紅葉さんになんとか住む許可を貰う事に成功したしろはご満悦顔で俺の手を引いて別館に案内してくれる。
「みんなごめんね。いきなりで驚いたでしょ」
しろと違い生真面目な紫織がすまなそうに謝ってくる。
確かに驚きはしたが、別に気にしてないので謝る必要など無いのだが。
「猛お兄ちゃんがそんなこと気にするわけ無いじゃん」
「お前はもう少し気にしろ」
「あう」
しろは能天気に笑いながらそんなことを言うので、とりあえず脳天に軽くチョップを入れておく。
こんなやり取りも久々で、懐かしい思い出が蘇ってくる。
「別館は本館と違ってそれぞれの部屋にお風呂とかキッチンとか無いから、一階にあるのを使ってね」
別館に着くとしろが色々と説明をしてくれた。
本館と違い別館は改装してないので、所々痛んでいたり、物置状態になっている部屋もあったが、住むには充分すぎるくらいだった。
「それじゃここの住人に顔合わせしに行こうか!」
俺たちの使う部屋を決め、荷物を置くとしろがまた俺の手を引いて本館に戻ろうとする。
「俺が行っていいのかよ?」
ここの住人は男を毛嫌いしてるらしい。
それなのに男の俺が挨拶に行っていいのかと不安になる。
「だからだよ。ちゃんと顔を知っておかないと後々不安になるでしょ」
しろの言い分も一理ある。
俺が波風立てなければ顔合わせくらいは問題ないだろうと気持ちを切り替え、しろの歩幅に合わせて歩く。
しろは「えへへ」と嬉しそうに笑いながらしなだれかかってくる。
本館は別館と比べて豪華と言うか、芸術的な作りになっていた。
こんな家で昔は舞踏会等が行われてたんだろうな、と少しズレた感想しか出てこない。
「まずはこの部屋ね。結衣ちゃん入るよ」
「お好きに~」
そんなことを考えている内に、最初の住人が住む部屋の前まで来ていた。
しろが扉をノックして確認をとると、中から舌足らずな返事が反ってくる。
この声はさっき玄関に様子を見に来ていた中で一番幼かった子の声だ。
「おー」
「これは……凄いですね」
しろが開けた扉の隙間から見える中の光景に俺と翠は嘆声を漏らす。
部屋一面に置かれた収納用の棚に収まりきらなかったゲームのパッケージが所狭しと散乱しており本来の広さは全く感じれない部屋。
分厚い遮光カーテンに遮られて日光がほとんど入っていない薄暗い空間の中で接続された3台のパソコンのモニターが放つ淡い光だけが部屋を照らしている。
それは完全に引きこもりの廃人を彷彿とさせる光景だった。
『くっ、敵とは言え、捕虜に対するこの扱い……貴様には王としての矜持は無いのか!』
『ふん、そんな減らず口を叩けるのも今の内だ』
『止めろ……何をする……あぁぁぁん』
中から明らかにエロゲのボイスが聞こえてきている。
確かさっきエロゲがしたいからと言って部屋に戻っていったが、まさか本当にしているとは……。
「結衣ちゃん!ゲームばっかりしてないで出てきてよ」
「めんどくさい~私忙しいから勝手に入ってきていいよ」
しろが少しお小言を言うが、中の子は気だるげに答えるだけだ。
仕方がないので勝手に上がらせてもらう。
「へー結構マイナーなゲームも持ってるんだ」
何気なく床に散らばっているパッケージを見ると世間にはあまり知られないが隠れた名作と言える作品がかなりあった。
「ほほう、それが分かるなんて君もかなかじゃない」
俺がこのゲームを知っていると分かると少女は初めて液晶画面から目線を外してこちらを見てくる。
その顔は同志を見つけれたことに喜びを隠せないといった感じだ。
「じゃあさこれやった事ある?」
少女はきちんとセーブしてから、ゴソゴソと棚を漁り、一つのゲームを見せてくる。
確かこれは数万本しか生産されていないゲームだが、ストーリー、ギミック、自由度どれをとっとても完璧と言えるほどの作品だ。
「もちろん知ってるよ。むちゃくちゃ傑作だった。特にトゥルーエンドが最高」
「まじ!?トゥルーエンドどうやって行ったの?その方法だけが分からないのよね」
「あー行き方は普通なら絶対分からないよ。知りたい?」
「当たり前じゃん」
このゲームはやり込み要素満天。特にエンディングの数が膨大で、全て制覇したと言う報告は未だ出てない。
