瑞鶴のなれそめ的な
ただのセクハラ魔じゃん!
着任後しばらくこの鎮守府で過ごしている内に、提督さんの性癖は嫌でも理解できた。
艦娘なら誰かれ構わず繰り出されるスケベっぷりに辟易し、今後の行く末がとっっっっても不安だった。
よりにもよって、ちょっと遠慮がちで控えめになる癖を持つ翔鶴ねぇに対し、強く出れないのをいい事に、スカートを引っ張ろうとしていたのを目撃した時には、後先考える事なく艦爆隊を残らず発艦させた。
これが初めてでもなかったのだろう。
執務室のある建物から脱出して外を逃げ回る提督さんを、偵察機と各小隊を連携させて追い込みをかけていると、いつの間にかギャラリーが集まり「今度は瑞鶴かぁ」と言った具合に見世物にされていた。
結局爆撃はしなかったけど、ビンタかまして正座させ、説教してやった。
それで懲りる事はなかったけれど。
以来、セクハラする提督さん VS それを阻止するわたし みたいな関係性が出来上がった。
あの頃の自分が今を知ったらどう思うだろう。
きっと、「ありえないっ!」なーんて憤慨して全否定するだろう。
何でこんな奴が司令官なのか?大分後になってから本人に確かめた事がある。
「ダマされたんだよ!」
海軍一の臆病者、小心者。逃げ足最速。タダ飯喰らい。船酔いデットウエイト。
この時世で食うに困った為、美味い飯にありつけそうだからと志願したはいいが、戦いが嫌で嫌で諸々逃げ回っていた彼は、こんなあだ名をいくつも持っていた。
能ある鷹がなんとやらではなく、本当にダメダメで使い物にならないそうだ。
事実今でも実戦はからっきし。
それがある時、”深海棲艦と遭遇して二度も生還した” この不釣り合いな実績を監禁状態で取り調べされ、とうとう「妖精みたいなのに助けてもらった」と秘密がバレる事になった。
頭がイカれてると判断されたそうだけど、それがとある御方の耳に入る事となる。
釈放祝いと称し、飲めない酒をたらふく流し込まれて朦朧となってる所、
たった二か月半の付け焼刃もいいとこなんだけど、どうやら建前上必要だっただけで、施設から解放される時には、新設される艦隊の司令と言うポストが用意されてたみたい。
一応同意を求められたので全力で断ろうと思ってた矢先、それを見越してた大淀に、
「司令官待遇ですので貴方が直接戦う事はありませんし、実入りも良くなるでしょう。
おまけに綺麗な女性ばかりの部隊になりますし、司令となればモテる事請け合いですよ」
極めつけが、
「これは部外秘なのですが、ここの所属であれば気に入った方と結婚できます」
こうして晴れて艦隊司令となって、それから艦娘の存在を知らされ、色々逃げ場を失うすったもんだをした挙句、今に至るらしい。
「でもさ、重要任務あると司令船乗って少ない護衛だけで通信圏内の端っこまで行くじゃない?ここに来る前よりも、遥かにヤバイ所に出る回数増えまくってるんだよなぁ」
「じゃ何で今も続けてるの?」
「今は結構君らの存在民間にも知れ渡ってるけど、当時は極秘事項だよ?今でも工廠まわりの事とか、艦娘運用に必要なアレコレがどこかに漏れると俺の命ヤバイらしいんだよ?」
(ウソが混じってますよ、大淀さん……)
「でもまぁ、誰でもなれるもんじゃないらしいし、確かに美人さんばっかりだし、それに皆の戦う姿見ちゃうとなぁ…」
この後もれなくセクハラが飛んできて、勿論わたしは迎撃したのだけど。
たぶん、珍しく湿っぽい話をしたのを誤魔化すためだったんだと思う。
提督さんのあだ名は今でも言われ続けてる。
特に上層部は提督さんも互いに毛嫌いしてるから、そこらが言いふらしてるんだと思う。
大淀はおそらく知っていて放置してる。そのダメな評判を都合よく利用してそうだし。
でもこのダメダメな変態提督さんが、わたし達艦娘にとってそれなりに貴重な存在である事は、今となっては分かる気がする。
