航空戦艦 伊勢・日向が、何気なく始めた対空戦の考察。
元もとは、『常識的』な戦いの通用しない深海棲艦を相手とした際、これを攻略するに毎度頭を悩ます、実戦経験の乏しい、戦略・戦術眼などからっきしの提督から助言を乞われて始められたものだった。
戦闘記録を参照して提督向けへとまとめ直し、専門用語でなく『雨天で傘をささねば濡れるのは必然』といったわかりやすい例えなどを意識し、やがて彼から「じゃあ、これはどうだろうか?」と相談されるようになる頃、統率の取れた艦隊運動だけでなく、各艦が個別に回避運動を取る方法などは、即実戦へとする前に演習での試行が求められた。
いくら伊勢と日向が匠な戦闘をこなせる艦娘と言えども、二人だけではこれを行うに難く、両名は千歳や千代田に声を掛け、すぐ後に瑞鳳と瑞鶴、要請を快く承諾した初月に加え、存外に武闘派な皐月や文月も参加して、実戦や試験演習での情報を元に、有効な手立てを模索する対空戦の研究会が発足した。
これは直ちに空母の教官を務める一、二航戦の耳に入り、船団護衛や前線への強行輸送を担う精鋭達も参加表明し、激戦の中盾となって艦隊を守り抜いてきた秋月型と、当時から対空番長と名を馳せ、今では次席嫁艦の摩耶に話がいくと、「どうして最初にあたしに声を掛けないんだ!」と憤慨される。
こうして瞬く間に規模の大きくなった研究会は、摩耶の「まかせろ! 予算ぶん取ってきてやる!」と、データにも注力した戦隊指揮を執れる妹の鳥海を焚きつけた交渉により、使用される装備も資源も潤沢な試験演習や研究を行えるものとなる。
これにて共有される情報は、艦隊全体に対空戦における基本戦術を徹底させる事に繋がり、後に幾度も作戦を成功に導く重要なファクターと言えるほど成長していった。
特に、守らねばならぬものを抱える海上護衛総隊や輸送連合艦隊からは、研修や合宿の要請が尽きることなく、伊勢と日向は出撃している方が楽なのではないか? と感じるほど忙しい日々を送っている。
そしてこの度行われる演習は、対空戦闘の後にそのまま艦隊戦へ移行させる、ついでに連携向上を測るために、海外艦達もそれぞれ同郷艦で編成して、総当たりに演習をする大規模な計画となった。
ところがこの大規模演習、ほぼ全ての艦娘が見学を希望してしまい、平時とは言え任務が滞ってしまう事に頭を抱え始めた提督に先んじて、演習を行う海域の周辺偵察やら掃討やらにかこつけて、なんと大和や武蔵に長門までが別々に、開催期間中の連合艦隊での出撃申請をしてきた。
あっと言う間に灰となり、禿げ散らかしはじめた提督を見て、ケッコン席次四番艦の陸奥が一計を案じて助け舟を出す。
それは、演習の様子を二式大艇やCatalina、陸上偵察機などで撮影・記録させ、その模様を会場に集めた見学希望者に、映像やデータを大スクリーンで表示してリアルタイムに提供してはどうか? といったものだった。
かくして、この大規模演習を実況応援するための会場は、提督が趣味で妖精さん達と要塞化を進めている、母港のある湾口近くにある島にて設営される事が決定した。
伊勢・日向は演習の、陸奥は会場の責任者として島に視察に来たところ、以前ガンビア・ベイのケッコン式のためにアメリ艦や一、二航戦が私費まで投じて建設されたチャペルの他に、いつの間にやら周辺にはホテルやペンションが立ち並び、キャンプ場にコテージ、浜辺は遊泳できるように整えられてしまっており、海を望める岩風呂温泉とガーデンプール、ビーチバレー用コートなどレクリエーション向けにもすっかり様変わりしていた。
張り切った職人妖精さん達が地下要塞建設の息抜きに、何年も前に頓挫した執務室オーシャンビューリゾート計画を、この島にて遂行していたのである。
「これは…」とばかりに何かの匂いを嗅ぎつけた明石は、演習用の装備やデータ記録用機材など、諸々の整備に忙しいにも関わらず、土産品やグッズの制作、那珂ちゃんのステージ企画と、リゾート向けの食事のプロデュースなどをし始めて、あっという間にパンクした。
