ハジメテの初体験1(導入)
その日、騎士は当てもなくふらふらと街を歩いていた。
結果知らず知らずの内に街の中心部を大きく離れ、いつの間にか魔族たちの居住区近くまで足を延ばしてしまっていた。
心なしかヒューマンである彼に対してどこか訝しんだ視線を送る者も増えてきている。
魔族という種族は、太古に他の三種族相手と大規模な戦争を起こした。というおとぎ話もあるがその真偽は定かではない。
種族の違いこそあるものの、種族間での交流だってある。
それこそ、まさに種族の境など関係なくランドソルで大人気のカリスマトップモデルとして絶賛活躍中のスズナという存在もいるのだ。
またランドソルの城下街内に存在する、常人は決して関わってはならないとされているギルド『トワイライトキャラバン』に所属しているものだっている。
確かに時折、王政の実権のほとんどを掌握しているヒューマンのごく一部の者がその権威や権力を振りかざし、横暴を振るうこともある。
現在はその矛先の大半が獣人種へと向かっている。
そんな彼らを気の毒に思う者もいるが、さわらぬ神に祟りなし。
自分たちの平穏な日々を脅かされない限りは、争いごともなく平和に暮らしたいと思う気持ちは誰だって持っている事だろう。
ただでさえ、魔族は他の種族たちと比べて人口も最も少ない種族なのだ。
「なんだあいつ。ヒューマンの野郎がこんなところまで何しに来たんだ?」
「さぁ? もしかして道に迷っただけなんじゃない?」
一歩ずつ居住区へと近づくに連れ、徐々に騎士を不審な目で見る者の数も更に増えてくる。
しかし、彼らもまた気づいていなかった。
何故、こんなにも他種族が来ることに対し、ここまで警戒しなくてはいけないのかを。
ザッと見たところ、騎士は本当にただぶらぶらと歩いている様にしか見えない。
物珍しそうに周辺の建物にチラチラと視線を動かしているが、本当にそれだけだ。
突然腰に携えている剣を引き抜き凶行に及ぼうものなら、よほど腕が立つものでない限りすぐに取り押さえられてしまうだろう。
最もそんな危険な気配すら感じられないのだから、その心配もなさそうだ。
それならば、少しでも早くこの男の目的がはっきりし、自分たちも安心したい。というのが彼らの願いだった。
そして、その願いは多少の誤解混じりではあるものの、すぐに叶うのだった。
「あっ! お兄ちゃ~ん♪」
不意に掛けられた騎士が声の方を振り返ると、二房に分けた銀髪を揺らしながら、一人の少女が彼の元へと駆け寄ってきていた。
「アカリちゃん?」
「えへへ~。やっぱりお兄ちゃんですね~。どうしたんですか?」
無邪気な笑顔と笑い声を彼に向けている様子からも、この少女が彼にずいぶんと懐いていることが周囲の人々にも伝わっていく。
「急に飛びつくと角が当たって危ないよ」
「もぅっ。お兄ちゃんにそんなことするわけないじゃないですか~。
アカリは甘えのプロなんですから、お兄ちゃんに頭突きなんてするわけないですよぉ」
騎士に飛びつくように抱き着き、甘え始めた少女の姿を見て、住人たちも察した。
「なんだ。この子に会いに来ただけみたいね」
「ま、見たところ無害そうだったしな。こんなオチか、心配して損したぜ」
「……ちっ。俺もこんなかわいい子に甘えられながら『お兄ちゃ~ん♪』なんて言われてみたいぜ」
騎士の目的が、この少女と会うこと分かると、住人のほとんどが興味を失い、多少の嫉妬心を残しながらも散り散りになっていく。
「んっ。お兄ちゃんにアカリの大事なところ優しくナデナデされるのだいすき~」
「頭撫でてるだけだよね?」
騎士は自分の胸に頬をすり寄せ、頭を撫でて欲しいとねだられたような気がしてやってみたら、
心地良さそうに目を細めているアカリから、こんな言葉が返ってきて、思わずドキリとしていた。
今も言ってしまうと彼女に「お兄ちゃんのエッチ」と言われそうな気がして彼は黙っているが、
アカリの小柄な体型に見合わないくらい大きな二つの物体が、彼の覚えたての感情を刺激し心を揺さぶっているのだ。
シズルよりもやや小ぶりだが、その分ハリと弾力がありそうな気がする。
今はアカリが強く抱きついたまま、離れようとしないので二人の身体で押し潰されてしまっていることもあり、
その弾力を十分に発揮できていないが、機会があれば確かめたい。と騎士は考え始めていた。
「それでどうしてこんなところまで来たんですか?
