艦むすびの宿~北上さまとの温泉旅行~【完結】 作:T・G・ヤセンスキー
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露天風呂に併設されているシャワーで改めて身体や髪を洗った後、俺たちはひとまず客室に戻ることにした。
さすがにあの状態から本格的に事に及べば、北上が完全にのぼせてしまうか風邪を引いてしまうおそれがあったからだ。
髪を乾かすために洗面所に北上が行っている間に、俺は備え付けの紺の浴衣に着替え、風呂に入る前から敷いてあった布団の上に座りこむ。
行灯を模したモダンな室内灯以外には敢えて照明を点けず、壁一面の窓から見える大きな月を眺めながら、冷蔵庫から出したばかりの瓶ビールで手酌酒と洒落込む。
「……あーっ、提督ずるい、自分ばっか!」
「おう、お前も一杯やるか?」
「飲む―!」
俺とお揃いの浴衣に着替えてきた北上が目の前にぺたんと女の子座りで座り、持ってきた新しいグラスを差し出してきた。風呂から上がる時には少し足元がふらついていたが、既にすっかり体力は回復したようだ。
昼間の私服姿も新鮮で良かったが、旅館の浴衣の上に丹前を羽織った今の姿も黒髪の北上には良く似合っていた。裾から覗く真っ白なふくらはぎが月明かりに映える。
「──ほれ、飲め飲め」
「あんがとー。……っとっとっと」
ふくらはぎに向いた視線を引き剥がし、北上のグラスにビールをついでやる。自分のグラスにもビールをつぎ足した。
「乾杯」
「乾杯!」
軽くグラスを合わせて乾杯する。
北上は豪快にグラスをあおり、んくっ、んくっ、とひと息にビールを飲み干す。
「ぷっはぁ! ……ん~~~! この一杯のために生きてるよねぇ!」
「その言い方、完全におっさんだな……」
「おっさんってゆーかさ、今あたし、隼鷹さんみたいじゃなかった?」
「確かに似てたな」
「つまりは隼鷹さんもおっさん、と」
「こらこら」
笑いながら北上のグラスにお代わりを注いでやる。
「ん、ありがとね」
北上が笑顔で礼を言い、グラスを両手で持って、今度はちびちびと飲み始める。
浴衣姿の北上がグラスに口をつけるたびに、ストレートの黒髪がさらりと揺れる。
風呂から上がってポニーテールもほどいた長い黒髪は、いつも海風にさらされているとは思えない程に艶やかで、月明かりの下、青みさえ帯びて輝いていた。
普段は悪戯好きでさばさばした性格の方が目に付きやすい北上だが、こうやって髪をおろして静かに座っていると、どこぞのお嬢様と言われても信じてしまいそうだ。改めて、こいつって美少女だよなあと実感させられる。
同時に、その美少女が自分の恋人であり、その身も心も自分だけのものなのだと考えると、この上ない幸福感と充足感が沸き上がってくる。
「なーに、どしたの提督?」
「ああ、いや。ビール美味いなー、幸せだなー、お前可愛いなーって、ぼーっとしてた」
「何それー」
くすくす笑う北上に向けて何気なく手を伸ばし、指で髪をくしけずってみる。思った通り、さらさらと指通りのいい黒髪の感触が心地いい。
「……ん」
くすぐったそうに肩をすくめるが、北上は逃れようとはしなかった。
普段はなかなか撫でさせてくれない猫が珍しく懐いてすり寄ってくれたようなイメージを抱きながら、しばらく指に伝わる感触を楽しむ。
と、不意に北上が下を向いて、くっくっと喉の奥で笑い出した。
「……なんだ?」
「いやー、さっきの提督思い出してさー。なんてゆーか……ノリノリだったなーって」
「ぶ、おま……今それ言うか? お前だって、けっこう雰囲気出してたろうが!」
思わずむせかけ、顔が熱くなる。
いや、確かにさっきの風呂での言葉責めとか、普段の自分のキャラにない事をやっちまったなという自覚はある。
サドっ気のある黒い雰囲気というか、今から冷静に考えれば痛いキャラというか。
ああいう羞恥プレイというのは、終わってから自分で思い返すと恥ずかしくなるものだ。
それを当の相手から指摘されたりするとなおさらに。
「いやいや~、結構さまになってたよー? あたしも新鮮だったしさ~」
にやにやしている北上の顔を見ないで済むようにグラスに残った酒を飲み干し、お代わりをつぐ。
