にわかの拳 3話 「魔のUFOキャッチャー」
〜DID編〜
アイハツオタクの集団は、リンたんの願望を叶えるためUFOキャッチャーの所までやってきた。
リンたんが指し示したのは、女の子に人気のアニメ『ブリピュア』のキャラクターフィギュアが景品のUFOキャッチャーであった。
このフィギュアは縦長の四角い箱に入っており、UFOキャッチャーのアームで何とか掴めるサイズ。
しかし、この大きさであれば重さも結構あるので、掴んだところでUFOキャッチャーのアームのパワーでは全体を持ち上げられないと予測できる。
この景品は、四本の棒の上に縦長の箱を寝かせるように乗せており、棒の一つ一つは1cmぐらいの細い棒で、棒の間に景品を落とすことができれば景品をゲットできる仕組みだ。
景品が乗っている棒は、同じ間隔の隙間では設置されておらず、一本目と二本目の間と、三本目と四本目の間が狭く、二本目と三本目の間が広い。
つまり、真ん中の棒と棒との広い空間に景品を落とせばいいのだ。
アイハツオタク集団のリーダーDIDは、意気揚々とUFOキャッチャーの前まで来ると、「さっそくやったりますか」という表情でポケットから財布を取り出し、財布の小銭入れに入っている百円玉を四枚取り出した。
(うーん、一プレイ百円だから四回か……この箱に入っているタイプの景品って落とすの難しかったよな。四回では厳しいかもしれない、まぁ後プラス千円ぐらいを使う覚悟をしておくか……)
DIDは心の中で自分にそう言い聞かせると、百円玉をUFOキャッチャーのコイン投入口に入れた。
すると、UFOキャッチャーをプレイしているときに流れるメロディが流れてきた。
(このメロディが聞こえてくると、いかにもUFOキャッチャーしてるって気分になるなぁ)
そんなことを思いながらDIDは真剣なまなざしでUFOキャッチャーの機械の中にある景品をガラス越しで見つめた。
リンたんやDIDの仲間達も、そのガラスの中にポツンと置かれた景品を真剣なまなざしで見つめている。
このUFOキャッチャーは何処のゲームセンターにもよくある定番なタイプで、一つ目のボタンを押している間だけアームが横に動く。
二つ目のボタンは、押している間だけアームが奥に向かって動く。
二つ目のボタンを離すとアームが下に伸びて景品を掴む動きをする。
DIDはみんなが見守る中、慎重に一つ目のボタンを押した。
「よーし、横の位置は景品のど真ん中を狙う!」
DID達が覗き込んでいるガラス側から景品を見ると、縦長の箱を縦に寝かせるように棒の上に置かれている。
「あ、ほんの少し行き過ぎた! しかし、問題なしだ!」
DIDは一つ目のボタンを離すと、次は奥に向かって動く二つ目のボタンを押した。
「これはっちょっと奥を狙ってっと……んー、奥行きがよくわからない、この変か?」
そう言って、DIDが二つ目のボタンを離した。
DIDが狙ったのは、縦長の箱を縦に寝かせて置いてあるので、奥側に近い箱の端っこを狙ったようだ。
アームが箱の端っこめがけて機械の天井から下へと伸びていく。
それをドキドキしながら見つめるDID。
(余り端っこじゃないかも、まぁいいとしよう。さーて、この取り方でこの景品の箱はどういう動きをするんだ)
DIDは心の中でこうつぶやき、最初のプレイで景品の箱がどういう動きをするのか見極めようとしている。
次回からの参考データとするために。
アームが景品に向かってぐんぐんと伸びていく。
そして、アームが景品にぶつかると、アームが景品を掴みにかかった。
(どうだ! どう出る!)
DIDは心の中で自分にプレッシャーをかけていた。できれば少ない回数で景品をゲットし、成功したかっこいい姿を一早くみんなに見せたいのだ。
景品を掴んだアームは景品を少しだけ持ち上げた。
縦長に置かれた箱がアームで掴んだほうだけ少し浮く。
しかし、アームのパワーが弱くて途中で箱がすり抜ける。
(アームのパワーが弱いのは承知の上だ! 問題は、少し浮きあがったパワーがどのような作用をもたらすかだ!!)