小心者だから準備が入念で、臆病者だから誰も失えなくて、自分が役立たずだから帰る場所だけでも守ろうとしてくれてる。
艦娘の司令官に必要な資質の詳細は明かされてないから、該当するのかは分からないけれど、提督さんは妖精さんが見えるし結構仲が良いのだ。
わたし達は主に、戦闘用装備に関係する妖精さんと付き合いが深いけど、提督さんの場合は、羅針盤妖精だったり、工廠妖精だったり、家具職人妖精だったりする。
応急修理妖精さん達に対しては、執務室に神棚みたいなのを取り付けて、そこに寝床を作ってあげたりしては、何かあるたび拝むといった有様だ。
家具職人妖精とは古い付き合いらしく、配属当時からのようだ。
工廠やドック以外は掘っ立て小屋しかなかった中、延々と続く大工仕事に途方に暮れてた時、何故だか現れてくれて仲良くなったみたい。
この鎮守府の大体の建物は彼女らの仕事だそうだ。ありがとう。
今でも職人の親方っぽい妖精さんからカタログを届けてもらっては、執務室をあれやこれや模様替えしてる。
家具職人妖精さん達の仕事は艦娘のわたし達もびっくりするほどで、一部屋程度なら朝飯前だ。てゆーか、むしろ一瞬だ。
一時期頻繁にやり過ぎたせいで、
明石曰く「執務室の時空が歪んで、妖精さん達のいる
それを聞いた提督さんは、歪みを利用して本棚の向こう側(そんなスペースはない)に、秘密部屋を新しく作ってしまっている。
万が一ここが攻められた時の退避場所として、一か月は立てこもっていられる様に準備されていて、尚且つ簡易な司令部施設もある。
軽い要塞と化してるのだけれど、実情は違う目的ばっかりに利用され、それら向けにカスタマイズされてるのである。
今やわたしもその利用者の一人なのである、はぁ…。
後、わたし達ですら扱い兼ねたり、理解が及ばないところのある羅針盤妖精さんを、提督さんは少しも疑わない。
あの子達はちょっと特殊で、より
なもんで、羅針盤を回すといった暴挙を成立させてしまうんだけど、あの子らが示すのは、行きたい所とかではないし、索敵している訳でもないので、敵のいる場所を指してる事もない。
なんというか…、
”こっちなら無事に帰って来る事の出来そうな未来”
を示してるらしくて、一応その航路の先を目指すか母港へ戻るか選べはする。
かなりフワっとしたモノなので、進むとなってもおかしな方向へ行かされる事などしょっちゅうだ。
それでも深海の奴らに数で劣るわたし達にとって、退路がある意味保障されてるというのはかなり重要なのだ。
羅針盤妖精さん達を無視して進んで、戻って来れなかった者。
大分古い時代から、この手の話は結構あるらしい。
「俺を助けてくれたのはこの子らだろうなぁ」
と言って可愛がってる提督さんは、あの子達を無碍にする事はない。
同じ子かどうかは分からないけど、似た力を持った子に助けられたんだろうとは思う。
でなければ、実戦はからっきしの唯の人が、深海の奴らから二度も生還するなんて無理にも程がある。
なんにせよ、わたし達艦娘が持つ力と深い繋がりのある妖精さん達を認識し、全部じゃないにしろ理解を示してくれる人がいるのは有難いことだ。
そして謎の多い深海棲艦という驚異に対し、得体のしれない力で立ち向かう艦娘達を、人が統制・管理するという形が執れるのは、ニンゲンさん達にとって都合が良い事だろう。
一応提督さんも、艦娘と人間の仲立ちを務めようとする意識はあるようで、わたし達に対して嘘偽りはしないと心がけてはいるみたい。
それを口実に下心全開にしてくるのは困りものだけれど…。
そしてこれが一番嬉しい事で、これだけは信頼している事。
提督さんは、艦娘を誰一人として犠牲にするようなやり方を選ばない。
“犠牲を顧みず作戦を遂行せよ” みたいな命令が来ると、
「作戦遂行に必要な前提条件、その戦力を犠牲・喪失させることは~」云々、