あっ! もしかしてアカリに会いに……え? ただ散歩してただけ?
なんだぁ~。アカリちょっとガッカリしちゃったなぁ~」
予想はしてたものの彼らしい答えにがっくりと肩を下ろす。
「アカリちゃんこそ、どうしたの?」
「あはは……お兄ちゃん、ほんとに何も知らないですね。
ここは、私たち魔族の人たちがたくさん暮らしている居住区なんですよ。
そこまで排他的ではないんですけど……。
やっぱり知らない人がいきなり来ちゃうとドキってしちゃう人が多いんですよぉ~」
「そうだったんだ」
アカリの言葉を聞いて改めて周囲をキョロキョロと見渡す。
言われてみると角や尻尾が生えている人がたくさんいることに気づく。
「はい。だから、もしこの辺りに何か用事がある時は、是非アカリを呼んでくださいね。
お勧めのお店とか、と~っても楽しい場所とかもぜ~んぶ教えてあげちゃいます♪」
笑顔でガイド役を買って出ようと提案するアカリ。
騎士にとってもここで偶然彼女に声を掛けられたことは幸運だった。
彼自身はまだ自覚がないのだが、実はすでに迷子になっていたのだ。
冒険気分で思いつくままに右へ左へとふらふらと歩き続け、帰り道さえすでにわからなくなっていたのだが、本人はまだ気づいていない。
もしこのままアカリに見つけてもらえなければ、街の外へ出てしまっていたことだろう。
「それじゃ、お願いしようかな?」
「やった~。お兄ちゃんとデートですね♪
どこか行きたいところありますか? ……え? 疲れたから少し休みたい?」
ランドソルのほぼ中心部から郊外のここまでずっと歩き続けていたこともあり、だいぶ疲労も溜まりお腹も空き始めていた。
「ふむふむ。お兄ちゃんはご休憩したいんですね。
残念だけどこの近くにはそういうお店がないんですよね~」
その言葉にがっくりと項垂れた騎士の姿を見てアカリは慌てて代替案がないかと思考を巡らせる。
「あっ! それなら私達のギルドハウスに来ませんか?
そこなら私とお姉ちゃんのお部屋もありますし、アカリが身体で誠心誠意
い~っぱいお兄ちゃんを気持ち良くご奉仕してあげますよぉ♪」
「いいの?」
「はいっ。お兄ちゃんならいつだって大歓迎です♪
それじゃ、案内しますから着いてきて下さいね」
そして、騎士はアカリに彼女達のギルド『悪魔偽王国軍――ディアボロス――』のギルドハウスへと連れて行ってもらうのだった。
*
彼女たちがギルドハウスとして利用している拠点はかなり古い時期に建てられた城だ。
しかも最近までほとんど碌な手入れもされていなかったこともあり、ところどころガタが来ていそうなのがよくわかる。
正直、いつ崩れてもおかしくなさそうな雰囲気を醸し出しているが、それぞれの個室を始め各主要のスペースはしっかりと補強しそれなりの強度は保たれていた。
「えへへ。今日はお兄ちゃんと会えて、アカリすごいラッキーでした♪」
城内に入り目的の部屋への道中、アカリは騎士に他の少女たちの様子を話していた。
「イリヤさんはなんでも幽霊しか行けない場所に ものすごい魔力回復アイテムがあるっていう情報が手に入ったみたいで、ミヤコちゃんを連れて行っちゃいましたし。
シノブさんも霊媒師の仕事が忙しいって、最近あまりここに来てくれないんですよ」
「ヨリちゃんは?」
「はい。私もそう思って、お姉ちゃんと久しぶりに姉妹水入らずで、女の子同士でいっぱい気持ち良くて楽しい事しようね。って言ったんだけど、公式戦が近いから一人で集中させてって、カワイイ妹をほっぽり出して部屋に籠ってず~っと一人で悶々してるんですよぉ~」
せっかくお姉ちゃんと一緒に遊びたかったのに。と、プンプンと頬を膨らませているが、その様子は怒っているというよりは、姉に邪険にされたをことを寂しがっているように見えた。
「それならアカリもサックスの練習しようかな? って思ったけど、まだ上手くできないし、アカリの恥ずかしい音を聞かれるのもイヤだなぁって思って、結局目的なく街をぶらぶらしてたんです」
「そうだったんだ」
「はい。そしたら偶然お兄ちゃんの姿が見えたので声を掛けちゃいました。
えへへ、お兄ちゃんもアカリと同じだったんですね。
やっぱり私とお兄ちゃんは相性抜群ですね♪」
表情をころころと変えながら楽しそうに自分に話しかけ、最後には人懐っこい可愛らしい笑顔を向けてくれるアカリに騎士も無意識に表情を綻ばせていた。
「お兄ちゃんは好きな飲み物とかお菓子ってありますか?
