ジョンストンが意気揚々と変態提督率いる艦隊へ合流を果たした時、既に自分の望みの一つがこの艦隊によって叶えられてしまっていた事に、彼女は少々拍子抜けした。
自分の着任を大歓迎してくれる笑顔の中に、ジョンストンが自身で守ってあげたいと思っていたガンビア・ベイの、なんだか気の抜けてしまう程ほんわかふんわり、にへらっとしたデレデレの笑顔が見て取れたからだった。
故郷では実力派と呼ばれ、生え抜きのエリートとも目されるフレッチャー級駆逐艦。
「あなた誰だっけ?」と、当の本人達ですら分からなくなるほど姉妹を数多く持つ彼女達の中でも、ジョンストンは一際目を引く存在だった。
ひと度それが必要だと判断したならば、例え相手が巡洋艦だろうが戦艦だろうが果敢に挑み、たちまちと敗れ去るのではなく翻弄し続け、全弾撃ち尽くしても尚戦う姿勢を崩さない。演習のみならず実戦でも、海に蔓延る深海棲艦に対してこそ、小さな体躯で誰より誇り高い戦いをする彼女は、『最も勇気ある艦』として人気が高かった。
そんな彼女が、ガンビア・ベイが敵である深海棲艦に拿捕されたという、バケモノ共のこの卑劣な行動の報に、悲しむよりも先にこれでもかと言う程の憤りを顕わにした。
当時船団護衛の任に当たっていたガンビア・ベイは、急に針路変えて護衛を放棄し、「怖い、もう間に合わない」と喚きながら艦載機を無断で全機発艦させるという不審な行動を取った挙句、敵に見つかり捕らわれとなったと知らされた。
臆病ではあっても心優しく、決して守るべき者を見捨てるような事はしない彼女をよく知るジョンストンは、「なぜガンビーを置き去りにしたのか?」と戦闘艦ではないからこそ護衛の必要な輸送船団に怒りをぶちまけ、その後「どうして自分も護衛に加えなかったのか?」と上官に噛み付き、「自分が居れば彼女を独りには決してしなかった」と、サミュエルや姉妹達にすがってから、ようやくと涙した。
すぐにでも救出に向かうべきだと、単独で出撃しそうな彼女は姉妹達に羽交い絞めにされ、苦虫を噛み潰した表情のまま一向に救出部隊の編成をしない上官にヤキモキしていた頃、なんと極東の島国の部隊によってガンビア・ベイは救出されたとの報を受ける。
「かの島国は選択を誤った。戦う者を誰も労う事なく、また守ろうともせずに使い捨てるのだ。よりにもよって指導者であった者の一部は、国体を支える存在を見捨てて大陸へ逃げたとの話も聞いている。内陸であればヤツラの手が届かないとでも思っているようだ……」
「一刻の安全地域などあってもそこで起きるのは…。いや、もうよそう」
深海棲艦に海路を阻まれる中、やっと情勢の確認を取れてもこんなネガティブな評判しか聞こえてこない極東の島国は、『自滅による盛大な口減らし』によって人の住める環境ではなくなった大陸東部の余波を受け、遠からず深海棲艦に蹂躙されるだろうと見做されていた。
しかし『かの島国を、二つか三つに分ける事なく拠点として利用するには』といった計画も実行されないまま、依然ネガティブな評判だけは聞こえ続け、ある時から徐々に共同戦線を張れる程度には持ち直したようだった。
けれども、よほど深海棲艦に対抗できる戦力が貴重なのか足りないのか、やってくる部隊は一隻でも被害の大きい艦が出るとさっさと撤退を決め込む臆病な連中で、とても信頼に足るものではないはずであった。
一応、後々の貸しを作るためにも、友好の体裁で故郷から戦力の幾何かが移籍してはいたものの、臆病な戦い方をする毛色は変わる事もないまま、それでもまぁまぁ戦果を挙げつつあるといった、バケモノ共よりは随分マシ程度の認識だった。
そんな臆病な戦いをする極東の連中に、まさか仲間の救出が叶うとは思ってもみなかったので、どんな連中がそれを成したのかジョンストンは気になっていた。