会場での飲食物の提供は必要だろうと、重い腰をやれやれと持ち上げた大淀がいくつか引き受けた事もあり、図らずもお墨付きを与えたしまった結果、鳳翔さんや間宮・伊良湖に大和等々、現地で出張店を出す者も増える運びとなる。
ついでとばかりに日向が緑の法被を準備しはじめ、長門はビーチバレー大会の開催に本格的に乗り出し、大型艦達が連合艦隊を率いて出撃しまくる危機は去ったものの、一人歩きし始めたこの夏季大規模演習『祭り』は、かなりの出費になるだろうと提督の頭に白髪が増える事になった。
それでも「みんな楽しそうだから」と開催に許可を出した提督は、演習運営、会場設営管理、普段の任務遂行と、大規模作戦でもないのに臨時編成で挑み、自らもこの島に泊まり込みで連日準備に忙殺される。
平時任務の指揮は筆頭嫁艦 榛名に預け、演習の運営は伊勢・日向、自分は会場での観戦の提案者である陸奥と共に、会場準備や周囲その他の監督や視察、会議に打ち合わせにトラブル対応に駆けまわる。
忙しくて目が回るがどこか気分は高揚する、と言った祭り前独特の喧騒の中にいた……。
「陸っちゃ~ん…、今日は後どこ回るのぉ~?」
準備のために島入りしている艦娘達向けに、既に主計科妖精達がテスト販売を始めている、浜辺を望めるフードコートのウッドデッキテラス。
各ウッドパラソルの下にあるテーブル席の1つで、試作マンゴージュースを飲みながら項垂れる様につっぷする提督。
陸奥はこのテラスへ、造りがしっかりした物であるかの確認と視察を兼ねて、05:00から既に5時間仕事に勤しんでいる彼に、水分補給と休憩を促すためにやってきた。
「まだまだ、たぁ…っくさんあるわよぉ~? でも心配いらないわ。明日貴方はお休みだし、19:00には泊ってるホテルに帰してあげられるから」
「やったぁ! 4時間早くアガれる!!」
喜びつつも、頬はテーブルにのぺっと張り付けたままの彼に、折りたためるため持ち運びしやすい扇子で風をやんわりと送りながら、陸奥はファイリングされた資料に目を通す。
夏の日差しにいつもの戦闘装束ではありつつも、上着は羽織らず肩を出している彼女が、ファイルのページをめくりながら脚を組み替える。
だう~んと暑さと連日の忙しさにすっかり垂れ緩みきってる提督だが、向かいでなく横の席に座る彼女の脚の、太ももの魅惑的な動作に、ギランとした目をぬかりなく血走らせる。
「ふふっ、今回はいつもより頑張り屋さんでお姉さん助かるわ。ありがとう」
「だってさぁ~、皆張り切ってるしさ~。一応皆の上官? 責任者? だしさ~」
「そうねぇ~。頑張ってくれているから、私がご褒美いっぱいしてあげたいのだけど、ちょっと気になる所があるのよ」
「いいよー、仕方ないよー。今はちゃんと開催できるように頑張るよぉ。どこ気になんの?」
「概ね会場設営も、周辺環境も何とかなりそうだけど、ここの電力ってどこから来てるの? 地下施設?」
「うん、そうだけど?」
「停電で失敗なんて事避けたいから、発電施設の規模を確認しておきたいのだけど、大丈夫なのかしら? もう、ちょっとした街位になってるわよ?」
「問題ないはずだよ? スタンドアローンで3カ月は…、あ~実際は1カ月位になっちゃうかもだけど、洋上で戦えるように妖精さんに頼んであるから」
「(洋上? スタンドアローン?) ねぇ? ひょっとしてこの島って……」
「動くの?」
「そうだけど? あ、でもまだ実際に動かした事はないよ。完成してないし」
「あっきれたぁ! そんなもの造っていたの?」
「だってカッコイイじゃない? それにほら、俺船酔いするし……」
「船酔いするからって、島ごと動かすの? それに貴方が戦わずに済むように私達頑張ってるのよ?」