ちょっと前にシノブさんが買って来てくれたクッキーとかもありますよ」
台所に付くとアカリは手馴れた手つきで自分と騎士の分のお茶とお菓子の用意を始める。
その様子に騎士も何か目ぼしい物はないかと、辺りを見回す。
「あっ。そこのプリンには手を出さないでね、お兄ちゃん。
一個でも減ってたらミヤコちゃん、すっごく怒っちゃうんですよ」
「あぶないところだった」
騎士はなんとなく伸ばしてしまった手をさっと引っ込めた。
過去にうっかり彼女のプリンを食べてしまったせいで、その日のお小遣いの全てがプリンに消えてしまったのは彼にとっても苦い思い出だ。
もしかしたら他にも触ってはいけない物があるのではと思い、アカリが準備してくれるまで大人しく待つのだった。
*
アカリが用意してくれたおやつを持って彼女の部屋に到着すると、騎士はさっそくおやつを食べ始めていた。
クッキーを美味しそうに頬張り、甘いミルクを飲む騎士の姿をアカリはどこか温かな眼差しで見つめる。
「そういえばサックスの練習しないの?」
ひとしきりおやつを堪能し終えたところで、思い出したようにアカリに尋ねる。
「え? あ、あはは。
アカリはまだ全然ヘタッピだから、人前でするのは恥ずかしいですよぉ」
「アカリちゃんがしてるところ見せて欲しい」
「えぇっ!? う、うぅ……お、お兄ちゃんがどうしてもと言うなら……。
お兄ちゃんに、アカリの恥ずかしい姿見られちゃうけど……笑わないで下さいね?」
そう言いながら部屋の隅に置いてあったケースからサックスを取り出す。
傷一つなくピカピカと眩しいくらいの輝きを放っていることからも、彼女がとても大切に扱っていることが良くわかる。
「すぅ……はぁ……。
うんっ! 行くよお兄ちゃん。
お兄ちゃんに喜んでもらえるよう、アカリ一生懸命がんばるねっ」
数回深呼吸を繰り返し、息を整えた後、演奏を始めた。
「ふぅ……はぁ……はぁ……もう限界だよぉ~
お兄ちゃん、アカリの演奏……どうでしたぁ?
前にお兄ちゃんに教えてもらった通り、手や腰の使い方にも気をつけてみたけど、
アカリ、ちゃんと上手くできましたか?」
「すごく上手だったよ」
賞賛するようにパチパチと拍手をする。
彼はアカリの演奏の全てにすっかり魅了されてしまっていた。
紅潮させた頬を可愛らしく膨らませながら、一生懸命に息を吹き込んでいる姿。
独特なリズムで機敏に動くしなやかな指先。
体に響きゆっくりと染み渡りいつまでも耳に残り続けるような楽しげな音色。
「えへへ。良かったぁ~。
お兄ちゃんに褒めてもらえて、アカリ嬉しいです」
「僕も吹いてみていい?」
「…………………………え?」
騎士からの思いもよらない一言に笑顔のまま固まるアカリ。
「そ、そそ、それって、つまり私のサックスをってことですよねっ!?」
「うん」
「~~~!?」
さらに赤みが増した少女の頭の中は『間接キス』という単語で埋め尽くされてしまっていた。
「ダメ?」
アカリも騎士が下心ではなく純粋な興味からの言葉だということはわかっている。
普段の彼女なら「お兄ちゃんのエッチ~。そんなにアカリと『間接キス』がしたいんですかぁ?」なんて言えたかもしれない。
しかし、今回は完全な不意打ちに思考が止まってしまい、結果いつものように茶化して躱すタイミングを逸してしまっていた。
「で、でも、その、さっきまでアカリがいっぱい演奏しちゃってたから、
唾とかいっぱい溜まっちゃってて、そこに口を付けたら汚いかもしれないですよ?」
決して彼との間接キスが嫌なわけではなく、ただ単に恥ずかしいだけなのだ。
日頃から婉曲的な表現で相手をからかうアカリに対して、あまりにも無自覚に直接的な彼はある意味天敵なのかもしれない。
「別にアカリちゃんのなら汚くないと思うけど」
確かに動物や男だったら、彼自身も何故かはわからなくとも躊躇してしまうだろう。
しかし、自分と仲良しだと思っている女の子の一人であるアカリとなら、嫌になるわけがない。
もしかしたらシズルが自分に初めてした時の様に、女の子はキスをするのが苦手なのだろうか?
