核の炎に包まれて瓦礫になった街は、少しずつ活気を取り戻しつつあった。
人が集まる街の中心地には、ショッピングセンター、スーパーマーケット、本屋、レストラン、ファーストフード店、ゲームセンター、カラオケボックスなど、昔からやっていたような定番のお店は一通り復活を果たした。
街を離れると、まだまだ瓦礫や荒野ばかりの整備されていない大地が続くが、街の中心地だけは急速に発展し始めていた。
――とある小さな街のゲームセンター
ゲームセンターでゲームをしている一人の男がいる。
年齢は二十代半ばぐらい、顔はぽっちゃりした丸顔でメガネをしている。髪はサラサラのセンター分け、体はだらしなくお腹がぽっこりと出ている、全体的に小太りな感じだ。
その男は、大きな六角形の形をしたゲーム機の前にある椅子に一人で腰かけ、銀色のメダルを投入している。
ゲーム機は各面がガラス張りになっており、そのガラス張りになった所々にメダルを投入する投入口の様な物がある。
そこからメダルを投入して機械の内部に溜まっている大量のメダルを台から落とす仕組みだ。
昔から日本の大きなゲームセンターに行けば大体何処にでも置いてある、よくある定番のメダル落としゲームである。
そのメダル落としゲームをしている男は、大きめのカップのような入れ物にメダルをいっぱい入れて、一枚ずつメダルを投入している。表情はにこやかで、どうやらこの男メダルゲームが好きなようだ。
そこに一人の少年が近づく。年齢は十代半ば、髪はぼさぼさで、長く伸びた前髪を左側に寄せた感じになっている。
他人から見ればその少年の左目が隠れているように見えるが、少年からは問題なく左目から物が確認できているようだ。
服装は不衛生で、所々破れたり、汚れたりしており、何日も同じ服を着ているかのような風貌である。
「ねーねーお兄さん、メダルくれよ!」
少年がそう言うと、メダルゲームをしている男は少し眉をしかめながら「仕方ないか」という表情で、勿体振りながら少年にメダルを五枚ほど渡した。
「ちぇっ、五枚か! こんなのすぐになくなっちゃうよ」
少年が小声そう言うと、少年は競馬をモチーフにしたメダルゲームの方へ駆けて行った。
メダル落としゲームをしていた男は、イラっとした表情で眉をしかめたままゲームを再開した。
「メダルをあげるんじゃなかった」というのが表情だけで伝わってくる。
先程の少年は競馬をモチーフにしたメダルゲームが好きなようだ。
そのゲーム機は、細長い大きなテーブルを囲むように座席が何席もついており、各席の前に液晶画面がある。
そして、好きな馬の番号を選んでメダルをかけることができる。
テーブルの真ん中には、小さな模型式の競馬場が再現されており、そこを人形の馬が実際に走っているように機械で動かし、ゴールした順に順位付けする仕組みだ。
少年は、五番と六番の馬が一位、二位でゴールすると予想し「5-6」の倍率128倍にメダルを五枚かけた。
一番倍率の低い組み合わせは1.2倍なのだから、この少年がいかに大穴を狙っているのかがよく分かる。
倍率的にいって当たる可能性はかなり低いのだが、この少年には倍率が高ければメダルが大量に出てくるイメージができてしまっているのだろう。
どうせタダで貰ったメダルだし、大穴狙って当たったらラッキーというノリのようだ。
そして、当然ながら結果はハズレ!
