―――――秋風紅葉―――――
2月29日生まれの15歳。
血液型はO型で俺達が住んでいる寄合荘の所有者。
父親は現在日本最大の企業秋風グループの会長で、父娘間の関係はあまり良くないようで自宅ではなくこの寄合荘に住んでいる。
学校は俺たちと同じ青海学園で桜、翠、葵と並んで学園の四天王と呼ばれファンクラブも存在している。
成績は全国トップクラスで部活は弓道部に所属しており、全国大会で優勝経験もあり。
学園では頼りになる存在として知られているが、友好関係は広くない。
大の男嫌いで有名だが、同性愛者でもなく浮わついた話は一切聞かない。
「うーん、これなら俺が知ってる情報の方が詳しいな…」
しろとの約束もある、寄合荘の住人達が抱える問題を解決するため、まずは知り合いでもある秋風さんから着手してみようかと情報を集めたのだが、大した事は分からない。
まあ、元々同じ学校に通っているのだから外部から集めた情報より詳しいのは当たり前なのだが……
やろうと思えばなぜ父娘間の関係が悪いのかや、どういった人と友達になりやすいかなどいくらでも調べることは出来るのだが、流石にそこまでするのも気が引けるので今早めておく。
「なーんか切っ掛けでもあれば助かるんだがな……」
俺はどうしたものかなーとため息をつきながら頬杖をつく。
寄合荘に住む住民全員に言えることだが、皆抱えている問題が大きすぎる。
しかも、しでも刺激すれは壊れかねないギリギリのバランスでなんとか現状を保っている状態だ。
これでは下手に手を出せない。
「孤児院の時は好き勝手暴れてるだけで良かったんだけどな……」
しろは俺のことを何でも出来るスーパーヒーローのように思っているのかもしれないが、あの時と今では全く状況が異なる。
あの時は全員同じ環境に置かれていて面識もあったし、同じ相手を敵にしていたからこそ直ぐに打ち解け合えたのだ。
面識もなく共通の敵もおらず、抱えている問題のベクトルも全く別々。
そんな寄合荘の住人達と打ち解け会うなど困難を極める。
「は~」
俺はもう一度ため息をついてパソコンの電源を切り、白んできて夜空を眺めて頭を抱える。
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「な~猛。実はお前ってMだったのか?」
「何だよいきなり」
昼休み、今時学校にこんなベタな屋上などあるのかと言いたくなるような時計台の上で昼飯を食べていると、唐突に焔が馬鹿なことを言ってくる。
「隠すことないじゃないか。お前秋風さんのこと狙ってるんだろ?いやーあの生ゴミを見るかのような目で蔑まれるとゾクゾクってするもんな」
「あのレベルで悦べるのはお前くらいだろ……」
秋風さんの男を見る目は絶対零度の破壊力を宿している。
並の者どころか熟練者だって吹き飛ばされる威力だ。
「つか何で俺が秋風さんを狙ってることになってんだよ」
「え?だってお前、秋風さんのこと色々調べてるんだろ?ガードが堅いから外堀から埋めていこうとしてるんじゃないの?」
「全然違うわ!てか、その情報どうやって仕入れた」
確かにここ数日秋風さんのことを調べていたのは確かだ。
しかし、秋風さん本人にそんなこと知られるわけにはいかないので痕跡は一切残していない筈なのだが……
俺は少し目付きを鋭くして声のトーンを落とす。
ふ、俺を甘く見るんじゃねえぜ。俺はこの学園の全ての色恋沙汰を網羅し、この学園で誰が誰に思いを寄せてるかの情報を一切逃さない事から
「野次馬根性爆発させて嫌われまっくた挙げ句に附けられたを蔑称を誇らしげに言われてもな」
焔は俺の凄みをものともせず、そんな雰囲気をぶち壊すかのようにキメ顔でそんなことを
それはこの学園の怪談の一つに数えられている存在。
その正体は誰も知らないが、そいつは学園の関係者なら学園の外で起こった恋愛事情さえ把握している。
そしてそいつに痴情を暴露されてしまった者達が血の涙を流しながら畏怖とその仕打ちに対する細やかな反撃として附けた名称が
なんの捻りもないことからこいつの餌食になった者達の思いのほどが伺えるが、コイツはむしろ嬉々として名乗ってやがる。
焔がその怪談の正体だということは前から知っていたが、俺が隠蔽した情報まで入手するとは……