そのガンビア・ベイ救出の報に、大らかさと大胆不敵さで「小さな巨人」の愛称を持つサミュエル・B・ロバーツは、いち早く極東への移籍を取り付けてさっさと出ていってしまったので、「繁茂に移籍をさせるよりは、多少期間を空けた方が継続的な友好を匂わせる事ができるのではないか?」と、上の方のなんやかんやで、ジョンストンの移籍希望が承認されるのはしばらく後の事となった。
『敵に捕らわれとなる程優秀な艦であるなら、是非ともその力をお借りしたい』と、皮肉も含んだような文面で極東預かりとなってしまったガンビア・ベイは、臆病者たちの間できっと大変な思いをしているに違いない……。
こんな風に考えていたジョンストンは、移籍している同郷艦や自分よりいち早く極東へ向かったサミュエルと共に彼女を守ってあげようと、「なぁに、自分が居れば小さい島国の巡洋艦だろうが戦艦だろうがデカイ顔はさせないし、文句も言わせない」と意気込んでこの地へやって来た。
この身を挺してでも守ってみせる。その誇りと強さを臆病な連中に見せつけてやる。
そう勇んで来たにも関わらず、自分を迎える同郷艦も島国の連中も、戦時下であるのに妙なアットホーム感を出しており、見れば他の友好国の艦が何隻も在籍していて、臆病とは程遠い、強さが一目で分かる輩が和気あいあい。
怖くて大変な思いをしたであろう肝心のガンビア・ベイも…。
「ジョン~っ! よく来てくれマシタ。歓迎しますヨーッ」
何だか楽しそうに喜んでくれて、気が抜けたようにほっとしてしまった。
それなりに戦えそうな艦隊ではないかと、しかし何故ここまでゆっる~い雰囲気なのかと、どんな司令官なのだろうと伺ってみると……。
「きゃ、きゃわわっ……。おっぱ……でっけ! ジョンストン、きゃっわひぃいいいいい!!」
着任したてのジョンストンに、ガッツポーズしながら胸元を覗き込んでだらしなく鼻の下を伸ばし、長い髪で極東のシスター装束な戦艦らしき傍付きの艦にやんわり窘められると、年月を感じる指輪を嵌めたその艦とイチャコラもみもみし始めるといった、どうしようもなく紛れもなく一番頼りない、とてもじゃないが上官と思いたくないニンゲンが司令官だった。
ガンビア・ベイに事情の説明を求めるも、
「彼は凄いのよ! 私の夢に出てきたと思ったら、彼の部隊が本当に助けに来てくれたの! きっと運命だったんだわ!!」
と、ニマニマしながら早口でまくし立て、
「彼の部隊は一度も沈んだ艦がいないんですって! 私はアイオワやサラのように強くはないのに、とても大事にしてくれるの! 訓練はすっっご~~く厳しいけど、今は色んな任務にも携わっているわ!」
聞いていない事まで沢山話してくれた。
「ジョンならきっと私よりもずっと活躍できると思う! でも、クリタフリートと、イッコーセンニコーセンはおっかないから気を付けてね?」
特に女性に、といってもここにいるのは『Fleet Girls』 艦娘と呼ばれる者達だけだが、とにかくだらしないのが一目で分かる司令官ではあるものの、一応ガンビア・ベイを救ってくれた恩はあるのと、その彼女がにへらにへらと幸せそうには過ごしているので、それなら「アタシが守ってあげる」と、自分の実力を示してやろうと誓った。
すぐにこちらでの訓練に参加する事となり、カトリとカシマと呼ばれている練習巡洋艦によるなんだかお遊戯会の練習みたいな基礎訓練を、数多く所属している他の駆逐艦と供に反復させられて、その欠伸の出そうな退屈さに飽きた頃……。
「神通さんに貴女の実力を確かめる様に仰せつかったわ」
と、ヤハギと名乗った軽巡が、マンツーマンでの指導してきた。
彼女の指導はどうも緊張したが、「申し分ないわね」と力強く頷いて満足気に評価され、いよいよ実戦かと思われたのに今度はひたすら演習演習の毎日で、いつになったら実力を示す機会が巡ってくるのかうんざりし始めた。
