艦むすびの宿~北上さまとの温泉旅行~【完結】 作:T・G・ヤセンスキー
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ほい提督、あ~ん」
「あ、あ~む……」
あの後、俺たち二人は改めて外に出て離れの周囲を散策した。大岩壁をバックに写真を撮ったり庭園の小道を手を繋いで歩いて回ったりしながらのんびりとした時間を過ごす。
時折、互いの手の平の感触を確かめるかのように繋いだ手に力を込め、その度ににぎにぎと相手の手を握り返す。ただそれだけの事で、悪友とひそひそ内緒の悪巧みをする子供のように心が弾んだ。
特撮ヒーローの変身ポーズみたいなふざけた格好や変顔写真を撮りあったり、近くにいた中居さんにお願いしてツーショットの写真を撮ってもらったり。……我ながら浮わついているというか、はしゃいでるなあと思う。後悔はしていないが。
北上は終始上機嫌で、部屋に戻ってからも繰り返しデジカメの画面で何枚ものツーショットの写真を見返しては、にまにまと嬉しそうな笑みを浮かべている。あまりにもストレートな喜びように、こっちが照れ臭くなるくらいだ。
部屋に戻ってからは、二人並んでソファーに座ってまったりくつろぎながらお茶と茶菓子を楽しんでいた。……ちなみに茶は俺が淹れた。
何が楽しいのか、北上はさっきから部屋に用意されていたお茶菓子を俺の口に「あ~ん」と差し出しては食べさせることを繰り返している。
「ほら提督、もひとつ、あ~ん」
「あー……いやすまん、これくらいで勘弁してくれ。晩飯前に腹一杯になっちまう」
「えー」
少し不満げではあるが、流石に北上もそれ以上餌付けを無理強いしようとはしなかった。指を引っ込めて自分の口に饅頭の欠片をぽいと放り込み、むぐむぐと可愛らしく口を動かす。飲み込んでぺろりと唇を舐めた後、ぐいーんと首を反らして壁の時計に目を向けた。
「晩ごはんまでっていうと……あと一時間くらいだっけ?」
「そんなもんだな。どうする? 先にいっぺん風呂入っとくか?」
「うーん、それもいいけど……」
ソファーの背もたれに寄りかかったまま、伸ばした脚をぱたぱたさせて、んー、と北上は天井に目を向け考え込んだ。
「ここで一緒にお風呂入ったら……提督、絶対エッチな事してくるだろうしなぁ……」
「そこ心配すんの? いやいや、お前……」
「しないって言い切れる?」
一瞬だけ考え、即座に首を振る。
「……無理だな、絶対襲いかかる。ぐちゃぐちゃに犯すわ、断言できる」
「なんで自信満々なのさ……あと発言がケダモノ過ぎるよ……」
北上がやや引き気味に呆れながら顔を赤らめ、ジト目で俺の事を睨んでくる。そんな表情も可愛い。
「……うん」
ひとつ頷くと、北上はそれまでぱたぱたさせていた両脚を床に下ろして腰を浮かせた。
スカートの下で素肌とタイツの間に指を差し込み、するすると膝近くまでずり下げる。黒いタイツの下から皮を剥いた果実のように生足が覗き、光沢を帯びたようにさえ見えるすべすべの太ももの肌の白さが俺の目を灼いた。思わずゴクリと唾を飲み込む。
「随分と積極的だな……よし」
「ストーップ! 待って待って、違うから! 落ち着いて提督、どうどう!」
冗談のつもりだったのだが、半ば本気で焦った表情になる北上。……そこまで盛りがついた状態だと思われてるんだろうか。……ちょっぴり傷つくぞ。
「だって急に目つきがギラギラして、鼻息も荒くなってたし……」
「返す言葉もございません……」
……靴下とかタイツとかストッキングとか目の前で脱がれるのって、なんでこんなにドキッとするんだろうな。ある意味下着姿になられる以上に「くる」ものがある。
「よっ、と……」
警戒するようにこちらを睨んでから、タイツを脱ぎ捨てて足元に落とした北上は、膝を揃えてソファに座り直し、自分の太ももを手のひらでぺちぺちと叩く。
「ほれ、提督、おいでー」
……これはあれか。あの伝説の膝枕というやつか。
「……人の太ももを聖剣とかラスボスみたいに言わないでよ」
いかんいかん。心の中の呟きが思わず口の外に漏れてたらしい。
ソファーの上で仰向けに寝そべりながら、ずりずりと身をよじって体勢を変え、後ろに体重をかけていく。後頭部を北上の膝の上にのせ、位置を調整するために何度か身じろぎすると、髪の毛や後頭部の感触がくすぐったかったのか、北上が小さく「んっ」と声を立てた。
「……今の声、ちょっとエロかった」
「ばか」
膝の上から北上の顔を見上げると、ぺちんとおでこを叩かれた。大人しくしとこうと反省しながら身体の位置と姿勢を調整してゆっくり目を閉じる。
「おお……」
俺の後頭部を幸せな感触が支えている。柔らかくはあっても頭が沈み込むことはなく、まさに理想の弾力と温もり。タイツを脱いだばかりの北上の太ももはしっとりとしていたが、汗臭さや不快感は全くなかった。むしろ奇妙に心が安らぐ香りがした。
「お客さん、枕の具合はどうですかー」
「この太ももに永住したい……」
「住むの!?」
心底驚いたような顔で大げさに北上がツッコんだ。顔を見合わせ、一瞬遅れて二人でぷっと吹き出す。笑い合いながらどさくさに紛れて北上の太ももをすりすりと撫で回すが、内ももに手を差し込もうとしたところで、ぺちんと手の甲をはたかれた。