「既に作戦の失敗を意味するのであり~」ウンチャラカンチャラ、
「つまりは~作戦遂行のために作戦失敗せよと、矛盾をはらむ命令が下っている事となっており~~」ホニャホニャホニャ、
みたいに、色々屁理屈をこねてさっさと撤退させてくれる。
それで一度提督さんは更迭され、部隊も解散・再編成で皆各地へ飛ばされたけど、工廠妖精さん達が消え失せるといった前代未聞の事態が起き、補給や修理がままならない状態になった。
そこへ更に、皆が各地へ散っているのを知ってか知らずか、敵の大部隊が近海まで攻め寄せて防衛線があっという間に後退した所を、大淀が直接お仕えしているとある御方の横槍が入り、提督さんが復帰する事になった。
結構際どかったけど、それでも提督さんは自分のやり方を押し通し、見事撃退せしめたもんだから、以降は上層部もあまり強く出れないでいる。
深海棲艦の返り血みたいのや肉片やらを被りながら、それがさも当然、普通の事、そんな毎日ですと言わんばかりに戦ってるわたし達を見て、軍人さんですら時にはドン引きするもんだ。
そんなわたし達に対し、提督さんは「すげぇ!」とか「かっけぇ!」とか幼稚な称賛を送りながら、それこそ子供みたいに”深海棲艦に抗えるかもしれない” と希望が宿った目を向ける。
ボロボロになって帰って来たわたし達を涙目で迎え、抱きしめようとしてビンタされる。
わたし達を”兵器”であったり、”バケモノと戦える化物”じゃなく、まるで人のように扱ってくれる。
信頼し、感謝してくれて、一緒に喜んだり泣いたりしてくれる。
そのうえで、女の子として見てくれて、欲望も全開でぶつかってくるのだ。
「皆とケッコンしてハーレム作る!」
「ヨメや将来のヨメを沈ませるわけにはいかんのでな!」
欲望のままの言葉と馬鹿にしていたのに。
全然好みのタイプでもないし、むしろキモいと思ってたのに。
一応それなりの理由があるのを知ってしまったあの日、自分でもチョロいなぁと思うけど、たぶんわたしは絆されてしまった。
艦娘なら誰でも見ることのある、記憶の夢。
自分の夢を通じてわたしの記憶の夢に繋がり、干渉してきた提督さん。
海の底で眠るわたし。
黒い影のようなモノに、もうそれ以上ミナゾコに引きずり込まれたくなくて、怯えながら凍えながら、動けないでいるわたし。
怖い夢の中にいるわたしを、提督さんは引っ張り上げてくれた。
泣きながら目が覚めて、居ても立ってもいられなくて、この司令官庁舎へ走った。
そこでは、医療器具みたいのと点滴に繋がれて、青白い顔でベッドに横たわってる提督さんと、それを心配そうに見守ってる指輪持ち=ヨメ艦達、さらに明石と大淀が居た。
取り乱してるわたしを翔鶴ねぇと大淀が別室へ連れて行き、そこで聞かされた。
「待っていたわ、瑞鶴」
「五度目となればもう確実でしょう。提督は強い縁や絆を得た艦娘の夢の中で、何かに抗っています」
指輪持ち=ヨメ艦、全員夢の中で提督さんにサルベージされた艦娘だった。
いつも繋がるわけではないが、練度が高い娘の夢ほど、提督さんは干渉しやすい事。
夢の内容次第では、提督さん自身にも何等かの危険が及ぶ事。
他の娘の夢でもあの黒い影が現れており、提督さんはそれを、艦娘の記憶を奪おうとする深海側のナニカではと疑っている事。
夢の中では提督さんを助けてくれてる存在がいる事。
提督さんに一切止めるつもりはない事。
わたしで五度目とあって、今回は少し事前準備が出来たので、大分経過が良い事。
わたし達の持つ記憶は、この世界のどの時代にも存在しない艦の記憶なのだけど、大淀が言うには、それらが記載された資料があるのだという。
「超級機密ですので、詳しくは言えません」
霧掛かった海の、戦場の真っただ中に放り出される夢が多いらしい。
どの娘のどんな戦いの記憶か定かではないため、特定するのには情報が必要だ。