その後は、司令官の護衛兼執務補佐である秘書艦任務の研修をさせられ、既にガンビーとサミュエルがしてくれた鎮守府の案内なども踏まえながら、この極東の地で艦娘達が携わる事柄を一通り覚えさせられた。
これまでさせられた訓練の担当艦達、そしてこの秘書艦研修中ペアを組まされる艦娘達も、皆一様に指輪を嵌めており、それなりの実力を持っていそうなのにだらしない司令官とどうもイチャイチャしがちで、たまに二人で長い休憩をしてくる彼女達にジトっとした目になりながら、(まぁオリエンテーションは必要よね)なんて溜息混じりに、実戦の機会が来る事をひたすら待つ日々だった。
しかしこの退屈のおかげで、色々分かった事もある。
この息する様にスケベな事をする、コミュニケーションという名目でジョンストンとハグなりキスなりしたがる司令官は、それでも一応の信頼は得ている様子で、特徴的なのは敵を倒した事と同じかそれ以上に、味方が無事だった事や仲間を守った艦に対して大喜びをする。
同じ駆逐艦、そして錬度の高い艦娘の中では、綾波型と呼ばれる型式の十番艦 潮。
ジョンストンから見ても、そこまで強いと思わせるほどではないのだが、彼女は守りに長けているようで、よく褒められそして頭を撫でられ嬉しそうにしている。
なにかと行動と共にしている様子の、同じく綾波型の八番艦 曙も、潮と共に頭を撫でられるのだが、「何で触るの!?」と、ゲシっと司令官に蹴りを入れている。
「ダメだよ、曙ちゃん」
「フンッ、こいつがスケベなのが悪いのよ」
なんてやり取りを何度も見たが、その曙は蹴りを入れるにしても、狙うのは痛みの少なそうなふくらはぎなどで、勢いがあるように見せて実は、直前にしっかりそれを殺しているのをションストンは見逃さなかった。
(素直じゃない子なのね。ウシオと違って指輪をしてないのはそのせい?)
他にも、ジョンストンから見て十分な実力を感じられる駆逐艦は多くいたが、取り分け強さに秀でた、綾波、夕立、長波、島風、などは、自分のが器用な立ち回りが出来るだろうと分かっていても、認めざるを得ないものを持ち合わせていたし、防空駆逐艦と呼ばれる秋月型姉妹達に対しては、自分も負けていられないと感じさせられた。
そして戦慄が走るほどの、ある種のカルチャーショックを感じた艦もいた。
着任を歓迎するとお茶会へ誘いに来てくれた、流暢な英語であったが耳がとろけそうな舌っ足らずなのと、聞きなれない発音に思わず「日本語でいいわよ」と返す事となった、英国から移籍してこの艦隊へ所属している駆逐艦 ジャーヴィス 。
自分より幼く見えなくもない彼女に対して、ジョンストンはその実力の内をほとんど計り知る事ができなかった。
そして招かれたお茶会の席では、彼女と同等かそれ以上と思わせる、この艦隊にいるのが不思議なほどの気品に満ちた戦艦と、高潔さと優雅が溢れ出している空母もいた。
後に、ジャーヴィスを膝の上で抱きかかえながら、「ジャヴィ子は紅茶の妖精さんだもんなぁ~」と言い、ティーカップをズルズルと汚らしく啜る司令官の姿を見かける事になるが、この『紅茶の妖精さん』の意味を、ジョンストンはこのお茶会で一足先に堪能した。
そしてもう一人、ジャーヴィスと同じように実力を計り知れない相手。
陽炎型八番艦 雪風。
セクハラ司令官ですら「あいつ等なら、まぁ間違いないね」と言わしめる練達した陽炎型。
その長姉にして、「ん? あの子と比べても無駄ってもんよ?」と、姉妹に放任主義を貫いている陽炎が、なんだか達観したように妹の雪風を評する言葉を聞いて、ジョンストンはこれまでの極東の評価を変えなくてはならなかった。
「ふんっ。雪風に頼らずとも十分である事を、あの変態に教えてやりましょう! 頑張りましょうねジョンストン!!」
