騎士の言葉はシオリが誰にも話せず抱えていた悩みに変化をもたらす十分なきっかけとなった。
牧場の家族たちもきっとこのことを知れば、二人がもっと仲良く暮らすことができると喜んでくれることだろう。
シオリの胸のつっかえがなくなったところで騎士は、彼女を元気づけるための、とっておきの提案をする。
自分がつい最近覚えた言葉を彼女は知っているだろうか?
もし知っていたら早速一緒にしたいし、知らなければ教えてあげたい。
互いの肌の温もりを伝え合う心地良さ。
自分がどれだけ彼女のことが大好きなのかを知って欲しい。
そんな気持ちで何気なく口走しった言葉はシオリの心を大きく揺さぶるものだった。
「シオリちゃんはセックスって知ってる?」
「え?」
唐突に放たれた一言に笑顔のままピタリと固まる。
そんな少女の様子を騎士もいつも通りにこやかな笑顔を向けている。
「…………………………えぇっ!?
なっ!? 急に何を言ってるんですかっ!?」
突然騎士から発せられたとんでもない言葉に顔を真っ赤にしながら狼狽するシオリ。
当然言葉の意味は知っている。経験はないがどういう行為なのかも。
前に読んだ恋愛小説にも明確な描写こそされていないものの、主人公とヒロインの間で『それ』を仄めかされていたシーンがあった。
その時は近くに誰もいないのに思わず周囲の気配を探りながらこっそり読んでいたこともある。
好きな人と愛し合う。愛を確かめ合う行為なのだから、興味がないわけはない。
だからといって軽々しくしてしまっていいわけではないことも……十分理解しているつもりだ。
もちろんそういう間柄であるのならば、それはごく自然なことだと思う……多分。
だがいくらなんでも自分たちは、まだそこまで親しい関係――というかそもそも恋人同士ではないのだ。
「あの……散々私にお母さんがどうこうと言っていたのは、
もしかして、それが目的だったんでしょうか?」
シオリは自分でも驚くくらいひどく落胆してしまっていた。
まるで今まで信じていた優しい騎士に裏切られてしまったような気分だった。
彼に限ってそんなつもりはないとは思ってはいても、どうしても猜疑的な視線を向けずにはいられない。
これまでの様子からも、きっと強引に行為に及ぼうとするようなことはないだろうが、一度でも感じてしまった身の危険や警戒心を消すことはできない。
それでもシオリは騎士をまだ信じたい。信じさせて欲しいと願っている気持ちも残っていた。
そんな思いで騎士の言葉待つ。
「シオリちゃんに元気になってもらいたい」
最初におっぱいを見たり触らせてもらうときはすごくドキドキして恥ずかしい。
それでも抱き合って体を摺り寄せあい、おちんちんをおまんこに入れるのは、とても温かくて気持ちいい。
最後にいっぱい『せいえき』を中に出してあげれば、きっとシオリちゃんも元気になってくれるに違いない。
それがシズルやアカリとの経験で得た、騎士が考えるセックスの全容だった。
行為を終えた後に二人からも特に念入りに言われたように、『本当に好きな人としかしちゃいけない』というのも、ちゃんと守っているから問題ない。
シオリちゃんのことも二人と同じくらい大好きだ。
そんな考えから、騎士は彼女にセックスのお誘いをしてみたのだが――思ったよりも反応は芳しくはないようだ。
「げ、元気にって……その、さすがにそういう気持ちだけでしていい事ではないかと思いますよ」
「そうなの?」
好きな人に好意と感謝を伝える手段なのだから、体力が続く限りお互いにいっぱい伝えあっていいと思うのに。
もちろん相手が痛がったり、嫌がってるなら絶対に途中で止めるつもりではあったのだが、
そもそも始める前からシオリに断られてしまったことに、がっくりとしていた。
「あの、その、だって、し、しちゃうと、あ、赤ちゃんができちゃうんですよ……?」
「そうだったの!?」
「えぇ!? あ、あの本当に知らなかったんですか?」
シオリが羞恥心に耐えながら発した言葉に、目を丸くし驚く騎士。その姿に逆に彼女の方もびっくりしてしまっていた。
「うん」
……もしかして彼女たちも知らなかったのだろうか?