翔鶴ねぇに追いつきたくて練度向上に躍起になってたわたしに当たりを付け、大淀が取り寄せた”空母瑞鶴の資料”を提督さんは調べたそうだ。
そうして、夢に繋がる兆候が現れると、なるべく静かな夢の時を選んでサルベージに挑んだらしい。
「体温の低下も酷くなかったから、すぐ目覚めると思うわ」
医者に見せても、原因不明の衰弱としか言えない状態になるので、それならばと明石に付き添いを頼んでる現状だ。
「翔鶴ねぇも大淀も、何でやめさせないの!?」
「他の皆も止めるのだけど、聞いてくれなくて」
「提督は、その黒い影を気にしておられるようなんです」
「夢の中の事ならほっとけばいいじゃない!」
「それがね、無視するわけにもいかないみたいなのよ」
「瑞鶴さんは、その黒い影をどう思います?」
「気味悪くて怖かったけど、何かしてくる様子もなかった」
「眠ってる夢でした?」
「うん、起きてると違うの?」
「私の時は襲われたわ、干渉して来た提督じゃなく私を狙ってた」
「捕まるとどうなるんだろう?」
「確かめたくはないですね」
「提督は、私達が ”夢の中で目覚めない” 方が都合が良い誰かがいる、と考えているみたいなの」
「そんなのって…」
「確証はありません。ですが、私達の持つ力が、記憶とその夢に無関係とも言えません。
その記憶が奪われたり、あるいは夢で眠ったまま封じられるような事があれば――」
「練度の高い娘の夢ほど、よりはっきりと繋がるそうだから、もし黒い影達も同じなのだとしたら…」
「わたし達が戦うのを、強くなるのを望んでない相手がいる、ってわけね…」
「現状深海側の勢力と見て、危惧すべきではある…と思うわ」
「えぇ。それに深海棲艦が現在のような形態を獲るようになったのは、比較的最近だと言うのも関係がありそうなのです」
「どういうこと?」
「はい。古い記述などでは、今で言う深海棲艦は大型のサメやクジラ、もっと古くなると巨大な海蛇、水龍、荒ぶる水神などと呼ばれていたようです」
「それを鎮めるために、人身御供や巫女などがあてがわれたりしたそうですが、中には水面を歩くことの出来る戦乙女が退治した、といった御伽噺が存在しています」
「それは伝説とか物語の話でしょ?」
「確かに。ですがかなり最近まで、軍でも対応できる程度のモノだったようなのです」
「それがここ十数年内で、生物めいたモノから兵器のような破壊力を持つまでに至り、しかも通常兵器では効果がないといった不可思議な力を持つまでになったんです」
「結局どういうことなの?」
「はい。今で言う深海棲艦もまた、どこかで私達のような
「人間たちは、あちら側の世界の法則で存在している妖精達に危害を加える事はできません。艦娘は妖精よりもこちら側に属していますが、オフの時ですら銃弾程度で怪我することはないでしょう」
「当たり所悪いと痛いけどね」
「つまり、深海棲艦もどこかの世界の記憶に関する力を持ったために、私達のような存在でないと対処できなくなった、と言えなくもないのです」
「そして私達と戦うようになってから更に変化した。瑞鶴も見たことあるでしょう?人型の…私達に似たような姿の敵」
「めちゃくちゃ厄介なあいつらね」
「はい。姫級などは敵対する私達を凌駕するために、私達により近しい力をどこかで得たのではないかと。事実その戦闘力は凄まじいものですし、また似ている節もあります」
「それが、私達が持つ様な記憶なのかもしれないのね」
「その記憶も、深海にある歪みといった所から手に入れているのかもしれません。――敵を倒すと、妖精達がまれに核を見つける事ありますよね?」
「艤装建造に必要なヤツよね?」
「あれ正確には記憶核って呼称なんです」
「……」
「後は、これも確証はないのですが…。
深海棲艦によるものと思われる行方不明者のリストの中に、両親はおろか血縁関係者がまったくない人物がいる事があります」