その要因のひとつがトゥルーエンドだ。
このゲームを知っているだけに、トゥルーエンドに行ったと聞いただけでものすごい勢いで食いついてくる。
「そんな方法なんだ………ホント普通なら分かるわけないじゃん……てか君よく発見したね」
「まあな」
「あのー二人ともそろそろ紹介させてもらっていいかな?」
「おっと、そうだったな」
俺たちが盛り上がりすぎて、このままだと話が終わらないので、しろが咳払いをして話を中断してくる。
すっかり話し込んでしまい本来の目的を忘れていたが、ここに来たのは顔合わせのためだった。
「こちら
「よろしく~」
結衣ちゃんは簡単に手を上げるだけだったが、こちらにちゃんと挨拶してくれる。
「こちら今日からここの別館に住むことになった漆嶋猛お兄ちゃんとその妹の翠ちゃんと葵ちゃん」
「これからよろしくな」
「「よろしくお願いしますね」」
俺は結衣ちゃんと同じく手を上げるだけだったが、育ちの良い妹達はしっかりと頭を下げる。
「それじゃあ次の所に行こっか」
「ねぇ猛くん、今日からここに住むんだよね」
挨拶も終え、しろが次の部屋に誘導しようとすると、結衣ちゃんが俺の手を引っ張って引き留めてくる。
「そうだけど」
「ならちょくちょく遊びにおいでよ。私は他の子と違って特に問題とか抱えてないから24時間オールオッケーだよ」
「それって引き……」
「自宅警備員だよ!」
「………こもり」
「自宅警備員だよ!!」
部屋の様子を見た時点で察してはいたが、やはり結衣ちゃんは
まあ、問題を抱えてないと言ってはいるが本当は何か事情があるのかもしれないし深くは踏み込まないことにする。
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次に案内されたのは結衣ちゃんの部屋から2つ離れた部屋だ。
「水輝ちゃん入っていい?」
白が扉をノックするが返事がない。
もしかして留守なのだろうか?
「水輝ちゃん、猛るお兄ちゃんは絶対に大丈夫だよ」
「……どうぞ」
だが、もう一度しろがノックしながら声をかけると諦めたような声と共に扉が開く。
どうやらさっきは居留守をしていたらしい。
「こちら
「……どうも」
姫野さんは俺と目を合わせようとせず、あからさまに俺の事を避けている。
かといって妹ズにも愛想が良いと言うわけではない。
姫野さんは扉から顔だけ出している状態だが、扉を開けたときに一瞬見えた部屋の様子は家具が必要最低限の物だけ置いてある感じで感情が感じられない殺風景なものだった。
恐らく感情事態が希薄な子なのだろう。
「こちらは私の愛すべき漆嶋猛お兄ちゃんとその妹の翠ちゃんと葵ちゃんです」
しろがにこやかに紹介しても、姫野さんの表情に変化はない。
それだけで過去に相当な事が在ったのだと想像がつく。
「あの……私はあなたが関わりだけ持たないでくれたらここに住むことは反対しないので」
姫野さんは抑揚のない機械音声を彷彿とさせる口調でそんなことを言ってくる。
その言葉で姫野さんの性格と言うかタブーが何となく理解できた。
姫野さんの
だから、一定以上の距離を保とうとしているのだ。
俺は孤児院時代の習性で他人を観察するのが上手くなっている。
その事で姫野さんの過去を盗み見るような真似をしてしまったことに嫌気が差す。
「分かった、俺達は別館に住むことになったから、あんまり関わらないように気を付けるよ」
俺はあまり姫野さんを刺激しないように気を付けながら約束をする。
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「ごめんね、もう少し親しくなるとましなんだけど……」
姫野さんが部屋に引っ込んだ後、しろは寂しそうな表情で謝ってくる。
別にしろが悪いわけでもないし、謝る必要はないのだが、やはり俺と寄合荘の住人に溝ができることを嫌がっているようだ。
そんな事、孤児院で散々経験しているので、気にならないのだが。
それに、姫野さんは寄合荘のメンバーとは良好な関係を結べているのなら、妹ズとは仲良くなれる可能性もあると言うことだ。
「それじゃあ気を取り直して、次の部屋はこちらです!」