そんな勘違いをし始めてしまうのだった。
「お、お兄ちゃん……ちょっとだけ、だよ?」
彼女も好意を抱いている相手とのちょっとした大人の経験の機会を自分からふいにするようなことはできなかった。
直接言うのは憚れるけれど興味はある年頃なのだ。
騎士も差し出された彼女のサックスを嬉々と受け取ると……ピタリと止まってしまった。
「どうやって吹けばいいの?」
「はぁ……お兄ちゃんは羞恥プレイの天才ですね……」
きっと口が触れてしまう瞬間は恥ずかしさのまり目を逸らしてしまうかもしれないと思っていた矢先に、そうはさせないと言わんばかりの言動が騎士の口から飛び出してきた。
吹き方を教えるために、しっかりと自分のサックスに間接キスされる様を見せつけられた後、
「甘い味がする」
「っ!? い、一緒におやつ食べたからですよぉ……」
ご丁寧に味の感想を告げると、アカリのように上手く音を出すことができなかったので、
「もう一回アカリちゃんが吹くところを見せて欲しい」
「…………お兄ちゃん、もしかしてわざとやってないですよね?」
少しだけ恨めしそうな目つきで自分を見つめるアカリに不思議そうに首を傾げる騎士だった。
*
間接キス騒動が落ち着き、アカリとのサックス練習も一段落したタイミングで騎士が行動を開始する。
「アカリちゃんにお礼がしたい」
彼の口から何気なく放たれた一言にアカリは自分の心を散々弄んだ彼に反撃できるチャンスが来たと心を躍らせる。
「ほんとぉ~。えへへ、それじゃ~ねぇ。
アカリそこのベッドでお兄ちゃんに気持ち良いことして欲しいなぁ~♪」
部屋の隅に設置されていたベッドを指さす。
二人くらいなら十分なサイズの大きさだ。
実際にアカリもたまに姉のヨリに甘えたくなった時に、おねだりをして姉妹仲良く一緒に寝ることもあった。
そのベッドで彼に肩や腰を優しく揉んでマッサージしてもらおう。
あまりエッチな触り方はダメだけど、ちょっとくらいなら目を瞑ってサービスしてあげよう。
そんな想いをいつもの癖で婉曲的に伝えるアカリは知らなかった。
騎士が考えた、男女がベッドで気持ち良くなる行為がどういう行為になるのかを。
「任せて」
一足早くベッドに寝そべった少女は、普段の騎士ならどうすればいいのかを聞いてくるはずなのに、どこか自信満々に『任せて』と言った彼の言葉に、一抹の不安を感じ、現実の物となるのだった。
「え!? ちょっ!? お、お兄ちゃん!? 何をするつもりなのっ!?」
突然自分の肩を抱きながら、背中に覆いかぶさってくるという騎士の行動にびくりと体を震わせるアカリ。
知識がないと思っていた彼がここまでの行動をとるのは完全に彼女の予想を超えていた。
アカリが首だけ動かし後ろを振り返ると、いつもと変わらず優しげな表情を浮かべた騎士が、
「おちんちんをおまんこに入れるんでしょ?」
セックスという単語を知らない彼が、とてもわかりやすく自分がしようとしている行為を説明した。
予想通りではあったが、外れて欲しい答えだった。
このままでは、よくわからない状況で自分の大切なハジメテが奪われてしまう。
確かに相手としては申し分はないのだが、いくらなんでもこんなタイミングでしていいわけがない。
なんとか拒絶しようにも恐怖で体が動かない。
「……い、いや……や、やめ……お願い」
アカリが必死に絞り出す様に出した震え声と怯えた表情に騎士は察する。
「もしかしてアカリちゃん、初めてなの?」
彼からの問いに怯えながらも、初めてだから奪わないで欲しい。そんな懇願の想いを込めて微かに頷く。
そんな様子のアカリを見て騎士はあっさりと決断する。
「それじゃ、やめよっか」
「……え? いい……の?」
驚くくらい簡単に身を引いた騎士の行動に少女は困惑する。
彼に襲われる。そんな恐怖と緊張の中、なんとしてもされる前に逃げなくてはと本気で抵抗しようと覚悟を決めていたのに、
騎士は躊躇する様子もなく、すんなりと自分を解放してしまった。
