紅葉ちゃん!誘拐されたって聞いたけど大丈夫!?」
行為が終わり、二人で抱き締め合って体温を感じていたタイミングでしろが駆け込んでくる。
「ま、真白さん!」
お互いに裸だったため、紅葉は慌てて体をシーツで隠すが、しろはそれを引っ剥がして、紅葉な身体中を異常がないか調べ始める。
「良かった……どこも怪我してないみたいだね天神祭」
しろは紅葉に何の怪我もないことが分かると、涙を流しながら彼女に抱き付く。
「真白さん、痛いですよ」
「良かった……本当に良かったよ~。私、気が気じゃなくて……」
しろはエグエグと嗚咽を漏らしながら、紅葉の無事を喜ぶ。
しろにとって紅葉は家族のようなものだ。
そして、俺達は家族の身に起こる事に関して人一倍敏感に反応してしまう。
「心配してくれてありがとうございます」
紅葉は落ち着いた声で感謝を述べながら、しろの背中を擦る。
それでもしろはなかなか泣き止まなかった。
それだけ心配していたのだろう。
「確かに拐われましたけど、猛君のお陰で何事もなかったですから」
「猛お兄ちゃんが紅葉ちゃんを助けてくれたの?」
「あぁ」
「そっか……猛お兄ちゃんが助けてくれたんなら平気だね」
しろは俺の名前が出たことで多少落ち着きを取り戻した。
やはり、しろにとって俺は絶対的な信頼を置く存在なのだろう。
しろは安堵の表情を浮かべるが、それも一瞬で、今度は目をカッと見開き、紅葉の肩をミシミシと音が鳴るくらい強く掴む。
「それは良かったんだけど紅葉ちゃん。1つだけ聞いて良いかな?」
しろは満面の笑みを浮かべているが、その目は完全に据わっていた。
「な、なんでしょう」
「確か紅葉ちゃんてさ、寄合荘で不純異性交遊なんて許さないって言ってたよね?」
「そ、そ、そ、そうでしたっけ?」
紅葉は黒いオーラを出しながら髪の毛を不自然に揺らめかせているしろの迫力に気圧され明後日の方向を向く。
しかし、
「そうです。そのせいで私たち、せっかく猛お兄ちゃんと再会出来たっていうのに抱いてもらうことも出来ず毎日枕を涙で濡らしてたんですよ」
視線を逸らした先にはしろと同じく同じく黒のオーラを出して髪を揺らめかせている紫織がいた。
紅葉はもう顔面蒼白で、冷や汗をダラダラと流して怯えだす。
「なのに、なんで、紅葉ちゃんの方が先に猛お兄ちゃんとエッチしてるのかな~?不思議だよね」
「わ、私は猛君とエッチなんてしてません」
「ほほう?それじゃあこの状況はどう説明するのかな?」
目を泳がせ、何とか誤魔化そうとするが、お互いに裸で同じベッドに寝てたというだけで状況証拠として十分すぎるだろう。
しかも、紅葉の膣から俺の精液がコポリと溢れてくる。
「この状況でもまだ猛お兄ちゃんとエッチしてなかったて言い張るのかな?」
視線だけで人を殺せそうなしろの眼光に射貫かれて、紅葉は気の毒なくらいガタガタと震えている。
その姿はまるで地獄で閻魔に罪状を突きつけられ、判決を待っている罪人のようだった。
「ねえ、紅葉ちゃん。紅葉ちゃんが私たちを差し置いて猛お兄ちゃんとエッチしたんだから……私たちが猛お兄ちゃんとエッチしてもなんの問題もないよね?」
首を縦に振る以外は認めないという口調で脅しをかけられ、紅葉はコクコクと頷く。
ここで嫌と言えるわけもないし、言ったとしたら色んな意味で首が飛ぶ。
「猛お兄ちゃん!!紅葉ちゃんからも許可もらったし、次は私達を抱いて!!」
恐怖で怯える紅葉とは対照的に二人は良い笑顔になり、俺に抱きついてくる。
二人の好意は嬉しいのだが、その前に気になることがあった。
「あー、その前に結衣の相手しないと何かしてきそうだ」