DIDは心の中で叫んだ。
みんなが見ている手前、格好悪いことはできないのだ。
リンたんに認めてもらいたい願望と、チームのリーダーとしての誇りがあるのだ。
少し持ち上がった景品がアームからすり抜けて、乗っていた棒に着地する。
果たしてどういう動きをするのだろう、みんながそう思った……すると
「……トス!」
少し浮いた箱が重力によって、乗っていた棒の上に着地をする。
それは本当に小さな動きであり、着地をしたときの音も当然ながら小さく軽い音である。
そして、その小さな動きは『元の定位置に戻る』という動きを選択した。
「は!?」
一回目のプレイで動いた箱の動きを、次からの参考データにしようとしていたDIDに衝撃が走る。
(……おいおい、マジか! 景品の箱はプレイする前とほぼ同じ位置だぞ。俺、超だっせーわ)
その光景を眺めていたリンたんとDIDの仲間達。
「DIDのUFOキャッチャーの腕前はどのようなものか」を期待していた表情が、一回目の挑戦の結果を見て「あれ?」という表情に変化していく。
しかし、その表情の奥には「まぁ、一回目を失敗する事なんて誰にでもある。上手な人でもあり得ることだ」という、誰にでもある失敗を心暖かく受け流している表情とも受け取れる。
(まだ、大丈夫だ! 勝負はこれからだ)
DIDは心の中で自分にそう言い聞かせると、みんなに聞こえるようにこう発した。
「よし! 練習終わり! 久しぶりにしたからちょっと鈍ってるわ。次から本気」
そう言うと、DIDは機械に二枚目の百円玉を投入した。
(……ふぅ、一回目でコツを掴みたいところだったが、完全にミスった。一回目にプレイしたやり方だと、景品の箱は全く動かないというデータしか収集できなかった。くそ、もうこうなったらさっきやったやり方とは全く違う方法で試すしかない。一回目を犠牲にして、二回目で改めてどういう動きをするのかというデータを収集するぞ!)
DIDは心の中で自分にそう言い聞かせると、一つ目のボタンを押した。
(さっきとは全く違うやり方をしなければ……まず、前回は横の動きでほぼ景品の中心を狙った。次はわざとずらして片方のアームの元に戻るパワーを利用しよう。アームが天井から下に降りてくるとき、アームが景品を掴みにかかるので左右に大きく開く。その片方のアームが開いた状態のギリギリの所に景品がくるようにすれば、それだけ元に戻るパワーが強いから景品の動きも大きいはずだ)
DIDは自分なりに攻略法を頭の中で考え、ギリギリ景品が片方のアームが引っかかる位置にアームを操作した。
「よし、きた! 狙い通り!」
周りで見ていた仲間達は、横の位置が景品の中心よりも大分過ぎた位置に止まったので「え、大丈夫?」みたいな表情をしていたが、DIDの発言でそれが計算しているものだとわかると、「なるほど」という落ち着いた表情に変わった。
(二番目の動きで、中心よりもちょっと過ぎた辺りを狙おう)
DIDは心の中でそうつぶやくと、奥に移動するアームの動きで、景品の中心の位置から一番奥までの位置との丁度中間になる辺りに狙いを定めたようだ。
DIDが二つ目のボタンを押す前に、UFOキャッチャーの横に移動して、ガラス越しに距離感を確認する。正面から見ていると、アームが奥にどれだけ動いているのか把握しずらいのだ。実際の距離感を目に焼き付けて間隔を掴もうとしている。
(よし、間隔は掴めた。これでうまくいけば景品の箱は斜めに傾くはず……八〇度ぐらい横に傾いたら景品は落ちそうだが、まだ二回目だしそんなにうまくはいかないだろう。十度ぐらい景品が傾いてくれれば良しとしよう。後は地道にずらしていく手段に移れる)
DIDが気合を入れて二つ目のボタンを押す。
「距離感はもう把握済みだ」という心の余裕が表情に表れている。
アームが奥に向かって動き出した。
そして、DIDの狙っている位置辺りにアームが止まる。
「よし! この位置だ」
DIDは狙っていた位置にアームがうまいこと止まったので、「これはいいぞ!」とテンションが高鳴った。
そして、二つ目のボタンを離し、アームが天井から景品めがけて降りて行く。
左右に一本ずつあるアームが左右に開きながら降りていき、DIDの思惑通り片方のアームが景品のギリギリの位置をとらえた。
(アームの元に戻る反動を最大限に利用し、景品を動かす!)
アームは掴む動作に移った。
景品に接していないもう片方のアームはゆっくりと掴む動作をし、開いた状態から閉じた状態になってきている。
そして、問題の景品に接しているアームも開いた状態から閉じた状態に戻ろうとしている…………かのように見えた。
「……え!?」
DIDは絶句した。景品に接しているアームは、景品にほぼ何の動きももたらさずに、景品の箱の表面をなぞるように上に上がっていき、箱の表面をなぞり終わると、もう片方のアームと同じように閉じた状態の位置に戻ったのだ。
何事もなかったかのように……
「いやいやいや、アームのパワー弱すぎでしょ! 弱いってレベルじゃない! 全くやる気がないというか、そもそも掴もうとしていない!」
DIDはついつい感情をむき出しに愚痴を発してしまった。
みんなの前で「本気出す」と言ってしまった以上、結果を出さなければならないプレッシャーがあったのだが、余りにも思い通りにいかな過ぎてついつい感情的になってしまったのだ。
それを見ていたリンたんとDIDの仲間達は、クスクスと笑っている。
DIDが失敗したからというよりは、アームのパワーの無さにみんなが納得し、DIDの感情むき出しに発した言葉に共感ができたからだ。
DIDは一回目よりもひどい結果になり、かなりの衝撃を受けている。
自分なりに作戦を練り、それを実行した。そして思い通り事は進んだはずだった。
しかし、想像を遥かに越える事態に気づいてしまった。
そもそもこの『機械のアーム』は全くやる気がなかったのだ。
(『機械のアーム』って聞くと力強いイメージが湧くけど、今動かした『機械のアーム』は、『アーム』という呼び名にふさわしくない。この『アーム』と呼んでいる部分の素材は、先端の引っかける爪の部分だけアルミのような金属でできていて、後のほとんどの部分は安っぽいプラスティックでできている。よく見れば材質も、見た目も力強い印象はない。つまり、これを『アーム』と呼んでしまっているから『パワー』を期待をしてしまうのだ)
DIDは考えた。なぜこのような結果になってしまったのかを真剣に考えた。
そして、一つの結論に達した。
(……これは『アーム』ではなく『やる気のないプラスティック』という呼び名がふさわしい)
結論に達したDIDは、すぐさま行動に移した。
(そもそもこのゲーム自体がこういうものなのだ! このゲームで格好をつける必要などない! リンたんが欲しがっている景品がいかに早く手に入るかが最優先だ!)