「あ~違う違う。これ動かせるようになったら、作戦海域への中継基地にしたいの。皆もここから出撃できれば、色々温存できそうじゃない?」
「ってことは、あのやたら大きな道路が造られてたのって、やっぱり滑走路なのかしら?」
「そうそう! 物資とか空輸できるように準備しておきたいのだ!」
「私達は空で運ばないでね? 苦手っていうか、気が変になるから」
「艦娘の皆って空の移動嫌がるよね。陸路は平気なのに」
「私達は船だもの」
「だいじぶ、だいじぶ! 皆には直で、海路で来てもらうから!」
「でも心配だわ? これが動かせてしまったら、貴方がより危険な海域に向かう事にならないかしら? もう今では強力な敵個体、コトバを発するような知性や感情らしきモノを持ったヒトガタも珍しくないのよ? 私達だって攻略に手一杯になるのに……」
「個体としていくら強力でも、なまじ知性や感情っぽい、記憶や知識のようなモノを獲得してしまったらからこそ、付け入る隙はいくらでもある」
陸奥はその似合わぬ彼の言葉に、ハッっと目を見開き顔を見つめ返した。
「……って榛名が言ってたよ?」
付け加えたような語尾に、陸奥は努めて表情を和らげる。
(気を使わせてしまったかしら? 夢に潜れてしまう事の影響? どこまでがウソなの?)
「でもよく大淀が納得したわね?」
「今回の事でさ、内緒にしてたのバレちゃったんだけど、なんか無言だった。コワイ……」
「(さすがに解かってるのね…) これのせいで今更貴方がどこかへ飛ばされる、なんて事にはしないでよ? 私も皆も困ってしまうわ?」
「わかってるってぇ~。ちゃんと有用だって理解してもらうからっ! それにまだ完成してないし、動かすなら迷彩っていうか擬装鏡面? みたいのも必要だしさ。後は……」
「後は?」
「この島を動かせる規模の動力ってなると、例え全艦の半数をコレ使って運用できたとしても、消費がとてもじゃないけど割に合わないんだよねぇ…。それが大問題だ!!」
(やっぱりそうよねぇ~)と陸奥は思いながら、ブツブツと洋上移動要塞の妄想を膨らませている提督から資料へ視線を戻す。
やはり自分の目で地下施設を確かめた上、彼には内緒で妖精達に『移動要塞の完成は急がなくて良いから、じっくり取り組んで欲しい』と伝えねばならない。
提督にはもう少し休憩をして貰いたくもあるので、一人で地下の発電施設の確認に行こうと思うのだが、彼を独りきりにしてしまうのは警護上よろしくない。
この島に準備なり見学なりに来ている誰か、出来れば指輪持ちにその間を任せたいと、陸奥は携帯端末を取り出し、スケジュール表と照らし合わせてフリック操作する。
筆頭の榛名は通常任務の指揮のため鎮守府だ。
次席の摩耶と第五席の瑞鶴は、伊勢・日向と一航戦、そして秋津州等と一緒に演習撮影のテストへ出航ている。
第三席の翔鶴は、残る空母の指揮を取りまとめるのに榛名と共に鎮守府組だ。
第四席の自分は会場責任者のため、熟練と呼ばれる艦娘達は皆手がふさがっている。
姉の長門は駆逐艦ビーチバレー大会準備で、浜辺でライフセーバーを決め込んでしまっていて、大和は出張店の準備、武蔵は清霜のビーチバレー特訓に付き合っているだろう。
演習の参加者とビーチバレー選手は忙しそうで、勿論、会場で周辺準備に携わっている者たちはもっとだろう。
誰か手すきの者はいないか、と思案していると……。
「Hi アドミラール。今日も暑いデスネ~」
「ベイちゃーん…、とジョン! ジョンじゃないか!」
この島にチャペルが建設される理由となった、また彼女の式日が艦隊全体のケッコン記念日ともなった、少々風変りをもたらした指輪持ち、ガンビア・ベイちゃんがお出ました。
その彼女の後ろに、気持ち身を隠すように随伴しているジョンストンもいる。
ガンビア・ベイのケッコン式ではサミュエル・B・ロバーツと共に、二人の付き添いを務めたのがジョンストンであり、その際はだくだくに涙ぐむ提督をしきりにタオルで拭ってやる様子もあった。