しろ達にはまだ紅葉が誘拐されたことは話していない。
それなのにしろ達が紅葉が誘拐されたことを知っているってことは、まず間違いなく結衣→妹ズ→しろ達とチクリが入ったのだろう。
このタイミングで結衣がチクリを入れる理由は1つしか考えられない。
要はヤキモチを妬いたのだろう。
「さっすが~猛君、よくわかってる♥もしここでこれ以上私を差し置いて他の子の相手するとか言ったら……全力で邪魔するつもりだったんだよね♪」
案の定というか、耳元で結衣の拗ねた声が聞こえる。
テレパシーではなく、直接耳から聞こえてきたので、後ろを振り返ってみれば結衣が膨れた顔でこちらを見つめていた。
「きゃっ!!?」
そして俺以外は結衣の姿を見て悲鳴を上げ、腰を抜かす。
無理もない。
何故なら結衣は今、俺の耳元で首から上だけ、しかも逆さまの状態で宙に浮いているのだから。
「あっ、いけない。この子たちには教えてなかったんだ……まぁ猛君の女になるならバレてもいいか」
神様であることをバラしていなかった結衣は少し困った顔をするが、すぐにいつもの様子に戻る。
そして、その場でとんぼ返りを打ち、全身を出して床に着地する。
「え?黒神さんだよね……いったいどうなってるの?」
「そ、黒神結衣ですよ~実は私は神様やってたりするんだよね~よろしく♪」
結衣が状況の飲み込めていない三人に軽い感じで言うが、それだけでは理解できていないようなので、俺がちゃんと順を追って説明してやる。
「黒神さんが悪神の最高神?」
「そうだよ~」
しろ達の信じられないというような眼差しに、ちゃっかりと俺の膝の上に座っている結衣が間延びした声で肯定する。
しろ達は半信半疑だが、先程の光景を思い出したのか、壁際まで後退る。
「アハハハ、別に取って食べたりなんかしないよ」
結衣は三人の反応が気に入ったのか上機嫌に笑っている。
「あ、さっきの話の続きしてくれていいよ」
ひとしきり笑った後に自分が乱入したせいで中断された話を続けるように促す。
「あ、えっと……とりあえず、紅葉ちゃんにエッチの許可ももらったし……あっ、そうだ。」
急に話を戻されてしろはたじろぐが、何かを思い出したように紅葉の方を向く。
「紅葉ちゃんはもう猛お兄ちゃんの女なんだよね」
「え!いや、あの、その……はい」
しろにハッキリと言われて紅葉は顔を真っ赤にするが、否定はせず、小さな声で自分が俺の女だと認める。
「なら、紅葉お姉ちゃんは猛お兄ちゃんの家族ってことになりますね」
「か、家族なんて……そんな……」
しろから台詞を引き継いだ紫織の家族という言葉を勘違いしたのか、紅葉はさらに赤くなって俯く。
「そう!紅葉ちゃんは猛お兄ちゃんの立派な妹だよ!」
「へ?」
紅葉は家族と聞いて俺のお嫁さんを想像したのかもしれないが、二人がが言う家族とは、俺を中心とした兄妹の事だ。
「特定の誰かが猛お兄ちゃんのお嫁さんになることは出来ない決まりなの。お嫁さんじゃなくて家族って言えば兄妹しかないじゃない!」
等と暴論を当たり前に言い放つ。
だが、俺の周りではこれが当然なのだ。
実は妹ズが考えた決まりは、孤児院時代にしろ達が考えた取り決めと全く同じだったのだ。
孤児院時代に俺の家族だった女子は全員、俺に恋心を持っていたが、俺は一人しかいないし、家族を悲しませないために全員が仲良く二番になろうという結論に至り、兄妹という形に収まったのだ。
「そう、だったんですか……」
「そ、だから……紅葉ちゃんも猛お兄ちゃんのことは妹として呼ばなきゃダメだよ」
「え?」
「だから、お兄ちゃんって呼ばないと」
「そ、そんな、恥ずかしいです……」
