※この作品はR-18です。

にわかの拳   作:moxmox

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にわかの拳 7話 「リンたん攻略法」

にわかの拳 7話 「リンたん攻略法」

〜DID編〜

 

 ケンジロウは、UFOキャッチャーを十五回失敗したことによって、DIDの『にわか記録』を更新してしまった。

 DID達には、新しいにわかが誕生した『にわかの王』だと祭り上げられ、リンたんは我慢の限界に達している。

 

 DIDが以前、十四回目のプレイを失敗した時、リンたんはDIDを疑惑の目で睨みつけた。

 それは、「十五回目で取れるんですか?」というリンたんからの圧力であり、DIDはそのプレッシャーに耐えきれず、トイレに逃げてしまった。

 それによって起こった、リンたんを失う悲劇『リンたんロス』。

 このままでは、ケンジロウもリンたんの疑惑の視線に耐えきれず『リンたんロス』になってしまうかもしれない……

 

 

 ケンジロウが十六枚目の百円玉を財布から取り出そうとしている。

 しかし、百円玉はもう全部使ってしまったらしく、財布の小銭入れをかき回しても百円玉が見あたらないようだ。

 

 リンたんはとてもイライラしており、ケンジロウを疑惑の視線で見つめている。

 

「次の百円玉で本当に取れるんですか?」というプレッシャー。

 

 DIDはこの視線に耐えきれず逃げてしまった。

 ケンジロウは、まだそれに気付いていないようだ。

 

 ケンジロウは財布に百円玉がない事に気付くと、以前と同様、千円札を両替しに行く事にしたようだ。

 財布から千円札を取り出して、前回同様リンたんに両替に行ってくるという意味の動作をしようとした。

 

 すると、ケンジロウはリンたんがすごい形相で自分を見ている事に気付く。

 それに気づいたケンジロウは、リンたんの視線を受けて「蛇ににらまれたカエル」の様に膠着し、冷や汗をかいている。

 何でリンたんがイライラしているのか、ケンジロウには理由がよくわかっていないようだ。

 

 ケンジロウは財布からゆっくりと千円札を取り出すと、さらにゆっくりした動作で、リンたんの方へ千円札を掲げて提示した。

 

 『ゆっくり作戦』である。

 

 ケンジロウは、リンたんの気持ちがよくわからないので、前回同様ゆっくり動く作戦にしたようだ。

 

 これは以前、リンたん先生に暗黙の確認を取りながら行動していた、『教習所と生徒のやりとりパターン』である。

 自分が間違った行動をしていないかを教習所の『リンたん先生』に見てもらいながら行動をする手法。

 ケンジロウは、リンたんがイライラしていると、自然とこのパターンが発動するシステムになったみたいだ。

 

 そして、ケンジロウが千円札を財布から取り出し、ゆっくりゆっくりとそれを高々に掲げ、リンたんが見やすい様に提示をした。

 

 リンたんはそれをゆっくりゆっくりと目線で追いかけて、ケンジロウが高々と提示した千円札で目が止まる。

 そして、じっと見つめている。

 リンたんの視線は、千円札に釘付けといった感じだ。

 

 ケンジロウは、軽く眉をしかめた。

 リンたんの予想外な興味津々な反応に「なんだこれは?」と言っているかの様な表情である。

 

 ケンジロウはおもむろに、高々と掲げていた千円札をゆっくりと体の前に差し出す様に動かした。

 腕を体の前にめい一杯に伸ばしたような状態で、千円札はリンたんの目線に見やすく収まる様に、両手でつかんで立てている状態である。

 

 リンたんは、高々と掲げられていた千円札が、高い位置から段々と自分のいる方に下がってきて、リンたんの目線にぴったり収まる様に千円札が止まると、それを夢中で見つめ始めた。

 

 先程までのイライラした表情はどこに行ったのか、リンたんは嘘の様に通常の可愛らしい少女の表情へと変わっていた。

 

 その変化を目の当たりにするケンジロウ。

 ケンジロウは少し顔を斜めにそらしながら、何かを考えている様な素振りをしている。

 頭の上にはハテナマークが付いていそうな雰囲気である。

 

 そして、ケンジロウは千円札を自分の前に掲げたまま、リンたんのいる方へ向かってそろりと一歩足を進めた。

 

 リンたんとの距離はそれ程遠くはない。後数歩で握手ができる距離だ。

 

 ケンジロウが一歩程リンたんに向かって近づくと、リンたんの表情がほんの少しにこやかな表情になった。

 

 その変化に、またもやケンジロウは顔を斜めにして何かを考えているようだ。「先程までのイライラは何だったのだろう?」とでも言っているかのような表情に見える。

 

 そしてケンジロウは、さらなる一歩を踏み出す。

 とてもゆっくりとしたスローペースで、リンたん先生のご機嫌を伺いながら動いている。

 千円札は両手で前に掲げたままである。

 

 リンたん先生は、先程の表情よりもにこやかになっていた。どうやら間違った行動ではなかったようだ。

 

 ケンジロウはそのリンたん先生の変化に安心し、緊張から解放された爽やかな笑顔となった。

 それはまるで、「リンたん先生! これでいいんですね!」とでも言っているかの様である。

 

 ケンジロウは自分が行った行動が間違ってないんだなと確信すると、更なる一歩をそろりそろりと踏み出した。

 この一歩分を進むと、リンたんとはお互いが手を伸ばせば届く距離である。

 

 ケンジロウがリンたんと手を伸ばせば届く距離まで届いた時、ケンジロウはある事に気づく。

 ケンジロウはリンたん先生の表情ばかりを気にしていたのだが、表情以外のパーツがノーマークであった。

 