しろは俺の反応を見て何とか空元気を出し、両手で次の住人の部屋を紹介する。
「彩華ちゃん新しい仲間を紹介するよ!」
「は~い♪」
しろがノックすると、扉が勢い良く開かれ、元気な女の子が出てくる。
「初めまして!君達が新しくここで住むことになった人たちだよね!私は
彩華ちゃんは明るい表情で可愛らしい笑顔を浮かべながら元気良く挨拶してくる。
姫野さんと違い、全く拒絶していないフレンドリーな雰囲気の少女だ。
妹ズも安心したようで、楽しそうにお喋りを始める。
しかし、俺にはその笑顔が逆に危険信号にしか見えなかった。
この子の笑顔は完璧だ。
完璧に計算されて作られている仮面なのだ。
その仮面のせいでこの子がどんな
しかし、この子は姫野さんよりも壊れかけている。
この子は孤児院にいた時によく見た自我無き子だ。
「俺は漆嶋猛、こっちは妹の翠と葵。宜しくね」
「うんうん!宜しくね♪」
この手の子は相手が死ねと言えば死ぬし、誰かを殺せと言えば殺す危険を持っている。
だから俺も表面的に友好的な仮面を作って対応する。
「それじゃあ挨拶に行かなきゃいけないし、彩華ちゃんまた後で」
「バイバイ」
俺はなるべく仮面だと悟られないように細心の注意を払いながら彩華ちゃんの部屋を出る。
去り際に彩華ちゃんはヒラヒラと手を振ってくれる。
見た感じだと高校1年生くらいだが、言動が少し幼い。
それも自己防衛の1つなんだろう。
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「じゃあ次の部屋だけど、そこの子は寄合荘でも1、2を争う男嫌い。しかも手が早いから気を付けてね」
次の部屋に着くと、しろがいきなり警告してくる。
部屋に入る前に念押ししてくるってことはかなり危ない子なんだろう。
「レナちゃん、入るよ」
「勝手にすれば」
しろがノックと共に声を掛けると、中からは無愛想かつ、かなり不機嫌で威圧的な声が返ってくる。
「この子が
部屋の中に入ると、しろが危ないと言った意味が良く分かる。
中はなんと言うか……THE不良の部屋って感じだった。
どこぞの不良グループから狩り取ったであろう特効服の山、木刀や釘バットをはじめとする武器の数々。
今時ここまで気合の入った不良は居ないだろうという有り体だった。
そしてこの部屋の主は俺を射殺しそうな勢いでメンチ切ってる。
「お!今度越してくる女の子はレベル高いな。どうだい、二人ともオレの女にならないか?」
しかし、妹ズに気付いた金城ちゃんは俺を見る目とはうって変わって無邪気なものになる。
「二人ともまだ男を知らないでしょ、てことは処女だよね!二人ほどの処女を糞みたいな男にやるなんて世界の損失だ、オレが大切に貰ってやる」
「えーと、遠慮しときます」
「えー、ノリ悪いな。そんなことしてると下らない男に無理矢理奪われちまうぞ」
この子はどうやらレズのようだ。
いや、大の男嫌いって言ってるから、女に興味があってもおかしくはないのだが……
どう見ても中学生なんだよな……
「おい、そこの。まさかお前、この二人の男じゃないだろうな?」
そうだと答えたら殺すと圧力で脅しをかけつつ再びメンチを切ってくる。
中学生なのに物凄い凄みを見せる子だ。
「別にそんなんじゃない、俺は二人の兄貴だ」
「ふーん、男が来るって聞いて最悪の気分だったけど、こんな貧弱なモヤシなんかじゃ何も出来ないだろうし特別に許してやるよ」
あくまで上から目線の金城ちゃん。まぁ別に年上ぶるつもりはないので構わない。
「ただし!目障りだからオレの目に入る距離にいるんじゃねぇぞ。もし視界に入ったら殺すからな」
金城ちゃんは最後に脅すように警告してくる。
と言うか脅しではなく、視界に入ったら本気で殺しに来るだろうけど。
それだけ言うと金城ちゃんは興味が失せたようで、ゴロンと床に寝転がり、昼寝を始める。
「じゃ、じゃあ次行こっか」
こっちの自己紹介もしてない内に昼寝を始められてしまったので仕方なく次の部屋に向かう
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「紅葉ちゃん入るね」
