春。
最初から色々あったとは言え、忙しいことに変わりは無い。
ある程度落ち着いて、慣れてきたとは言え……
賑やかなウルザたちがいないのは、やはり心にくるものがある。
ただ、最近はちょっと違ってきた。
子供たちが学園に通いだして、村の雰囲気が少し寂しくなったと感じていたのだが。
最近はルーたちが村で色々と働くのをよく見る。
賑やかになって嬉しい。
うん。
なんだか村の初期の頃を思い出すな。
ただ、それぞれ仕事があって忙しかったと思うのだが……
なくなったのかな?
丁度ルーが居たので、研究はどうしたのか聞いてみた。
「ようやく色々終わったし、今まで好き勝手やらせてもらってたから、これからは村でゆっくりしようと思ってね」
「研究は一旦ストップか?」
「もちろんそっちもやるわよ。ただ、学園の講師たちのレベルが大分下がっちゃったから教育も必要だし、今までみたいに根を詰めてあっちに行く必要もなくなったから、適度に空いた時間は極力こっちにいようかなって」
「おお…、あの研究好きのルーが…。 ルプミリナも喜ぶな」
「あら、ルプミリナだけ?」
「もちろん俺も嬉しい」
「ふふふ。 ……ありがとうね、旦那様」
ルーが嬉しそうに子供たちのところに向かって行った。
ライメイレンと一緒に勉強を教えるようだ。
だから子供たちに人気のハクレンを抑えていてと言われている。
可愛い嫁さんの頼みだ。
聞いてやりたい。
ただ、ハクレンがいなくても、子供たちに大人気の死霊魔導師がいるのだが……
うーむ。
まあ、教師が一人と決まってるわけではないしな。
仲良くやるだろう。
教える人が増えて、子供たちが喜ぶかもしれない。
うん。
あっちはルーたちに任せて、俺はハクレンを探しに行くか。
屋敷にいればいいのだが…。
頼まれた手前、入れ違いになるのも怖いな。
誰か……
おっと、アン発見。
聞いてみるか。
「ハクレン様ですか? 昨日は帰ってくるのが遅かったので、今はまだ寝ているかもしれません」
「そうか、なら後で部屋によるかな」
「伝言でよろしければ、私から伝えますが?」
「あー、そうだな。 起きたら、今日はルーが子供たちの教師をやりたいから代わって欲しいと言っていたと伝えてくれないか」
「分かりました。 それと、こちらからもご主人さまに伝達事項が。 私とハクレン様ですが、以前のように頻繁に仕事に行くことがなくなりましたので、これからは村に常駐出来ます」
「おおっ。 始祖さんから仕事が減るって言われてからも、結構出てたみたいだからなあ。 ポーションの方は大丈夫なのか?」
「はい。 流通もほぼなくなりましたので、私たちが携わることもありませんから、ご心配には及びません」
良かった。
これからは一緒にいられるのか。
それにアンがいると、鬼人族メイドたちももう少し気が抜けるようになるだろう。
何しろアンがいない時は、結構忙しそうにピリピリしてることが多かったからな。
「そういえば始祖さんが最近どうしてるか知ってるか? また、ここしばらく姿が見えなくなってるけど…」
「始祖様でしたら、かなり忙しくされているようです。 私が知っている限りでも、とても人気のようで、まだ村には来られないかと思います」
「そうか…。 身体を壊さないかが少し心配だな。 まだクジラ肉の燻製なんかがあったと思うから、送っておいてくれ」
「はい。 ご主人さまからの差し入れとなれば、始祖様も喜ぶでしょう。 ……元気になればそれだけ仕事も捗るでしょうし」
うん。
その社畜のような扱いはやめてあげて。
身体を壊すと本当に辛いから。
俺のように病院暮らしになるのはちょっとな。
とりあえず聞きたいことは聞けたので、アンにお礼を言って畑に向かうことにする。
牧場エリアでも良かったのだが…。
嬉しいことが聞けたので、テンションがあがってしまった。
畑をもう少し拡張することにする。
何を育てるかだが……
さっきポーションの話が出たから薬草にしようか。
村から薬学の道に進みたいという子が出るかもしれないし、ルーも今後新人教育で使うだろう。
何より、勝手に畑を拡張すると文官娘衆に注意されてしまう。
完全に管理を任せているからなあ。
何事もやりすぎは良くない。
というわけで村の東側、ルーの薬草畑へ。
なるべく景観を壊さないよう、二面ほど耕すことにする。
昔はこれだけでもかなり時間がかかったが、今ではそこまでかからない。
耕すのは今日一日だけのつもりなので、サクッと終わらそう。
急な思いつきだからな。
「あれ、旦那様? 新しい薬草ですか?」
おおっと。
ティアが来た。
ここにティアが来るのは珍しいな。
「ルーさんに頼まれて…」
「もしかして授業で使うのか?」
「ええ。 案の定、ルーさんの人気が無かったので、方針を変えて薬学をメインに教えるようです。それに使う薬草をいくつかと」
「自分で取りに向かうと、数少ない受講者が更に減りそうと考えたのか。 まあ、単純に時間がなくなるからってことかもしれないが」
「まさにそれですね。 ハクレンさんがいないからって油断してたみたいで……。 空回りしないように、私もフォローするつもりです」
「そうか。 ……ん? そう言えばティアは村に居て大丈夫なのか? ガーレット王国での仕事は……」
「ああ、あれですか? 本当はそんなに私が行く必要がありませんでしたから、私の派遣期間は終わったようなものです。 それに、長も手伝ってくれていますのでもう大丈夫です」
「おおっ! ティアもか。 どうやらルーやハクレンたちも村にいられるようになったみたいでな。 それでテンションがあがって、今こうして畑の拡張をしている」
「そうですか。 ……旦那様は私たちが村に居るようになって嬉しいですか?」
おっと、驚きが少ない。
もしかして先に聞いてたのかな?