一番と四番の馬が一位、二位でゴールし、先程の紹介した一番低い倍率の1.2倍という、一番妥当な結果となった。
「ちぇ、つまんね!」
少年はそう言うと、ゲームセンター内をウロウロと歩き出した。
何か獲物を探しているように辺りを見渡している。
どうやらこの少年、ゲームセンター内にいる大人に声をかけて、お金とかメダルを恵んで貰ってゲームをしているようだ。
一通りゲームをしている人に声をかけて、収穫が全然なかったのか、再度メダルを落とすゲームをしている男の元に戻ってきた。
「ねーねー、またメダルちょーだい」
メダルを落とすゲームをしていた男は、無表情で両手の手のひらを少年に向けて「NO!」という動作をした。
「ちぇっ、ケチ! ちょっとぐらいいいじゃないか!」
少年はそう言って、少し離れた場所にあるメダル落としゲームの方へ移動した。
(よーし、ここなら大丈夫か……)
少年は心の中でそうつぶやくと、辺りを頻繁に警戒し始めた。
そして、店員が辺りにいないのを見計らって、メダル落としゲーム機に自分の体を軽くぶつけた。
「ドン!! チャリーーン」
ゲーム機内に溜まっていたメダルが少し崩れ落ち、ゲーム機の下についているメダル排出口から四枚ほどメダルが出てきた。
少年はそれを見てニヤリとしながらメダルをゲットした。
「ピー! ピー! ピー!」
ゲーム機から突然、警報音がなり出した。
「やっべー! なっちまった」
少年は苦い表情をしながらそう言った。
そして、店員に見つかる前に何処かに逃げて行った。
それを遠くの方で確認していた店員が、警報音がなっているメダル落としゲーム機の前にやってきて「まあいつか……」と、小声でつぶやいた。
どうやらこの少年は常習犯のようだ。
先程のメダル落としゲームをしていた男は、メダルを全部使ってしまったようで、メダルを新たに購入するために、メダル販売機の前に来ていた。
男はその販売機にお金を投入し、また沢山のメダルをカップに補充しようとしている。
「やー、また会ったね。またメダルゲームするの?」
男は突然話しかけられてビクッとし、話しかけてきた人物の方に振り向いた。
すると、さっきメダルをあげた少年が立っていた。
男は先程の教訓から「こいつにはもうメダルをあげない」と決めているかのように眉をしかめて嫌な表情をした。
「そんな嫌な顔するなよー。俺、バッツってんだ。あんた名前は?」
少年はこういうやり取りが慣れているかのように平然としてそう言った。名前はバッツというようだ。
そして、メダルゲームをしていた男は少し考えているような間があり、仕方なく口を開けてこう言った。
「……ケンジロウ」
ケンジロウと名乗った男は、とても嫌そうな顔をしながら仕方なく答えた。
「じゃあ、ケンって呼ぶね! 俺、このゲームセンターにいつも遊びに来てんだ。何でも知ってるから気楽に聞いてよ!」
バッツと名乗った意地汚いマナーの悪い少年が、馴れ馴れしく平然と話しかけてきたので、ケンジロウはとても困惑していた。
「………………」
ケンジロウは沈黙で「なんだこいつは?」という表情をし、無言のまま立っていた。
どうやらケンジロウは余り人と話をするのは得意ではないようで、突然予想だにできない出来事が起こったときに対応ができないようだ。
ましてや、意地汚いマナーの悪い生意気な少年が気やすく呼びかけてくるんだから、困惑しても仕方がない。
ケンジロウにとって、このバッツと名乗った少年と接点を持つメリットがないし、会話をする理由もない。
ケンジロウが沈黙するのも当然である。
「あ! そうそう、紹介してなかった」
バッツと名乗った少年がそう言うと、バッツの後ろから可愛らしい女の子がひょこっと姿を現した。
見た目は小柄で、年齢は十歳から十二歳ぐらいといった感じだ。恥ずかしがり屋なのか、顔は斜め下を向いてモジモジしている。
髪型は、ショートヘアより少し長いぐらいの髪の長さで、おでこ辺りにピンク色のヘアバンドを巻いている。
服装も全体的にピンク色の部分が多く、どうやらこの女の子はピンク色が好きなようだ。
「こいつ、リンたんってんだ! よろしくね!」
バッツがケンジロウに、その恥ずかしがり屋の女の子を紹介すると、女の子はバッツの後ろに隠れながら恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「…………っ」
リンたんと紹介された女の子は、何か喋ろうとしたが緊張して声が出ないような感じで、バッツの後ろから少し斜めに体を出して、ケンジロウに向かって小さくお辞儀だけした。
ケンジロウは、その女の子が自分と似た雰囲気を感じたから好感を持ったのか、見た目が可愛いくて気に入ったからかは分からないが、とても気に入った表情をしている。
ケンジロウは爽やかな笑顔で、カップ山盛りになったメダルをカップごとリンたんにの前に差し出した。