「こんな情勢だしねぇ…」
「えぇ。ですが本来、そういった人物がリストに上がる事自体が少ない例なんです。親類から捜索願や届け出がされませんから」
「そして、そういった人物をさらに若い未婚女性といった条件で絞り、行方不明になったと思われる時期を別のデータと照合すると…」
「およそ三か月内で、新しい姫級や鬼級の発見報告と高い確率で重なります」
「それって!!!」
「全て想像の域を出る話ではありません。ですが提督は、事実だった場合取り返しの付かない事態にならないように、今出来る事を探ろうとしています」
「瑞鶴、これは本人が言った訳じゃなくて、ケッコン艦全員の予感めいたものなのだけど」
「うん」
「提督はおそらく、深海の夢にも潜ろうと…。私達と戦う前に記憶を眠らせる事が出来ないかと、そうお考えだわ…」
「そして大きな事態になる前に、夢の中で艦娘を全艦サルベージする、つもりのようです」
「提督さんはそれで…、あんな事言ったのかな…?」
「うん?――あ、いえ。提督が夢に潜れる事が判明したのは、ハーレム宣言の大分後でしたし、宣言した頃はケッコンカッコカリ予定も全く無かったので関係はないかと…」
――
「もう大丈夫そうですよ~。普通に寝てます」
「あ、明石さん、お疲れ様です。良かったぁ」
「これで一安心ですね」
「でもそっか~、これがあるからか~。翔鶴ねぇ指輪貰ってから夜はあんまり宿舎に居ないよね。変な噂あったしさー心配しちゃった」
「……」
「あ!それなんですがねぇ~」
「え?まだ何かあんの?」
「えぇまぁ、言いにくい事ではあるのですが」
「提督はなんでか、艦娘とケッコンすると精力が増しちゃうんですよ~。変でしょー?」
「はぁ?」
「えっと、夢の中で危ない目にあうせいなのか、艦娘と強い絆が出来て力の影響を受けるせいか、何か元気になっちゃうみたいなのよ…瑞鶴?」
「う~ん?よくわからないんだけど?」
「つまりですね、ある種の危機を乗り越えたために、個体としての生命力が増す?と言った感じでしょうか、生存本能が強まると言うか…艦娘の力の影響で顕著になると言うか」
「ようは絶倫になっちゃうんですよー、おっかしー!」
「それが凄くって…。ケッコン艦の皆で対応というか、その…ね?」
「あの噂マジってこと…?」
「……ウン」
「瑞鶴さんはどうするんです?」
「え゛っ!?」
「明石、そんな聞き方してどうするの」
「だって瑞鶴さんも指輪貰うんでしょ?毎度あり―!」
「どちらもあくまで任意ですよ」
「何かすっごく嫌なんだけど!」
「瑞鶴?そんな風に言うものではないわ。今夜ここに来たのだって…」
「それは!夢の中の事を確かめに来たというか…、お礼をと言うか…」
「練度向上を目指すなら大事な事よ?しっかり考えた方がいいと思うわ」
「う~ん…」
「私は夢で救ってくれた提督に、そうね…、身も心も捧げて戦い抜きたい。そう思ったわ」
――
翔鶴ねぇの強さの理由を知った気がした。
二次改装を終えてから、指輪を受け取ってからは更に、翔鶴ねぇは時には大和型ですら唸らせる活躍を見せる様になった。
普段穏やかでむしろ遠慮がちですらあるのに、これ以上はマズイ!とか、後もう少し!といった、ここぞという時ほど翔鶴ねぇは勇猛果敢な戦いぶりを見せる。
提督さんの容体が安定して、入れ替わり立ち代わり他のヨメ艦達がわたしと話しに来る。
思いの形はそれぞれ違えど、皆どこか決意めいた考えを伝えてきた。
この娘達も凄い活躍してる娘ばっかりだな~。
艦隊の最高練度を誇る精鋭だから、当然ではあるけれど。
多分そういう ”ここぞ” の場面に居合わせる、そういった任務を任せて貰える信頼を、皆や提督さんから得ているんだ。
わたしもそうなりたい。
綺麗で優しくて強くてかっこいい、憧れてすらいる自慢の姉。
今度こそ、わたしが翔鶴ねぇを守りたい!