そりゃ闇の恋天使とか言われて恐れられるわ。
「で、何で狙ってる訳でもないのに秋風さんのこと探ってるんだ?」
焔は俺の呆れなど何のその。
マイペースに話を進めてくる。
「はぁ…詳細は省けど、共通の知り合いに秋風さんの男嫌いを治してくれて頼まれたんだよ」
簡単に人に言えることではないので詳しくは話さないが、隠しはしない。
こいつは笑い話程度で済む恋愛話ならともかく、本当に人に言えない様な秘密は絶対に口外しない男だ。
「お前も本当苦労してるな……」
焔は俺の境遇を知っている数少ない人間だ。
俺がどれだけ波乱に愛されているかも理解している。
この程度の言葉だけで俺が抱えてる問題の深刻さを悟ったのか、焔の声に同情の色が混ざる。
「ま、俺は出来る範囲で色々するだけだ」
「お前の出来る範囲は自分を省みないだろ。それが心配なんだよ……なあ俺に手伝えることはないか?とは言ってもお前が大変に思っている時点で俺なんかに出来ることは無いと思うけど……」
俺が気楽に言うと、その反応が逆に焔を心配させたようだ。
「その気持ちだけで十分だよ」
この件は下手に他人を頼ると取り返しのつかないことになるので、俺はやんわり断る、
しかし、本気で心配してくれる親友の心遣いだけありがたく思いながら、弁当に残っていた最後のおかずを口に含み、この話を打ち切りにする。
「よっと」
俺は弁当を片付けると、時計台の上を囲んでいる柵を越え、そのまま下に飛び降りる。
「本当お前どういう体してんだ?この時計台そこそこ高さあるぞ。それを飛び降りて足を痛めないどころか着地の音すらしないとか、どこぞの忍者だよ」
「実は俺、特殊工作員の訓練を積んだエージェントなんだよ。秘密を知られてしまったからには貴様を生かしておくわけにはいかないな」
「自分でバラしといて!?てかお前がそれ言うと冗談に聞こえないんだが」
俺とは違い、非常用の梯子を使って下へ降りてきた焔が呆れ半分で冗談を言ってくるので、俺も冗談で返してやる。
そこには先程までのシリアスに包まれた雰囲気はなく普段通りの軽いノリに戻っていた。
そうやって焔と談笑しながら屋上のドアの鍵を開ける。
この屋上は本来立ち入り禁止で鍵か掛かっているのだが、いつも小手先の器用さを利用して鍵を開けて、勝手に上がり込んでいるのだ。
俺達はバレないようにしっかりと鍵を掛けて屋上を後にする。
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あれから数日、秋風さんとは今まで以上に、しかし不自然ではない程度にアプローチを繰り返してみた。
しかし、めぼしい成果は上げられていない。
もっとも秋風さんとはそんなに関わりを持っていたわけでもないので、アプローチの回数自体数えるほどしかできていない。
「こりゃ卒業までにも解決できそうに無いな………分かっていたけど、しろも結構な無理難題を押し付けてくれたな」
一人につき数年、仮に全員の問題を解決できたとしても数十年はかかる計算になる。
そんな時間をかけていたら彼女達は社会人になってしまう。
社会人になった後に問題を解決してもあまり意味はない。
かといって全員同時に取り組むなんて事は出来ないし……
ほとほと困り果てながら電車を降り、寄合荘に向かって足を進める。
因に今は妹ズはおらず、一人での帰宅になる。
普段は一緒に帰っているのだが、今日は二人で買い物に行くとのことだ。
だがら、俺はいつも以上にあれやこれやとプランを考えながら帰っていた。
その為前に秋風さんがいることに気付くのが遅れてしまった。
俺が秋風さんの事に気づいたタイミングで、いきなり黒のハイエースが現れ、秋風さんの前を遮るように急ブレーキをかける。
そして次の瞬間には一斉にドアが開け放たれ、明らかに一般人とは異なる雰囲気を纏った男達が出てきた。
「な、なんですかあなた達は……いや!やめて、離して!だ、誰か─ムグッ!!?」
男達は狼狽えている秋風さんに襲い掛かり、押さえ付ける。
秋風さんは助けを求めて大声で叫ぶが、この辺りはまず人が通ることはない。
そして男達は何らかの薬品を染み込ませているであろう布で秋風さんの意識を奪い、そのまま車に引きずり込み急発進する。
誘拐だ!