新着任した艦はしばらくの間、指輪持ち艦と共に秘書艦を務める期間が設けられる慣習なのだが、その時もこのジョンストンは、この変態提督に対して『手のかかる大きな弟』のような接し方であり、瑞鶴などは煙たがる『好き好きちゅっちゅっ』にも、嫌そうに目を瞑りながらも頬を差し出して受け入れてやったり、彼の膝の上に抱っこされながら、本を一緒に読んだりゲームで遊んだりと友好的であった。
また先の友軍救援作戦で、同郷艦の救援ともあり奮起したジョンストンは、サミュエルと共に、『危機に対し鋭敏なセンサーを持つ』ガンビア・ベイの進言で手配された艦隊の援護もあって、最終作戦目標の敵旗艦 太平洋深海棲姫を、夜戦まで食い下がって見事撃沈せしめる大戦果を挙げて凱旋した。
念願だった姉妹艦の長姉、フレッチャーとの邂逅も叶い、その活躍に大いに喜んだ提督は、是非ともケッコン艦にと指輪を申し出る。
かなり驚きながらもその申し出に快く返事したジョンストンは、後も錬度向上に勤しみ、先日彼女もこの島のチャペルで、アメリ艦達が胸を張って自慢気にするほど、まるで物語の妖精が舞い降りたかのようなおしゃまで愛らしいドレス姿で、また彼の涙を拭ってやりながら「仕方ないなぁ」と、にこやかな困り顔で誓いの口付けを送ったのだった。
ところがそれまで友好的だったジョンストンは、ケッコンの後、指輪を受け取った後、彼を避けるようになってしまった。
提督の夢に関する事を知ったせいもあるだろうが、どうやらそれよりも『手のかかる大きな弟』と一夜を共にした事が影響を見せたようで、彼の姿を見かけると顔を赤らめプイっと背けてしまい、それを嘆いた提督が追いかけると全力で逃げ出すようになってしまった。
他の指輪持ち達は、その様子を微笑ましく温かく見守っていたのだが、当の提督は「ジョンが膝上抱っこをさせてくれないんだ!」と悲しみにくれ、全力で逃げる実力派のフレッチャー級に、唯の人間の彼が追い付ける事もないまま、この大規模演習に向けての準備に追われる事になってしまっていた。
「ほらぁ~、ジョン~? アドミラールに見せてアゲナイノ~?」
身を隠そうとする彼女の背中に手を添え促すガンビア・ベイは、サミュエルもそうだが、いつも世話を掛けてしまいがちである、小柄ながら極めて頼り甲斐あるこの駆逐艦ジョンストンに、今回は先輩のケッコン艦として世話を焼けるのが嬉しくて、また精一杯力になってあげたくて、顔をほんわかニンマリさせている。
その夏模様のラフな装いのガンビア・ベイに優しく手を添えられて、トトっとジョンストンは少し前に出る。
ジョンストンの、ファスナーで前を留めて着込んでいる青いパーカーの下からは、スラリと健康的に伸びる肌が露わになっており、小柄で細いのにも関わらず、しっかり女の子の柔らかさを兼ね備えているのが一目でわかる美脚を見て、提督はガタンッとテーブルを大きく鳴らして立ち上がった。
「ジョン! 水着? 水着で来てくれたの!?」
「そうですよ~? ほらっ上着もっ……。ねっ? カワイイデショー?」
グズりながらも、ガンビア・ベイにパーカーのファスナーを開けられてしまったジョンストンは、ギンギラとガン見している提督に若干ムっとした顔で腰に手を当てて、ビキニを隠す事はせずに強がって見せた。
青を基調とし、主要部のシルエットを際立たせる白の入ったビキニ。
小柄に似つかわしくないほどボリュームのある胸を包むトップスには、黒いリボンが魅惑の二房をキュっと寄せており、首に巻いたチョーカーの勲章アクセが、その谷間を誇らしげにする。
ほっそりと引き締まる腹部は、可愛らしい彼女のお臍が恥じらいなく露わにされており、
更にそこからボトムまでの距離が大分ある。
鼠径部のスタート地点も隠れる事を知らずに、まるでそこから指を這わせてくださいと言わんばかりに、恥骨までを綺麗に招いているようだ。