「だめだめ!ほら、頑張って」
「お、おおおおお、お兄……お兄ちゃ……」
紅葉は顔を真っ赤に染めながら何度もお兄ちゃんと言おうとするが、相当恥ずかしいようで最後まで言えない。
しかも、俺と目があってしまったため、壊れたスピーカーのようになってしまう。
「お、おに、お兄……兄……兄さま……」
最終的にボフンと煙を上げつつも俺の事を兄さまと呼ぶ。
育ちの良い紅葉らしい呼び方だ。
俺は軽く笑みをこぼしながら、紅葉の頭を撫でてやる。
「皆さん、意地悪です」
名前の通り椛みたいに顔を真っ赤にした紅葉は、少しだけ唇を尖らせ、膨れた表情をする。
それでも、皆の愛情を感じているのか、すぐに笑みを浮かべた。
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「兄さま、起きてらっしゃいますか?」
翌朝、俺は用事があって出かける準備をしていると、紅葉が別館の俺達の部屋までやって来た。
「どうしたんだ?」
「あの、よろしければ……一緒にお食事でもと思いまして……」
「久し振りに家族で一緒に御飯を食べたくなっちゃって」
「昨日の内に紅葉お姉ちゃんと相談してたの」
来客は紅葉だけでなく、しろと紫織も一緒だった。
いくら紅葉が俺に心を開いたとしても他の住人が俺に心を開いてなければ俺は本館に行くことは出来ない。
だから、わざわざ別館まで足を運んできたわけだ。
「良かったら食べていただけませんか?」
紅葉は手に持っていバスケットを少し持ち上げる。
中には今朝早起きして作ったであろうサンドイッチがはいっていた。
「そうだな……出かける用事があるから、長くは一緒できないけど、歓迎するよ」
そう言って俺は紅葉達を部屋の中に招き入れる。
紅葉と紫織は礼儀正しくお邪魔しますと言ってから入るが、しろはテンションが上がっているようで、靴を脱ぎ捨ててさっさと奥の方へ行ってしまう。
「兄さま……お出かけとはもしかして」
「ああ、鬼龍組の獅堂さんに会ってくる」
賢い紅葉は俺の外出の理由を察したようなので、俺は素直に答える。
5代目鬼龍組組長であり鬼獅子と呼ばれる極道で、今時のヤクザには珍しく義理人情に厚く、強きを挫き弱きを助けるを志す任侠だ。
「そ、紅葉を襲った連中から黑幇の情報を聞き出してる頃だろ。事によっちゃまた襲ってくる可能性もあるからな」
「すみません、私のために……」
「気にしなくて良いよ」
紅葉がすまなそうにするので、俺は安心させるように肩を叩く。
「そうだよ。家族なんだから、変な気遣いとかしなくて良いの」
「お前はもう少し気を使え」
「あう」
ちゃっかり話を聞いていたしろにチョップをかましつつ、紅葉からバスケットを受けとる。
「美味しそうな匂いがする!」
「黒神さん」
サンドイッチの匂いに釣られたのか、奥でゲームをやっていた結衣がトテトテと駆けてくる。
最近結衣は自分の部屋にいるより俺の部屋にいる方が多いのだ。
「待て!勝ち逃げするつもりか」
結衣がいるので、勿論桜も俺の部屋に入り浸っている。
「だってあんた弱いんだもん」
「何を!?」
「はいはい、喧嘩するな。それより紅葉が朝食を作ってくれたんで、皆で食べよう」
恒例の喧嘩を始めようとする二人を宥めて、俺は自分の席につく。
当然のように結衣は俺の膝の上に座り、桜は俺の右に座る。
左は誰とも決まっていないのだが、今回は紅葉に座らせた。
「ここにいる子全員、猛君の女なんだね~ハーレムの感想は?」
結衣がご機嫌にからかってくるが、俺は無視を決め込む。
だが、結衣の言う通り、ここにいるのは全員がこんなダメな俺に付いてきてくると決めた女達だ。