ああ、質問の答えだな。
嬉しいぞ。
ここ最近で一番嬉しいかもしれない。
「そう、ですか。 ありがとうございます」
いえいえこちらこそだ。
あまり話し込んで遅くなるのも、ルーや子供たちに悪い。
薬草を持っていってやってくれ。
ああ。
俺はまだもう少し拡張するつもりだ。
大丈夫。
確かにテンションが上がってはいるが、加減も知っている。
任せろ。
夜。
見回りに来た鬼人族メイドのおかげで、畑の拡張はある程度で終わらせることが出来た。
任せろと大見得をきってしまった手前、やり過ぎは危なかったからな。
鬼人族メイドの子には感謝だ。
道中、少し話が出来たが、やはりアンが常駐出来るようになると色々と違うらしい。
今回の見回りも、時間が空くメイドが多かったので、ある程度交代で何度か周っていたようだ。
これまでのように急に仕事が入ることがなくなって、事前のスケジュール通りいくようになったのでかなり余裕が出来たとのこと。
事前に言っておくだけで大分違うからな。
俺にも経験がある。
それと、ハクレンは夕食時には起きていたようで、一緒に食事をとることが出来た。
アンの言う通りに、これからはほとんど仕事がなくなるようだ。
そう教えてくれた時のルーたちが、一瞬微妙な顔になったのが気になるが……
ポーションの流通の件だろうか?
まあ、ルーは重病人相手に使っていたからな。
流通が制限されると痛いのかもしれない。
でも、俺にとってはハクレンやアンが居てくれる方が嬉しいので歓迎する。
たまに辛そうにしてたしな。
これでいいはずだ。
それよりもルーの薬学はどうだったのかと聞くと、成功だったと嬉しそうに答えてくれた。
死霊魔導師とライメイレンに生徒の大半をとられてしまったが、薬学に興味のある子が増えて良かったとのこと。
ティアが途中でフローラを引っ張り出してきたようで、なかなか豪華な顔ぶれだったみたいだ。
うーむ。
それでフローラはずっと眠そうだったのかと合点がいったのだが……
昼夜が逆転しているのだから寝かせてあげて欲しい。
ただ、規則正しい生活をとも思ってしまうので何も言えなかった。
すまないフローラ。
そういえばフローラからも、このところ五村につめていたが、そちらはもう大丈夫になったと報告を受けた。
食べ終わると、卵の世話があるのでそれをしてからもう一度寝ますと言っていたな。
卵か……
フェニックスを思い出すな。
産まれたら見せてもらおうか。
などと回想していると深夜だ。
前半戦が終わったので、心の洗濯に向かう。
この頃は二部構成になってしまったので、せめて休憩をと懇願した結果だ。
以前までは、お腹の下あたりにあるお呪いのペイントから白いモヤが出ていたが、それがなくなったあたりでルーたちの攻勢が更に激しくなってしまった。
話し合いの結果、これ以上人数を増やすのは物理的に不可能だろうと、前半後半という形に。
嫌ではない。
嫌ではないが……
もう少し落ち着いてほしくはある。
今年はアルフレートたちが学園に行ったことで、来年再来年と、これからどんどん手元から子供たちが離れていくかもと言われればこれも納得するべきなんだろうが。
うーむ。
まあ、ルーたちが落ち着くまでは付き合うか。
気になっていたモヤのことも、なくなってスッキリしたしな。
よし。
もはや毎日夜は二回開催されることは受け入れてしまっている。
あとはもうなるようになれだ。
……
今は休憩出来ることを喜ぼう。
妻たちの愛を受け止めるのも、夫の勤めだ。
うん。
とりあえず客間に向かうか。
賑やかなマルビットたちが帰ったので、誰もいないかと思うが……
おっ。
ヨウコとセレスがいた。
セレスは……
酒スライムに飲ませているだけだな。
「おお、村長か。 どうした、休憩か?」
「あ、村長、こんばんわ」
「ああ、少し飲もうと思ってな。 というか休憩という言い方はやめてくれ」