「誰か一隻でも居なくなったのを想像しただけで、提督さん泣きじゃくって仕事にならなくなるけぇ、そうならんようジョンストンも手伝ってくれたら、ウチも助かるわぁ」
この艦隊の駆逐艦で最高練度を誇る、浦風と浜風。
当然のように指輪を持つ彼女達は、そうでない雪風のなんと妹達だった。
故郷でエリートと目されたフレッチャー級が実力を計り知れない相手である雪風は、姉妹達の間でも艦隊全体で見ても、飛び抜けた存在ではないようだ。
そして浦風と浜風は自分達の守りたいモノのために、互いに競い合うように錬度向上に努めているそうだ。
そういった目的を示す事を、ここの司令官は我が事のように大げさに喜んでしまえるので、なんとなくそれに応えたいと思ってしまっていると、メキメキと錬度が上がっていってしまう傾向らしい。
その司令官、彼の方針は危険だとも思った。
誰も沈む事なく、この戦いを終わらせたい。
その目的はいい。
だがそれは、ひとたび叶わぬモノとなってしまった時、何倍、何十倍ではきかない程の反作用となって艦隊の全員に襲い掛かってくるだろう。
そんな諸刃の剣を高々と掲げてしまっていては、いずれ心折られ戦えなくなる時が来てしまう。
守りたいものがあるからこそ、身を挺してそれを成さねばならない時がどうしてもあるはずだった。
「お前すっげぇ~なぁ。オレより強いんじゃねーか?」
遠征隊を率いる大ベテランの軽巡 天龍は、旧式ながら侮れない相手だった。
口がデカイだけかと思いきや、「駆逐はまず天龍に習え」と、この地の者は皆が口揃えて言うほど戦慣れしている古参であり、格上相手に物怖じしない性格は、ジョスントンも共感する所があった。
そして彼女は積み上げた経験からくる状況判断に優れ、特にミカワと呼ばれる戦隊単位での夜間戦闘では、驚くべき連携を見せる。
探照灯を照射してからの狙いすました素早い全艦一斉射。そして相手が撃ち返そうとする頃には闇に紛れて位置を変え、今度は別の艦が探照灯を新たな目標へ照射する。
夜間演習で見たこの連携は、探照灯がトラウマになりそうだと思うほどだった。
ミカワでは果敢な戦いをする天龍だが、実は彼女は高角砲の扱いが器用で、対空戦といった防戦でも安定した立ち回りを見せる。
ジョンストンも対空には自信があったのでやってみせると、たった一度でその資質を見抜き、海上護衛の遠征隊に一緒に編成された時は、新参のジョンストンを対空戦の中核に据える配置を指示した。
その目利きの天龍に、この艦隊の掲げる目標は奇跡を願うだけの机上の空論に過ぎず、それに心を預けてしまうのは危険である事を話してみた。
「……まぁなぁ、それは皆わかってんだよ。でもなんだ、『それを目指さないと辿り着けない』ってぇ~もんらしいぜ?」
日差しを受けてニカっと笑った彼女の表情に、ジョンストンは、この艦隊が臆病者の集まりではない事を思い知った。
(キンキン声の軽巡もそう言っていたっけ)
この艦隊は皆が同じ方向を目指している。
一隻でも大破が出れば全艦隊でさっさと逃げ帰る無様さは、外から見れば臆病者と詰られるものであるが、戦力が増した現在でもその誹りを免れていない所を見ると、長期に渡るこの戦いで、常に司令官の命令が徹底されてきた事の証明でもあった。
果てない奇跡を目指すための、決して違えてはならない鋼鉄の掟。
「任務を果たし、艦隊もそして自身も無事に帰投しなければなりません。捨て身、犠牲覚悟などと甘っちょろい考えは、ココでは捨てていただきます。出来ないのであれば、国へ帰られるのが貴女のためでしょう」
時刻も天気も時化だろうが関係ない、悪条件こそ高みを目指すための好機。
軽巡 神通の施す訓練には、正直げんなりとした……。
「皆が無事の帰還を果たす大任を背負っているのです。それを思えば敵を倒す事など容易いでしょう」
色々順番が違うのではないだろうか?