シオリからの問いに素直に答えつつ、騎士は知らずにシてしまった二人の顔を思い浮かべていた。
「……そ、その様子だと、あなたは誰かと……その……し、してしまったんですよね……?」
「――っ。……秘密」
うっかり口を滑らせてしまいそうになったが、今回はしっかりと二人の約束を守ることができた、はず。
「……誰とかは聞きません。でも、したことはある。そうですよね?」
「はい……」
まるで自分の考えを読んでいるかのようなシオリの剣幕に正直に頷いてしまうのだった。
あまりにも不本意な状況とタイミングではあったものの、彼の肯定にシオリは胸がちくりと痛むのを感じながら、自分の失恋を悟る。
と同時にふと、ある種の妄想めいた考えが頭をよぎってしまった。
もしかしたら彼自身もよくわからずに巻き込まれてしまった可能性があるのでは?
そもそも彼は子供ができるということすら教えられずに、知識を与えた『誰か』と行為に及んでしまったのだ。
最近読んだ本の影響だろうか、不意に彼女の頭の中でストーリーがどんどんと構築されていく。
騎士が無知なことを利用して肉体関係を持ち、そのまま既成事実を作ろうとしている謎の女性。
このままでは彼は本当の愛を知る前に、彼の子を宿した女性に婚姻を迫られてしまう。
そうなってしまう前に自分が身を呈して、彼に本当の愛を教え――
(――って、そんなの絶対ダメに決まってるよぉ~っ!?)
すでに女性と関係を持ってしまっている状況で、自分が割って入ってしまったら、余計にややこしくなってしまうだけだ。
今自分が騎士のためにできることはないかと、若干のぼせ上がってしまった頭で必死に考えを巡らせる。
「えぇっと、ですね。その、いきなり子供ができちゃうっていうことは、とても大変なことなんですよ。だから、そういうことは――」
力強く拳を握りしめ、騎士だけでなく自分にも言い聞かせるように告げる。
「いつか。……いつかあなたが本当にその人と子供を作りたい。って思った人だけにしてあげてください」
病弱な自分はいくら騎士の愛を受け止めさせてもらったとしても……きっと応えることができない。
悲しい結末になるくらいなら早々に身を引いた方がいい。
そして、女性の知り合いが多い彼が今回の失敗を得て、これからはちゃんと正しい道を歩んでほしい。
そんな彼女なりの優しくどこか儚げな心遣いに騎士は――
「シオリちゃんとセックスしたい」
より明確な意志を込めた双眸で彼女を見つめながら再び求愛してしまうのだった。
あまりにも真剣な彼の表情に思わずドキリとする。
「――!?
で、ですからっ。そういうことは本当に好きな人同士じゃないと――」
しちゃいけないことなんです。と続ける前に騎士が言葉を遮る。
「シオリちゃんのこと好きだよ?」
何度断られてもめげることなく、熱烈に自分に好意を伝え続ける騎士。
シオリは遂に完全に言葉を詰まらせ黙してしまった。
俯きどこか辛そうな表情で肩を震わせる姿を見た騎士は、
「ごめんなさい。シオリちゃんは僕とはしたくなかったんだよね」
きっと彼女も自分と同じくらい好きだと勝手に思い込み、何度もしつこく誘い続け、ついに怒らせてしまった。
そんな彼の純粋な謝罪からくる言葉は意図せず無自覚に少女の葛藤にさらに追い打ちをかけてしまっていた。
どこか悲しげにまるで自分はフラれたのだとでも思っていそうな姿を見せられ、
「――違いますっ!! 私だって、騎士さんのこと大好きなんですっ!!」
今の状況で絶対に伝えてはいけないと抑え込んでいた本心を叫びながら、飛びつくように騎士の身体を強く抱きしめてしまった。
自分の気持ちを抑え続けることはもうできない。
「……ダメ、なんです。本当はこんなことしちゃ……ぜったいに」
「シオリちゃん!?」
自分を強く抱きしめながら、泣きじゃくる少女に戸惑う騎士。
本来ならシオリに嫌われていなかったことを喜ぶべきかもしれないが、
「ごめん。シオリちゃん」
自分が泣かせてしまったことは間違いないのに、どうして彼女がこんなにも辛そうに泣いているのかがわからない。
結局彼ができたことは少女を優しく抱き返し、ただ泣き止むのを待ち続けることしかできないのだった。
