※この作品はR-18です。

にわかの拳   作:moxmox

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にわかの拳 4話 「にわかの者」

にわかの拳 4話 「にわかの者」

〜DID編〜

 

 アイハツオタク軍団のリーダーDID(ディッド)は、リンたんの物欲に応えるべく、UFOキャッチャーで景品を取ろうとしている。

 リンたんのお目当はブリピュアのフィギュアである。しかし、この景品を取るのに苦戦をしていた。

 

 一四回目のチャレンジによって、全く取れる気配のない状況にDIDは危機感を感じていた。

 

(……やっベー、俺『にわか』じゃん)

 

 DIDは心の中でそうつぶやいた。

 

 そして、先程まで発してきた言葉が全て恥ずかしくなってきていた。いかにもUFOキャッチャーが得意で、すぐにでも景品がゲットできそうなセリフを発していたからだ。それで、実際は『ヘタ』というのであれば、紛れもない『にわか』である。

 

 そんなDIDを眺めていたリンたんは、退屈でつまらないという表情をしている。その表情を感じ取るDID。

 

(やっべ、リンたん退屈そうだわ。早くなんとかしないと……」

 

 心の中でそう言うと、一五枚目の百円玉を手に持って、UFOキャッチャーの機械に投入しようとした。すると、何かの視線を感じた。

 

(……え、ん? リンたんが俺を見ている? いや、にらんでいる?……う、うう……リンたんの視線が痛い。……リンたんが俺に疑いの目を向けている)

 

 リンたんはDIDを疑惑の目でにらみつけていた。それは表情だけで「その一五枚目の百円玉で景品取れるんですか?」と訴えかけているようである。

 その圧力にDIDは耐えられなくなり、突如言葉を発した。

 

「……う、イタタタタタタ! お腹痛い。ちょっとトイレ行ってくるわ!」

 

 DIDはそう言うと、そそくさとトイレの方へ向かった。リンたんの圧力から逃げるように…。

 

 

 

 その様子を少し離れたところから見ていたDIDの仲間達。リンたんとDIDのやり取りを見ていたが「とても自分達が出る幕ではないな」と、遠くから見守るしかできていなかった。

 

「おい、DIDの奴トイレの方へ行ったぞ」

 

「何やら穏やかじゃないねー」

 

「やっベーな、リンたんフリーだ」

 

「リンたんが疎かになってるねー」

 

「どうする? 俺達はリンたんをうまく取り扱えない。只でさえ取り扱えないのに、今の不機嫌なリンたんを満足させられる技術なんてないぞ」

 

「見守るしかないのか……」

 

「DIDが帰ってくるのを待とう。トイレで用を済ませたらすぐに帰ってくるだろう」

 

「……果たしてリンたんはどのぐらい待ってくれるのだろう……かといって、DIDの代わりに誰かがUFOキャッチャーをしたとしても、同じ結果になる可能性は高い。そして、そいつはリンたんの疑惑の目線で精神が崩壊させられるという覚悟が必要だ。俺ではまず耐えられない」

 

「リンたんを取り扱えるのはDIDだけだ! DIDの帰りを待とう!」

 

 DID以外の仲間達は会話が終わると、リンたんとの一定の距離を保ち、何かしているフリをしながらリンたんを横目で見て様子を伺う事にした。

 

 

 

 一方トイレに行ったDIDは、トイレで用もたさずに、一人で洗面器の前で顔を洗っていた。

 

「………ふぅ………ふぅ………くそ! どうすりゃいいんだ! ……このままUFOキャッチャーをやって景品が取れるのか? ……リンたんはすぐ欲しいから……取れという目線を送ってきた…………あーー、もうダメだ。………やべーなこの状況……はぁ……ふぅ………ふぅ………」

 

 DIDのメンタルはズタズタになっていた。

 リンたんの疑惑の視線は相当応えたようだ。とても青ざめた血色の悪い表情になっている。

 

 そして、DIDは小声で囁くように自分に言い聞かせた。

 

「……落ち着け……落ち着け、俺。冷静になれ、冷静に……」

 

 DIDが顔を洗うのを一時的に止め、洗面台に手をかけ、もたれ掛かるように体を倒した。

 そして、顔を下斜めに向けて、洗った顔についている水の滴を洗面台に落としながら思考している。

 