「リキヤ! この千円札を二枚、両替機で百円玉に両替してきてくれ。後、エネルギーGも頼む、急ぎで!」
DIDは仲間の一人に千円札二枚の両替をお願いし、残りの手持ち二百円ですぐさまリベンジに挑むことにした。
(よし! スピード勝負だ!)
DIDは機械に三枚目の百円玉を投入し、一回目と二回目で行った慎重に考えてプレイするやり方を止め、スピーディーなプレイで勝負をかけた。
(横の位置は、真ん中手前ぐらい。奥の位置は箱の一番手前辺り)
『やる気のないプラスティック』が横の真ん中手前で止まり、奥の位置は手前に止まる。
そして、箱めがけて下がり始めたが箱が乗っている棒に当たってしまい、箱を掴むことなく空を切る。
「っくそ! つぎだ!」
四枚目の百円玉を投入。
(横の位置は真ん中手前ぐらい。奥の位置は手前過ぎない辺り)
『やる気のないプラスティック』が横の真ん中手前で止まり、奥の位置は手前よりちょっと進んだ所に止まる。そして、景品めがけて下がり始めると、箱を少し浮かして少しだけ箱が斜めに傾く。
「ほんの少し傾いたけどダメだ! つぎ! あ、百円玉もうないわ!」
そのセリフをDIDが発するぐらいのタイミングで、先程両替を頼んだ仲間が駆け足で戻ってきた。
そしてDIDに、百円玉を十八枚と、エネルギーG、そしてそのお釣りを渡す。
そして、DIDはエネルギーGをさっそくその場で飲み始めた。
「エネルギーがみなぎってきたぞ!」
DIDは元気よくそう言うと、すぐ様プレイを再開した。
五枚目の百円玉を投入。
(横の位置は真ん中過ぎたぐらい。奥の位置は真ん中に近い手前辺り)
『やる気のないプラスティック』が横の真ん中過ぎで止まり、奥の位置は真ん中の手前辺りで止まる。そして、景品めがけて下がり始めると、箱を少し浮かし、先程傾いた箱が逆に傾いて最初の位置に戻る。
「マジか! つぎ!」
この頃にはもうすでに仲間の大半が飽きてきており、ほとんどがその辺のUFOキャッチャーや他のゲームで遊びだした。リンたんは暇そうに「まだ?」みたいな、ちょっと不機嫌な感じで見守っている。
六枚目の百円玉を投入。
横の位置は中心、奥の位置は一番奥の方を狙う。
『やる気のないプラスティック』が思い通りにうまく動き、今までで一番景品を持ち上げることに成功。しかし、着地した景品は少し左に傾いただけで着地する。
「一番動いた! けど、ダメ! つぎ!」
七枚目の百円玉を投入。
横の位置は中心からちょい過ぎ、奥の位置は一番奥の方を狙う。
『やる気のないプラスティック』が景品を掴みに行くが、先程と同様で少し高めに持ち上がるものの、傾いたのか動いたのかも分らないほど微妙な結果で着地をする。
「つぎだ!」
八枚目の百円玉を投入。
結果は、景品が奥に少し移動。
「つぎ!」
九枚目の百円玉を投入。
結果は、景品が手前に少し移動。
「つぎ」
十枚目の百円玉を投入。
結果は、景品が右に少し傾く。
「……つぎ」
十一枚目の百円玉を投入。
結果は、全く動かず。
「…………つぎ」
十二枚目の百円玉を投入。
結果は、奥に少しずれる。
「…………っ」
十三枚目の百円玉を投入。
結果は、箱の表面をすべる。
「………………」
十四枚目の百円玉を投入。
結果は、箱が少し持ち上がるが同じ所に着地。
(……え!? ダメじゃん)
ーーーDID編つづくーーー