肝心な部分をしっかり覆っているものの、ジョンストンの爽やかに深く青い色気は、上下ともに今すぐにでもずり下げて、彼女の魅力を暴いてしまいたくなる。
「ジョンンンンンンンン!! かわひいぃぃぃぃぃぃっ!! うおぉぉぉぉ、ジョンっ! うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「ちょっと落ち着いてっ。貴女たちも座ったら?」
どことなくカラ元気で準備を頑張っていた提督の、テンション爆アゲ模様を陸奥は窘めつつ、顔を赤らめプイっとしてしまったジョンストンではあるが、喧嘩はしていないが仲違い状態の改善を試みようとしている、すこぶる愛らしい彼女に微笑みながら席を促した。
「二人も何か飲む?」と卓上スタンドのメニューを送ろうとした所、「居たいたーっ」と元気な声に妨げられる。
「Hi テートクっ。ほらガンビー、端末忘れてるよ? 今度の演習で指揮を頼めないかって呼ばれてるから、急いで来て!」
「???」
ジョンストンを先に、提督に近い席に座らせて、自分もウッドチェアの一つに腰かけようとしていたガンビア・ベイは、自分を呼びに来たサミュエルの言葉に首をうぅ~~ん? と傾げてみせる。
「……Ah~、サァム? 艦隊の指揮はアイオワかコロラドよ? 艦載機の指揮はサラやイントレピッドだもの…、きっと間違いじゃない?」
「その四人がキミを呼んでるんだ。急いで行くよ!」
「ふわわっ、待ってぇ~、引っ張らないでぇ~~。ジョン~、ジョン~っ、ガンバッテー?」
サミュエルに手を取られ、グイグイとテラスから浜辺へと曳航されるガンビア・ベイは、遠ざかりながら、二人の仲を取り持つミッションを果たせなかった事を残念に思いつつ、世話を焼いてあげたかったジョンストンへエールを送った。
「何か頼む?」
既にウッドチェアに腰かけ、遠ざかる二人を見送ってしまったジョンストンは、渡されたメニューをチラっと見たものの、ふるふると顔を横に振った。
(ふふっ、まだ喉を通らないのかしらね? 可愛らしいわ)
俗に言う、『好き避け』のような状態になってしまったジョンストンと彼を取り持つのに、榛名がそれとなく手を回したのだろう、中々に打って付けの役であったガンビア・ベイが去ってしまい、陸奥はまた一つ思案する。
ジョンストンが、この妙な仲違い状態の改善を望んでいるのは、様子を見ればすぐにわかる。先輩ケッコン艦のお姉さんとしては、彼女の気持ちを是非とも汲んであげたい所だ。
「ねぇ、ジョン? 少し急いで発電施設の確認をしに行かないとならないのだけど、提督にはまだ休憩が必要なの。私が戻るまで、代わりに彼の警護をお願いできるかしら?」
「……Alright」
「ありがとうジョン、助かるわ。戻る時端末でメッセージを送るから、そうしたら彼を事務所まで連れてきてくれればOKよ。それと…………」
近づいて耳元で何事かを呟いた陸奥に、ジョンストンは驚いたように顔を真っ赤に染めて口を引き結ぶ。
「それじゃぁ、後をお願いね?」
ひらひらと手を振り、去り際に提督にウインクをして見せた陸奥は、書類のまとめられたファイルを抱え、ロマン溢れる企みの産物、地下要塞の施設へと向かって行った。
顔を真っ赤にしたまま、ウッドチェアで俯き加減になってしまったジョンストン。
一夜を共にして以降顔を合わせてくれなかった彼女が、再びこうして着飾りながら、肌を顕わにしながら自分に会いに来てくれた事に、提督は一旦テンションを落ち着けて、椅子へ座りなおした。
「えと……ジョン。その水着凄く可愛いよ、とても似合ってる」
「……そう?」
俯き加減からチラっと目を向けてきた彼女に、気分を落ち着かせたはずの提督は嬉し気に続けてしまう。