リンたんは、メダルをたくさんくれたケンジロウに対して緊張が解けたのか、突然ぱぁっと表情が明るくなり、最高の笑顔を見せた。
それを横目で見ていたバッツは、何か悪だくみをしているようないやらしい顔をして心の中でこうつぶやいた。
(へへ! 単純なやつだな、ししし)
バッツはケンジロウが差し出したカップ山盛りのメダルを、ケンジロウから奪い取るように受け取ってリンたんに渡すと、ケンジロウをリンたんから離れた場所に連れて来てこう言った。
「あいつも俺と一緒で、このゲームセンターによく遊びに来てるんだ。あいつの親は離婚して母親に引き取られてるんだけど、母親がスナックで夜働いてるから昼間いつも寝てるんだよ。だから、いつもあいつ一人なんだ。お小遣いもろくに貰ってないし可哀想だろぅ?」
バッツは「しめしめ良い金ヅルが見つかったぞ」という顔をしている。
欲望に満ちた、とてもいやらしい表情である。
ケンジロウはバッツの話を興味津々に聞いている。
どうやら「物乞い少年」には興味はないが、「恥ずかしがり屋の可愛いらしい女の子」には興味がありありのようである。
バッツはケンジロウとの話が済むと、先程のリンたんが居た所に戻ってきて、ケンジロウから奪い取った山盛りのメダルを、リンたんと山分けにし出した。
大きなカップにメダルを半分ずつ分配し終わると、バッツとリンたんはそれぞれ好きなメダルゲームで遊びだした。
それを見ていたケンジロウは既にバッツへの憎しみは消えており、リンたんが楽しそうにメダルゲームをしているのを、少し離れた所からニコニコと眺めていた。
ケンジロウは人と会話をするのが苦手なようなので、自分から話しかけるということは一切なく、只々自分のお陰でリンたんが楽しめているという事が幸せという感じである。
メダルゲームに夢中になっているリンたんが自分の近くを通り過ぎたときに、リンたんがニコニコした表情を自分に向けてくれるだけで満足しているようだ。
ケンジロウが満足のいくゲームセンターライフを送っていると、突如十人ぐらいの集団の男達が、ゲームセンターの外を歩いているのが窓越しに見えた。
全員見た目は二十代後半ぐらいで、子供っぽい派手な感じのファッションをしており、実際の年齢よりも大分若ぶっている感じである。
その男達がゲームセンターに入って来た瞬間、ゲームセンター内の空気が変わった。
このゲームセンターに遊びに来ている人達は、彼らがどのような奴らなのかを分かっているようだ。
「でさー、腹減ったから冷凍庫から冷凍うどん出してきて湯沸かして食べたんだよ! やっぱ、真夜中に食べるガドギヂうどんはスペシャルにおいしいわ!」
「まじで? お前がうどんなら俺は焼きそば派!」
「おいおい、真夜中にうどんと焼きそば? 穏やかじゃないねぇ」
「YES! 炭水化物!」
集団の男達が大きな声で楽しそうに会話しながらゲームセンターの中に入って来くると、それに気づいたバッツがケンジロウの傍に近寄ってきてこう言った。
「くそ、DID(ディッド)の連中が来やがった。ケン、あいつらには関わらない方がいいよ。あいつらはろくでもない連中さ」
先程の集団の男達が向かった先には、女の子向けのアイドルをテーマにしたトレーディングカードを取り扱うゲーム『アイハツ!』が置いてあった。
どうやらこの集団の男達はこれが目当てのようで、自分達のファッションもこれにちなんだスタイルにしているようだ。
このゲームセンターに定期的に通って毎回『アイハツ!』というゲーム機を独占しているようで、このゲームがターゲットにしている幼い女の子が、このゲーム機に近寄れるような雰囲気ではなくなっている。
「お、DID(ディッド)! リンたんいるぜ」
アイハツオタクの一人が、その集団のリーダーらしい金髪で赤いバンダナを巻いた男にそう言った。
先程バッツが「DIDの連中」と言ったが、どうやらリーダーの名前がDID(ディッド)というらしい。
そう言われたDIDがゲームセンターを見渡し、リンたんを見つけるなりこう叫んだ。
「リンたーん! おいでーー!! 一緒にアイハツしよう!!」
メダルゲームをしていたリンたんがその男達に気づくと、残ったメダルを置きっぱなしにして、ニコニコしながら小走りで男達の方へ走って行った。
先程のバッツの評価とは違い、リンたんはこの連中と仲が良いようである。
その様子を遠くから見ていたケンジロウ。せっかくのリンたんを、DIDという連中に取られてしまい嫌な顔をしている。
せっかく満喫していた『ゲームセンターライフ』を邪魔者達に邪魔されてしまった……
言葉には出さないが、とても嫉妬をしているのが表情だけで見て取れる。
リンたんがケンジロウの元に戻って来れば、夢の『ゲームセンターライフ』を再開する事ができる。
もはやそれは『リンたんライフ』と言った方が正しいのかもしれない。
果たしてケンジロウは、リンたんとの『リンたんライフ』を取り戻す事ができるのであろうか……
ーーーDID編つづくーーー