「分かった分かった。 ほれ、これでも食べよ。 メイドと一緒にセレスが作ったものよ」
「おおっ、卵焼きか。なかなか上手く出来てるな。 ん、しょっぱい方か」
「甘いほうは難しいからと、今回は醤油味を作りました。 お酒も注ぎますよ」
「おっと、ありがとう。 ……美味いな」
「ふふふ。 ありがとうございます。 自信作です」
うーむ。
美味いが、一人増えてしまったからこれだけでは足りないだろう。
明日に障らない範囲で、何か他のツマミを鬼人族メイドに持ってきてもらおう。
待ってる間は……
丁度良いので、五村のことを聞いてみようか。
「五村のことか……。 ちと人員整理があってバタバタしておるが、すぐ元通り戻るであろう。 何も心配することなどないぞ」
「こちらも信徒たちが結構減りましたけど、却って楽になったというか……。寄進がまだかなり残っているので、それをどう使うか悩んでいる程度です。 最悪、大樹の村に渡そうかと…」
「いらないから。 それならヨウコに渡してあげてくれ」
「ええぇ、村長はすぐにこちらに金を渡そうとしてくるの。 こっちはもう十分だと何度も言っておるであろう」
「そうは言うが、村でも金が有り余っていてな。 使い道が…」
「そこはほれ、文官娘たちに頼んでくれ。 五村はこれ以上の金は不要であるし、セレスは我に渡さずに教会で使うか、コーリン教本部かフーシュにでも泣きつけば良い」
「使い道が思い浮かばなければそうしてみます」
「うむ。 後は……、そうじゃな。 ペットを飼ったくらいか」
おっと、急に話を変えてきた。
まあ、ヨウコにお金の話は本当に嫌がるから仕方ない。
それに、話題のチョイスも上手い。
ペットと言われると聞きたくなってしまう。
「大きいけど、かわいいですよね。 酒スライムには負けますが」
「お主の酒スライム狂いはどうかと思うが…。 まあ、本当は処分するつもりだったが、愛着が湧いてしまってな」
「愛着か…。 まあ、情がうつるともう放せないよな」
「あまり世話もいらんからというのも大きいがな。 セレスもこの後、見に来るかの?」
「おつまみ、食べ過ぎてしまいそうですし、運動するのも良いと思いますけど…」
「うむ。 このおかきは美味いからの」
「あー、すまない。 さっきの量じゃちょっと物足りなくてな。 チョイスが悪かったか」
「構わん構わん。 村長はこの後、二回戦であろ? 体力をつけんとな」
「そういう風に明け透けに言うのは……。 村長、その。 私たちはいつでも大丈夫ですから」
「はははっ。 確かに村長が望むなら、この後でも構わんぞ?」
いやいや。
ははは。
……
すまない。
「ああ、分かっておる。 別に村長を困らせようとは思っておらん。……美味い酒がいかんな、口が軽くなる」
「はい。私も、知っておいてもらえたらと…。また、五村に来た時に」
「うむ、その時を楽しみにしておる。 ……ではセレス、我は行くが、お主はどうする?」
「…そうですね、ご一緒しても良いですか」
「では行くかの。 我の残りの酒はそやつにでもあげてくれ」
「ああ…。 なんだか悪いな」
「いやいや、このような関係もまた一興よ」
「はい。 じゃあ酒スライムのこと、お願いしますね。 おやすみなさい、村長」
うーむ。
最後はちょっと空気がおかしくなってしまったな。
俺も受け入れれば良かったのだが……
この後はルーたちとだからなあ。
珍しくフローラも一緒みたいで、少し憚られてしまった。
……
明日、埋め合わせをしよう。
うん。
おっ、酒スライムはもういいのか?
いつもは俺の分まで狙ってくるというのに。
それでもきっちりとヨウコの分は飲み干してるのは流石だな。
…ふぅ。
さて、そろそろ戻ろうか。
可愛い嫁さんたちが待ってる。
うん。
色々あるけど、充実した毎日だ。
もう少し、のんびりしたくはあるけどなぁ。