ついでに提督さんも守ってやろう。
深海の夢なんかに潜らなくても大丈夫にしてあげよう。
朝を迎える前、目が覚めた提督さんと話せた。
心配したわたしの気も知らずに、無邪気に夢での成功を喜んでた。
お礼を伝える時に何故だか涙が出てしまって、驚いてたけど提督さんはそっと抱きしめてくれた。
半裸のまま、ズボンを膨らませてたので引っぱたいちゃったけど。
精力が増してるっての本当なんだなって思い知らされた。…はぁ
次の日には、指輪を受け取る事を提督さんと筆頭嫁艦、それと翔鶴ねぇに伝えた。
出撃予定のない娘皆に祝って貰いながら、正装した提督さんから指輪を受け取ると、少しだけ、ほんのちょびっとだけ胸に来るものがあった。
そして、何がどう変わった訳でもないのに、どこか力が込み上げてくる気がした。
新しい嫁艦に大喜びする提督さんをスルーして、指輪持ち艦としての新たな秘書艦研修を受ける。
現在は指輪持ちのみが秘書艦を昼夜交代で務めてる。
身辺警護含む通常の秘書艦任務はやった事あるので問題ないけど、そこに提督さんの様子を記録する作業が加わったりする。
健康状態のチェックや夢に繋がってる兆候がないか等、定時毎に記録を取る。
この記録は電子化も複写も厳禁とされていて、指輪持ちか大淀が常に管理する。
秘書艦交代時に一緒に引き継ぎ、指輪持ちは必ず全て目を通すようにされてる。
正直メンドクサイ。なにせあっちの様子も記録するからだ。
何時にどこで誰がどんな風に…、量は回数はその後の提督の健康状態は。
昼でこれなのに、夜はあっちの対応をした後、夢に繋がってる様子はないかより細かくチェックするのだ。
「今は夢の兆候を提督が把握出来るようになったから、夜は楽しんでいいのよ?」
抵抗はあったんだけど、結局、夜の御勤めとやらもやる事にした。
提督さんの精力が凄くて最初は大変で、初めての時からしばらくは、翔鶴ねぇ含むヨメ艦達が誰かしら付き添ってくれてた。
「瑞鶴ったら、提督と相性良いのね」
皆(他のヨメ艦)にも同じことを言われた。皆のがもっと凄い癖に。
――
結局わたし、提督さんの事嫌いじゃなかったみたい。
セクハラとかは勿論嫌なんだけど、なんというか、そーゆー時とか場所とか、ちゃんとしてる場合は、逆に嬉しいくらいだったし。
好みじゃないし、胸がときめくような事はないから、好きとは違うと思う。
信頼とか感謝とか、まぁこの人ならいっかなといった諦め具合なので、たぶん情とかなんだろうなぁと思う。
だから、あのレイテでの大規模作戦。
わたしがどうしても倒さなきゃいけなかった相手に勝利した時。
記憶の夢のこともあって、その事を凄く心配してた提督さんに、「大丈夫だよ」って一つ教えてあげられた時。
決して勢いじゃない、これまでの想いがあってこその気持ちを、提督さんに伝えたのだ。
全員に冷やかされる事になって恥ずかしかったけど、後悔は少しもなかった。
指輪をもらってから大分経って、今でもまだ記憶の夢を見るけれど、もう恐れる事はなくなった。
黒い影が出てきても、今は自分で追っ払う事が出来る。
その夢がドコに続くのかを、寂しいだけじゃないのだと、あの夜に教えて貰ったから。
わたしは翔鶴型二番艦。提督さんのケッコン五番艦、”艦娘” 空母瑞鶴なのだ。
あっちのお世話にも慣れちゃってるし、今じゃ付き添いもいらない。
逆に新しく増えたヨメ艦に付き添いが出来る程、すっかり一人前になっちゃってる。
先任のヨメ艦達がわたしに言った様に、わたしも今では、黒い影に脅かされてる娘達を助けたいと思う。
他の娘の夢に潜れるのは今の所提督さんだけなので、頼る事になっちゃうけれど。
もういっそ提督さんが言う様に、皆嫁艦になっちゃえばいいとすら思う。
それで、皆でこの戦いを終わらせられるなら、アリっちゃアリだ。
無理やりなセクハラは許さないけど、その娘があっちも望むならそれもいい。
きっとわたしや翔鶴ねぇ、他の嫁艦達みたいに、幸せな思いを感じられる。
そう思ってるから、改めて伝えに来たんだ。
つづく