その事に感謝は尽きない。
「あの……お二人は良かったんですか?」
「何がですか?」
紅葉は対面に座る妹ズに話しかける。
「いくら取り決めがあるとはいえ、私が兄さまと関係を持ってしまって」
紅葉はいわば後から出来た女だ。
それなに、みんな嫌がることもなく、本当の家族のように迎え入れている。
約束があっても、やはり感情的には思わない訳がないと紅葉は考えているのだ。
「そんなこと構いませんよ。だってお兄ちゃんですから、止めても絶対に惚れる人は出てきます。だったら全員平等に愛してもらえれれば良いじゃないですか」
一番になりたいという気持ちが無いといったら嘘になるが、自分が選ばれて他の娘が悲しむくらいならハーレムで全員愛してもらえば良いと翠は言いきる。
「私は本来ならお兄さまのお側に置いて頂くことすら出来ない立場です。そんな私がお兄さまに対して言えることなどありません」
「葵……そんな考え方はしなくて良いんだぞ」
翠とは対照的に自虐を含んだ言い方の葵に慰めの言葉をかける。
葵は俺達を苦しめた男の娘だ。
だからといって直接何かした訳じゃない。
だから、そこまで気負うことはないのだが、そう割り切ることは難しいようで、何あれば自分を卑下してしまう。
「俺は葵が側にいてくれて嬉しいし、大切な家族だと思っているぞ」
俺は葵の側に近付くと、そっとキスをする。
喪中ということで最近は控えていたが、これが一番気持ちを伝えられる。
「お兄さま……ありがとうございます」
キスで俺の思いが伝わったのか、葵は少し暗い表情を明るくして微笑む。
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家族で楽しく朝食を取った後、俺は町の中心から少し離れた人気の少ない山の麓辺りに佇む巨大な屋敷の正門の前まで来ていた。
「なんじゃワレェ!」
正門の側に立っていた強面の男が俺を威圧するように近付いてくる。
「獅堂さんはいるか?居るなら話したいことがある」
「てめぇ、ウチの者じゃねえな。どこぞの馬の骨が組長に何のようじゃ!」
強面の男はピリピリした様子で怒鳴り付けてくる。
まあ、俺の顔を知らないならば
もしくは、鉄砲玉と思ったのか。
「どうした?騒がしじゃないか」
すると中から俺より少し年下の男が騒ぎを鬼気付けで出てくる。
「坊っちゃん!こいつが組長に会わせろって言ってきやがって──」
「とごのどいつだ――っと!?猛さん、お久し振りです」
若い男の方は顔馴染みだったので、すぐに俺だと分かり頭を下げてくる。
「空御か、久し振りだな」
その男は
「なっ、た、猛!?じゃあこいつが漆嶋猛さんですか!?」
「ああ、そうだ」
「っ!すいません!この落とし前は自分だけで勘弁してください!!」
初めに突っ掛かって来た男も俺の名前を聞いたとたん青くなり頭を地面に付ける。
「別に気にしてないさ、俺なんかのために指詰める事もない。ところで獅堂さんはここにいるか?」
今にも指を切り落としそうな勢いのヤクザを宥めつつ、本来の目的の獅堂さんの行方を聞く。
「じいちゃんなら幹部会で本部に行ってて今はいません。帰ってくるのは夜ぐらいになると思いますよ」
「なら悪いけどここで待たせてもらえるか?」
俺が本部に出向いたら、必要以上の接待をされるので、ここで待たせてもらうことにする。
「良かったら一局付き合ってもらえませんか?」
当然のように俺と一緒に待合室で獅堂さんの帰りを待っていた空御が将棋盤を引っ張り出してそんなことを言ってくる。
空御は昔から相談事があると将棋を指したがる。
「暇だし良いぞ」