北上が笑いながら立て膝で隣に移動してきた。
俺の肩に背中を預けるように三角座りでもたれかかってくる。
黒髪が肩に触れ、シャンプーと石鹸の甘い香りが鼻先をくすぐった。
しばらくそのまま時間が流れる。
「……んで、さ」
ぽつりと北上の声が耳に届き、そちらに目をやった。
俺の肩にもたれかかるように体育座りしている北上の姿は、こちらの視界からは後頭部しか映らない。
「……その、さっきはさ。何て言うか、その、あたしばっか、気持ち良くなっちゃってた、訳じゃない?」
前後に揺れるようにして俺の肩に背中をぶつけながら、言葉を選ぶように、北上がたどたどしく呟く。
「だから、さ。……お返し、した方がいいのかなーって言うか。お返し、してあげたいな―って言うか……」
雲が通り過ぎたのか、部屋に差し込む月明かりが急に明るさを増し、北上の後ろ姿をくっきりと照らし出す。
その耳が──月明かりでも判るくらい、真っ赤になっていた。
「……あぁ、もう! 可愛いなぁお前こん畜生!」
「きゃっ!?」
自分自身でも、俺ちょろいなぁとは思いながら。
それでも我慢しきれず、俺は北上を抱き寄せていた。
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「ん……はむっ、んちゅ……んく……」
暖房の聞いた部屋の中、室内にはかすかに湿り気を帯びた空気が漂っている。
月明かりの差し込む布団の上で、俺たち二人は浴衣姿のまま、飽きることなく口づけを繰り返していた。
鼻で深く呼吸し、互いの匂いを吸い込みながら唇を重ねる。絡ませた舌を名残惜しそうに離し、交換した唾液を飲み干してはまた唇を重ね合わせる。
それはまるで、身体の外側も内側も、残さず相手の色に染まろうとするような、余さず自分の色に染めようとするような、どこか懸命さを感じさせる睦み合いだった。
北上がのしかかるように俺に体重を預けてくる。二人の身体が重なったまま布団の上にごろりと転がった。俺が仰向けに寝そべり、北上がその上に覆い被さる体勢だ。
重さはほとんど気にならない。
むしろ北上の体温と柔らかくくねる身体の感触が安らぎと心地よさを与えてくれる。
「……提督、動かないでじっとしててね」
俺の頬を両手で挟むように手を添え、真上から顔を寄せてきた北上の舌が、混ざり合った唾液と一緒に口中に差し込まれた。柔らかな舌肉の感触がぬめりに満ちて口の中を這い回る。
衣擦れの音と、ふっ、ふっというお互いの細かい息遣いの音。舌と唇が立てる濡れた音が時折その中に混じる。
北上が唇を離し、ゆっくりと身体を起こした。少し暑くなってきたのか、羽織っていた丹前を脱ぎ捨てて、布団の脇に落とす。
俺の腰の上にまたがったような状態で軽く息を弾ませながらこちらを見下ろしてくる。
浴衣の裾は乱れ、剥き出しになった白い太ももが月明かりの下で映えていた。
緩んだ帯の下から覗く白い下着は既にじっとりとした湿り気を帯びており、クロッチ部分には卑猥な染みが薄く浮き始めている。
浴衣の前がわずかにはだけて、襟元から鎖骨の窪みと発展途上な膨らみが覗きかけているのが全裸よりもかえってなまめかしい。
月明かりに照らされながら、さらさらと黒髪が流れ、うるんだ瞳の目元はほのかに赤く染まっている。
「……綺麗だ」
思わずそう呟くと北上ははにかんだように笑い、膝立ちの体勢から背中を丸め、俺の顔の横に左手をついた。右手で髪をかき上げながら俺の耳元へ顔を寄せる。
目を閉じ、ちゅ、ちゅ、と俺の頬やこめかみにキスの雨を降らせ、耳たぶを唇ではむ、と咥える。
「う……」
不意討ちのくすぐったさに思わず声が漏れた。北上は笑みを浮かべ、そのまま汗の浮いた俺の首筋に薄い舌を這わせていく。
北上の背中に回そうと腕を伸ばすが、北上は身体を起こすと巧みに俺の両手をとらえ、自分の指を俺の指と絡ませた。俗に言う、恋人繋ぎと呼ばれる状態だ。
「……動かないでってば」
俺の手の甲が顔の両横で布団に優しく押し付けられる。
「……今度は、あたしが提督にしてあげる番なんだから」
見上げた目の前で黒髪の少女は笑い、ちろりと唇を舐めた。
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