「もーっ、提督ってば! ほんっとスケベだよねー。この変態。ケダモノ。性欲の権化。じきに食事の準備で中居さんたち来ちゃうんだから、おいたしないの!」
「むう……」
母親のような口調で叱られる。渋々仰向けの体勢に戻って目を閉じるが、よほど俺が情けない顔をしていたのだろう。北上はやれやれといった風にため息をついた後、俺の頭を抱き抱えるようにして顔を寄せた。俺の耳元で小さく囁く。
「今夜はずーっと二人っきりなんだから…………そーゆーのは、後でゆっくり……ね?」
……本気で襲いかかるところだった。
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すんでのところで獣欲を押さえ込むことに成功した俺は、今、北上の膝枕の上でひたすらに甘やかされている。
「旅行前に、片付けられる仕事は全部片付けとかなきゃって、ここ何日かお仕事大変だったでしょー?」
北上のほっそりとした指が、俺のこめかみから額にかけてをなぞるように動き、髪の毛の中に潜りこむ。手櫛で髪を梳かすように、優しく柔らかく頭を撫でる。
「……良く頑張ったねー、偉い偉い」
普段はいたずら好きな子供のような北上の声が、今日は慈母のような優しさと愛おしみに溢れていて、何だか胸が疼くような甘く切ない気持ちになった。
あふ、とあくび混じりに腹の底に溜まっていた深いため息が俺の口から漏れ、身体がずぶずぶとソファーに沈み込んでいくような感覚が訪れる。風呂桶の栓からお湯が流れ出していくように、溶け出した疲労と一緒に力が抜けていく。
「眠くなっちゃった? ……寝てもいいよー。ちゃんと起こしてあげるから」
耳の穴からとろとろと眠気が優しく流れ込んでくる。北上の匂いに包まれながら、抗う気さえも起こせなくなるほどの甘い声が優しく脳を溶かしていく。
「……ふふ、子供みたいな顔してる……可愛い」
耳元で囁く声が遠く感じる。頬を突っつく指先の感触は夢か現か。
俺はとろけるような安らぎを感じながら、そのまま眠りの中に沈んでいったのだった。
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ぱちりと目を開ける。柔らかな笑顔でこちらの顔を覗き込んでいる北上と目が合った。
「……おっす」
「おっはよー……っていうか、もう夜だけどねー」
暗くなった窓の外を指して北上が笑う。身体を起こすとやけに頭がすっきりしていた。まるで六時間くらい熟睡した後のように、頭や身体の奥に溜まっていたはずの疲労が軽くなっている。……というより、軽くなったことで初めて疲れが溜まっていたことに気づいた、と言うべきか。
「よく寝てたねー。寝顔可愛かったよー。……いやはや、ご馳走さまでした」
「お粗末様でした……いや、なんか久しぶりに熟睡した気分。こちらこそご馳走さまでした」
ソファーの上で向かい合わせに正座して頭を下げ合い、軽口を叩き合う。時計を見ると、三十分か四十分くらい寝ていたようだ。
「北上印の膝枕、感触と温もりを完全再現……これは売れる」
「誰が買うのさ……」
「俺が全部買い占める」
「意味無いじゃん!」
呆れながらも北上はどこか嬉しそうな表情だ。
「他の誰にも譲ってたまるかよ。……お前の全部、俺の売約済みなんだからな」
「っ……! ……そーゆーの、ズルい……」
正座した体勢のままもじもじしている北上と視線が絡み合う。俺の左手は、ソファーについた北上の右手の甲の上に重なっていた。振り払おうとすれば簡単に出来る程度の力で北上の右手を上から押さえつける。二人の顔が近づくが北上は身を離そうとはせず、わずかに首を傾かせ、おとがいを上げて目を閉じた。
「……ん……っ……」
唇が触れ合った瞬間北上はぴくりと肩を揺らし、睫毛を震わせた。何度重ねても飽きることが無い、信じられない程柔らかい唇の感触。いきなり舌を差し込んだりはせず、唇の感触を確かめ合うように、ついばむようなキスを何度も繰り返す。
「……んむ……んっ……あ……」
北上の眉根には小さく切なげな皺が寄り、左手が制止しようとするかのように俺の胸に押し当てられた。押し退けられるかとも思ったが、細い指がきゅっと俺の服の襟元の布地を掴み、小柄な身体がふるっ、と震える。
唇を離すと、ぷぁ、と北上が息をついて肩を上下させた。半開きになった唇は唾液で艶々と光り、とろんとした瞳は熱っぽく潤んでいる。
軽く開いた唇にもう一度キスしようとして────
プルルルルルル!
いきなり室内に鳴り響いた音に、ビックゥ!と二人して肩を跳ね上げる。振り返ると、そこには無粋な電子音を響かせながら小さくランプを明滅させる壁掛けの内線電話機の姿があった。食事の準備が出来たことを報せる連絡だろう。
俺たちは顔を見合わせ、申し合わせたようにクッションをひっ掴むと、むがーっ、と叫びながら力いっぱいぶん投げた。クッションは二つとも受話器には当たらず、ぼふんっ、と間抜けな音を立てて壁に跳ね返り、畳の上に落ちたのだった。
※本格的にエロくなり始めるのは次回あたりから
※ケッコン済み北上さまにはバブみを感じる