絶望の中、新しい自分の席に座る。楽園を追放された先人も、こんな心情だったのかもしれない。さよなら、穏やかな睡眠。
「...さん、○○さん!」
誰かの声で目を覚ます。ホームルームの時間はいつも寝て過ごしているのだが、今日はそうはいかないらしい。
「何だ、氷川か...」
目を擦りながら顔を上げる。すると、片手にくじを持った氷川がいた。今日は席替えの日だったのか、そういえば昨日白金が言ってた気がする。回りの席の人がこちらを注目していて、少し恥ずかしい。それに対して氷川は冷ややかな視線を僕に浴びせる。
「 ○○さん、早く引いて下さい。」
氷川は事務的に言う。引く、と言っても僕は後回しにされたようで、くじはひとつしか無いのだが。
「あぁうん、分かった。」
だが、なぜ氷川がくじの箱ではなく、くじだけを一つ持っていたのか、もう少し疑問に思っておくべきだっただろう。氷川からくじを取ると、彼女は少しひやりと笑った気がした。
「では、くじを開けてください。」
氷川の合図で、みんなは一斉にくじを見て、歓喜したり叫んだりして、早速荷物を新しい席に移動させている。すっかり教室も騒がしくなったが、氷川はまだ僕の横にいる。
「まだ見ないのですか?」
氷川は言う。
「別に、席なんてどこでもいいよ。寝れば都、なんてな。」
先生方も呆れて僕を注意することも無くなったからな。
「ふふ、そう言っていられればいいですね...」
なんだか意味深長な反応だな、と思いながらも席を確認し、荷物を移動させる。と言っても荷物なんて殆んど無く、中身の無い手提げを持っていくだけだが。しかし何故か未だに氷川は僕に付いてきている。嫌な予感がして、思わず聞いてみる。
「なあ氷川、何で付いてくるんだ?」
「私の席は、あなたの後ろだからです。」
少し口角を上げ、サディスティックに氷川はそう言った。
「氷川、風紀委員がそんなことやっていいのか?」
今さら氷川に嵌められたと気付き、僕は言う。
「何の事ですか?寝ていたのはあなたでしょう?」
う~ん、そう言われると何も言えない。そもそも僕が寝てさえいなければこんなことにはならなかったからだ。
「○○さん、氷川さん、どうしたんですか?」
氷川と口論していると、隣からそう声が聴こえてくる。
「隣だったのか、白金。奇遇だな」
隣が白金ならいいや、と言う気持ちが勝ってしまいそうになる。安眠と白金に対する視姦、どっちを優先すべきか。すると、白金は僕の耳元で、
「授業中私のコト、視姦し放題ですね♡」
そう呟いた。思考が読まれたのかと思い、動揺してしまう。そのまま流れで氷川に反論出来なくなってしまった。氷川も、さっきまで勝ち誇っていたのだが、
「私としたことが...○○に餌を与えてしまったわ...」
そう悔しそうな顔で呟いていた。時計を見ると、もうすぐホームルームは終わり、次の、数学の授業が始まろうとしていた。
軽く頬を叩き、脳を覚醒させる。数学だけは復習がてら真面目に授業を受けているのだ。少し早く授業が始まり、先生は黒板に数式を書き下す。しばらくすると、白金は行き詰まってしまったようで、教科書とにらめっこしている。性格的に先生に質問するのは苦手なのだろう。
「白金、どうしたんだ?」
こちらから聞いてみる。
「ここ、分からなくて...」
そう言って、白金は教科書を指差す。微分の式か、急に極限なんて概念が出てきたら、そりゃ分からないだろう。
「ここはな、一旦約分してから..」
小声で白金に教える。距離が縮まり、袖が燐子と触れあい、おまけに制服の胸元から燐子の谷間が少しだけ見えてしまう。流石にこれを見て勃起しないやつはいないだろう。確認出来ないが、今僕の股間には立派なテントが張られているはずだ。
「ありがとうございます、○○さん♪」
燐子は理解出来たようだが、その言葉とは裏腹に、何かノートの端に書き付けたようだ。
「私のカラダで、勃起しちゃいましたね♡、あとでヌいてあげますからね(^з^)-☆」
コミカルな顔文字付で、そう書かれていた。
席替えと言えば高二の頃、欠席してたのを良いことに勝手に席を前の方に入れ換えられたっけ。先生もグルで全員口止めされていたみたいで軽く人間不信になった記憶。