んっ……」
俺は頭の下にある柔らかい感触と鼻孔をくすぐる良い匂いを感じながら瞼を開ける。
「おはよう、スッキリしたかい?」
まだ完全に覚醒しきっていない俺を桜が迎えてくれる。
ぼやけた視界でも鮮明に分かる美貌に老若男女問わず癒してくれるような微笑みがプラスされているのだ、寝ぼけていても見間違えるはずがない。
「お陰でだいぶスッキリしたよ」
「それは良かった」
桜は優しい声音になりながらゆっくりと手を動かす。
髪をやさしく梳かすしてくれるリズミカルな動きが気持ちいい。
「泣き疲れて寝てたのか、ホント子供みたいだな」
「ボクから見れば人類皆子供なんだし、気にすることない」
確かに見ていたのが神様だと思うとそんなに恥ずかしくは、恥ずかしくは……
「やっぱ無理。すっげー恥ずかしいわ」
正直桜の顔をまともに見ることも出来ない。
出来る事なら今すぐにでもここから逃げ出してしまいたいくらいだ。
「ふふ」
そんな俺を見て桜は愉しそうに笑う。
「そんなに可笑しいか」
「ごめんごめん。別にバカにしてるわけじゃなくて、君のそんな一面を見れるのはボクだけだと思うと嬉しくてね」
普段俺は周りに対して気を張っている。
そんな俺の素の姿を見せるのは確かに桜くらいのものだ。
「……誰にも言うなよ」
俺はムスッとしながら、まだクスクスと笑っている桜に釘を刺しておく。
桜が他の誰かに俺の事を話すとは思えないが、念のためだ。
「もちろん誰にも言わないよ」
桜は当然だろ?とお茶目にウィンクしてくる。
「それで、今何時だ?」
既に日は沈でおり、こんな山奥よ廃れた神社なのでなので灯りなどもなく、辺りは真っ暗になっていた。
「今は7時くらいだね」
ここに来たのが5時くらいだったから、2時間近く寝ていた事になる。
「なら、そろそろ帰らないと」
あまり帰りが遅くなってもいけないので、俺が起き上がろうとすると、桜がそっと抑えてくる。
「どうしたんだ?」
「いや、まだニオイが残っている」
「ニオイ?」
「そう。今日君に声をかけたのは嫌なニオイが付いていたからでもあるんだ」
「……そんなに臭うか?」
確かに昨日は引っ越ししたばかりで、荷物整理などをしてバタバタしていたが、風呂には入ったはずだ。
「ニオイといっても、そう言った類いのモノではないがね」
「ふーん」
神様だけに分かる何かなのだろうか、あるいは何かの比喩なのかも知れない。
まぁ桜の膝枕は気持ちいし、しばらくこのままなのも悪くない。
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下山するときは桜が先導して梺まで送ってくれた。
桜の周りは不思議と暗くてもよく見えるので、こういった真っ暗な場所では目印になる。
おそらく桜が神様だからだろう。
「じゃあボクはここで」
「ありがとな」
外灯が出てきた辺りで桜は足を止め、見送りの言葉をかけてくる。
それに軽く応えて、俺は家路に着く。
(やっぱり桜の言う通り溜め込みまくってたんだな……)
目に映る風景が、朝と比べて少し鮮明に見えることから、より実感できる。
自分ではしっかりとコントロールしていたつもりだったのだが、これでは妹ズにもバレているだろう。
彼女たちを護る立場なのにな~と軽く自嘲しながら寄合荘に帰ってくと、ポケットに入れていた携帯が振動する。
「ん?メール?」
差出人を見てみると、黒神結衣と表示されていた。
「俺って結衣ちゃんにメアド教えたっけ?」
多分教えてないと思うのだが、こうしてメールが届いているということは教えたんだろう。
俺はまあいいかと軽く流して内容を確認する。
『猛くん、時間ある?あるなら部屋においでよ。一緒に遊ぼ~』
絵文字をふんだんに使った可愛らしい文面でゲームのお誘いをしてきていた。
特に断る理由もないので、結衣ちゃんの部屋に足を向ける。
途中で住民に鉢合わせないか心配だったが、誰にも遇わずに結衣ちゃんの部屋の前まで来れた。
「結衣ちゃん、来たけど」
引きこもりの結衣ちゃんが居ることは分かっていたが、一応声をかけておく。
「開いてるから入ってきてくれていいよ~」
中からは間延びした緩い声が返ってきたので、俺は扉を開けてお邪魔する。