そんな自分に不甲斐なさを感じていながら、何もできない自分がただただ悔しかった。
「落ち着いたシオリちゃん?」
腕の中の少女が体を震わせながら漏らしていた嗚咽も収まってきたのを感じ、心配そうに声をかける。
「…………は、はい。そ、その、すみません……急に取り乱してしまった挙句。
まさか、こんなふうに抱き合ってしまうなんて……」
本当は今すぐにでも離れるべきなのは頭ではわかっていても、どうしても体がの方がそれを拒んでしまっている。
今もシオリは騎士の背中に回している両腕を離すどころかより強く抱きしめてしまっていた。
さすがに騎士の方からそれを指摘してもらえれば、きっと体の方も納得して離れてくれるとは思うのだけれども……。
「シオリちゃんと抱き合えて嬉しい」
どうやら騎士の方も自分から抱き合うのをやめるつもりはないようだった。
なし崩し的に二人で互いの温もりを感じ合い、伝え合い続けてしまっていると、シオリは自分の太ももに押し付けられている硬い異物の感触に気づいてしまった。
それがなんなのか、すぐに理解してしまったが、自分でも不思議なくらい落ち着いてしまっていた。
これまでの彼の言動から間違いなく身の危険を感じ逃げ出さなくてはいけないはずなのに、そんな気が全然起きない。
(愛し合う男女が子供を作るための、新たな命を作り出すための、命の元がたくさん詰まってる、男の人の……彼の大切な場所)
「……くすっ。本当にあなたは私と……シ、シたいんですね」
思わず照れ笑いを浮かべながら、そう騎士に告げる。
少女の柔らかな感触や甘い匂いに無意識に雄の本能が刺激され、陰茎を硬く膨張させてしまっていたのだが、当の本人は全く気づいていなかったようだ。
シオリに指摘されようやく気づいたところで、特に動揺した様子もないが当然だろう。
彼にとって、硬くそそり立つそれは目の前の少女に感謝と好意を伝えるために必要な形態になっているだけなのだから。
「シオリちゃんがしたくないならしないよ」
大切な少女に好きだという気持ちを伝えるだけなら、もしかしたらこうやって抱き合ってるだけで良かったのかもしれない。
確かに抱き合っていると、胸の中で沸々と妙な感情が湧き上がってくるのを感じていたが、これはきっと勝手にぶつけてはいけないものだ。
シズルは自分の好きなようにしていいと言ってくれてはいたけど、その結果どうなったかを自分は忘れてはいないはずだった。
元々彼女は自分を受け入れるつもりだったけど、アカリの時は違った。
いきなり行為を始めようとした自分の行動に彼女は怯え怖がっていたのだ。
今回こそはそんなミスを犯さないようにとシオリに確認を行っていたはずなのに、またミスをして少女を傷つけてしまった。
自分を諭すように、できないと伝えてくれていたのに、勝手にさせてもらえると思い込み、そのことばかり考えてしまっていた。
「……したくないわけじゃないんです。私だって……す、少しくらいは……。
本当に、ほんの少しくらいは興味ありますから」
それなら――と言いかけたところで、また同じミスをしてしまうところだったと騎士は口を閉じ、彼女の言葉に耳を傾け続ける。
「愛し合う二人が、お互いの愛を確かめ合って……やがて二人の間に愛の結晶が――
あ、赤ちゃんができるんですから。それはきっと、とても素敵なことなんだと思います」
(……もしかしたら、私にとってこれが最初で最後のチャンスなのかもしれない)
今日は比較的体調も良いというよりも、かなり好調な方……だと思う。
そして牧場で暮らしている家族たちが出払っていて、二人きりで過ごす夜。
そこに絶対にあり得ないと思っていた騎士からのあまりにも積極的なアプローチ。
シオリは気づかずに『今』という瞬間に特別な何かを感じ、無意識に理由を探し始めてしまっていた。
身体の弱い自分がこっそりと想い人と添い遂げるには今が最大のチャンスなのだ。と同時にもしそれを避けてしまった時の『反動』を想像してしまった。
急に不安や恐怖といった悪い考えばかりが浮かんできてしまう。
もし、ここから急に自分の体調が悪くなってしまったら?