 リンたんが手を伸ばせば届く距離にケンジロウが到達した時、リンたんがそろりそろりと両手を伸ばしていたのだ。

 

 そのリンたんの小さな両手は、左右均等に伸びてきており、ある物を的確に捉えるかのように軽いアーチ状になっている。

 リンたんの内側にアーチ状になった両腕は、ケンジロウの体の横幅よりも内に向かって伸びてきている。

 ケンジロウの横幅よりも内にある、リンたんがイライラした表情がニコニコした表情に変わる物に、ターゲットが定められているようだ。

 

 そのアーチ状になったリンたんの両腕は機械のように正確に、それに向かって伸びていた……

 

 ケンジロウが掲げている『千円札』に向かって。

 

 

 リンたんのアームは的確にターゲットを捕捉し、小さなアームだが力強く獲物をロックしている。

 雷が落ちても噛みついた物を離さないと言われる、スッポンのような執念のパワーを感じる。

 

 DIDが求めていたUFOキャッチャーの『アームのパワー』がそこにはあった。

 小さな少女の小さなアームではあるが、それは決して、きゃしゃな体のかよわい少女のものではなく、DIDが表現した『やる気のないプラスティック』のような頼りなさもない。

 プロの殺し屋がターゲットに気づかれないように背後から忍び寄り、音も立てずにターゲットの首にある頸動脈を腕で締め上げ抹殺するかのような、獲物を確実に仕留めるパワーである。

 

 

 ケンジロウは、リンたんに千円札をロックオンされると、リンたんの圧力に驚いたかのように「ビクッ」っとなり、そろりと千円札をつかんでいた指を離した。

 

 そして、千円札の自由を奪ったリンたんは、満面の笑みで「わーい」と、はしゃぎながら千円札を持って何処かへと行ってしまった。

 

 プロの殺し屋『リンたん』に、獲物を仕留められたのだから、手の出しようがない。

 

「…………」

 

 ケンジロウが呆然と突っ立っている。何が起こったのかよく理解できていないようだ。

 

 リンたんの姿は消えてしまったが、ケンジロウはもう一枚千円札を財布から取り出し、両替機の方へと向かった。

 

 どうやら、UFOキャッチャーでブリピュアのフィギュアを取る事をまだ諦めていないようだ。

 

 リンたんによってUFOキャッチャーをプレイする羽目になったケンジロウ。

 そのきっかけであるリンたんが居なくなってもプレイをしようとしている。

 

 リンたんが帰ってくるまでにフィギュアをゲットしようと思ったのか、自分のプライドがどうしても景品を取らなければ許さないのかはわからないが、ケンジロウがUFOキャッチャーでブリピュアを取るのをやめる様子は見られない。

 

 

 

 その一連のリンたんとのやり取りを見つめていたDIDと仲間達。

 彼らは、ケンジロウが自ら『にわかの王』となり、自分達を『にわかの呪縛』から解放してくれて、『リンたんロス』からの『リンたんトス』を期待していた。

 

 しかし、ケンジロウは『リンたんロス』を千円札の魔力によって無効にしてしまった。

 

 DID達は既に『リンたんロス』が引き起こされるのは必然だと思い込んでいた。

 そして、ケンジロウによって引き起こされた『リンたんロス』により、我々にリンたんを取り扱える主導権が戻り、リンたんが『リンターン』されると信じていた。

 

「おいおいおいおい! なんだありゃ? お金を直接渡すって援助交際じゃねーか!」

 

 DIDが不満をあらわにしている。ケンジロウのとった行動が気に入らないようだ。

 

「まぉまぁ、落ち着けDID! 穏やかに行こうぜ」

 

 リキヤがDIDをなだめるように話しかける。

 

「あの『にわか野郎』は、リンたんに何らかの見返りを求めたらアウトだぞ! 今の世の中は核で荒れ果て、地域に常駐する警察官は居なくなった。しかし、日本各地の地域を支配する大きな組織が自衛団を配備し治安を守っているんだ! 後、国家は存在し『国家警察』と呼ばれる覆面警察官があちらこちらに潜んでいるんだぞ! あいつの行動はやばすぎる」

 

 DIDの感情的な言葉に仲間達は言葉を失う。

 

「くそ! リンたんはどこかに行っちまったし、『リンターン』はできていない。今まで考えていたプランがパァだ! これからの展開全く予測ができなくなった……くそっ」

 

 DIDの思い描いていたプランは崩れさり、リンたんの主導権は奪えなかった。

 そして、リンたんは何処かへと行ってしまい、『にわかの王』と嘲笑っていたケンジロウはまだUFOキャッチャーをやる気である。

 リンたんは帰ってこないかもしれないし、ケンジロウはUFOキャッチャーをする事を諦めていない。

 リンたんがもし帰ってきても、ケンジロウが主導権を握ったままだ。

 そして、ケンジロウがいつUFOキャッチャーを諦めるのかも予測ができなくなった。

 再度リンたんが疑惑の視線をケンジロウに送ったとしても、再度リンたんに直接お金を渡す可能性もある。

 

 DIDの顔が見る見る怒りと悔しさをあらわにした顔へと変貌を遂げる。

 仲間達は、リーダーであるDIDの動揺や感情的になった雰囲気を感じ取り、何も言えないでいる。

 

 DIDは心に余裕をもって、ケンジロウが失敗するだろうと決め付けて観察をしていた。

 しかし、今はそれが一転し、一気にピンチの状況へと変わってしまった。

 

 

ーーーDID編つづくーーー

 

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