「待ってたよ~、君ゲーム得意なんでしょ。対戦相手になってよ」
結衣ちゃんはコントローラーを放り投げてくる。
俺はそれを受け取り結衣ちゃんの隣に胡座をかく。
すると、結衣ちゃんは俺の膝の上にちょこんと腰かけてくる。
「ちょっ!?」
「いいじゃん~、これ一回やってみたかったんだよね。君もこんな美少女と密着出来るんだし文句ないでしょ」
確かに結衣ちゃんは可愛らしく、この状況を他の男に見られたら怨みを買うこと間違いない。
しかし、それを計算に入れている時点でちょっとあれなんだが。
しかも、出会って一日の男の膝の上に躊躇なく座るのは如何なものだろうか。
「む~私が密着してあげてるのに反応薄いぞ!」
「まぁ、こういう状況には慣れてるからな」
俺の反応が気に入るなかったのか結衣ちゃんは頬を膨らますが、主に翠とか葵とか桜とかが原因でこの手の悪戯には耐性が付いているのだから仕方がない。
あいつ等は事ある毎に抱きついたりしてくる。
しかも、人前でも構わずくっついてくるので、そりゃ耐性も付くってもんだ。
「よし決めた!絶対にゲームでボコボコにして恥ずかしい命令聞いてもらう」
「なんでそうなる!?」
「その代わり、万が一、天変地異が起こるよりも低い確率だけど君が勝ったら私の事好きにしていいよ」
「ほほう?」
そこまで言われて黙っているわけにはいかない。
お互いに目に攻撃的な光を宿らせ火花を散らしあう。
「ゲームは君が決めていいよ」
結衣ちゃんは俺の事を完全に舐めているようで、俺の得意なゲームを選んでいいと豪語する。
「その大言を後悔させてやる」
俺が選んだゲームはありきたりな格闘ゲームだ。
お互いに神経を限界まで張り詰めさせ開始の合図を待つ。
『Ready Fight』
開始の合図と共に俺は相手との距離を詰め、はめ技に持っていく。
これが決まれば一気にKOすることも可能だ。
しかし、結衣ちゃんもかなりのやり手らしく、こちらの攻撃に合わせて的確に返し技を繰り出して即死コンボを解除してくる。
「なかなかやるね!」
「そっちこそ」
お互いに譲らない一進一退の攻防を繰り広げ、相手の考えを読み、その上で決定打を繰り出そうとする。
しかし、相手もそれにうまく対応してくるので一向に決着がつかない。
(残り体力はこっちの方が僅かに多い、ならここは攻めの一手しかない)
ここで防御に回れば確実に負ける。
俺は多少の反撃を覚悟してコンボを繰り出す。
「ちょ、ちょっと待って!」
俺がここで猛攻に出ると思っていなかった結衣ちゃんはガードを割ってしまう。
このタイミングで大きな隙が生まれるのは死を表す。
俺はその隙を有効活用して完全な羽目殺しが完成させる。
こうなってしまえばもう結衣ちゃんに勝ち目はない。
『KO』
結衣ちゃんはガチャガチャとボタンを連打して足掻いてくるが、意味をなさず無慈悲にも決着がつく。
「うがぁぁぁぁぁ!!?」
結衣ちゃんは絶叫を上げコントローラーを投げ出す。
「俺に喧嘩を売ったのがそもそもの間違いだったな」
などとカッコつけるが、ゲームのシステムまで考慮に入れてようやく勝てるレベルとは思っていなかった。
正直、3回勝負の一般的なタイプだったら勝てていたかわからない。
「私が、私が負けるなんて……」
「おーい、戻ってこい」
「はっ!?」
放心状態でブツブツと呟いている結衣ちゃんを揺すってこっちの世界に戻ってこさせる。
結衣ちゃんは俺の顔を見るなり泣きそうな表情になる。
「こんな可愛い女の子相手に大人気なさ過ぎると思わない?」
「あんな風に言われたら、何がなんでも勝ちに行くさ」
「あんな風に……まさかっ!?」
突如結衣ちゃんが飛び起き俺から距離をとり、自分の体を護るように抱きしめる。
「まさか、私を好きにしていい条件を出したから!?私のこと無理矢理犯すつもりなんでしょ、エロ同人誌みたいに!エロ同人誌みたいに!」
「そんなことしないわ!?てか何で嬉しそうにしてるんだよ」
大声で何言ってくれてるんだこの子。
しかも、仕草こそ嫌がっているが、その表情からは今か今かと待ち望んでいるのヒシヒシと伝わってくる。
エロゲはするし、性に興味津々の様なので変な奴に簡単に丸め込まれるんじゃないかと心配になるレベルだ。