いくら自分の心が騎士を渇望したとしても、身体が彼の愛を受け切ることができないほどに衰弱してしまっていたら……。
ちらっとでもそんな考えが浮かんでしまった瞬間。シオリはきっと間違っているかもしれないと自覚しながらも、甘い誘惑に心が傾くのを感じた。
「私には、きっと今しかないから……」
「シオリちゃん?」
強い意志と同時にどこか儚く弱々しさを感じる不穏な気配。
「……せっかくのあなたからのお誘いを何度も断ってしまって
今更ですけど、わ、私と……
私の『初めて』もらってくれますか?」
騎士自身が何度も求め誘い続けたはずのシオリとの性行為。
ついに彼女から合意の返事がもらえたはずなのに、どこか胸の突っかかりを感じる。
「……いいの?」
思わず聞き返してしまう騎士に、シオリは頬を染めながら小さく頷く。
「その、もしかしたら私としてしまうことで、
あなたが色々と大変なことになってしまうかもしれませんが、
それでも良ければ………………わ、私の初めての人になってくださいっ」
もちろん騎士が他の交際者と話が拗れてしまいそうになったら、「たった一度だけでいいから初めて好きになった人と肌を重ねてみたかった」という自分のささやかな願いと謝罪をその人に告げ大人しく身を引くつもりだ。
子供を作れる保証がない自分なんかよりも、別の女性との関係を大切にしてもらった方が彼だって幸せになれるに違いない。
それがシオリが自身が騎士と性行為をするために設けた妥協点だった
例え一度切りの関係だとしても、文字通り初体験が想い人との行為であるのならば、きっとこれからも一人でがんばれる。
そんなシオリの覚悟に気づくことがないまま、
「もちろん」
騎士は笑顔で応じて二人でシオリの自室へ向かってしまうのだった。
***
部屋に着いた二人は、ほぼ定位置となっているそれぞれの場所に腰を下ろした。
シオリは自分のベッドに。騎士は部屋の中に一つだけある椅子へ。
もともと身体の弱いシオリは自室ではベッドの上で過ごすことが多く、家具も最低限しか置かれていない。
例外として彼女自身がジャンルを問わずそこに本があれば、なんでもどんな本でも読む程の読書家であることから、本棚には数多くの本が収められていた。
大切な姉であるハツネからプレゼントされた図鑑は、ちょっとした事件が起きてしまい残念ながら手元を離れてしまい、図鑑が収められていた分だけ本棚に隙間ができてしまったが今は少しずつ別の本達がその隙間を埋めつつある。
「もう少しで本棚いっぱいになりそうだね」
「そ、そうですね」
シオリは無意識に気を紛らわすように本棚に視線を向けたのだが、何気なく掛けられた彼の声に現実に戻されてしまった。
どうやら自分が視線を向けたことで彼も本棚を見たのだろう。
「あぅぅ……やっぱり緊張しちゃいます。心臓も破裂しそうなくらいドキドキしてます……」
ベッドの端に腰を下ろしていたシオリが胸に手を当て、自分の鼓動を確かめている。
合意はしたものの、いざその時になり怖気づいてしまったのかもしれない。
だが、今更ここまで来て逃げる気はない……のだけど。
「大丈夫?」
シオリに心配そうに騎士は声を掛ける。実際、彼女は自室へ向かう途中から、すでにふらふらと足元がおぼつかなくなってしまっていたのだ。
顔も熱があるみたいに真っ赤に染まっている。
「……す、すみません。ちょ、ちょっとだけ心の準備をさせてもらってもいいでしょうか?」
申し訳なさを感じつつも、こう言えば絶対に待ってくれる騎士の優しさに甘えてしまった。
――今思えばその一言が失敗だったのだが、それはもはや後の祭りだ。
「いくらでも待っててあげるよ」
にこやかにそう答えると、その言葉通り、頬を染めてるシオリに笑顔のまま熱い視線を送り続けながら待っている騎士。
「…………あ、あの。あんまりじっと見られ続けると恥ずかしいんですが……」
その様子に思わず照れた困り顔を浮かべつつも、
目線をそらすのは失礼だろうか?
むしろ恋人同士ならこれくらい普通なのだろうか?
などと自分が軽く混乱してることに気づかず、どこかズレた思考を巡らせてしまっていた。
必死に気持ちを落ち着けようとするが――当然落ち着くはずはない。
いつまでも待たせてはいけないと思いつつも、最後の一歩が踏み出せない。
たった一言「お待たせしました。初めてなので優しくしてください」が言えない。
一度『待った』をかけてしまったせいで、今度は自分から騎士を行為に誘わなくてはいけなくなってしまったのだ。
これが初体験となる年端もいかない少女には、なかなかハードルが高いことだろう。
そして騎士自身も散々シオリに行為を求めておきながらも、自分が行為をリードするという器用さは残念ながら持ち合わせてはいなかった。
まるで恋人同士のように見つめ合い、熱い視線を絡め合い続けるだけの時間が延々と続くと思われたが――それは唐突に終わった。
いつの間にか騎士はシオリの肩を抱き、視線を重ね合わせながら、誘われるようにシオリの顔に自分の顔を近づけ始めたのだ。
