を聞きつけてやってきた風紀班の面々が目にしたのは、荒れ果てた路地の惨状だった。地面はひび割れ、窓ガラスは粉々、壁面のパイプ類はひしゃげて、千切れ飛んでいる。災害が起きたとしか思えないほどの大破壊が、そこにはあった。人の多い街中でこれが起きていたら、どれほどの被害が出ていたか。そんな想像をすることすら恐ろしいと、そこにいた誰もが感じていた。

 そんな大破壊の片隅に、倒れ伏す人影の集まりがある。一人の隊員がそちらへ駆け寄った。被害者だと勘違いしたのかもしれない。それも、ある意味では間違いではなかった。

 だが、足取りは途中で遮られる。上から降ってきた大男によって。

「…………」

「何者だ!?」

 並の男性すら上回るほどの体格、殺気の込められた視線。恐れを抱かせる凄まじい威圧感を放つ大男が、おもむろに口を開いた。

「この借り、必ず返すぞ」

 言い終わるや否や、手に持っていた大斧を高速で地面に叩きつけた。瓦礫が四方に飛び散って、周囲の人員の意識をそちらへと向けさせる。

「ぐっ!!」

 各々が防御行動をとって視線を戻した時には、男たちも、倒れていた集団も消えていた。

 その場に残るのは、無残な破壊の痕跡と風紀班だけ。現況も原因も、どこにもなかった。

「何なんだよ、いったい」

 誰かが呟いた。その問いに答える者は、誰もいない。

 

 

「アンタの反射はタイムラグがある。そこを衝けば攻撃は通る。そんだけの事だ」

「それで通すよォな、ヤワな能力じゃねェンだがな」

「こっちもヤワじゃねえ、って事だな」

 カジノの壁に寄りかかる怪物たち。その片割れに連れられてやってきたこの場所で、二人は怪しい話をしている。

「んで、そろそろ本題に入っていいかね」

「勝手にしろ」

 どこかのテーブルから歓声が上がる。賭けに参加する者ではなく、その取り巻きの者が発した声だろう。見れば、一人勝ち状態の客がいた。

「それじゃ遠慮なく。この島で行われてる怪しい実験を潰すため、俺と協力しろ」

「断る」

「なら、この島を荒らした責任をどう取るんだ?」

 思わぬ方向からの指摘に、僅かに目を見開く一方通行(アクセラレータ)。一方のトールは、「あれは俺のせいでもあるんだが」と断ってから、こう問いかけた。

「さっきの、俺との戦い。あの後始末は誰がするんだろうな。俺には無理だ。お前にはできるのか?」

「…………」

 無理だろう。何かを守ることは出来ても、壊れた物を作り直すことはできない。それが、『一方通行(アクセラレータ)』という能力の定めだ。創造の極点たる垣根帝督が第一位の対極と位置付けられていることからも、それが分かる。

「ここは学園都市の外だ。壊したもんを直してくれる大人はいねえ。ガキの喧嘩じゃ済まされねえんだよ。自分の行動の責任は、自分で取る必要がある」

「責任を取れっつーのはご尤(もっと)もだ。だがどォしてオマエに協力する必要がある」

「それが、この世界のためになるからだ」

「根拠は」

「ない」

 また歓声。同じ卓だった。担当のディーラーはパニックに陥りかけている。一方で、参加者の方は冷徹な表情を崩さない。

「話にならねェな」

「だが、これが一番手っ取り早いんだよ」

「お前に従う以外に方法がねェ訳じゃねェだろ。俺は俺のやり方で借りを返す」

「そうか、なら好きにしろ。ただし俺の邪魔をするなら、次こそこの島からつまみ出すからな」

 三流悪人の吐きそうな言葉。だが、この魔術師が言うと、違った迫力があった。

 先程、一方的に痛め付けられたことを思い出した一方通行(アクセラレータ)は、内心で舌を打つ。

「ふン」

 苛立ちを露わにしながら、歓声の上がり続けるテーブルへ歩み寄る。やけに勝っていた一人の腕を掴むと、こんなことを口にした。

「ド素人が。こンなイカサマで騙し切れると思ってンのかよ」

 そのまま捻り上げる。痛みに耐えかね開かれた男の手から、何枚かのコインが落ちてきた。いつの間にか隣に来ていたトールも、肩を竦めて首を振る。

「チップのすり替えか、シンプル過ぎんだろ。つーか公営カジノじゃなかったか、ここ。お偉いさんを敵に回すのはマズいと思うぞ? ……それからお前らも、こいつらのグルだろ?」

 そう言って、同じ卓にいた男たちに視線を向けた。思いもよらない指摘に、皆の顔が引き攣る。

「一人だけが勝ち続けて、残りの全員が余裕ぶっこいてんのもおかしな話だしな。いくらポーカーフェイスっつっても、負けが込んだり一人が勝ち続けりゃ多少は崩れるもんだろ。今のお前らみたいにな」

「こ、この野郎!!」

 不正を暴かれた連中が立ち上がる。拳を握り締めて、すぐさま飛びかかってきた。

 対する二人の反応は、冷めたものだった。

「下らねェ」

「まったくだ」

 暴力。最もシンプルで、最も手早い解決方法。だがその手を選んだ時点で、男たちは詰んでいる。

 

 

 カジノを出て、人混みの中を歩くトール。その表情には、僅かな危機感が見て取れる。

(こんだけ派手に動けば、ちょっかいを出しに来るんじゃねえかと思ってたんだがな)