もっとも部屋から出ない結衣ちゃんなら要らぬ心配なんだろうが。
「ぶーぶー、男なら女を強引に犯すくらいじゃないと世の中生きてけないよ」
「そんな物騒な世界で生きて行く気はない」
「ちぇ……ま、ニオイは取れたし、いいや」
「なんか言ったか?」
「なんでもない」
結衣ちゃんが何か重要な事を呟いた気がしたが、生憎小声過ぎて聞き取れなかった。
「もう一戦する?」
「いや、止めとく」
流石に神経張り詰めてゲームをやっても疲れるだけなので、今日は辞退させてもらう。
「そ、なら君に勝つために技を磨きたいから今日はこれまでってことで」
結衣ちゃんは負けたのがよほど悔しいのか背後に鬼神のごときオーラを纏いながらゲームに打ち込む。
これは俺も相当やり込まないとな、と頬を引き攣らせながら冷や汗を流す。
「じゃあ俺は帰るな」
「あ、そうだ!最後に一つ。私の事は結衣ちゃんじゃなくて結衣って呼んでよ。結衣ちゃんって他人行儀だし、なんだか子供扱いされてるみたいだから嫌なんだよね」
部屋を出る前に挨拶をすると、結衣ちゃんはそんなことを言ってくる。
「別に構わないけど、出会って1日くらいの男に下の名前で呼ばれるのって、抵抗ないのか?」
「こんな事誰にでもいうわけないじゃん!猛くんは私の初めてを奪った人だからね」
「その誤解されそうな言い方止めてくれ」
言い方はあれだが、言わんとすることは分からないでもない。
要は拳を交えた漢どうしが互いに認め合う。
そんなノリなんだろう。
もっとも結衣ちゃんは女で拳を交えたのはゲームの中なのだが。
しろとの約束もあるので、寄合荘のメンバーと親しくなるのは悪い事でもない。
「分かったよ、じゃあまたな結衣」
「うん!またね~」
結衣ちゃん改め、結衣は可愛らしい顔に日輪の様な笑顔を浮かべ、手を振り返してくる。
翠や葵、桜とはまた違った魅力に一瞬ドキッとしてしまった。
俺はその事がバレないように、そそくさと部屋を出る。
「漆嶋君、ここで何してるの」
しかし、部屋の外の様子を探ることをしなかったため、部屋を出ると秋風さんに鉢合わせてしまう。
しろの後押しがあってやっとこさ離れに住むことを許さるくらいの男が駄目な娘たちが住む寄合荘本館。
そんなところに男の俺が入ってきていたら、どう思われるか。
「一応言わせてもらいうと、俺は結衣に呼び出されただけだぞ」
変な誤解をされない内に事情を話しておく。
秋風さんの瞳は絶対零度の冷気を宿しており、その表情は全く感情の読み取れない無表情。
控えめにいっても怖い。
「黒神さんに?」
「そう、一緒にゲームしないかって」
一応、結衣からもらったメールも見せておく。
だが、秋風さんはそれだけでは納得できないようで本人に確認を取りに行ってしまう。
「どうやら本当みたいですね。ですが今後こちらに来るときは私に断りを入れてからにしてください」
中で一悶着有ったようで、秋風さんは少し疲れた表情で出てきた。
どうやら結衣に俺を呼ぶことを止めさせようとしたらしいが、断固として聞き入れられなかったらしい。
それで、苦肉の策として今後は事前報告をするように命じてきた。
「分かりました」
「では、私はこれで」
最後に有無を言わせない迫力と事務的な口調で言われ、秋風さんは自室に戻っていく。
「どうしたもんかな………」
結衣とはいい関係が築けそうなんだが、他の娘とうまくやれるかが心配になって、ため息交じりにぼやく。
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「おい猛、今日も神咲先輩が来てるぞ」
「ん?」
次の日の放課後、焔が羨ましそうな声と共に頭を小突いてくる。
廊下の方を見ると、確かに桜が立っていた。
桜はが目立たないように、二人きり以外の所ではほとんど関わってこない。
それなのに、昨日の今日で会いに来るとは……
「今日はどうしたんですか?」
「悪いけど、今日も付き合ってもらえないか」
「それは別にいいですけど」
他のやつらには昨日と同じ光景に見えるのだろうが、俺は桜が絶対に付き合えと命じているのが分かる。
こんなときの桜は何をいっても無駄なので、仕方なく帰り支度をして校舎を後にする。