最後の部屋は秋風さんの部屋らしい。
中は他の部屋に比べて大きく、内装も豪華な感じになっていた。
「とりあえずはこれからよろしくお願いします、と言っておきますね」
「あ、うん、よろしく」
部屋に入って直ぐ、秋風さんに捲し立てるように言われて、若干気圧されながら返事をする。
「もう分かっていると思いますが、ここに住んでいる娘たちは私も含めてそれぞれ深刻な
秋風さんはそう一方的に言うと話はもう済んだと言わんばかり視線をはずし、テーブルに置いてある紅茶を手に取る。
「本当なら男が住むことなんて認めたくなかったんですけど」
秋風さんは未だに納得しきれていないようで、愚痴りながら紅茶を啜る。
学校でも有名な男嫌いの秋風さんだが、ここでは学校の何倍も男を嫌っている素振りを出している。
「何でそんなに男嫌いなのか知らないけど、まぁ気に障らない様に気を付けるよ」
秋風さんと妹ズもクラスメイトなので、今さら自己紹介の必要もない。
「意外ですね。てっきり何で男の人を嫌悪しているのか聞いてくると思ったんですけど」
俺がさっさと部屋を出ようとすると、秋風さんが少し穏やかになった口調で話しかけてくる。
気になるかならないかで言えば気になる。
秋風さんも何か事情があってここまで男を拒絶するようになったのだろう。
しかし、かなり優遇してもらってここに住むことを認めてくれたのだから、無理に聞き出す気もない。
「……強姦されそうになったことがあるんです。その時はたまたま通りかかった人が助けてくれて何事もなかったんですけど」
俺が素直に答えると、秋風さんは少し黙ってから昔の事を話し出す。
気を許した、と言うわけで無さそうだ。
恐らくしろ経由で俺の過去を知っているので、自分だけ秘密を話さないのは不公平だと考えたのだろう。
「でも秋風さん、そこまで男が駄目ならなんで共学にしたの?」
「社会に出れば嫌でも男の人と接しなくてはならないんですから、その為です」
気まずい空気になって話題を変える為に適当な話を振ってみるが、結局会話が続かず、ぎこちない空気のままだ。
「それにしても真白さんや紫織のお兄さんだって聞いていた人がまさか漆嶋君だったなんて……」
少し、いやかなり落胆した様子で言われる。
しろや紫織からかなり美化された話でも聞いていたのか、少しはましな男ではないかと期待していたのだろう。
「真白さん本当にこの人なんですか?聞いていた話からは少しも想像できない人なんですけど」
「間違いないよ!」
「……ごめんなさい、今のは私が悪かったです」
しろは少し怒った様な口調になり、秋風さんはすまなそうに謝る。
しろが俺の事をどれだけ思っているか聞かされていたのに、そんな反応をしたのだから怒られて当然だと考えたのだろう。
しかし、それはしろに対する謝罪であり、俺に対してではない。
「頭の中では男の人が全員そんな人ばかりではないとは分かっているですけどね、どうしても嫌悪してしまうんです」
秋風さんは少し間を置いて自分の本心を話してくれた。
やはり根は真面目でいい人なんだろう、だからこそ一層気を付けなければと思う。
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「想像以上に深刻なんだな」
挨拶も終え、別館に戻った後、しろにこっそり話しかける。
妹ズは気付いていない点も多いが、一目見ただけで分かるほど危ない子ばかりだった。
「本当に離れてるとは言え俺がここに住んでいいのか?秋風さんかなり無理をしているみたいだったけど」
「たぶん無理をしているとは思うけど、猛お兄ちゃんの事だから絶対何とかしてくれるでしょ」
「確かに何とかしてやりたいなとは思うことは思うけど、俺は元からそんな人間じゃないぞ」
孤児院に居た時も元々はただ俺が気に入らなくて暴れていたら俺に付いて来てくれる奴らが出てきただけだ。
俺はそんなに出来た人間じゃない。
「まぁ、俺にできる事なら何とかするよ。でも期待はするなよ」
「それだけで十分だよお兄ちゃん」
俺の言葉に白はパァっと顔を明るくさせる。
こんなことを言ったが本当に俺にできる事は限られている。
俺は再びため息をいた。