別話を聞いてやるくらいはしてやってもいいので、俺は空御の対面に座り駒を並べる。
「もうすぐ親父さんの命日だな」
「ええ、そうですね」
空御の悩みの内容はおおよそ検討がついている。
空御の親父さんは去年抗争で命を落としているのだが、空御は元々ヤクザの世界を毛嫌いしていて家を飛び出しほとんど母方の実家で暮らしていた。
しかし、親父さんが撃たれてからこちらに戻ってきているのだ。
「ヤクザの世界でやっていくことに決めたのか?」
「……まだ、決心がついてません。半端にこの世界に足突っ込んでる感じです」
「獅堂さんはそれに関して何て言ってるんだ?」
「そんな半端な気持ちじゃこの世界は生きていけねえ、精々早死にするのが落ちだって言われてます」
空御はその通りですよね、と乾いた笑いと共に駒を動かす。
「何で毛嫌いしていたヤクザの世界に足を踏み入れたんだ?」
「親父とはあんまり会ったことはないんですけど、俺がヤクザの事をバカにしたとき、親父に激怒されましてね……その後この世界のこと話してる親父の姿が忘れられなくて」
「それで?」
「親父が死んでからどうしても親父の見ていた世界が見たくなって」
「本当にそれだけの理由か?」
それも理由の1つだろうが、一番の理由ではないことはこいつの性格を考えれば分かる。
俺も駒を動かしながら踏み込んだ話をしていく。
「流石猛さんですね、全部お見通しですか。一番の理由は……俺は親不孝な男です、親父のことを家族とも思ってなかった。それに親父が死んでから気付いたんです。だから、せめてこれからでも親父を安心させる生き方をしたい、そう思いましてね」
自分の知らない所で親父が火の粉が降りかからないように守ってくれていたことに気がついた。
たがら、今からでも親父を安心させられる生き方をしたい。
そう言う空御に俺は自分を重ねる。
「俺の父さんが最近殉職したのは知ってるか?」
「ええ。惜しい方でした」
「それで俺はどう考えていると思う?」
「え?」
「俺もこっちの世界に半端に足突っ込んでる身だ。状況は少し違うが、俺は父さんに対して親不孝で安心させれない生き方をしていると思うか?」
あの人は刑事だ、俺がヤクザと関係を持っている事を快く思っていないだろうか?
「答えはNOだ。俺はあの人に面と向かって話せない生き方をしているつもりはない」
あの人が豪快だったてのもあるだろうが、俺がヤクザと関わっている事を知っても笑っていただけだ。
俺が翠や葵と同時に関係を持っても気にしてなかった。
『お前が間違ってないと思って選択してるならそれで良いんだ』
これが父さんが俺を子供に迎え入れてくれたときにいった言葉だ。
この言葉が俺の芯になっている。
例えどれだけ世間から受け入れられない行為をしていても、俺は後悔する気はない。
「別にヤクザじゃなくたって良い、堅気だって構わない。ようはお前が親父さんに面と向かって向き合える生き方をすれば親父さんは安心できるんじゃないか?」
空御は駒を打つ手を止め俺の言葉に聞き入っていた。
「ま、これはあくまで俺の意見だ。参考になったか?」
「はい、ありがとうございます」
「最後に1つだけ良いですか?どうすれば親父に面と向かえる生き方だと言えますか?」
「それはお前で考えて答えを出すしかない。俺が言えるのはここまでだ。──ほい王手」
最後の質問だけは流すように答え、話は終わりだと空御の玉将を刈り取る。
逃げ道はない詰みの状態だ。
「これで32連敗か、猛さんには一向に勝てる気がしないな」
空御も砕けた態度になり負けたことを悔しがる。
その顔は将棋を指す前と比べて少しだけ憑き物が落ちた表情になっていた。