「今日はどうしたんだ?切羽詰まってるというか、張り詰めているみたいだけど」
周りに人がいなくなった辺りで普段の話し方に戻しながら、いつもとは明らかに様子が違う桜に訳を聞いてみる。
「昨日ボクと別れてから、長時間誰かの傍にいなかったかい?」
真面目な桜は珍しく俺の質問は流して単刀直入に聞いてくる。
怪訝に思いつつも昨日の別れた後の事を振り返る。
昨日一緒にいた相手は妹達やしろ達くらいだが、いや、もう一人いたな。
「引っ越し先に住んでる娘とちょっとゲームしたけど」
「……君の住んでる家に行っていいかい?」
桜は顎に手を当てて考える素振りをしてから、また有無を言わせない様子で問いかけてくる。
これも断っても無理矢理着いてくるパターンなので、仕方なく了承すると、狙ったかのようなタイミングで結衣からメールが届く。
『今日もおいでよ、絶対に勝ってやるから!』
メールの内容は至って普通、なのになぜか嫌な予感がする。
「ねぇ、この娘のところにボクも行っていいかな?」
「えっ?いや、それはちょっと」
結衣からのメールを横で見ていた桜が少し怖い感じになる。
とはいえ、流石に行きなり押しかけさせるわけにはいかない。
『知り合いが付いていきたいって言ってるけど、連れていっていいか?』
桜はいつの間にか俺から携帯を奪って、勝手にメールを送信していた。
『ゲーム強いならいいよ』
結衣はそのメールに秒で返信してくる。
桜は無言で微笑みを向けてくるが、なぜか冷や汗が出が吹き出す。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
本館に行く前に秋風さんに断りを入れてから、結衣の部屋の前まで、桜を連れて行く。
「……」
桜の顔から笑みすら消えて、なんなら殺気まで出している気がする。
部屋の中からは中からで時を感じるし。
なにか不味いことをしたかなと思いつつも、ノックしようとすると、その前に結衣が扉を開けて顔だけ出してくる。
「……」
その顔は不機嫌その物だった。
結衣も寄合荘の住人以外の人とは人付き合いが苦手と聞いてはいたが、さっき確認をとったので緊張しているという訳ではないだろう。
「なんでアンタがここにいるのさ」
ようやく開いた口から出た言葉は俺に向けられたものではなく初対面のはずの桜に向けられていた。
「それはボクのセリフだね、何でお前がこんなところにいるんだ」
桜も負けず劣らずの不機嫌さで言葉を返す。
桜と以前から面識があるということは……
俺は結衣の正体に気が付いて頭が痛くなる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
「つまり、結衣も桜と同じように神様って事なんだな」
「ただの神じゃなくて悪神の最高神だ」
とりあえず玄関で睨み合いをしているわけにもいかないので、結衣の部屋に上がらせてもらい、簡単に二人の関係を教えてもらう。
悪神というのは神の力を持って人間に干渉してくる神々の総称だ。
神は本来人間には干渉してこない、もし干渉するとしても桜のように神の力は行使しない。
故に悪神と普通の神は常に対立している。
つまり桜と結衣は対極に位置する最高神同士で敵対関係にあるということらしい。
「……」
「……」
当の両名はテーブルを挟んで火花を散らしながら睨み合っている。
「嫌なニオイがすると思ったけど、私のお気に入りの子にちょっかいかけないでくれるかな」
「猛とはお前なんかよりもずっと前から知り合いだ。後にちょっかいを出してきたのはそっちだ」
先ずは結衣が食って掛かるが、桜は桜で喧嘩腰に対応する。
この二人、とことん仲が悪いようだ。
「ねえ、猛くん、こんな
「ちょっと待て!ボクの猛に手を出すなら容赦しないぞ!」
二人の口論はヒートアップしていき、しまいには俺まで巻き込まれる。
二人が本格的に喧嘩をしたら
しかもその理由が俺となると、大したことでは動じないと定評のある俺でも焦る。
「ふん、もうボクは猛に真名を教えてる関係なんだ。お前が入れる余地なんてどこにもない!」
「え、マジ?」
結衣は桜の放った一言に固まる。
真名とは神が持つ本当の名前で、これを知られると相手に支配されることさえある。