(ガンビー、ワタシこの軽巡が一番クレイジーだと思うわ)
秘書艦研修を終えると、この艦隊の習わしなのか変態司令官からマグカップがプレゼントされる。カタログから自分で好きな物を選んで注文させて貰えるのだが、彼も考えてくれていたのか、渡されたカタログには数ヵ所付箋が貼り付けされていた。
その内の一ヵ所に、シンプルなネイビーブルーで、内側にはおすまし座り、前足伸び、ジャンプしている三匹の黒猫のシルエットが描かれているカップがあって、それを一目で気に入ったジョンストンは、彼と同じセンスなのが若干不服であったが注文する事にした。
艦隊所属の艦娘は全員一つ、彼から贈られたマグカップを持っており、秘書艦担当時に持ってくる者、朝食時に食堂に持参する者、宿舎でプライベートの時間に使う者と様々だが、皆一応大事に使っているみたいだ。
やがて様々な任務に携わるようになった。ガンビーやサミュエルと一緒に船団護衛もしたし、独駆逐達とバシー方面で敵の補給艦を潰す通商破壊みたいな任務もやった。
「敵の補給艦は一体何を運んでいるのだろう?」と口にした時、ガンビーは「きっとドロドロの何かだと思う……」と、うへぇ~っとした顔で呟いていた。
他にも、戦闘哨戒や敵増援の撃滅、航空偵察支援や基地航空隊と連携しての敵機動部隊迎撃など、徐々に本格的な戦闘にも編成され、実力を申し分なく発揮する機会が巡ってきた。
時々、防空駆逐艦の初月が突っかかってくるので、口論になる事もあった。
「どうしてキミは、何でもかんでも自分一人で受け持とうとするんだ!」
「あなただって、ここはボクに任せろって前に出しゃばるじゃない!」
何度目かの口論の時、Bleah! っとしてやると、初月は溜息をついたように言ってきた。
「皆を守ろうとするのはいい、キミはそれだけの実力がある。でもその時一番危険なのがキミなんだ。だから皆で守り合うんだろ? ボクにも出来る事は分担させろよ! キミだけに負担が掛かるような戦い方を、提督も皆だって望んじゃいないんだ!」
その真剣な眼差し、まるで自分もそう言われた事があるかのような実感の籠った言葉に、ジョンストンは少しだけ自分を改める事にした。
そして極東の軍令部より、大々的な作戦が発令される。
こういう時ここの変態提督は、一気に老け込んだ表情で抜け毛をあちこちに散らかし、胃薬の瓶を小脇に抱えながら「資源がぁ~~、バケツがぁ~~」とボソボソ、ついでに涎も垂らしながらゾンビのように執務室を徘徊し、指輪持ちにヨシヨシ慰めてもらって長めの休憩を挟みつつ、ちょっと元気になって戻ってくるような奇行をする。
しかしその時発令された『友軍救援作戦』の対象に、故郷の仲間であるコロラドの名前を見つけた時、ジョンストンは息を呑むと共に、ざわざわと心が落ち着かなくなった。
「アタシに行かせて! おねがい……」
口を引き結びながら頼み込んだジョンストンに対し、変態提督は半分抜け殻の表情を一変させて目をしっかりと瞑り、しばし考え込んだ後に了解を示した。
「よしわかった! ジョン、思いっ切りやっちゃって! でも自分だけでやろうとしちゃダメだ、それだけ約束してね? でないと俺泣いちゃうからなっ!!」
ジョンストンは彼がいつもやりたがるハグをして、両頬にキスをして応えた。
彼はこの艦隊のエース空母である五航戦を拠点掃討に当たらせてまで、ジョンストンを最終作戦目標の攻略艦隊へ編成し、同じ連合艦隊の前衛部隊には同郷艦のアイオワとサミュエルも伴わせて送り出す。
結果、見事敵旗艦である太平洋深海棲姫を撃破し、今度こそジョンストンは仲間の救出をその手で叶えた。