その光景を見ていた俺は急いで駆け出すが、秋風さんとの距離が空いていたため、すぐに逃げられてしまう。
秋風さんの問題を解決するとか言っておきながら、秋風さんのトラウマである事件から護ることすら出来なかった。
俺は奥歯が欠けるほど歯を食い縛り、鬼のような形相になって、ある場所へ赴く。
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目を覚ますと見知らぬ場所にいた。
何でこんなところに居るんだろう……何だか頭がボーとします。
「お、こいつ気が付いたみたいだぜ」
側で知らない男の声がして、慌ててが首を上げ辺りを見ると、数人の男達が私を囲うようにたむろしていました。
そうだ!私この男達に無理矢理押さえつけられて……
自分がどのような状況に置かれいるか分かった瞬間に全身から血の気が引いていきます。
私は誘拐されたんだ!!
「あ、あなた達こんなことしてただで済むと思ってるんですか!これは犯罪ですよ!」
過去に誘拐され、犯されそうになった時の恐怖で歯が噛み合わず、ガチガチと音を鳴らしてしまいす。
でも、こんな時は弱気になってはいけない。
私は気丈に振る舞いこの場を切り抜けようと試みます。
「はっ、お前、秋風グループの会長の娘だろ。お前の身柄が欲しいって奴等がいるんだよ。そいつらにお前を引き渡せば、後は金をもらって高飛びよ」
「しかも生きてさえいれば傷物でも構わねえときた」
「体つきは貧相だが、顔は悪くねえ。それなりに楽しめそうだ」
男達の言葉を聞いてその意味を理解した瞬間、私の思考は真っ白に染まります。
ビリビリビリリリ
硬直した私の耳に布が破れる音が響きます。
恐る恐る目線を下に落とすと、私の制服がビリビリに引き裂かれて下着が露になっていました。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!やめてえええええ!!!」
脳が拒んでいた事実を突き付けられて、私は恐怖のままに大声で叫び、壊れたように暴れまわる。
「アアうるせぇ!やっぱ口は塞いどけ」
「んんんんん!!!ふぐぅぅぅぅぅ!!!!」
口の中に破かれた制服を詰め込まれ、声が出せなくても構わず叫び続ける。
だが、男達にはもうどうでもいいようで、私の下着さえも引き千切られ、私は涙を流し一層激しく暴れる。
もう自分の体を痛め付けようが構わなかった。
「いってぇなこのクソガキ」
バンっと左頬に衝撃が走り、視界が一瞬暗転する。
私に蹴られた男が本気で私のことを殴ったのだ。
頬がじんじんと痛み、鼻からは鼻血が流れる。
口の中も切ったようで湿っぽくなっていく。
「ふぐぅぅぅ、ふぐぅぅぅぅぅ!!!!」
「まだ暴れるか!もおいいクスリ持ってこい」
私はもう理屈など関係なく暴れた。
気が狂った様に暴れる私に流石に手こずったのか、一人の男が怪しげな注射器を持ち出す。
(誰か、誰でも良いから助けて下さい!神様お願いします!!)