騎士自身もどうして自分がこんなことをしてしまったのかはわからなかった。
約束通りちゃんと待たなくてはいけないはずなのに。
上気し赤く染まった頬とどこか儚く切なげな表情で自分を見つめ返してくれるシオリの姿を見ていたら、不意に何かが込み上げてきたのだ。
それが『性欲』や『欲情』と呼ばれるものだという自覚にはまだ至らないものの、徐々にだが確実に騎士はその感情に支配されつつあった。
シオリも不意に肩を抱かれ、遂に焦れた騎士が衝動的に行為に及ぼうとしたのかと身構えてしまったが、自分の肩を抱いた手がいつもと変わらない温かく優しい手つきに気づくと、すぐに身を委ね始めた。
(あ……。キスしちゃう)
そう思いつつも、ゆっくりと騎士の顔が近づいてくるのをシオリはただじっと待ち続けてた。
触れている騎士の両手から、大好きな彼の温もりが自分の身体にどんどん流れ込んできているのは、きっと錯覚ではないのだろう。
「――っ」
互いの唇同士が触れ合った瞬間、シオリはさらに自分の身体に熱が流れ込んでくるのを感じた。
全身が熱く火照る。
くらりと眩暈を起こしたような感覚に、シオリはそのまま仰向けにベッドに倒れこんでしまうと、肩を抱いていた騎士も巻き込まれるように彼女に覆いかぶさるように引き倒されてしまった。
「シオリちゃん、だいじょうぶっ!?」
騎士は慌てて体を起こすと必死に彼女に呼びかける。
「……だ、だいじょうぶ……です…………ちょっと……ドキドキ、してしまって……」
熱にうなされているような吐息を漏らしながら答えてくれたが、顔が真っ赤に染まっており、目も潤みどこかぼんやりとしている。
「よかった」
返事をしてくれたことに胸を撫で下ろしつつも、まだ不安がぬぐい切れていないのだが、
なぜか今のシオリの表情を見ていると、心配以外の別の感情が胸の中から込み上げてくるのを感じていた。
「シオリちゃん――」
思わず待つという約束を破ってしまいそうなこと口走りかけ慌てて口を噤んだが、シオリにはそれで騎士が何を言いたいかが十分伝わったようだ。
「くすっ。……はい。私の心の準備もできてきました」
照れ笑いを浮かべながら微笑むシオリの姿に、再び吸い寄せられるように騎士は互いの唇を重ね合わせた。
一瞬触れ合わせるとすぐに離れてしまうくらい短いキス。
「ん……。またしちゃいましたね」
嬉しそうに囁くシオリの声に理性がどんどんと溶かされていく。
肩を抱いていた手がするすると下へ降りていき、もっと触り心地の良さそうな柔らかい場所を求める。
初めて触られてしまっているのだが、不思議と嫌悪感や拒否感が全然なく、むしろ手の温かさに安心感さえ感じ始めてしまっていた。
「あふ……。男の人って、やっぱり胸が好きなんですね」
動いていた騎士の手が予想通りの場所に辿り着き、予想通りの動き方をするのが少しだけおかしかった。
まるで服越しに輪郭をなぞったり、手のひら全体で包み込もうとしたりと、感触を確かめるような触り方が少しだけくすぐったい。
普段自分でする時とはまた違――
「シオリちゃんってブラしてないの?」
「……え?」
騎士からの思わぬ一言に固まるシオリ。
確かめるような触り方とは思っていたが、まさかそんなことを調べているとは思いもよらなかったのだろう。
「え、ええっと、その……。あんまり強く締め付けられすぎるのが苦手でして……。で、でも、厚めの布をちゃんとしっかり巻いてるので、それが一応代わりになっているかと……」
……なんで彼にこんな話してるんだろ?
「そうなんだ」
頷きながらも胸を揉み抱く手は止まらない。おそらく夢中になっているのだろう。
触り方も先ほどの調べるような手つきから、純粋にただ揉んでいるだけのような単調なものへと変わっていた。
「ところで気持ちいいんですか? その、私のって、お、お姉ちゃんのと比べて全然大きくないですけど……」
言い終わる頃にはほとんど聞き取れないくらい小さな声になってしまっていた。
時々心配になってしまうこともあるけど、自分にないものを全て持っているとさえ思っている、明るく快活ですごく優しい自慢の姉。
そしてそんな姉のある一部に至っては今この瞬間ほど本気で羨ましいと思ったことはなかったかもしれない。
「少し小さいけど柔らかくて気持ちいいよ」
最初の一言が余計だった。その一言のせいでシオリはまったく褒められてる気がしなかった。
「そうですよね……。いいんです。私にはこれくらいが分相応ですから……」
実際のところシオリの胸のサイズが小さいかと言われると、そういうわけではないだろう。
十分に年相応(もしかしたらそれ以上)だが、比較対象があまりにも悪すぎた。
騎士からの正直な言葉にシオリはがくりとうなだれつつも、
(いいもん。揉むと大きくなるっていうし、このまま騎士さんにいっぱい揉んでもらうもん)
いっそ開き直ったような彼女なりのひたむきさで自由に騎士に胸を揉ませ続けるのだった。