 その時、「ガチャッ!」という音と共に、大のトイレのドアが開いた。

 どうやら、DIDは一人と思っていたようだが、トイレの大の方には既に人が入っていたようだ。

 

 それに気づいたDIDは気まずくなって黙り込む。

 一人と思って独り言をつぶやいていたので、それを聞かれたと思ったら恥ずかしくなったのだ。

 

(なんだ、人がいたのか……)

 

 DIDが心の中でそうつぶやくと、トイレの大の方から出てきた男が手を洗うだろうと、洗面台から少し離れた壁側に身を寄せて、男が手を洗うのを待った。

 

 大のトイレから出てきた人物は、小太りでメガネをかけた男で、肌は色白、年齢は20代半ばぐらい……この男は前にも紹介した事がある。

 この男は、ゲームセンターでメダルゲームを楽しんでいたケンジロウと言う名の無口な男であった。

 そのケンジロウの表情はとてもにこやかで、何かに満足した表情をしている。

 それはまるで、快便だったのでスッキリしたのか、リンたんを横取りしたDIDが苦しんでいるので満足しているかのように見える。

 その真相はわからないが、ただ見た感じではとても気分が良いようである。

 

 ケンジロウが手を洗ってトイレから出て行くと、DIDは再び洗面台戻って来て、鏡に映った自分を見ながら自分にアドバイスをし始めた。

 

「リーダーとして、この困難を乗り越えなければならない。どうすりゃいい? 景品がとれればいいんだ。俺が取れないなら誰が取る? 俺よりUFOキャッチャーがうまい奴は仲間に居ただろうか? もしうまい奴がいたら、こんな状況で真っ先にそいつの事が頭に思い浮かんでいただろう」

 

 DIDは濡れた両手で頭をクシャクシャかき回しながら頭の中で考え始めた。

 

(………んーーー、あのUFOキャッチャーがとても難しいという事をリンたんに理解してもらえれば、俺がヘタなのではなく、あのUFOキャッチャーの機械が難しい設定だという事になる? ……ふぅ、という事は…………リンたんにあのUFOキャッチャーをプレイさせてあげて、いかに難しいかを……理解してもらえば……いい?)

 

 DIDは洗面台の鏡の前で下にうつむきながら、口元でニヤリと笑った。「これはいいアイデアが浮かんだ」という表情に見てとれる。

 DIDは小さな声で「ククク」と笑った。

 

 

 

 DIDがそんな状況など何も知らないDIDの仲間達は、リンたんと一定の距離をとってひたすら様子を伺っていた。

 そして、リンたんのイライラが時間の経過と共に増しているのを肌で感じていた。

 

「おいおい、リンたん爆発寸前じゃないか? これ、やばいよな……?」

 

「こいつは穏やかじゃないねぇ、DIDを呼びに行こう。これは限界が近いねぇ」

 

 そう言って、DIDの仲間の二人がトイレの方に向かった。残りの仲間達は引き続きリンたんの様子を伺っている。

 

「あ、DIDがいた! トイレの横の自動販売機でジュースを飲んでるぞ!」

 

「穏やかじゃない状況なのに、DIDは穏やかにジュースを飲んでるんだねぇ」

 

「おい……またエネルギーGだ! おいおい、一体何本栄養ドリンク飲むんだよ。DIDの小便は今どんな色になっているんだ?」

 

「栄養ドリンクを一本飲んでも黄色くなるのに、三本も飲んでしまったら、きっと穏やかな色じゃないだろうねぇ」

 

「100%オレンジジュースみたいな小便だよ、きっと!」

 

 DIDを見つけた仲間の二人は、DIDを見つけるなり、急いで駆け寄り現在のリンたんの状況を伝える事にした。

 

「おい、DID! 何のんきにジュースを飲んでんだよ! リンたん、爆発寸前だぞ!」

 

 DIDは仲間達の報告に耳を傾け、余裕の笑みを浮かべる。

 そして、落ち着いたトーンでこう言った。

 

「OK、OK! 今さぁ、千円札を崩して小銭を作った所だったんだ。自動販売機の方が両替機より近いだろ?」

 

 そう言うと、仲間が続け様にこう言った。

 

「おい、DID……何でそんなに冷静なんだ? トイレに行く前と言った後のお前、全くの別人みたいだぞ……」

 