だから神は一生を添い遂げる相手にしか真名を教えない。
それほど真名を教えるということは危険を伴うものなのだ。
「猛くん、本当にコイツの真名教えてもらってるの?」
結衣は明らかに動揺しながら俺に真偽を確かめてくる。
「一応」
俺が頷くと結衣は険しい顔になって桜を睨み付ける。
「アンタ正気?」
俺は神じゃないので真名はない。
つまり桜を一方的に支配することが出来る状態にあるのだ。
それは、俺が桜を操って世界の法則すら書き換えることが出来るということだ。
「悪神でも人間にそこまでの権能を与えないぞ」
悪神はあくまで自分の暇を慰めるために世界を混乱させるのが目的で、世界そのものを潰すことはない。
そんなことをすればツマラナイ世界が出来てしまうからだ。
だから、桜の行動は悪神である結衣にも見過ごせない事らしい。
「正気だよ。猛は真名を教えたとしても問題にならない人間だと判断したからこそ真名を教えた」
「だとしても馬鹿げてる。なんでそこまでするのさ」
「それだけ本気ってことさ」
「……」
遊びではなく本当に添い遂げるつもりだからこそ神の契りを交わした。
そう言いきる桜に結衣は言葉を詰まらせる。
「猛くんはなっとくしてるの?」
まぁ、それは事後報告で俺の意思は無視されたし、桜を隷属させる代償として死んだ後は転生することもなく、永久に桜と共にあることを強制されているので素直に喜べない。
「でも桜は俺の事を本気で好きでいてくれて、俺のワガママにも付き合ってくれている。だから、文句はないよ」
「ワガママって?」
「俺は妹達とある約束をしていて、絶対に一番は作らないようにしているんだ」
俺は二人の妹と関係を持っているが、どちらも大切な家族だ。
どちらかを優遇することはない。
それは妹以外でもおなじこと。
俺がどんな女と関係を持ってもかまわない、何人増えてもかまわない、だけれども絶対に一番は作らない。
誰かを愛するなら、同じだけ皆を愛する。
これが俺たち三人で交わした約束だ。
「つまり、ソイツも猛くんの女その1ってこと?」
「……まぁそうなるな」
自分でも馬鹿げたことだと理解しているので、ハッキリ言われると答えづらい。
「ぷっ、くっ、最高神を愛人その1って、あは、あはははははははは!」
気まずそうに答える俺を見ていた結衣は堪えられないとばかりに笑い出す。
「どうした?」
「あは、ご、ごめん、あははは」
あまりにも突然だったので、驚いてこえをかける。
しかし、結衣は目尻に涙を浮かべ心底愉しそうに笑い続ける。
「……決めた私も真名を教えて上げる」
「「はい!?」」
結衣は一頻り笑い満足したのか涙を拭いながらそんな爆弾発言を投下してくので、俺と桜は同時に驚愕の声を上げて呆気にとられる。
「ちょっと待て!いくらボクへの嫌がらせでもやり過ぎた」
「別にアンタはどうでもいいよ。私は本気で猛くんの事が気に入っちゃたんだから」
結衣は桜の殺気を華麗に流しながらオレにくっついてくる。
そこには不純などはなく、純粋な好意だけがあった。
「もともと君のことは気に入ってたんだよ。時期をみてちょっかいをかけるつもりだったし。妹さん達との約束に反しない限り私も猛くんの女になっていいってことだよね」
「そ、そんなことを僕が許すはずかないだろ」
「だから、これはアンタじゃなく猛くんが決めることだから」
結衣を俺から引き離そうとする桜と、俺から離れまいとする結衣。
二人の攻防の間、俺はどうするべきかを考えていた。
確かにこのワガママを容認した上でまだ俺の事を好きでいてくれるなら拒む理由はない。
むしろ、そんな存在を拒みたくない。
「猛くん、これは神としてではなく、一人の女としての気持ちだよ。ダメ…かな?」
結衣は不安げに瞳を揺らしながら上目遣いで聞いてくる。
この仕草は演技だろうが、その気持ちは本物だ。
「こんな俺でいいなら」
「猛!?」
「ありがとう!よろしくね猛くん!」
桜は絶望に染まり悲痛な叫びを上げうちひしがれ、結衣は幸せの絶頂にいるような笑みを浮かべ一層強く抱きついてくる。
こうして俺は成り行きで二柱の神と生涯を共にすることを誓うはめになる。
日常を描くとかあらすじで書いてるのに初っぱなから非日常のオンパレードですね