その凱旋・帰投中、抑えた敵拠点の周辺掃討にも当たっていた五航戦の翔鶴から報せが入る。
なんとか深海棲艦の包囲を脱出したものの、海域からの離脱は叶わずに潜伏して機会を窺っていた姉妹艦、そのネームシップであるフレッチャーとの合流を果たしたとの事だ。
続け様の朗報を持ち帰り、提督に飛びついて両頬にキスを送ったジョンストンは、涙目になり万歳しながらそれを迎えた彼から、「是非指輪を受け取って欲しい」と申し出られる。
「え!? えええっ? えええぇぇ~~~っ!?」
勝利と朗報に湧いたその場の勢い……。
もあってか、そこまで悪い気もしなかったため承諾したジョンストンは、作戦の後も錬度向上に努め、「ヨメ入り修業です♪」と新しくケッコン艦が増える事に満面の笑みを浮かべる筆頭嫁艦の榛名から『ヨメ艦研修』を受ける。
これは一体何の罰ゲームなのだろうか……。
艦隊最高練度を誇る戦艦 榛名は、姉の金剛と共に、快速を活かして真っ先に敵陣深くに喰らい付く『艦隊の一番槍』とも謳われている実力者であり、全艦隊の指揮を預かる事も多く皆の信頼を集めているのに、ひっじょ~~に残念な存在だった。
研修内容もやたらと卑猥な話から始まり、その詳細を動作で練習させられ、そのうちに講義は脱線しはじめて、軽く数時間は榛名の惚気話に付き合わされる。
ケッコン後も定期的に行われているらしいこの『ヨメ艦研修』は、バーニングラヴなはず姉の金剛ですら、耳から変な汁を垂れ流しながら気絶しかける代物で、この講義についていける艦は極々限られる。
嘆かわしいのはその内の一人がガンビーであり、ジョンストンの受講の様子を見に来た彼女は、あろうことか榛名の惚気話に加わり始めて、よく分からない単語があっちこっちと飛び交う苦行を、更なる耐久戦に進化させてしまう。
最悪なのはそこへ瑞鶴も加わる時で、その時のジョンスントンの記憶は今もって曖昧である。
(どうしようガンビー、この艦隊のエースは皆クレイジーだわ。あ、ガンビーもだった…)
先の作戦で大戦果を挙げた艦がヨメ入りするとざわつき、入れ替わり立ち代わり本当かどうか尋ねられる中、
「あ、あの…。おめでとうございます!」
と駆逐嫁艦で三番目に錬度の高い潮に綺麗にお辞儀されたり、
「おっぱいは程ほどが無難ですよ」
となんだか神妙な面持ちの浜風に耳打ちされたり、
「提督さんは辛い思いもしてるけぇ、いっぱい甘えさせてあげてな?」
と浦風に頭をナデナデされたり、
「ンアッ? ジョンもダーリンとケッコンでしょー? 一緒ネーッ!」
相変わらず舌っ足らずなジャーヴィスが、飛びつくようにお祝いのお茶会に誘いに来てくれたりした。
「貴女の武勲と新たな門出に」
と祝いの言葉を掛けてくれた気品溢れる英国戦艦も、残った間宮特性ケーキを包んで、帰り際にお土産に持たせてくれた高潔な空母も指輪を嵌めていた。
本当に彼女達も榛名の講義内容のような事をしているのだろうか? 指輪は見間違いではないだろうか? いいや、きっとそうに違いない。
「そうか、キミもいよいよか……。あ、いや、実力からすれば当然か……」
憐みの目でジョンストンを儚む、やはり指輪を嵌めている初月は、
「いいか、気を付けろよ。姉さん達はおろか、大和や武蔵だって提督には敵わなかったんだ。ボクは深海棲艦よりも、あいつのがよっぽどだと思ってる」
指輪を受け取る事を承諾したのは、早計だったかもしれない。
榛名の講義の後は、随分と甘ったるく感じるなぁ。
ネイビーブルーのマグカップでコーヒーを飲みながら、そんな風に思っていた頃。
夢を、いつものあの夢を見た……。
つづく