私は頭の中で必死に祈った。
かつての時のように誰かが助けてくれることを藁にもすがる思いで祈ることしか出来なかった。
そして私の腕にクスリが打たれる瞬間──
「なあお前ら。か弱い女の子を無理矢理誘拐した挙げ句、クスリ使って犯そうとするとか恥ずかしくないのか」
明らかに男達の仲間ではない者が男達を蔑む声が聞こえる。
涙で視界がボヤけて目視では誰かわからないが、その声の主は私のよく知っている人のものだ。
(漆嶋君……)
普段の声よりも凄味があるが、離れとはいえ同じ寄合荘に住んでいるのだ、聞き間違えるわけがない。
「ちっ、おいコイツの口塞げ」
リーダー格の男が命じると他の男が鉄パイプを振り回しながら漆嶋君に近付く。
「カッコつけて助けに来たのか知らねぇが相手が悪かったな、俺達は殺しの依頼なんかも受けてるんだ。ひと一人殺すことなんざ何の躊躇もねえ」
「あっそ」
男は嘲るように恐ろしい事を言うが、漆嶋君は興味なさそうに答える。
「死ねやオラぁッ!」
次の瞬間、男の怒声と共にフルスイングされた鉄パイプが漆嶋君の頭を捉え、コギャッと鈍い音が辺りに響く。
「んん!!んんんん!!!」
あんな攻撃を喰らって無事なわけがない。私は自分の事など忘れて漆嶋君の無事を願う。
「なっ!ぐがっ?!」
しかし、私の予想とは裏腹に、漆嶋君の声は聞こえず、鉄パイプを振るった男の潰れた声が聞こえてくる。
え?と思い、漆嶋君の方を見ると、男が辺りの廃材を巻き込みながら勢い良く吹き飛部のが見えた。
その際に私の近くに飛んできた鉄パイプは有り得ない形に歪んでいた。
「な、なんだコイツ!?」
「落ち着け、ただの痩せ我慢だ。それに、こんだけ人数がいるんだからビビる必要はねえよ」
リーダーの男は明らかに動揺する仲間を勇め、懐からナイフを取り出す
そして漆嶋君を刺し殺そうと走り出す。
対して漆嶋君は普段と変わらない足取りでこちらに近づいてくる。
「オラぁぁぁぁ!!」
男が漆嶋君を刺殺しようとするが、漆嶋君はナイフに向かって無造作に拳を繰り上げる。
「ごばっ!」
バリンと何かが砕ける音の次に男が漏らす苦悶の声が聞こえてくる。
漆嶋君は下から振り上げた拳でナイフを叩き折り、そのまま男の顎をかち上げたのだ。
男は優に2メートルは上に飛ばされ、落下してきたところで回し蹴りを鳩尾に叩き込まれる。
「ぐぼぁっ」
男は吐血し、初めの男と同様数メートルは吹き飛び、何度もバウンドしてようやく止まる。
「な、なんなんだよお前!」
「お、俺たちのバックには
死んだように動かなくなったリーダー格の男を見て、すっかり及び腰の男達が吠える。
最近日本に進出してきた中国のマフィアでよく日本の暴力団といさかいを起こしてる過激な集団だ。
日本の警察も手を焼いている、そんな存在をちらつかされて私は青褪める。
ほぅ、そりゃいいこと聞かせてもらったのう。黑幇の連中にはウチの島で好き勝手やられとって目障りやったところや、おどれらが知っとる黑幇の情報、全て吐いてもらおやないか」
不意にドスの効いた声が割り込んでくる。
気が付けば、いつの間にか辺りを黒のスーツを着て、日本刀や拳銃で武装した集団が囲んでいた。
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秋風さんを拐った集団は辺りを囲む黒スーツの集団に戦意を挫かれ、抵抗することなく秋風さんを解放した。
「ゴメン、こんなことになる前に助けられなくて……」
俺は秋風さんに謝りながら、そっと学ランを差し出す。
秋風さんはそれを見て自分がどういう姿なのかを思いだし、俺の学ランを受け取って真っ赤になりながら体を隠す。
「あの……怪我してませんか?」
秋風さんは体を隠すと、自分ではなく、俺の心配をしてきた。
普通ならそんなことに気が回らないだろうに。
「別に怪我なんてしてないよ」
「でも、殴られたところ、赤くなって……」