「もう、チョ~カワイイヨ! 水着の上下の間をペロペロしながら行ったり来たりしたいし、その後太ももに顔を挟んでフガフガくんかくんかしてコンニチワしたい位さ! えっ! あれっ!?」
ジト目で「うげぇ~」っとした表情になり、パーカーの前を合わせて肌を隠してしまったジョンストンを見て、素直に精一杯褒めたつもりが、全くもって逆効果だった事に彼は動揺する。
「なんで隠しちゃうんだよぉ……。えと、えぇ~っと。あっ! ジョンもマンゴージュース飲む? ストロー二本で俺とチューチューする?」
「いい…、イラナイ」
欲望にしか誠実でいられない、てんでダメダメな提督は、不器用に立ち回ろうとせずに直球で切り出す事にした。
「なぁジョン……。もしかして、ケッコンしたの嫌だった?」
「別に……、そうじゃないけど」
ウッドチェアで足をぷらぷらと揺らしながら、ジトっとしたままふるふるとジョンストンは首を横に振った。
「でもさ~、だってだよ? ケッコンしてから俺の事避けてるじゃん? ここんとこずっと、じょ…ジョンの、ほっぺにちゅっちゅっも…してない゙よ゙ぉ……ずぴっ」
「だってそれは……。なんだか恥ずかしくなっちゃったのっ!」
「ふぇぇ…。そりゃ俺はイケメンじゃないけど、だからって避けるほど恥に思わなくたっていいじゃんかよぉ……」
「そうじゃなくてっ! 貴方、アタシに……。だって、アタシあんな……あんなにぃっ」
「はっ! わかったあれかっ! 俺とエッチしたからかぁ! 初ちんぽだったのに、あんな大っきな声で喘ぎまくりでイキまくっちゃったから、それではずか―」
バチンッ!
「クワィェッ…、静かに! 大きな声で言わないでっ!」
顔を赤らめ小さな手を頬に当てて、提督を避けてしまう理由を思い出してしまっていたジョンストンは、大声でその思い当たる節を説明し始めた彼の口を、音が鳴るほど勢いよく手で塞ぎ「シ~! シ~!」と人差し指を立てて抗議する。
その抗議に提督は、口を塞ぐ彼女の手の平をペロペロ舐めながらコクコクと頷いて、「静かに!」に対して了解を示す。
再びジトっとした目になったジョンストンは、舐められた手の平を、彼が羽織っている夏のリゾートな白チェックの半袖シャツの裾で拭き、さらに下に履いてるハーフパンツな水着で拭き、もういっちょテーブル上の、少々氷が溶け始め汗をかいているマンゴージュースのグラス横に置いてあったおしぼりで、テシテシと念入りに拭いた。
「おう……ジョン。そんなにされると、へたれメンタルにかなりダメージ来る」
距離を取るように深くウッドチェアに座りなおし、腕も脚も組んでまたプイッとしてしまったジョンストンだが、彼女が顔を合わせてくれなかった理由が『恥じらい』であった確信に提督は胸をなでおろした。
「でも良かった~、ケッコンが嫌だったわけじゃないのかぁ~。俺嫌われたのかと思ったよぉ~、ほっとしたよぉ~」
「嫌いじゃないけど、別に好きじゃないっ」
ゴフッ!
「……はぁはぁ。だ、大丈夫、まだ致命傷……。ケッコン艦の娘は大体皆そんなもんだ……。なんつーか義理婚ちっくだし、それでも皆夜番に来てくれる。ふぅふぅ……、だいじょうぶ俺はみんな大好きだ。大丈夫だいじょうぶ……」
「だがしかぁぁぁぁぁしっ!」
「な、なに?」
「いくら初ちんぽでよがりまくっちゃったのが、恥ずかしかったから—」
バチンッ!
「シッ!」
「ハイ…」
今度はペロペロの隙を与えないように、ビンタ気味に提督の口を塞ぐと言うか叩いたジョンストンに、彼は顔に二つの小さな紅葉痕を作りながら尚も続ける。
「んと、ジョンが照れくさくなっちゃったのは分かったよ。でもさ、初エッチで気持ち良くなっちゃったのを、なんか悪い事みたいにってーか、否定する感じに思わないで欲しいんよ」
「それは、そうかもだけどぉ。でも……」
「いいかっ、ジョン!」
「う…ん?」
「俺はスケベが大好きだ! そんでジョンの初ちんぽはめっちゃエロかった!!」
ベチッ! ベチンッ!