 見え見えの陽動にかかってくれる相手ではない、ということだろう。

(流石に、怪しそうな場所を片っ端から叩くって訳にもいかねえしな)

 そんなことをすれば、今度こそトールは島中を敵に回すことになる。実験に関わることすら出来ないまま、混乱だけを齎して島から立ち去ることになる。考えうる最悪の展開だ。

(手当たり次第に潰すのは、後がなくなった時だけ。そうしたいんだが…………ここはミコっちゃんに期待だな)

 何も、実験を追っているのは一人ではない。第一位の協力は取り付けられなかったが、第三位が別口で動いているのだ。そちらの結果を待つのも、取りうる手段の一つである。

(何か。何か一手動けば、それで戦局は変わる)

 

 

 同時刻。海上都市内のとある研究施設で、一組の男女が話をしていた。

「三大寺さん。あの噂、聞きましたか」

「噂?」

「妙な力を使う不法入島者が暴れてる、ってヤツです」

「ああ、本当に迷惑な話ね」

「ですが、もしかしたら……『L』の開発に有効活用できるかもしれませんよ?」

「活用?」

「複数の能力を使っている、なんて報告も上がっているんですよ」

「…………へえ、それは面白い」

「ど(・)う(・)し(・)ま(・)す(・)か(・)?(・)」

「……少し、様子を見てみようか」

 

 

 また、別の場所では。

「…………不法入島者に、吸血騒ぎ。そろそろ、わしも腰を上げる頃かのう」

 伝説。あるいは神とさえ称される女吸血鬼が、窓越しに街を眺めて呟いた。

 海上都市の市長たる吸血鬼が。

「小夜(さよ)様、あまり無茶はなさらぬよう……」

 それに苦言を呈するのも、また永きに渡って生きた吸血鬼。市長の補佐を一手に担う、見事な手腕の持ち主だ。

 この島の比類なき頂点が、動く。

 

 次々と入り込む予想外の因子により、事態は進行を始める。制御不能の混沌が芽吹く日は近い。

 

 

 




 というわけで事態が進んでおりません。
 ようやくメインキャラが揃ってきた…………と思いきやまだ全員揃ってません。

『DRACU-RIOT!』の登場人物について、軽く紹介を。

・六連佑斗
『DRACU-RIOT!』の主人公。海上都市に観光に来た際に、人身売買のおとり捜査に首を突っ込んだ結果、吸血鬼化することに。「童貞捨てるつもりが、人間辞めてました」というキャッチコピーの『DRACU-RIOT!』だが、実は童貞を捨てに来たのは彼ではなく、その友人である。

・矢来美羽
『DRACU-RIOT!』のメインヒロイン。言葉責めを仕掛ける女王様気質……かと思いきや、淫語を発する際に必ず顔を赤らめてしまうので台無し。自称ドMだが、そうとは思えない場面が数多く存在する。佑斗が吸血鬼化する事件に関与しており、その事から佑斗のことを気にかけていたりする。有する能力は念動力。

・布良梓
『DRACU-RIOT!』の(ry。佑斗と同学年だが、小学生と間違えられたことも。小柄な見た目をコンプレックスとしており、子供扱いすると怒る。その一方で、戦闘になると見事な射撃技術を披露する。彼女らが住む学生寮で唯一の人間の住人。

・稲叢莉音
『DRACU-RIOT!』の(ry。佑斗の後輩であり、家事を得意とする。淫語の類を全く知らないため、寮の住人はこの純粋さをエリナの毒牙から必死に守っている。作中最大レベルのデカいおっぱいを持つ。確認されている能力は怪力。

・エリナ・オレゴヴナ・アヴェーン
『DRACU-RIOT!』の(ry。ロシアから来た下ネタ連発系後輩。男ですらドン引きレベルの下ネタすら平然と口にする。カジノでディーラーを務めるが、その時の服装はバニーさん。能力は電撃。

・ニコラ・ケフェウス
『DRACU-RIOT!』の登場人物。欧州から日本へ来た。その際日本のサブカルチャーに触れ、中二病を患うことに。ただし用語の誤用が多かったり設定がブレたりするが、そこを指摘すると焦るし素に戻る。私服も制服も男のものを着ており、佑斗からも男だと思われているが、実は…………? 有する能力は獣化。

・枡形兵馬
『DRACU-RIOT!』の登場人物。風紀班の支部の一つで主任を務めている人間。仕事ができる、部下への配慮もできると良い所は多いが、女性の扱いが致命的に下手。

・淡路萌香
『DRACU-RIOT!』の登場人物。陰陽局所属で、バー『アレキサンド』の店主。合法非合法を問わず様々な手法でもって、普通の人間が知り得ないような情報も易々と握っている謎の多い人物。


 次に、トールが反射をすり抜けた理由についてですが、これは筆者の独自解釈です。
 第一位の反射は、体を覆う膜に触れてから演算がスタートします。反射膜に触れてから実際に反射が行われるまではごく僅かなタイムラグが存在し、ここを衝くことで攻撃を当てた例もあります。
 トールの能力は大雑把に言えば「位置の自動調整」なので、反射膜に触れた時点=演算が開始した時点で攻撃が当たっているという状況が作れるはずであると判断し、こういう表現としました。

 今回はここまでです。
 お読みいただきありがとうございました。
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