自分の肩を抱いていた手が離れ、覆い被されていたことで感じていた威圧感や少しずつ離れて行く彼の気配にほっと安堵すると同時に寂しさを感じる。
騎士が自分が思ってた以上に性的な知識を持っていたこと。
そして、それを自分に向けてきたことなど驚くことでいっぱいだが、
ゆっくりと体を起こし、騎士と向き合う。
「……どうしてアカリを襲わないでくれたの?」
自分から少しだけ距離を開けた場所で腰を下ろしている騎士はどこか申し訳なさそうな表情をしてた。
決して騎士を信用していないわけではないが、未だに拭いきれない不安から彼に尋ねる。
「アカリちゃんが嫌なことはしたくない」
実に彼らしい単純で優しい理由だった。
彼自身も最初はアカリに性行為を誘われたと思い、覚えたての快楽を再び味わえると胸を躍らせていた。
がんばって精液をいっぱい出してアカリちゃんに気持ち良くなってもらおう。
そう考えていたのだが、どうも彼女の様子がおかしい。
怯えた瞳でこちらを見つめてくるアカリの様子に騎士は一つだけ思い当たる節があった。
無知ゆえに教わるままに実行してしまい、シズルの大切な場所を傷つけてしまったことが、未だに彼自身に深い罪悪感を抱かせていたのだ。
「え? ……それに、私の初めては本当に好きな人に破ってもらわないとダメなんだよね。って?
う、うん。それに、初めてはすごく痛いって言うから、アカリ、ちょっと怖いかな」
「驚かせちゃってごめんね」
自分の勝手な勘違いでアカリを怖がらせてしまったと素直に頭を下げる騎士。
その様子にアカリも彼が本当に自分を無理やり襲うつもりはなかったのだと信じることができたのだった。
(うぅ、胸がまだすごいドキドキしてるよぉ。ほんとにびっくりしちゃった。
お兄ちゃんだから良かったけど、お姉ちゃんが言ってくれてたとおり、
もうちょっと『言葉』気をつけようかなぁ?)
「あれ? ……ちょっと待ってお兄ちゃんっ」
ここでアカリはある事に気づいてしまった。
「そ、そそ、それって、つまりお兄ちゃんは、他の女の子としたことがあるってことだよねっ!?」
「実はシズルお姉ちゃんと――」
うっかりシズルの名を口走ってしまい騎士は慌てて両手で口を抑えたがもう遅い。
彼女からも恥ずかしいから絶対に他の人に言っちゃダメだよ。とキツく言われていたのだが、
素直すぎる彼はアカリへの罪悪感もあり、うっかり質問に正直に答えてしまった。
「シズルさん!? そ、その人がお兄ちゃんのハジメテをっ!?
うぅ……そっかぁ~。アカリ完全に出遅れちゃったんだなぁ~」
おそらくそのシズルという人物が彼に性行為を教え経験させてしまったのだろうと察する。
そして、彼女も自分の初体験の相手に彼を選んだということも。
「アカリちゃん?」
何故か残念そうにがっかりしているアカリの姿に心配そうに声を掛ける。
「ねぇ、お兄ちゃん。
さっきアカリを押し倒した時も、シズルさんとしたことをアカリともしたかった。ってことだよね?」
「うん……」
もちろん今はそんな気はない。
当然騎士もアカリに好意を抱いていたが、彼女の大切な壁は、ちゃんと好きな人に破ってもらわないといけない。
なにより元々彼の行為はアカリに対してお礼をするためだ。
それなのに彼女に痛い思いをさせ、自分だけ気持ち良い思いをしてしまっては全く意味がないのだ。
「……お兄ちゃんなら、いいよ。
ちゃんと優しくしてくれるなら……。
アカリの事、大切に可愛がってくれるなら……。
そう約束してくるなら、アカリのハジメテ、お兄ちゃんにあげる」
アカリ自身も今までの婉曲的な表現ではなく、はっきりと決定的な事を口走ってしまった事に驚いていた。
シズルとの秘密をバラしてしまったことを慌てている彼の姿を見て、対抗心が燃えてしまったのかもしれない。
「いいの?」
心配そうに短く問いかける騎士の言葉に、頬を真っ赤に染めたアカリがこくりと小さく頷くのだった。