「いったいっ! が、俺は嬉しかったんだ! ジョンをもっとしゅきぃぃぃぃって思ったんだああああああああああああ!!!」
バシッ! バシッ! ドムッ!
「あぐふっ! や……やるな、ジョン。しかしな、そこまで気にする事でもないんだぞ!?」
「なにっ……がよっ!!」
バシッ! バシッ! ベチンッ!
「痛いイタイ! スナップ! スナップめっちゃ利いてる! でもマジで言ってるんだって、ベイちゃんもそうだったんだって!」
「ガンビー?」
「そ、そうだよ。実はケッコン前にしちゃってたんだけど、ベイちゃんも初ちんぽは結構気持ち良くなってくれたんだよ。あ、これは内緒な?」
「その事は皆知ってる。貴方の事話す時にいつも自分で言ってたもの」
「あれ? ベイちゃんが内緒にしようって言ってたはずなんだけど、まぁいいや。それに陸っちゃんもだぜ? 陸っちゃんの初ちんぽはもうエロエロ凄くて、俺の方が大変なくらいだったんだぞ」
「そうなの?」
「そうそう! 逆に瑞鶴なんかは初ちんぽでイキ過ぎて、意識飛んじゃって大変だったりしてんのよ。めっちゃ可愛かったからいっぱい出しちゃった……てへっ」
「ふ…、ふ~ん」
「だからさ~。恥ずかしくなっちゃうのは分かるんだけど、よがりまくりのジョンすげぇ可愛かったし、俺も嬉しくてたっぷりぶっ掛けちゃったし、悪い事みたいに思わないでね?」
「お、思い出させないでっ!」
「イタイッ! ごめん、ごめんて! えと、ジョンを困らせたい訳じゃないんだって。恥ずかしいなら無理に夜番もしなくていいからさ? 俺の事避けて逃げたりするのだけは、なんとか我慢してくれないか、ッテテ…、お願いしたいだけだって!」
「あ…、アタシも……」
「……ふむ。ジョンにお仕置きされるの、かなりイイかもしれんな……」
バシッ! ドムッ! ドムッ!
「ぐふっ! ひざっ…、膝はやめっ。今はちがうって! 仲直りっ、今はジョンと仲直りしたいんだってば!」
「…………」
最終作戦目標撃破を見事成し遂げた、フレッチャー級の怒涛の追撃をやっと収めたジョンストンは、恥じらいに顔の赤らみが一向に落ち着かないまま、訝し気に彼を見やる。
提督に振り回され、だ~いぶ不貞腐れた顔になってしまったが、彼女は当初の目的を果たしたいと思ってはいるようだった。
「俺と仲直り、してくれる?」
「…………ワカッタ」
提督に膝を入れ、立ち上がったままのジョンストンは、一転変わってもじもしとした様子で小さく応えた。
「あぁぁぁぁジョンんんんんんんんんん! ありがとぉぉぉぉっ!! 良かったー、ジョンと話せないまま忙しくなっちゃったから、ずっと気になってたんだよぉ~」
「ぅわっ、ちょ…くすぐったいっ」
彼女に飛びつき、頬に『好き好きちゅっちゅっ』をかましながら、嬉しさを込み上げさせていた提督だが、そこでハッとしたように思い直す。
「これか! これが良くないんだな。これを我慢しないと…って、んああぁ~! ジョンのほっぺにちゅっちゅっも、膝上抱っこも出来ないのはキッツイぜ……」
「そうなの? キスやハグだって悪い事じゃないんじゃない?」
「それはその通りだ! だが、これを見てくれ……」
「わっ! ヤダ、はみ出てる!!」
立ち上がって示して見せた彼の股間は、もうはち切れんばかりにテントを張っており、先っぽが水着の上から顔を覗かせていた。
「フッ……。俺のコイツは、ジョンと仲直り出来たってだけで、ちょっとほっぺにちゅっちゅっしただけで、嬉しがってこんなになっちまうんだ。だから悪い事じゃないのに我慢しなきゃならないんだ……。くっそうっ! ジョンを困らせる、このハッピーチンポめっ!!」