秋風さんは今にも泣きそうな表情になって、少し赤くなっている部分を見つめる。
「別に大したことはないよ。こんなの怪我のうちにも入らない」
久し振りに暴れたので、少し赤くなってしまったが、俺は鉄パイプで殴られたくらいじゃ痛くも痒くもない。
孤児院で散々殴られまくったせいか、俺の体は常人の何百倍も丈夫に出来ているのだ。
「
俺は秋風さんをあやしつつ、黒スーツの集団のリーダーの男、
「そうですね、足をコンクリで固めた状態で海に潜ってもらうか、山奥で眠ってもらうのが無難かと」
「……殺すのはなしだ。ただし、生まれてきた事を後悔する程の生き地獄を一生味会わせろ」
「へい、わかりやした。おい、お前ら話は聞いたな。そいつら連れていけ」
鶴ヶ久保は俺の言葉に手を膝について少し体を丸めた体勢で聞いてから部下に命令する。
秋風さんを拐った連中は鶴ヶ久保の部下たちの乗ってきた黒塗りの車のトランクに詰められる。
アイツらが今後どうなるかは分からないが、少なくとも地獄を味わうのだけは確定している。
「あ、あの漆嶋君、その人たちって鬼龍組の……」
「あぁ、まあちょっとした知り合いでな」
秋風さんはコイツ等の着けているバッチに刻まれた代門を見てコイツ等が何者かを理解したようだ。
コイツ等は鬼龍組の構成員。
鬼龍組とは関東一帯を支配し、日本の裏社会を牛耳る日本第2の暴力団組織だ。
「何で漆嶋君がヤクザなんかと……」
まぁ普段の俺のイメージからはヤクザに関わってるなんて思わないよな。
もっともそう見えるように振る舞っているのだし当たり前だが。
俺が焔に言った言葉、あれはあながち冗談ではないの。
俺は体の丈夫さだけでなく腕力も桁外れなので本当に軍隊やEND、警察からスカウトされたりしている。
そのせいで裏社会にはかなり名が通っているのだ。
まぁ、実際は葵の親父の会社を潰したことでマークされたり、邪魔な組織を潰したりしていたら勝手に広まったりしてしまったのだけなのだが……
秋風さんにはその辺りの事情をちゃんと説明する。
出来れば隠しておきたかった秘密なのだが、秋風さんならバラすこともないだろうし、ここは隠さず話した方がいい。
「鶴ヶ久保、獅童さんに勝手に組員連れ出してすまねぇって伝えといてくれ。この埋め合わせはいつかするとも」
「そんなことを言わねえで下せぇ、貸し借りで言えばワシらの方が猛さんに借りがあるんですから」
今回は誘拐犯の背後にデカい組織がいると踏んで無理を言って組員を連れてきたのだ。
普通ならそれなりの返礼をしなければならないのだが、鶴ヶ久保は俺の礼をやんわり断る。
対面を気にするヤクザとは考えられない反応だ。
まぁ、2割くらいは打算を含んでいるのだが。
俺はそれ以上は言わず秋風さんの側に寄り添う座る。
「猛さん、いきなり女物の下着買ってこいとか勘弁してくださいよ。こんな成りなもんでお上呼ばれるところでしたよ」
しばらくすると新しいヤクザが女性用の下着が入ったレジ袋を下げてやってくる。
「悪かったな、貸しってことでいいか?」
「へ?いや、そんなことで猛さんから貸しにできませんよ!」
「まぁ、受け取っとけ。今さっき断られたばっかだしな」
そんなやり取りをしつつ、そのヤクザが買ってきた女性用の下着を秋風さんに渡す。
「家まで送ります」
秋風さんが下着を着け終わったあとに鶴ヶ久保が車を回してきたので、二人でその車に乗り込む。
「嬢ちゃん、すまんかったのう。ワシら島やのにあんな奴等に勝手させちまって怖い目に会わせてもうた。ほんまにすまんかった」
沈黙に支配される車内で鶴ヶ久保が口を開く。
それは真剣な謝罪だった。
俺の知り合いってところも大きいだろうが、コイツらは現代には珍しい義理人情を第一とする本来の任侠だ。
だからこそ自分達の治める島で起きた裏社会の問題を恥じているのろう。
それ以降は誰も喋ることもなく、再び車内に重苦しい空気が満ちる。
それはまるで今回の事件の重さを表しているかのようだった
次回はようやくエロ回です!