 仲間にそう言われ、DIDは壁にもたれながらエレルギーGの缶を真上に上げて全て飲み干すと、缶をゴミ箱に捨ててこう言った。

 

「ははは、苦難を乗り越えると人は強くなるのさ。リンたんの対処方法は既に用意できている。さぁ、行こうか」

 

 DIDの落ち着きのある余裕な対応に、仲間の二人は「さすがリーダー」という安堵の表情になっている。

 そして、リンたんの元へ三人で向かった。

 

 

 

 その頃、DIDとDIDを迎えに行った二人以外の仲間達は、ひたすらリンたんの様子を伺っている。

 みんながDIDの早急な帰還を待ち望んでいた。

 

 しかし、リンたんは既に限界点に達していた。欲しいブリピュアのフィギュアも手に入らず、すぐにとってくれそうなセリフだけを言っていた奴は、トイレに行って帰ってこない。

 そして、その仲間達はリンたんをフォローする事なく、一定の距離を保って近寄ろうとしない。

 リンたんの不機嫌さはピークをむかえていた。

 

 リンたんは、残っていたDIDの仲間達に向かって、にらみつけるような視線を送りだした。

 そして、その視線を感じたDIDの仲間達は『ヘビににらまれたカエル』のごとく、恐怖で背筋が凍りつき、その場で固まって動けなくなった。

 まるで、自分は存在しないかのように、息も必要最低限だけし、恐怖が過ぎ去るのをひたすら待っていた。

 リンたんはその光景を見て、さらにイライラとし始めた。

 

 リンたんは早くブリピュアのフィギュアが欲しかった。

 なのに今、誰もそのUFOキャッチャーを動かしてないのだ。

 これではいつまで経っても手に入る訳がない。

 リンたんはゲームセンターをグルリと見渡し始めた。

 自分が欲しいブリピュアのフィギュアを早く手に入れたい。

 それが手に入るなら誰でもいい。

 

 そして、リンたんの視線がある一点で止まった。

 そこにはDIDの姿はない。

 

 様々なゲーム機が置いてある機械と機械の隙間から、リンたんの目に何かが写りこんだようだ。

 その対象物はとても遠くなので、リンたんの目にはとても小さく写っている。

 しかし、リンたんはそれが何なのかがすぐに分かった。

 

 

『メダルがいっぱい入ったカップをくれた気前のいい金づる』

 

 

 そう、ケンジロウであった。

 

 

 リンたんの目に映ったのは、メダルゲームを一人で楽しそうにしているケンジロウであった!

 

 リンたんは、ケンジロウの存在に気づくなり、大きく息を吸い込み口を大きく開けてこう叫んだ!

 

「ケーーーーーーーン!! きてーーーーーーー!!!」

 

 

 

 トイレから帰ってきて、再びメダルゲームを再開していたケンジロウ。

 突然少女の叫び声がし、自分の名前が呼ばれた事に気づく。

 ケンジロウは0.01秒の速度で声が聞こえた方角に振り向くと、眉をしかめて遠くを見ているような動きを始めた。

 どうやらケンジロウは目を細めて遠くを見ようとしているようだ。

 

 ケンジロウはメガネをしているが、曇っているかのように白く汚れており、他人からは彼の目がどんな目をしているのか確認できない程である。

 本人はそれで物が見えているようだが、他人から見れば「それでキチンと物が見えているの?」と思われてそうだ。

 なので、彼の眉間のシワか、眉毛の動きで表情を認識しなければ喜怒哀楽が分かりにくい。

 ただでさえ無口で何を考えているのか分からないキャラなのに、さらにメガネによって表情が制限されてしまい『何を考えているのか分からない感じ』に拍車がかかっている。

 

 そのメガネの汚れのせいなのか、メガネの度があっていないのかはわからないが、ケンジロウはメガネをしてても視力がそれほど良くないようで、遠くにいるリンたんの姿を認識できていないようだ。

 必死に遠くを見ようとはしている。

 

 それでも、少女の声が聞こえた方角に、自分を知っている少女がいるのだけは認識できたようで、ケンジロウはすぐ様カップに入ったメダルをその場において、声が聞こえた方へ駆け足で向かった。

 

 

ーーーDID編つづくーーー

 

 

 

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