「は、ハッピ…? もうっしまって! 出したままにしないでよ」
「あ、あぁ…。ハイ、しまったよ? もうダイジョウブよ?」
「……」
黙ってしまったジョンストンがまた逃げてしまいやしないかと、提督は顔を覗かせていた一物を無理やり水着へ仕舞いこみ、今度はウッドチェアに座りなおして、危険物は無事にテント内に幽閉された事を示して見せた。
「……嬉しくて、そうなっちゃうの?」
「当たり前だ! これが嬉しくないヤツが居ようものなら、俺は何か超常的な力に覚醒して、そいつの子々孫々、魂魄何百万と生まれ変わろうとも、延々と永遠と、炎炎とメラメラエロエロと、ジョンほっぺにちゅ~する素晴らしさを耳元で語り続ける妖精さんになってみせる! 説き伏せて一族郎党解脱させてやる!!」
「そんな呪いかけるみたいな妖精、すっごく嫌だわ。キんモイっ」
「ちょっと誰ヨ? ジョンにキモイなんて言葉教えたノ!? 鈴谷? プリンちゃん??」
「…………」
再びジト~っと無言になったジョンストンは、しばらく悩んでいたようだが、やがて意を決したかのように座る提督に近付くと、なんと彼の膝の上に、トンっと身軽な身体を座り預けた。
「ジョン…?」
「べ、別に…、キスやハグは悪くないから……」
「ジョンんんんんんんんん! むちゅっ、むっちゅうぅぅ~~。はぁはぁ、髪の毛いい匂い」
「ちょ? っとぉ~、こらっ、調子に乗るなぁ」
膝上抱っこに座る彼女の肩を抱きしめ、後ろから頬に『好き好きちゅっちゅっ』をしながら、長いツインテールの髪の間で首筋あたりをくんかくんかする彼を、ジョンストンはくすぐったそうに窘めるのだが、逃げ出すそぶりは無かった。
「ジョン、仲直りしに来てくれてありがとう。水着も可愛いよ、とっても似合ってる」
「……うん。アタシも、逃げたりしてごめんね?」
―しばらくの間、提督の『好き好きちゅっちゅっ』に頬を差し出してやっていたジョンストンは、もぞもぞと窮屈で仕方ないといった具合に、テントを破裂させそうにしている彼の股間へ、青いビキニに包まれたプリっと小振りなお尻を押し付け、そしてちょっとだけ撫で上げる。
「あ、ジョンのおちり気持てぃ~。ごめん、やっぱ気になっちゃう?」
「そんなに、またアタシとその……。シたいの?」
「愚問だなっ! 毎日何度でもしたいに決まってる!!」
「まっ、毎日なの!? あんなの毎日何度もなの!?!?」
「あっ、違う違う。実際にするってんじゃなくて、そんくらいの気持ちって事ね!?」
「ふ、ふ~ん……」
「……ねぇ。その、毎日じゃないなら……、いいよ?」
「それって、それってえ!」
「だ、だからっ、出撃とか任務がない時なら…、シてもいいよ? せ、セックス…」
「ふおぉぉぉっジョン! むっちゅう~~ んむ~~まっ! むちゅちゅっちゅ~~」
「ひゃんっ? まって! 今じゃ…、ここじゃダメッ!」
「ジョン! 俺…はぁはぁ。俺!!」
「ヤダ、ちょっともうっ! コッチ、コッチ来て!」
フガフガとむちゅむちゅとしてくる提督の腕の中から逃れ、彼の手を引いて立ち上がったジョンストンは、サミュエルとガンビア・ベイが去って行ったのとは逆側の、浜辺に添って設けられた通りへと、そのまま二人手を繋いで歩いていった。
「またはみ出てる、っとに仕方ないわね」
「このっ、このっ、パッピーチンポめ。悪い子だ! 今すぐ仕舞うから」
「……もういい」
最初に作った鶴姉妹編がこの度、本として完成しました!
『重婚提督はハーレムの夢を見るか』
とらのあなさんとメロンブックスさんで委託をお願いしております。
もしお手に取っていただけたら幸いです。